第486話 3層のボスと真ん中の扉の大ボスの対比が酷かった件



 鏡に隠れていた宝箱からは、大量の薬品類と木の実と魔玉(風)が出て来た。他にも手鏡やら万華鏡やら、髪飾りやら小さなミラーボールやらが数点ずつ。

 それから金目の物も少々、すっかり定番の金貨やら宝石類が。今回は怪しいお肉は無かったねと、何故か残念そうな末妹のコメントはともかく。


 茶々丸や萌の治療が終わって、宝箱の回収も終わった来栖家チームは。暫しの休憩の後に、気合を入れ直してゴール地点のワープ魔方陣を潜って第3層へと到達した。

 今度は怪我しちゃ駄目よと、香多奈に発破を掛けられた茶々萌コンビだけど。引き続き前衛を担っても良いよと、ゆるい護人のゴーサインで汚名返上の為に勇んで前へ。


 ただし姫香とレイジーには、強い敵の出現には充分に気をつける様にとのお達しが。その辺はしっかり引き締めないと、事故の元になってしまう。

 そんな訳で、先程の作戦を踏襲してこの層も3組での攻略開始。


「ようやく終わりが見えて来たね、護人さんっ……結構疲れたな、アスレダンジョンを1日で攻略はちょっと無理し過ぎだったかも?」

「そうだな、まぁ終わった事だし今更だけど……ここを含めてあと2層か、難易度も上がる筈だから前衛陣は気をつけてくれよ」

「あと2層かぁ……叔父さんと紗良お姉ちゃんがもうクタクタだから、早く終わらせてあげたいよねぇ。

 その分は、ハスキー達が頑張るんだよっ!」


 香多奈にそう言われ、張り切って迷路に飛び込んで行くハスキー達である。遅れまいと姫香も続き、今回も3組攻略で行くよと指揮を執っている。

 コロ助組が少々不安だが、これも経験を積むためだと割り切って。萌など特に、前衛に出る機会が極端に少ないので、ルルンバちゃんと共に頑張って欲しい。


 コロ助に指示出しは期待出来ないけど、パワーだけはハスキーでトップなのだし。護人も心配しつつも、取り敢えずは送り出しての様子見に。

 そんな周囲の反応を、全く気にせずマイペースで邁進するコロ助組である。やるべき事は何となくしか分かって無いけど、とにかく見掛けた敵は全て倒すべし。


 そうやって進む前衛の3組だが、3層目だけあって道中は慣れたモノ。分岐ではサッと左右に分かれて、行き止まりに突き当たったら戻って先行組を追いかける。

 ハスキーの鼻があっての作戦は、実に効率的に全ての分岐を潰して行ってくれている。後に続く後衛陣も、これなら安心して追従出来る。


 お陰でかなり暇と言うか、スタミナも戻って来たのでお手伝いをしたい後衛組なのだが。迷路仕様の壁のせいで、それもままならないと言う有り様で。

 それでも進行速度は、さっきまでの1~2層より随分と短縮出来ている感じ。敵の討伐も同じく、そんなに苦労せずにゴブリンやゴーレムを倒して行って。

 気がつけば、既に半分の地点もクリア。


 好調なのは良いけど、アスレや罠の仕掛けも3層もそれなりに熾烈で。今回ルルンバちゃんは前衛なので、紗良は自力でコースを踏破しなければならない。

 護人と香多奈の応援に、何とか応えながらもコースを進んで行って。気付けば何とか、前衛陣に合流する地点まで到達出来ていた。


 そこには姫香もいて、多分こっちが正解のルートかなと左の道を指し示す。迷路の攻略も既に慣れた様子で、ツグミを伴って未踏破のルートを進み始めて。

 それに続く後衛組と共に、次に出たのは例のモンスター広場だった。20体以上の敵の群れに、突っ込もうとした前衛陣を抑えて、紗良の《氷雪》が範囲で撃ち込まれる。


 護人の指示出しだが、これで随分と残りの敵の討伐が楽になってしまった。姫香やコロ助たちが残党狩りをこなすのを、護人も手伝って最後の制圧戦。

 このエリアも前の層と同じく、ゴールまでの距離はもう少しとなっている。今までのパターンだと、すぐ近くに中ボスが待ち構えている筈である。

 その予想を裏切って、ゴール地点の浮き島には何の敵影も窺えず。


「おかしいね、あそこがゴールに間違いは無いのに何もいないや。どっかに隠れてるのかな、この部屋のモンスター退治ももうすぐ終わるってのに」

「香多奈ちゃん、あんまりうろついたら危ないよ……あっ、レイジーちゃん達も戻って来たね、良かった。これで家族がみんな揃ったよ、あとはゴールするだけ……

 って、香多奈ちゃんっ!?」


 紗良の絶叫は、前の層でも耳にしたガラスの割れる音に混じって周囲に響き渡った。見れば末妹が少し離れた場所で、奥の通路を覗き込んでいて。

 どうやらその通路の突き当りに、さっきの鏡の仕掛けが施されていた様子。ついでの香多奈の驚き声をBGMに、迫り来るのは末妹の姿を借りたドッペルゲンガー。


 何故かお供にトランプ兵士2体を連れており、手には長い杖を持っている。杖の先には赤くて大きな宝石が、少女の分身がその杖を振るうと宙に炎の狂精霊が出現して。

 そして2枚のジョーカーのトランプ兵は、何故かその場で変身を始める始末。少女の偽ドッペルの側に出現したのは、いかついヘルハウンドと子牛サイズの灰色ドラゴンで。


 これがコロ助と萌の姿のコピーなら、劣悪も良い所である。実際両者は、香多奈の悲鳴を聞いてすぐに少女の元へと護衛に駆けつけたのだけど。

 その代償がコレだとすると、ちょっと可哀想な気も。


「うおっ、この層もドッペルゲンガーの仕掛けがあったのか……しかし、何で香多奈が発動させたんだ?

 取り敢えず、広間の片付けは終わったし続けて倒してしまおうか」

「了解、護人さん……香多奈の偽物だからって、容赦はしないよっ! 子分共々、メタメタにやっつけてやるっ!」

「ええっ、それはそれで複雑な心境……」


 そんな事をボヤく末妹だったけど、敵の攻撃は既に始まっており。ブロックに動くコロ助や萌は、自身のコピーの不出来に複雑な表情を浮かべている。

 それより圧倒的に厄介なのは、香多奈の偽物よりその上空の炎の狂精霊である。いきなりの火炎放射に、突っ込もうとした護人や姫香は慌てて退避している。


 その炎を関係無いねと突っ込んだのは、レイジーのみで向こう陣営も慌てる素振り。その影に潜んで茶々丸も追従、そして容赦なく偽ドッペルに頭突きを食らわしている。

 香多奈のドッペルゲンガーなので、召喚能力以外はそんなに大したスペックでは無いかなとは思っていた一行だったけど。まさか空気を読まない茶々丸が、頭突き一発でKOするとは。


 唖然とした表情なのは、香多奈も同じで何故かショックを受けていたり。私って弱かったんだと、改めて現実を突きつけられたせいなのかも知れない。

 それは見た目が強そうだった、トランプ兵士のコピー軍団も同様だったらしく。コロ助と萌の相手は、ほんの数手の殴り合いで消滅していく始末。


 一番強いと思われた、炎の狂精霊もレイジーの前には無力だった模様で。恐らくは『魔喰』の能力だろうか、ぶつかった瞬間に炎を剝ぎ取られた相手は文字通り意気消沈してしまい。

