第493話 謎は全て解けたと言う程の謎でも無かった件
「うわっ、あれは一体ナニッ!? 何だか次々、いっぱい敵が湧いてるよ……モンスターを召喚してるのかなっ、凄い仕掛けだねっ!!」
「妙な起動音がすると思ったら、正体はコイツか……召喚装置って、このタイプは初めて見たな。ダンジョンコアとも違うみたいだが、壊せば収まるのか?」
「どうだろう……でもあの浮いてる鐘みたいなのが本体なら、多分殴れば壊せるんじゃないかなっ!?
ちょっと試してみるね、護人さんっ!」
勇ましい姫香の言葉だが、現在は近付くのも一苦労の状態である。奥に浮いて鎮座する釣り鐘状の物体は、不気味な鳴動音を発しながら定期的にモンスターの召喚を繰り返しており。
約20~30秒ごとに、数体のモンスターを同時に鐘の下の部分から排出しており。現在は例の飛行ドローンを5体、その場に排出してなおも起動中っぽい。
その前にパペット整備士を8体生み出して、その内の1体は何とチェーンソーを振り回している。まるでスプラッター映画の悪役みたいで、護人は思わず注意喚起を飛ばす。
そして爆撃機タイプの魔玉のばら撒き攻撃も、やっぱり厄介でチームに少なくない混乱が。護人が咄嗟に1台撃ち落としたが、何しろ地上部隊も接近中で。
出た先のガレージは、今回は割と広くて戦闘するのに不自由のない大きさだけど。前もって配置されていたらしい大コウモリの群れも混じって、場は軽いパニックに。
“アビス”の沈没船の骸骨軍団との戦いと似てるが、果たしてどちらが難易度が高いだろうか。あの時は増える敵はほぼ1種類だったが、今回は色んな敵が召喚されており。
しかも今回は、挑発するようにその要因の
「あっ、また湧いたっ……今度はアナグマ獣人が6匹だよっ! 武器に大きなシャベル持ってるよ、みんな注意してっ!」
「ちょっと、勘弁してよ……まだ前に湧いたモンスター、全然倒し切れてないよっ!」
「もうっ、全部あの釣り鐘みたいな装置が悪いんじゃんかっ……ルルンバちゃん、例の『波動砲』でやっつけちゃって!」
香多奈の
そのままの威力で明後日の方向へと弾き返されて、何と装置には何のダメージも無しの結果に。顎が外れんばかりに驚く香多奈とルルンバちゃん、何しろ今までこんな事は無かったので。
それは戦闘中の護人も同じで、撥ね返ったレーザー砲に危うくこんがり料理されるところだった。予想外の事態は、つまりあの装置を止める術が今の所は無いって意味でもあって。
プライドをいたく傷付けられたルルンバちゃんはともかく、香多奈は次のカードを切りに掛かる。つまりはミケさんで、これにはさすがの釣り鐘も破壊されるだろう。
そんな未来を夢見た少女の、願望は10秒後に見事に裏切られ。
「ええっ、ミケさんの雷でも壊れないのっ!? そんなのバグだよっ、信じられないっ! だってミケさんは最強なんだよ、これ以上は打つ手がないじゃんっ!」
「落ち着け、香多奈っ……魔法系の攻撃は、全て反射する仕様なのかも知れない。姫香、何とか近付いて試しに武器で殴ってみよう!」
「了解、護人さんっ! ツグミ、フォローお願いねっ!」
そう言って右から回り込む姫香とツグミのコンビ、それを見て護人は左から敵の背後を取る行動に出る。その時チラッと、広い車庫の壁の端に宝箱を発見したけど。
今は中身を確認している暇はない、またもや釣り鐘スポーンは大ヤモリを7体も召喚して来たし。本当に
とうとう萌も前に出て来て、『黒雷の長槍』と紫炎のブレスで敵を押し返しに参戦して来た。香多奈も容赦なく、味方に『応援』を飛ばしてのお手伝い。
自分の魔法が効かなかったのが、よほど腹に据えかねたのか。ミケが何度も『雷槌』を装置に撃ち込んでいるけど全く効果はあがっていない。
そんなミケを
踏み込んでの一撃は、ほぼ同時に召喚装置に吸い込まれて行った。そして判明する衝撃の事実、何とコイツは物理攻撃も跳ね返して来たのだ。
つまりは無敵で、これを倒す術は無し??
