第485話 迷路の鏡の仕掛けでとんだ目に遭う件
さて第2層だが、スタート地点でまずは休憩と洒落込む一行である。エーテルを飲んだり、座り込んで寛いで間食を取ったりとそれぞれだけど。
香多奈がうっかり、ボッケからジャーキーを取り出したせいでハスキー達は大盛り上がり。休憩そっちのけで、少女を取り巻いて頂戴の催促に余念がない。
何故かその群れに加わる茶々丸はアレとして、休み時間の使い方はそれぞれと言う感じで護人も諦め模様。それより最後の扉は、球体転がしみたいな肉体系で無くて本当に良かった。
紗良には申し訳ないが、全編がアスレの仕掛けでは無いのでまだマシな筈。大半は迷路仕様のこのコース、罠も多いみたいなので前衛陣が大変みたい。
姫香もレイジーも、その辺は全く気にしていないみたいだけど。逆にコースの彩りだとも思っているようで、攻略を楽しんで進んでいる。
まぁ、ダンジョン攻略を楽しむのも1つの才能だろう……その点は、末妹も持っている能力には違いなく。今後も余程の事が無い限り、家族でのチーム形態は揺らがない感じか。
それは今更どうやっても覆せそうにもないので、既に腹を
今後もなるべく、その良い経験を重ねて行きたい所存。
「迷宮も楽しいけど、本当に迷っちゃうと洒落にならないよね……突き当りに宝箱とか置いてる可能性もあるから、全部のルートは潰して行きたいしさ。
かと言って、あんまり個人で動き回ると戦闘の時に大変だし」
「そうだな、俺とルルンバちゃんで途中参加したけど、ルートの確定はそれでも面倒だったな。ただハスキー達は誰も通っていないルートは、匂いで分かるみたいだし。
3組にするなら、レイジーと茶々丸で1組、コロ助とルルンバちゃんと萌で1組にしようか」
「いざとなったら、レイジーの炎軍団もあるよね! アレは派手だし、動画的にも盛り上がるからどっかで使ってよね、レイジー。
あっ、でも……私がその場にいないと撮影出来ないや!」
おバカだねとの、姉の姫香の
実際に、本気を出すならツグミの《闇操》やレイジーの《狼帝》でゴリ押しすれば良いのだが。そこまでの緊急性を感じないハスキー達は、いつもの訓練のつもりで共同作戦に重きを置いての行動振りで。
集団で狩りをする、それは彼女達にとっては至上の喜びなので仕方が無いとも。取り敢えずは主から本気出せの指令が無い限りは、そんな感じで狩りに臨む予定。
そして今回も、まぁのんびり行こうとの主の護人のお達しに。そうだねとの納得した感じの姉妹の返事で、この先の指針も呆気無く決定してしまった。
ハスキー達に否は無いし、体力もまだ充分に残っているし。今回は萌も参加するようなので、鍛えてやらないとねとの気配りまで示すハスキー達であった。
萌に関しては、出番なのねと緊張の類いは全く無さそう。
「頑張るんだよ、萌っ……そう言えばアンタは《経験値up》スキルを覚えたんだっけ? 戦わなかったら宝の持ち腐れじゃんか、いっぱい敵を倒しておいで!」
「ああ、そう言えばそうだっけ……ペット達の新しいスキル、俺たちもちゃんと把握しておかなきゃな。
確か、レイジーと茶々丸も新しいスキルをゲットしたんだっけ?」
「レイジーはともかく、茶々丸の新スキルは訓練でもなかなか作動しなかったねぇ。多分だけど、念願の遠距離攻撃スキルだと思うんだけど。
その点、コロ助とか最初からアッサリ使いこなしてたよね」
確かに香多奈の言う通り、コロ助の『牙突』は最初から何の不便も無く作動していた。そしてレイジーの新スキル《オーラ増強》だが、これは地力を底上げするタイプのスキルらしく。
戦闘に直接作用するって感じでは、どうやら無い様子である。ただし、使ってみてと
そんな訳で、現在はレイジーの戦闘ベストも伸縮性を持つ紗良の特注品となっている。事前に分かって良かったと、紗良も胸を撫で下ろすペット達の進化なのだが。
果たしてその戦闘能力の向上は、いつまで続くのか怖い所でもあったりして。何しろ護衛が本職の彼女達は、危険物に対して過剰に反応する癖がある。
不審人物に対して、その余りある戦闘能力を披露したらと思うと護人も気が気でない所。ハスキー達は、時によっては加減を知らないのも事実なので。
