第492話 車のトランスフォームを目の当たりにして驚く件
「うわっ、ただの車だと思ったら変形して動く敵だった! 凄いっ、何か格好良いかもっ!?」
「あっ、これが敵なのか……どうやって持って帰ろうか悩んで損しちゃったよ」
そんな呑気なコメントを発する姫香は、これまた呑気に敵の変身シーンを眺めて手出しせず。どうやら変身中は手出し厳禁が、最低限のマナーとでも思っている様子である。
いつもは速攻で中ボスを倒すのも
赤いスポーツカーは、そんなこんなでたっぷり30秒以上掛けて3メートル近い機神ゴーレムへと変形を遂げた。興奮しながら撮影する香多奈は、カッチョいいと男の子みたいな感性だ。
護人も同じく、凄い敵が出たなぁとか考えながらも、強さは
律儀に変身を見守っていたハスキー達は、リーダーの合図待ちの状態である。その許可がやっと出て、ヤル気に燃えるハスキー達&茶々丸。
恰好だけは凄く良い機神ゴーレム、いかにも硬そうで試しのスキルは全て弾かれてしまった。反撃のパンチは、モーションが遅くて避けるのに苦労は無いのだが。
得意の牙も通じないし、さてどうしたモノか?
「こいつはゴーレムの一種だな、多分コア持ちだ……例の作戦で行こうか、コアが剥き出しになったら誰でもいいから壊してくれ」
「あっ、待ってよ叔父さんっ……ルルンバちゃんとのゴーレム対決も、ちょっと撮っておきたいかもっ!
ちょっとだけ、ルルンバちゃんゴー!」
末妹の指令に混乱しつつも、ちょっとだけ前へと出る素直なルルンバちゃん。確かに絵ヅラ的には面白いかもだが、中ボス戦でそんなにふざけてもいられない。
護人は『掘削』スキルを操りながら、魔断ちの神剣とシャベルの二刀流で中ボスへと迫る。それからゴーレムのパーツを切り捨てながら、敵のコア探しに励む。
サポートするメンバー達は、敵の気を巧みに逸らしながらコアの出現をひたすら待っている。そこにちょっとだけゴーとの指示を貰ったルルンバちゃんが、機神ゴーレムへと突進して行き。
勢い余って、そのまま衝突して相手をひっくり返してしまった。その隙に胸部へと『掘削』スキルを見舞う護人、出現したコアをツグミが瞬時に破壊する。
その速度はハスキー達の中でも随一だ、そして
役目をそれなりにこなしたルルンバちゃんは、何となくやり遂げた表情。後ろでは香多奈も喜んでいるし、ちょっと得意そうに魔石を拾い始める彼である。
そして宝箱は、今回は銀色の奴を発見。
それを楽しそうにチェックし始める子供たち、それ以前に宝箱の横に置かれていたタイヤ4本はどうしたモノか。姫香の問いに、護人はもちろん持って帰ると即答する。
それに反応して、薔薇のマントがそれらを勝手に空間収納に取り込んでしまった。何ともご主人想いと言うか、融通の利く機能満載の装備品である。
そして宝箱の中からは、鑑定の書が4枚にポーション800mlとエーテル700mlが。それから魔石(小)が7個に木の実が4個、魔玉(火)が3個ほど出て来た。
後は修理用の工具少々、ジャッキや車用の塗装スプレーが各色で数本ほど。バイクのヘルメットや草刈り機の替え刃も入っていて、田舎の車庫寄りなアイテムも入手出来たけど。
最後に出て来た車のエンブレムは、種類も豊富で眺めて楽しいかも?
「あっ、これって外車のエンブレムだっけ……有名だよね、香多奈は分かんないだろうけど。コレクターの人が集めてたのかな?