「嘘っ、攻撃が効かないよっ、護人さんっ! どうやって止めるの、この召喚装置っ!?」
「……そうか、壊すんじゃ無くて止めるのを前提に考え直すべきなのか? 例えば召喚コストが尽きるまで、じっと我慢して戦闘に付き合うとか。
いやしかし、それも見当違いだったら致命傷になる恐れもあるな」
そんなやり取りをしている間にも、装置は新たに大ムカデを10体も召喚してくれた。怒れるミケは、今やそんな雑魚に《刹刃》での八つ当たり中。
それは大いに助かる、何しろ前衛では怪我人も出て来ており。業を煮やした茶々丸の突進で、本人は
世話の焼けるヤンチャ者だが、紗良は大慌てでルルンバちゃんに回収をお願いしている。そして新たに出て来た大ムカデは、四方に散らばって大暴れ中。
それの対応をするハスキー達は、先程から既に獅子奮迅の活躍をしている。スタミナはまだ切れていないみたいだが、このままずっと召喚が続くとさすがに不味いだろう。
この対応策が解明出来ないと、本当にローテを組んで永遠に召喚された敵の討伐をする破目になりそう。とは言え、護人が後ろに回り込んだ瞬間に、装置の全容を目にする事が出来て。
それが解決の糸口になりそうな、そうでも無いような……釣り鐘型の装置の裏に、割と大きな鍵穴を発見したのだ。それを何とか
現時点では、その可能性に賭けるしか無い気も。
「釣り鐘の後ろに鍵穴があったぞ、みんな! 誰かどこかで、大振りな鍵を見た覚えは無いかいっ!? 大人の拳サイズだな、かなりの大きさかも?」
「えっ、このダンジョン内でって事っ、叔父さんっ!? 見てないなぁ、萌は見たっ?」
「私も見てないかな、この車庫内にあるのなら別だけど……鍵を閉めるか開けるかで良いなら、ツグミのスキルで代用出来ないかなっ!?
ちょっと試してみて、ツグミっ!」
そして萌もルルンバちゃんも、そんな鍵は見た事が無いらしい。そんな訳で、姫香の代案が採用されての護人と姫香は前線で必死にツグミのフォロー。
ツグミがスキルに集中している間に、攻撃されないように壁役をこなして。その役割を頑張る数分の間は、体感でとっても長く感じてしまった。
何しろ再々度の召喚で、巨体ストーンゴーレムを5体もエリアに放出された日には。このダンジョンは、そんなに探索者に恨みでもあるのかと絶叫したくなる程だったり。
過去にこれ程、コロ助のハンマー攻撃が頼もしかった時は無かったかも。萌も久々の前衛に頑張ってくれて、幸いにもツグミの周辺ガードはほぼ完ぺきで。
その成果が表れて、不気味な鳴動が止んだ時の来栖家チームの喜びようと来たら。茶々丸の回復に忙しい紗良は別として、万歳を叫ぶ香多奈は大騒ぎの有り様で。
前衛陣は、どちらかと言えばぐったり模様で、レイジーやコロ助はその場に座り込む始末。何しろ引っ切り無しの15分以上の戦いである、疲労感も半端ない。
護人も最後のゴーレムを破壊して、ふうっと大きく息を継ぐ。
昔だったら耐え切れない作業内容だが、さすがレベルアップの恩恵は凄い。護人の場合は、ついでに若返りの効果も付いているかもだけど。
とにかくこのエリアで動く敵は、何とか全ていなくなってくれて一安心。そして改めて地面を見渡して、転がっている魔石の数に騒然となると言う。
その数は余裕で50を越していて、この短時間で倒した過去最高記録かも? 来栖家チームの長所である、戦闘員の多さが見事に役立った結果だろう。
大喜びしながら魔石を拾い始める香多奈、ルルンバちゃんもショックから立ち直ってそれを手伝い始める。釣り鐘型の装置はいつの間にか消え去って、後には魔石(特大)が落ちていた。
それを見付けて、やっぱり狂喜乱舞する末妹であった。他にもオーブ珠が1個に、ラグビーボール大の釣り鐘型のアイテムが1つドロップしていて。
その頃には茶々丸も回復して、痛かったのと護人に愚痴を聞いて貰いに寄って来ている。そんなヤンチャ者を慰めながら、末妹に端っこの宝箱の存在を教えてあげると。
ツグミを引き連れて、矢のように猛ダッシュを掛ける少女。