取り敢えず、ダンジョン探索においては今やなくてはならない戦力には違いない。そんな訳で、今回も頼りにしているよとリーダーの声掛けに。
揃って尻尾を振る、従順なハスキー軍団である。
そんな感じでの第2層の攻略開始、今回は基本を3組でのルート潰し戦略となっているけど。こんな作戦を行うのは初なので、前衛陣もいきなり戸惑っている。
何しろ奇数の3チームでのスタート、最初の分岐でどうやって別れようって話である。考えた末に姫香は、すぐ後ろに控えていた末妹に意見を聞く事に。
香多奈は適当に、お姉ちゃんが右のルートで良いじゃん的な投げやりな返答振り。そんじゃ残りの組は左ねと、最初のルート選択は決まった模様。
その決定が正しかったと判明したのは数分後で、行き止まりで落とし穴の罠があったよと引き返して報告する姫香。それから途中まで一緒に進もうと、後衛陣もようやくの動き出し。
その次の分岐には、ドローン形態のルルンバちゃんが待っていてくれており。香多奈に魔石を差し出しながら、既に外れルートは選定済みと正しい道を案内し始めて。
そして次の分岐には、コロ助と萌がしっかり待ち構えており。戦闘の証として、これまた香多奈に拾った魔石を提示する萌であった。
どうやら3組で攻略戦法は、今の所は上手く機能している模様。
「いいねっ、それじゃあこの分岐で護人さんたちは待ってて貰って……レイジーが向かわなかった方はどっち、ツグミ?
コロ助チームも、一緒にそっちへと進もうか」
「頑張ってね、コロ助……ちゃんと萌とルルンバちゃんの面倒を見てあげるんだよっ」
リーダー業などした事の無いコロ助は、そんなの知らんがなって表情で。尻尾を適当に振って、迷路の奥へと消え去って行った。それを追う萌とルルンバちゃんは、飽くまでマイペース。
再び待ちの姿勢の後衛陣、ここまでのルートにアスレ仕様の仕掛けは無かったけど。ここから増えそうな予感に、紗良の顔色は決して良くはない。
そしてその予感は当たっていて、丸太の橋などまだ楽な方と言わんばかりの仕掛けが次のルートに出現。網ロープの渡り穴や棘付き振り子つきの丸太橋など、連続で出て来てさあ大変。
先行した前衛陣は無事に渡っていて、渡った先で熾烈な戦闘を繰り広げているようだ。このエリアの敵もさっきと同じく、ゴーレムやゴブリンやトランプ兵士がメイン。
それらが迷路の至る所に配置されていて、姫香たち先行部隊に次々と駆逐されて行っている。そしてこのエリアにも、ゴール付近に大勢の敵の待ち構えるトラップハウスが設置されていたのだが。
丁度、レイジー組とコロ助組が一緒の移動中で、こちらの戦力は充分に揃っていたために。さほど慌てる事も無く、20匹以上のモンスターの排除に成功した。
5分以上の熱戦だったが、萌や茶々丸を含めて大きな怪我は無し。
そして休息を取りながら、後続の到着を待つ面々だったり。今回はルルンバちゃんが魔石を拾い集めてくれて、その点は大助かりのレイジーである。
そして改めて眺めるゴール地点だが、意外ともう近いのが浮き島の位置から窺える。そして今回は、そこへと至るルートが1本だけで確定となっていて。
何となく、それならゴール地点で待ってても良いかなと歩を進めてしまうレイジー。それに何の疑いも無く付き従う茶々丸だが、突き当りの壁一面の大鏡にビックリ仰天する。
行き止まりとは思ってなかったと言うのもあるが、それに映った自身の姿が何だかヘン。獰猛なその姿は、牙をむき出してまるでこちらを威嚇しているかのよう。
その隣に映る仔ヤギも、まるで猛牛のように蹄をかき鳴らして突進して来ようとする素振り。何だこれはと混乱する両者に、更なるパニック映像が訪れる。大鏡の派手な破砕音と、その中から飛び出るハスキー犬とヤギ姿の敵の姿が。
それはドッペルゲンガーの仕掛けで、初めて喰らったレイジーと茶々丸は驚きで反応が遅れてしまった。お陰でレイジーの偽物の炎のブレスを、思いっ切り喰らう破目に。
しかも鏡から出現した偽レイジー、巨大化まで果たす始末。
「わっ、何ナニっ……どうなってるの、レイジーと茶々丸が2セットいるよっ!? 2人とも、そんな狭い所にいないで広場まで下がっておいでっ!
