第491話 車庫ダンジョンって意外と回収品が豊富な件
次の部屋では、アナグマ獣人が2匹ほど出て来たようだ。今度は戦闘に参加した茶々丸が、張り切って突撃してその片割れを自慢の角で串刺しにしていた。
もう片方はコロ助が喉元に咬み付いて、割と圧倒的な勝利を得た。少々恐ろしい絵面だが、今回の来栖家チームの依頼もそう言う意味では楽しいモノでは無くて。
この“車庫ダンジョン”の敷地の持ち主が、恐らくは探索中に命を落としたみたいなので。出来ればその証拠か何かを、突き止めて欲しい的なアバウトな依頼である。
ダンジョン内での死体については、ほぼ日を置かずに消化されるのは探索者達の良く知る事実。だから死体を持ち帰るなんて事には、恐らくはならない筈ではあるけれど。
死体が出ないだけに、この行方不明の親子の特定は難しいと言う。貧乏くじを引いたものだと、護人は内心で思うけどこれも地域貢献の一環である。
なにしろ“大変動”以降、こんな田舎では警察機構も存在しないので。自治会に身を置く身分としては、そんな捜査に駆り出されるのも仕方の無い事?
本音では、自警団チームでやれよと激しく思う護人である。
ただし、ダンジョン探索は悪い事ばかりでも無いのも事実で。3つ目のガレージでは、壁に飾られてあった新品のタイヤのホイールキャップ4セットを発見。
これでもお店で買えば、結構な金額が掛かってしまう。大抵の車のパーツはそうだが、護人も詳しいって程では無いにせよそこそこの知識は持っていて。
タイヤ交換やら農機具のメンテ程度は、自分でこなす腕前の持ち主である。これも田舎育ちの習性と言うか、機械が機嫌を損ねたら丸1日仕事が遅れる事もあるのだ。
それならある程度は自分でやろうと、農家ではそう言う
そして姫香も、この車庫の特性に気付いた模様。
「護人さんっ、これって他人の家の車庫荒らしみたいになっちゃうけど……結構使える車のパーツが、ここのダンジョンで回収出来ちゃうかもね?
これは確かに、他人に入って欲しくないって思うかも」
「そうだな、確かに車庫荒らしみたいでアレだけど……とは言ってもダンジョンだし、売れそうなものは回収して回って悪い事は何も無いな」
「それじゃあ回収っと……数少ない情報だと、ガソリンも置かれてたりするんだっけ?」
そうらしい、今のところはポリタンクやそれに類するアイテムは見掛けないけど。敵の数にしても、“敷地内ダンジョン”に通い慣れた一行には物足りない気も。
ハスキー達も、これなら先行しても平気だと判断したようで。ほぼ1本道の車庫の繋がりエリアを、容赦なく先行しての露払いを行ってくれていた。
こうなると、本当に姫香でさえ武器を振るう暇も無くなってしまう。そして結局、ハスキー軍団と茶々丸しか戦闘をこなさずに2層への階段を発見に至って。
ガレージは窓付きも幾つかあったけど、開くようにはなっていなかった。飽くまで屋内フロアの連続らしく、それは第2層目にしても同じ事。
車庫の古いのやら新しいコンクリ打ち放しの壁製のやら、広いタイプやら車1台がやっとの大きさやら。様々なタイプの車庫が、車の出口で繋がって続いており。
進むとそれなりに楽しいのだが、護人にすれば行方不明の住人を思って心からは楽しめない。それでも探索は順調で、2層では古くて広いガレージ内でアイテムを発見。
同じく、その脇にガソリン入りのポリタンクが。
「あっ、これガソリンかな、護人さん? 灯油か混合ガソリンの可能性もあるけど、結構いっぱい入ってるよっ!
香多奈、そっちはどんな?」
「机の上に鑑定の書が2枚あったよ、お姉ちゃん。それから工具箱と、これは何の缶かな? 液体っぽいのが入ってるけど、ポーションかな、叔父さん見てっ」
「あぁ、これは……車のエンジンオイルかな? これも消耗品だから、幾らあっても困らないね。おっと、こっちにはプラグ類もあるな。
これも嬉しいな、全部まとめて持って帰ろうか」
心なしかウキウキした口調の護人の返事に、ホイ来たと全部鞄に突っ込んで行く末妹。2層も敵の数はそれ程では無く、その次のガレージでアナグマ獣人を2体撃破して。
それからついでに、ガレージの隅に置かれていた一輪車を香多奈が発見。これは学校に持って行って、みんなで遊ぼうと嬉々として回収して行く。
その次のガレージで、3層へと降りる階段を発見して。エリアの構造は意外と単純で、フロア数も多くない事がこの辺で確定して来た。
この位の難易度なら、凛香チームの稼ぎ場の第2候補地にも良いかも知れないねとの姫香の言葉に。それなら熊爺家の双子と星羅+協会の2人の混成軍の、稼ぎ場にだって良いかもと香多奈も発言する。
この5人組のチームも、今度デビューする予定ではいるらしく。そんな『日馬割』ギルトの新チームに、安定した稼ぎ場を紹介するのも確かに悪くは無いかも。
凛香チームは、例のキノコやポーション類が安定して取れる“竹藪ダンジョン”に、定期的に稼ぎに通っている。もう1つ稼ぎ場があって悪い事は無いが、新チームが発足するなら話は別だ。
この先の難易度も見てないし、まだ判じるには早急ではあるけど。
「そうだね、ここの敷地の持ち主がトチった難関がこの先にある可能性が高いんだし。ひょっとしたら、手強いレア種が湧いたのかもね?
だとしたら、こっちも要注意だよねっ」
「そうだな、この先も注意して進もうか」
護人のいつもの注意飛ばしに、は~いと元気な子供たちの返事。ハスキー達も先行しての露払いを止めないし、ペースは普段より早い感じ。
このところ、立て続けに難易度の高いダンジョンに挑んでいたせいかも知れない。ハスキー達にとって、ランクの低いダンジョン探索は物足りなくなっている可能性が。
そんな訳で、後衛陣もハスキー軍団を追っていつもよりハイペースで進んで行く。3層も特に変化は無し、敵に大コウモリと大ダンゴムシが混じって来たくらいだ。
それらもハスキー達と茶々丸で蹴散らして行って、後衛陣はアイテムの回収くらいしかする事が無い。3層では、混合ガソリンが赤いガソリン缶に入っていた。
混合ガソリンは、草刈り機やチェーンソーに使用する燃料で、使用を間違えると機械が故障してしまう。農家はガソリンもこれも両方使うのだが、見分けるのはなかなか難しく。
色合いや臭いでは、玄人でも見分けがつき難いこの燃料の種類ではあるのだけれど。来栖家チームは鑑定プレート(薬品)を持っており、これは広義で液体のチェックが可能みたい。
これに気付いたのは家での実験の賜物で、主に末妹の香多奈の悪戯によるモノが大きい。家の調味料も薬品のカテゴリーに入るのかなと、暇な時に色々と試してみた結果。
液体に属するモノは、大抵が鑑定可能の結果に姉の紗良と姫香もビックリ。どうやら(薬品)は代表しての記述で、なかなかに万能な魔法アイテムだったみたい。
そんな訳で、探索には常に持ち歩くようにしている子供達であった。
「これは本当に便利だな、ウチの燃料缶の管理はちゃんとしてるけど、ダンジョン回収の中身までは分からないからなぁ。
灯油とガソリンをストーブに入れ間違えて、爆発事故になった事故も毎年どこかで起こっているし。この鑑定プレートは、本当に性能良いな」
「そうだね、たまに毒薬がポーションと混ぜてある意地悪な仕掛けもあるけど、この方法なら簡単に見分けられるもんね。
香多奈の実験も、たまには役に立つよね」
「えへへっ、まあねっ……だから姫香お姉ちゃんは、私が魔法アイテムを勝手に持ち出しても怒ったらダメなんだからね!
いつも私のする事、メッチャ怒って来るんだから!」
そりゃあ怒るでしょうと、隣で末妹を睨みながらの姉のお小言である。その気持ちも分かる紗良は、姫香を落ち着かせながら回収品を鞄へと仕舞って行く。
次のフロアへの仕切り口には、ハスキー達が並んで次へ行こうと催促していた。茶々丸も同じく、隣のフロアから漂う敵の気配に興奮している模様。
アイテム回収の終わった姫香が、多少呆れながらもそちらへ進んで行って。進んで良いよと許可を出すと、ハスキー達&茶々丸は風を纏って先行して行って。
目に付いた大ヤモリを撃破して、天井に張り付いていた大コウモリも同じくスキルを飛ばして撃ち落とす。茶々丸も地面に落ちたそいつ等を踏みつけて、やってやったぜ的な得意満面なポーズ。
敵の数に関しては、1層辺りで10~15匹程度だろうか。決して多くは無いので、前衛陣も物足りない感じ。早く進もうよの催促も、そんな理由が影響しているみたい。
そのせいで、今回は姫香も1度も敵と戦えていないのだけれど。回収品だけはやたらと多くて、次のフロアにも作り付けの棚のある車庫だった。
そこにもしっかり、回収アイテムは置かれている模様。
「あっ、今度は爆破石が4個あった……こっちの瓶はMP回復ポーションかな、誰か補給したい人はいる?」
「こっちは新品の給油用ポンプが2個あったよ、紗良姉さん。家の奴がヘタってたから、ここでの補給は有り難いよねっ」
今までになく回収品の好評な“車庫ダンジョン”だが、難易度的には随分緩いようで。強烈な妨害もほぼ無く、やがて4層へと辿り着く来栖家チーム。
相変わらず出て来るのは、薄暗闇を好む獣や蟲のモンスターばかりで。大蜘蛛も出て来たけど、大きさ的にはバスケットボール程度で強くは無かった。
レイジーが『針衝撃』で壁から落として、それを茶々丸が容赦なく踏み潰すと言う黄金パターンに。思わず姫香も感心して、気分はすっかり保護者である。
ここで私も戦わせてよと、割って入るのも大人気ない気がして。その上にひっそりと潜んでいたシャドウ族も、茶々丸に発見されて散々な目に遭う始末。
相変わらずの発見能力と、その後の容赦のない角での刺殺には思わず拍手を送る末妹である。図に乗るから止めなさいとは言えず、護人もどうしたモノやら。
そんな一団は、4層も無事に通り抜けてあっという間に5層に到着。
「取り敢えずは中ボスの部屋まで来たな、手掛かり的な物は何も無かったけど。ここで一旦、地上に残った自警団に連絡だけは入れておこうかな?」
「まだ突入して1時間程度だよ、中ボス戦が終わった後で良いんじゃないかな? 中ボスの間の宝箱から、何か証拠の品が出て来るかもだし。
ここで証拠が出たら、このまま引き返すの、護人さん?」
「えっ、それは勿体無いよ……せめて10層は行こうよ、叔父さんっ。拾った魔石の数見てよっ、魔石(微小)がたった50個ちょっとだよっ?」
「あらら、それは確かに少ないねぇ? でも、このダンジョンには稼ぐために入った訳じゃ無いから、それは仕方無いのかな?
売れそうな品は他で回収出来てるし、文句は言っちゃダメだよ、香多奈ちゃん」
そう妹を
とは言え、紗良の言う通りにここには稼ぐために探索に入った訳ではない。休憩しながらも、その事を再度通達しつつも頭を悩ませる護人である。
確かに戻る切っ掛けは定めておいた方が良いけど、早過ぎると子供達に文句を言われると言う。いや、ペット達もストレス溜まっちゃうよと圧を掛けて来る可能性が。
姫香も、凛香チームなり双子&協会チームの稼ぎ場に推奨するなら、最初に徹底的な審査は必要だと口にして。つまり子供達は全員が、5層で終わりはないって考えみたい。
確かにここまでまだ1時間で、これで中ボスを倒して戻るのも勿体無い気も。とは言え、まだ中ボスがどんな奴かすら、目にしてないので何とも言えないけど。
このパターンは、子供のパワーに流されて10層辺りまでは探索を続ける感じか。心中でそう思いながら、既に観念している護人であった。
そうして休憩も終わって、さて中ボスの部屋の扉を開け放つ。
「……あれっ、敵の姿が無いね? ここも車庫だね、車が1台あるだけだよ、叔父さん」
「えっ、そんな筈は……ハスキー達、敵はどこだっ?」
チームで一斉に覗き込んで、戦う気満々の一行はガレージに入って戸惑う破目に。何しろ敵の姿は皆無で、あるのは中央に鎮座する1台のスポーツカーのみ。
ハスキー達も同様で、周囲の匂いを嗅ぎながら敵の捜査に時間を取られる中。ルルンバちゃんのみ、中央の赤いスポーツカーを注視して動かず。
それから、みんななんでこれを無視してるのかなって不思議顔に。そして不意に動き出したそのスポーツカーに、周囲の面々は一斉に驚いてそれを注視する。
その時には、既にスポーツカーの変形は始まっていた。
――ここに来てこの敵のクオリティ、何とも破天荒なダンジョンである。
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