「もうっ、そんなのあるんだったらもっと早く教えてよ、叔父さんっ! このダンジョンでは逆に珍しいかも、ちゃんとした宝箱って。
えっと、あっ……さっき言ってた探し物って、ひょっとしてコレの事かな、叔父さん?」
「あっ、鍵じゃん……同じ部屋にあったんだ、何か意地悪な仕掛けだねっ! でもまぁ、ツグミが止めてくれて良かったよ。
アレって《闇操》の変形だよね、本当に器用な子だよっ!」
そう言って頭を撫でられるツグミは、この上なく幸せそうで尻尾を千切れんばかりに振っている。確かに彼女の機転には、過去何度も助けられてきた来栖家チームである。
主である姫香とのコンビプレーもバッチリ、伊達にツグミが子犬の頃からの付き合いではない。その割には、コロ助には舐められてばかりの香多奈だったりするけど。
あれはアレで、一種のコミュニケーションとも。今も少女の手にした巨大な鍵を、遊び道具かなと嗅ぎに来るコロ助に。何で邪魔するのさと、腹を立ててる少女の反応は見ていて面白い。
それよりその大き目の宝箱だが、割と問題のアイテムが次々出て来る事となった。それを報告する香多奈は、途中から声を無くして黙り込む破目に。
つまりは猟銃とか、男物の靴やベルトが3セットとか。行方不明の親子の人数は、確か50代の親父に30代の息子が2人だった筈。
ピッタリ数が合うし、仕舞いには釘打ちバットやバールなんかも出て来て。これはひょっとしないでも、探索者崩れの息子さん達の装備なのかなと想像がついてしまう。
ちなみに、他の回収品は至ってまともで普通の品ばかり。鑑定の書や魔石(小)や魔玉(雷)が少々に、当たりではスキル書が1枚に虹色の果実が1個。
それから洗車用品が色々入っていて、これは家で使おうかと護人の呟き。私が洗車するよと殊勲な言葉を発する香多奈だが、そうすれば護人がお小遣いをくれると知っているから。
そして空っぽになった宝箱の前で、暫し佇む来栖家チームである。
「えっと……これで一応、自治会の依頼は果たした事になるのかな、護人さん? 後は協会の能見さんに、このダンジョンに入る前にラインしたんだけど。
ここの情報が全然ないから、撮影動画にお金払ってくれるって」
「あっ、そっか……それなら協会依頼って事で、もう少し奥まで行こうよっ! せめて10層まで進んでいいでしょ、叔父さんっ!?」
「今が8層だったか……まぁそれなら、あと2層だけ進んでから地上に戻ろうか。上では自治会長と自警団の人たちが、こっちの帰りを待ってる筈だからな。
あんまり時間を掛けられないから、本当にあと2層だけな」
了解ッと元気に返事をする香多奈は、遺品が出て来た意味をあんまり深くは考えてないみたい。一歩間違えば自分達の装備品も、あんな感じでダンジョンに再利用されるのだと。
もちろんそんな事になるつもりは無いけど、今回の依頼は色々と考えさせられてしまった。ダンジョンは常にこちらの命を狙って来る、捕食者なのだと。
この後の探索も油断せずに行こうと、休憩しながらの護人の言葉に。エーテルを配りながらペット達の怪我チェックをしていた紗良も、無理せず行きましょうと言葉を紡ぐ。
確かにさっきの召喚装置との戦いは、かなり熾烈でハスキー達も珍しくスタミナ切れを起こしていた。本来は無理をしたくないが、あと2層程度なら何とかなるだろう。
そう考えながらも、護人はこの後の探索計画を脳内で微調整して。10層までは、自分とルルンバちゃんが前衛を行くよといつかの新陣形を提案する。
疲労の見えるハスキー達を気遣って、何故か落ち込むルルンバちゃんに、活躍の機会を与える陣形の提案に。姫香も賛成して、これで何とか残り2層を凌ぐ構え。
そしてそれを指示されたルルンバちゃんは、何とかヤル気を取り戻した模様。今度は頑張ると、妙な動きで周囲に頑張るアピールを振り撒いて。
名誉挽回の機会が、早くもやって来た事に興奮している模様。。
――それを見る家族の視線は、とても温かなのだった。
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