えっ、マジで分裂しちゃったのっ?」
「慌てるな、姫香……この仕掛けは、確か“男限定ダンジョン”でもあったな。鏡が壁に設置されていて、敵は映った者の分身姿で襲い掛かって来るんだ。
能力もコピーしてるから、かなり厄介だぞ」
「ええっ、それじゃあ茶々丸のコピーはともかく、レイジーのは凄く厄介じゃん! 大丈夫かな、みんなで加勢した方がいい?」
酷い香多奈の言葉だが、内心では確かにそうだなって思う一同だったり。数にカウントされなかった茶々丸だが、既に壮絶な頭突き合戦が狭い通路で始まっていた。
レイジーの方はまだ姫香の命令を聞く冷静さは残っていたようで、広い部屋へと急いで退避。そこにはチーム員が勢揃いしていて、この事態に揃って驚き顔に。
それでも護人の説明を聞いて、何だドッペルゲンガーかと納得した模様。再び敵の放ったブレス攻撃は、姫香の『圧縮』スキルで何とかブロックして。
その間に、護人に茶々丸のフォローを頼まれたルルンバちゃんと萌のコンビは。飛行と立体機動を駆使して、偽レイジーの死角を縫って路地へと辿り着いたのだが。
いきなり鋭い刺突攻撃が、遠隔で飛んで来てまさかの2人揃って撃墜される破目に。どうやら敵のコピーは、茶々丸の《飛天槍角》まで完璧に操れるらしい。
恐るべしスペックの仔ヤギドッペルゲンガー、対する本物の茶々丸も既に満身創痍の状態で。助っ人2人も若さを
ペースは明らかに、偽物が握っての戦闘続行となっている。
一方のレイジー対偽レイジーの対決、こちらは護人たちがいる分まだマシかと思われたのだが。いい加減頭に血が上ったレイジーが、偽物に肉弾戦を挑んで壮絶な噛みつき合いに発展して。
こうなると、どっちが本物なのか周囲にも判別が出来ないと言う。と言うか大型犬の本気の噛みつき合いは、周囲の人間も引くほどの迫力で。
お互いが肩口に咬み付いて、周囲を転がってのマウントの取り合いに。ひえっと悲鳴を上げて、思わず叔父の後ろに隠れる香多奈である。
それ程の迫力のある肉弾戦だったけど、やがて両者の間に明確な相違が見て取れるように。次第に片方が組み敷かれる時間が長くなり、上を取った方は体躯が膨れ上がって行く。
まるで相手から何かを吸い取っているような、そんな攻防戦はもうしばらく続き。手を出せない周囲の面々も、何となく安堵の表情に。
つまりは、勝利を勝ち取るのは間違いなく本物のレイジーとの信頼が窺えて。実際、溶けるように消滅したのは、敵のドッペルゲンガーの方だった。
その瞬間、やんやの喝采が子供達から。
誇らしげなレイジーの表情は、お褒めの声掛けに満更でも無さげである。そしてご主人の護人に頭を撫でられた瞬間、ブンブンと勢い良く振るわれる尻尾。
それより茶々丸はどうなったのと、姫香がすっかり忘れられた存在の通路奥の戦闘を思い出して口にすると。それに合わせたように、ボロボロになった2匹と1機が姿を現した。
どうやら辛うじて勝利したモノの、相手の思わぬ巧妙なスキル使用に
それでも茶々丸に関しては、ボクの偽物の遠隔スキル強かったなぁって顔付きで。アレを自在に使える様になったら、ヤン茶々丸の戦闘力は一段どころか急上昇するかも?
そんな顛末を知らない子供達は、治療しなきゃと紗良を中心に大忙し。ゴール地点はもうすぐそこで、あとは出現しているワープ魔方陣を潜るだけである。
先を覗いていた香多奈が、割れた鏡の向こうに宝箱があったよと
そんな感じで、あと残るはこの扉の3層目と大ボスの間だけ。
――何とかこれ以上、怪我人を出さずにクリアしたい所である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます