第490話 町の住人の失踪事件に巻き込まれる件
その案件は割と急で、護人にしてみれば何で自分が巻き込まれるの感が半端なく強かった。それでも峰岸自治会長に呼び出され、そこに自警団の面々が揃っているのを見て。
割と大事件なのかなと、心の中で推測して人知れずため息をついて。一緒について来ていた姫香には、恐らくバレていたとは思うがそこは仕方がない。
そんな自治会館では、自警団『白桜』の細見団長が経緯の説明中だった。つまりは、警察機関の無いこの日馬桜町ではこの手の面倒事は自警団チームが背負う事も含めて。
事件が起きたのは、何となくこの場の雰囲気から察していた護人だったけど。それが失踪事件と知ったのは、この細見団長の説明での事だった。
しかも恐らくはダンジョン絡みと聞いて、なるほどと納得の表情に。自分達の分野だねと、活気に満ちた呟きを発する姫香は多少不謹慎ではあるけれども。
沈んだ気分になったとしても、被害者が生き返って文句を言って来る訳でも無し。そこは我慢して貰うとして、団長の話してくれた経緯をざっと把握する護人。
それは何と言うか、自分勝手で同情出来ない部分も含まれていた。
つまりはその失踪した親子の敷地内にも、来栖家と同じくダンジョンが生えて来ていたらしい。普段なら自警団に泣きつく案件だが、どっこいその親子は全く違う対応で。
そのダンジョンの所有権を主張して、自分達のモノだから勝手に入るなと自警団チームを追い返し。発生から数年は、自分達で上手い事管理出来ていたそうなのだ。
ところがここ数か月、その親子と全く連絡が取れなくなってしまい。近所の人たちも見掛けなくなって数か月経つにつれ、これは不味いんじゃないかと自警団に相談した所。
敷地内どころか家屋も調べたのだが、やっぱり親子の影は窺えず。ちなみに男やもめのその親子、父親が50代で息子2人は30代だったとの話である。
護人も顔くらいは覚えていたが、地区も違うし親しい間柄では無かった。敷地内のダンジョン探索で、彼ら親子はガソリンや車のパーツを回収してかなり潤っていたそうな。
そんなダンジョンもあるんだと、姫香は感心した素振りだけど。行方不明の確定から、既に1ヶ月以上がゆうに過ぎている訳で。
恐らくは、ダンジョンで亡くなっている可能性がとても高い。
「それを証明するのは、限りなく不可能だって探索者は誰でも知ってるけどね。何しろダンジョンで亡くなったら、ほんの数日で綺麗に分解されるそうだから。
ただ、その人の持ってた所持品は宝箱の中身になるって話だけど」
「そうだな、ダンジョンに入ってそれを調べてくれって依頼なら、それは無理だよ自治会長。ダンジョン内で1ヶ月以上も生き残ってる確率も、限りなく低いだろうし。
ウチのチームが潜る意味は、あんまり無いんじゃ……」
「それでも誰かが潜って、捜査しましたって体を整えるのが筋じゃろうて。前野の親父も息子たちも、アレで腕っぷしだけは強かったからな。
強い敵が湧いた可能性を考えると、この町で一番強いチームに行って貰わにゃ」
「それじゃ、やっぱり私たちの出番だねっ……ところでその前野さんは、協会には所属してなかったのかな?」
してなかったらしい、もちろんそれは違反でも何でも無いし、取り締まる事も当然出来ない。協会とは、探索者の相互協力の組合程度の位置づけの組織なのだ。
ダンジョン探索に必要な情報や消耗アイテムを提供したり、魔石や薬品を一定額で買い取ったり。そんな設備を利用しなくても、ダンジョンの間引きに支障はない。
ただし探索者同士の繋がりとか、確実な取引先は不定となるのは仕方がない。とは言え、魔石や薬品や回収品をどこに売ろうと、販売先が確定すればそれは個人の自由なので。
行方不明の親子は、そんな感じで独自に販売先を開拓していたと思われる。潤っていたとの話なので、定期的に自分の敷地内のダンジョンには潜っていたのだろう。
聞けば猟友会にも所属していたそうで、猟銃も所持していたみたいだ。モンスターにも銃は効果があるので、それを所持していたら気が大きくなる場合もあるだろう。
そんな近代兵器を過信すると、大事故に繋がってしまう可能性も高いけれど。今回もそんな流れだったとしたら、本当に悲しい結果となったモノだ。
まぁ、現時点では死亡が確定とは言い切れないけど。
限りなく捜索するだけ無駄だとは、ここにいる皆が心中で思っているのだろう。それでも体裁を整えるのは、社会的な責任を遂行するために他ならない。
そんな訳で、なし崩し的にダンジョン内の探索要員に駆り出された来栖家チーム。ウチには子供もいるのにと、思わなくもないがこればっかりは仕方がない。
例えは凛香チームや他のチームに回すにも、重い案件だしこちらで処理出来ればそれが一番には違いないだろうし。休日の今日を利用して、午後一から探索に向かうと自治会長に告げ。
ここは一旦、この場を後にする護人と姫香なのであった。
そしてその午後の1時過ぎ、やっぱり自警団と自警団チーム数名と一緒に来栖家チームは町の指定された敷地内へと到着した。大畠地区の外れにあるその家屋は、主要の県道からはかなり奥まった場所に位置していて。
大きな車だと、入るのにちょっと苦労しそう……とは言え、この山間に位置する町はどこもそんな立地の敷地が多いけれど。平らな土地は駅前と、そこを通る県道周辺位で。
後は総じて、山を何とか切り開いて家屋を立てたり田畑を拡げたりの立地ばかりである。まぁ、広島県自体がそんな海の近くにすぐ山と言う土地ばかりなのだ。
町を拡げるには、とにかく山を切り開くしか手段の無い運命の県でもあり。広島の市内だけは例外的に、太田川の三角州から出来ていると言う。
そのせいで土壌が脆弱で、地下街や地下鉄の計画は全て頓挫しいしまっていたりもするけど。ちなみに牡蠣が美味しいのも、この山と海の近い立地のお陰である。
とにかく開拓するには、有利な土地では決して無くて。
そんな屋敷の
ハスキー達も勝手に散って行き、周囲に怪しい点は無いか嗅ぎ回ってくれている。探索準備もバッチリな子供達も、ダンジョンはどこかなと話し合って。
そんな中、護人だけが呼ばれての家屋の探索を一緒にして欲しいとの依頼。気の進まない護人だが、仕方が無いので一緒に他人の家の中へとお邪魔する事に。
素人の視点で、何が分かるか
男やもめが長いせいもあるのか、お世辞にも綺麗に片付いているとは言えない室内だけど。生活感の範囲内で、不潔と言う程では無い。
それに加えて数か月の不在で、埃は室内に結構貯まっていたりもして。結局失踪の手掛かりは誰も掴めずに、ただの時間の浪費に終わってしまった。
その反対に、外にいた子供達はダンジョンの入り口を発見しており。それから納屋の状態を見て、ここで家主は探索準備をしてたんじゃないかと言って来た。
その発見に、周囲の大人たちは口をあんぐり状態に。しかしよく見れば、確かに猟銃の弾や手入れ用の品が納屋に整然と置かれてあって。
猟銃だけが、どこを探しても見付からない。
「なるほど、確かにここで着替えた痕跡が3人分あるな……一応は前野親子も、万全の備えでダンジョンへと潜ってはいたのかな?
今回は、無事に帰って来れなかったって可能性が高くなったな」
「魔素濃度も一応測っておいたよ、護人さんっ。そんなに濃くは無かったけど、平均よりは上かも……今回は自治会依頼だよね、前野さん親子の探索って条件で良いの?
それだと見付からなかったら、延々と深層まで潜んなきゃならないよね?」
「あっ、いや……録画機器を渡すから、適当な階層までで構わないよ、姫香ちゃん。その録画情報は、協会も欲しいそうで依頼料は倍増しになる筈だから。
嫌な役を押し付けて済まないが、宜しく頼んだよ」
別にいいよと、姫香は飽くまでクールな返答振りである。確かにあまり気分の良い依頼では無いが、町で一番最強のチームと認められての声掛けなのだ。
末妹の香多奈にしても全く無頓着で、ルルンバちゃんに受け取った録画機器をご機嫌に取り付けている。新しいダンジョンに潜る事が、楽しくて仕方がない様子。
それはペット達も同様で、立派な車庫内に見付けたダンジョン入り口に興奮模様だ。中の情報は、ガソリンや車のパーツが入手可能と言う以外は全くの不明だし。
素人の親子チームが攻略出来ていたらしいので、そこまで強い敵が出て来るとは思えないけど。油断は大敵、推定で人死にも出ているのだから。
そんな理由もあって、今回の探索前の注意点は微妙に酸っぱいモノに。ひょっとして、行方不明者のゴーストが出て来るかもとか、宝箱から遺品が出て来るかもとか。
そんな事を口にするのは、少々憂鬱な護人である。
「まぁ、その辺は仕方無いと言うか、今回のメインの依頼だもんね。香多奈は怖かったら、峰岸のオッちゃん達と外で待ってたらいいよ」
「嫌だよっ、絶対について行くもんねっ! 私が行かなかったら、コロ助も萌も一緒に行かないんだからねっ!」
「そんなに怒らないの、香多奈ちゃん……お姉ちゃんは、香多奈ちゃんが心配だからああ言っているだけなんだから。
私も心配だけど、本当について来るんなら私がしっかり守ってあげなきゃね」
そう言う紗良も、実は少し不安そうで顔色はあまり良くなかったり。それでも家族が万一怪我をした時の為に、ついて来る気満々の長女である。
それは末妹の香多奈も同じく、仲間外れなんて真っ平御免なので。叔父の護人にせっついて、早くダンジョンに潜ろうよと自分の同行を既成事実にするのに忙しい。
姫香はそれ以上何も言わず、ハスキー達に続いてダンジョンへと入って行った。そんな訳で、なし崩し的に始まる“車庫ダンジョン”の攻略である。
目的は普段より複雑だが、何とかなるだろうと護人も覚悟を決めて後に続く。どの道こちらは専門家では無いのだ、行方不明者の探索なんて話を振られても無理!
精々が、ハスキー達に異変があったら教えてくれと頼むくらいのモノである。他力本願の方式だけど、その位しか素人の出来る事などありはしないので。
逆に気楽になった護人は、探索開始の合図をチームに発するのだった。
そうして、薄暗い車庫内に出来ていた入り口から入ったダンジョンの第1層である。どうやら前野親子は、車庫にダンジョンが出来て以来そこの管理は入念だった模様で。
車の駐車をキッパリ諦めて、普段は厳重に開閉式の鉄扉で蓋をしていたみたいである。それなら確かに、オーバーフローにもある程度は対応可能かも。
全面的に野良モンスターを閉じ込められるかと問われれば、それは疑問ではあるけど。少なくとも、時間稼ぎ程度にはなっていたと思われる。
そもそも、定期的に潜って間引きを行っていたのだろうし。ガソリンが回収出来るとの話だったけど、出た先はなるほど納得の見慣れた車庫内だった。
いや、見慣れてはいないけど雰囲気は入り口の車庫そっくりだ。
「あっ、やっぱりこんな感じのフロア構成なんだ……ある程度広いけど、扉の向こうはどうなってるのかな? 予想だと、同じ間取りの続きかな?」
「そうかも、ハスキー達はどっちに行ったのかな? あっ、向こうで戦闘音がするね、この入り口には見るべき箇所は無いみたい」
「光の魔玉を使うね……ルルンバちゃんの方の撮影、ちゃんと始めてる? 車庫の端っこに置かれてるのは、中古車か何かかな?
特に怪しくはないよね、護人さんっ」
出た先は広い田舎の屋根付きの車庫で、出てきた入り口を除くと怪しいのは端っこの中古の自動車くらい。それを恐る恐る覗き込んだ護人だが、車内には特に何も無し。
戦闘音はその奥の扉の向こうからで、用心して姫香が向かってみた所。同じような屋根付きの空間で、ハスキー達が大ヤモリ3匹と戦っていた。
恐らく壁に張り付いていたのだろうが、今はハスキー達に地面に落とされて劣勢である。と言うより、そのまま討伐まで待ったなしの流れとなっていて。
1分と経たず、順番に魔石へと変わって行ってしまった。そこは多少は洒落た感じのガレージに見えたけど、特に特筆すべきものは置かれておらず。
それでも多少は慎重に、辺りを覗ってしまうのは仕方が無い事か。
――そんな感じで、内心ではやり難く感じつつ先へと向かう護人だった。
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