まさかこの敷地の持ち主のだったら、ちょっと気まずいけど」
「本当に独特な回収品のダンジョンだな、ここは……でも恐らくここまでのドロップには、前野さんの所有物は無いと思うな。
一応は、この先も気を配って見て行く必要はあるだろうが」
「でもここのドロップ品は、青空市で売るには微妙なラインナップだよねぇ? 車の関連品ばっかりで、必要無い人にはイマイチじゃないかなっ」
確かに香多奈の言う通り、ここの回収品は素直に車関係の企業に流すべきかも。前野家にしても、恐らくはそんな感じでどこかと繋がりを持っていた筈。
とは言え、このダンジョンには儲けるために突入した訳では無いのだし。だけど将来的に儲かるのなら、やっぱり別のチームに割り当てて安定の収入減にする手も。
どちらにしろ、管理者が不在のダンジョンは自治会の引き取り案件になってしまう。とすると間引きをするのは町の探索者であり、そこから収入を得るのは当然の権利で。
全く悪い話では無いのだが、前任者が無くなっている可能性が高いとなると話は微妙に。後を引き継ぐにも、儲けを横取りしてしまう感じのニュアンスが漂い出てしまい。
何とも貧乏クジな、この“車庫ダンジョン”の利権問題だったり。
まぁ、その件についてはここから出てから大人同士で話し合う問題である。ここでの論点は、このまま6層へと進むか一度戻って報告するかって話である。
前野親子の実力が不明なので、どこまで潜ったのかが定かでないのが辛い所で。スキルを所有していたとすれば、もっと奥まで行くのは案外と可能な気もする。
そんな感じで、子供達からはもう少し先へと進むべきとの意見が多数出て。結局は、いつもの流れで護人が押し切られて10層辺りまで降りる事に。
前野親子の探索歴は、自分の敷地だけとは言え4年近くあったらしい。数か月に1度程度しか潜っていなかったとしても、まずまず実力はついていた筈。
そんな姫香の推理で、10層とは行かないまでもその手前までは探索には行けていただろうと。なるほどと頷く香多奈も、変形した中ボスも所詮はゴーレムだもんねと呟いて。
迷推理人の真似事をして、その場を和ませている次第である。ハスキー達は関係ナシに、先に進む気満々ではあるけど。敵に歯応えが無いので、討伐数で補おうって考えらしい。
そんな訳で、チーム揃って6層へと挑戦する流れに。
「あっ、6層もそんなに変化は無いみたい……どっかの車庫だね、造りは今までと似た感じなのかなっ? 単純な造りで良かったよ、これなら探索も
「そうだね、あとは出て来る敵だけど……おっと、服を着てるけどアレはパペットかな? あの位ならまだ楽勝だね、ハスキー達も軽くいなしてるよ」
「あのパペット、整備士さんみたいな繋ぎの服を着てるねぇ……手に持ってるのは、バールのようなモノかな?
殴られないように、気をつけてねみんなっ!」
そんな紗良の声援を受けて、出て来たモンスターに対峙するハスキー軍団である。もちろんパペットごときの攻撃を、すんなり受ける彼女達では無い。
スキルすら使わず引っ繰り返して、野生の力で粉砕するそのパワーはさすが。ハスキー達もレベルアップの恩恵で、かなりの地力を身に着けて凄い事になっている。
そして家探しみたいな、使える品が無いかのチェック。しかしこの層には、発煙筒とかガムとかしか発見出来ずの結果に。残念だが、こんなに出て来る方が逆に不思議である。
続いての7層に至るまで、僅か20分足らずのスムーズさ。そして次の7層フロアでは、飛行タイプのコウモリ獣人が群れを成して襲い掛かって来た。
人よりは小柄だが、超音波攻撃や爪での引っ掻き攻撃がやたらとウザい。しかも普通に大コウモリも混ざっていて、意外と数の多い敵の襲撃に。
護人とルルンバちゃんも、後方から射撃での数減らしのお手伝い。まともに戦闘に参加出来て、やたらと張り切るルルンバちゃんは射撃の腕も上がって来ている気が。
護人も負けておらず、約半数を2人で倒す事に成功した。
「うわっ、一気に出て来る敵の数が増えたねっ……ダンジョンはこれだから油断ならないよ、今まで手付かずだったのかな?
そんな事も無いか、だったらただの仕掛けなのかも」
「どっちかは不明だが、まぁ対処出来ないって程でも無かったな。紗良、一応ハスキー達の怪我チェックをしてやってくれ。
おっと、隣の部屋から変な音がするな……姫香、一緒に見に行こうか」
「了解っ、茶々丸も一緒に休んでなさい……アンタ攻撃当てるの失敗して、何度か車庫の壁に頭をぶつけてたのを見てたからねっ?