 そのままレイジーに、能力を全て食われる結果に。


「おおっ、良く分からないけど何とかなったな……結局、今のが中ボスだったのかな?」

「前の層もドッペルがボスだったし、そうなんじゃ無いかな? まぁ敵の失敗は、ウチで一番弱い香多奈をコピーしちゃった事に尽きるよね。

 護人さんとかだったら、かなり苦労してたかも?」

「……何か理不尽だなぁ、まぁ良いけど。茶々丸っ、アンタ何の躊躇ちゅうちょもなく敵に突っ込んで行ったけど、ちゃんと偽物だって分かってたのっ!?」

「まあまあ、香多奈ちゃん……ほらっ、ドロップ品に凄そうな杖が混じってるよ?」


 荒ぶる末妹だったけど、紗良の言葉に呆気なく怒気は消え去って。素直にルルンバちゃんとドロップ品の回収へ、確かに魔石(中)2個に混じって赤い宝石の杖が拾えた。

 他にもオーブ珠が1個に、狼の牙素材と竜の鱗素材も少々。良く分からないけど得したと、さっきの事などスッパリ忘れて香多奈は嬉しそうにそれらを回収する。


 そして家族揃って上ったゴール地点の浮き島にも、ワープ魔方陣と宝箱が。これでこの4つ目の扉エリアも攻略完了だと、喜びつつ子供達が揃って中身チェック。

 中からは鑑定の書や薬品類、木の実や魔結晶(中)が幾つか出て来た。上級ポーションが入ってる時点で当たりだし、魔結晶(中)も8つも回収出来た。


 それから目的の鍵も確認、これで4つ揃って中央の扉への挑戦権を得た格好に。他にもミスリル製の防具や、何故か千ピースのジグソーパズルが。

 絵柄は子猫がじゃれ合っている構図とか、良く分からないけど香多奈は嬉しそう。寝る前にやろうねと姉達を誘っているが、果たして飽きる前に完成させられるかは不明である。


 他にもボードゲームの類いが幾つか入っていて、あとは金貨が少々。それらを素早く回収して、来栖家チームは退去用の魔方陣を揃って潜って行く。

 そして例の0層フロアに無事到着、改めて中央の扉を全員で見遣る。


「休憩が終わったら、ここを攻略して今日はお終いだねっ、頑張ろう!」

「そうだな、さっさと帰ってゆっくり休みたいよ……」


 早くも愚痴モードの護人だが、ペット達はヤル気満々で。明らかに強敵の待ち構える中央の扉を前にして、休憩もそこそこに突入する気をみなぎらせている。

 そしてようやくその時はやって来て、姫香が入手した4つの鍵を使用する。それに反応してゆっくりと開く扉に、ハスキー達は躊躇せず飛び込んで行って。


 それに続く子供たち、ルルンバちゃんは当然全パーツ完成形での同行である。万一またアスレコースなら、一度引き返せば良いだけの話。

 ところが入ったエリアは、浮き島だらけではあったけど移動はしなくて良い感じ。と言うより、下手に移動したら蜘蛛の糸に絡まって身動き出来なくなってしまいそう。


 つまりは蜘蛛の縄張りで、これは巨大蜘蛛でもいるのかなと天井を見上げる一行。そこにいたのは、しかし蜘蛛違いと言うか上半身は女性のフォルムで。

 つまりは強敵アラクネである、しかも数えた限り5体はいるみたい。


「うわっ、さすが大ボスの部屋だね……強敵だよっ、みんな遠慮しないでフルパワーで迎撃に動いてねっ!」

「そうだな……紗良は初撃に魔法を放ったら、後は香多奈と《結界》内にいてくれ。敵の数も多いし、みんなでフォローし合って戦うぞ!」


 了解と、元気な香多奈の返事に合わせて、指示通りの紗良の集中からの《氷雪》のブッ放し。範囲にアラクネは2体しか入らなかったけれど、先制打には充分だった模様で。

 お返しに飛んで来た矢尻には、たっぷりと毒が塗られていたみたい。散って行く来栖家の面々は、フォローし合いながら強敵と対峙する。


 弱っている奴には目もくれず、地上付近の元気なアラクネに突進するレイジーと茶々丸ペア。姫香とツグミも同じく、反対側の鎌持ちアラクネに勝負を挑んでいる。

 それならばと、護人は薔薇のマントの飛行能力で、蜘蛛の巣ごと凍り付いて動けない奴の止め刺しに。それでも油断せず、《奥の手》でぶん殴って地上に叩き落としてやる。


 それを待ち構えていた萌が、キッチリと黒雷の長槍で仕留めてくれて。同じパターンで、天井付近にいたアラクネも叩き落す事に成功する。

 コイツはボス級だったみたいで、体格も良かったし武器も上物を所持していたのだが。護人も萌も、何の感慨も抱かずに同じパターンで撃破に追い込んで。

 これで2体倒し終わったなと、他のメンバーに視線を向ける。


 残った3体目は、どうやらコロ助が抑え込んでいた模様。ソロとは言え、背後からは香多奈の『応援』が届いているし、ルルンバちゃんの遠隔攻撃も届いていたし。

 実際、止めを刺したのもルルンバちゃんのビーム砲だった。末妹の避けての合図で、コロ助は《韋駄天》を発動させて射線を確保してあげて。


 これもチームプレイ、コロ助だってやれば出来る子なのだ。飼い主からもその手腕を褒めて貰って、ヤンチャな彼もちょっと嬉しそう。

 その頃には、レイジーも弓矢装備のアラクネを燃やし終わっての完勝に。茶々丸も無事な様子で、元気にチームへと合流を果たしている。


 姫香とツグミのペアも、鎌持ちのアラクネとの壮絶な接近戦を何とか制した模様で。昔の苦戦も嘘みたいに、完全勝利となって護人もちょっと感慨深い表情だ。

 チームの成長は素直に嬉しいし、無事にダンジョンを攻略した達成感も半端ないし。こんなに肉体&精神的に苦しんだダンジョンは、過去に無かったかも?


 とにかくこれで、今日は家に戻ってゆっくり出来る。子供達ははやくも、中央に湧いた宝箱を目指して浮かれ模様で近付いて行ってるけど。

 体力がほぼ尽きた護人は、薔薇のマントの力で宙に浮いたまま。





 ――何にしろ、これで5つの“ダンジョン内ダンジョン”は攻略完了!






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