本当に、ヤンチャが抜けないんだから参っちゃう」
それは指導役のレイジーも、常々思っている事かも知れない。相変わらず戦闘ではバタバタしている茶々丸だが、来栖家チームでは怒る人が限られて来るので。
厳しく接する者がいないと、短所もなかなか治らない良い例である。それでも叱られた茶々丸はシュンとなっていて、多少は反省している感じ。
ただまぁ、その後に痛かったねぇと紗良が甘やかすのだけど。香多奈はルルンバちゃんと一緒にドロップ品を拾いながら、姉に向かって先に行かないでよと文句を述べている。
姫香は次の車庫の境界線から身を乗り出しながら、安全確認しているだけよと怒鳴り返している。その声に敵が反応したのは、ある意味当然の結末だろう。
それは飛行型のドローンで、大きさはルルンバちゃん並みで結構な大きさだった。ソイツはどうやら、魔玉らしきものを保有しているらしく護人たちの頭上を取る行動に出て。
それから、まるで爆撃するかのような攻撃を繰り出して来た。
“戦艦ダンジョン”では、もっと酷いドローンモンスターの洗礼を受けた来栖家チームである。この程度の攻撃など、驚きはするけど避けるのはたやすい事。
姫香はジャンプからの『圧縮』スキルの土台で、高所をキープして敵の有利を減らして行く。それから必殺の一撃で、飛行型のドローンを見事に撃破に至った。
後追いの大コウモリも、護人の射撃で全て撃ち落としてこの場は丸く収まったけど。偵察中に大声を出したら駄目だぞと、護人にお叱りを受ける姫香であった。
大いに反省する少女だが、半分は末妹のせいだと内心では思っていたり。それより、飛行部隊の巣食っていた次の車庫は、天井が結構高くて吹き抜けになっていた。
と言うか、屋根裏部屋が隠されているみたい。
「護人さんっ、あの上の空間って屋根裏部屋じゃないかな……どっかに登る用の
「うん、ちょっとみんなの合流を待とうか……おっと、ハスキー達は何とも無かったみたいだな。その点は良かったけど、香多奈がプンプン怒ってるな。
ハスキー達が先行するのは良くて、俺たちは駄目みたいだ」
本当に我が
ハスキー達は上の空間をスルーして、やっぱり先行して敵の偵察に
結局、隠し階段が見付かったのはそれから5分後の事だった。ハスキー達も本隊が動かないので、戻って来て屋根裏探索に合流する構え。
とは言え、天井の空間には敵の姿は窺えず。代わりに棚には古い車雑誌が数冊に、車の芳香剤やハンドルが置かれてあった。その隣の木箱からは、魔石(中)が3個にポーション500mlと浄化ポーション400mlが。
それは普通のペットボトルに入っていて、一緒にガソリンも500mlほど回収出来た。こちらもペットボトルに入っていて、何とも紛らわしい限りである。
本当に鑑定プレートは、何度も使えて有り難い限りだ。使い捨ての鑑定の書だと、幾らあってもきりが無い。それでも協会には売れるので、今では資金源の1つとなっている。
屋根裏部屋は狭くて、お世辞にも居心地の良い空間とは言い難かったのだが。こんな秘密基地みたいな場所が大好きな末妹には、高評価を貰っていた。
確かにどこか、来栖邸の納屋の2階にも雰囲気は似てるかも。もしここが、現実世界の誰かが有するガレージだとしたら、その主にとっても大切な場所なのかも。
そう思って見渡すと、何だか素敵な場所にも見える不思議。
その後の7階層の探索では、追加で特に発見は無しと言う結果に。敵もハスキーが先行して倒してしまったのか、次の層への階段まで全く見当たらず。
そして降り立った第8層目だが、何だか雰囲気が少し変な感じ。ハスキー達もソワソワしていて、いつもみたいに本隊から離れて進もうとはしない。
子供達もその異変に気付いて、何があるのかなと少し不安げである。最初の古びた車庫には、モンスターの姿も取り立っての回収品も見当たらず。
問題は、その次のフロアに待ち構えていた。
――それは何とも異様な、初めて見るダンジョンの仕掛けだった。
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