第483話 アスレコースで木登りを存分に楽しむ件



 さっきの層には宝箱が全然なかったと、不満を口にしている末妹だったけれど。次の2層目のスタート地点に立った途端に、そのコースを目にしてテンション爆上がりした模様で。

 おおッとか凄いとか、さっきとは似て非なるコースの全容を眺めて言葉をこぼしている。それは姫香も同様で、ますます立体的になってるねと隣の姉を窺う素振り。


 つまりは今回のエリアは、ますます縦方向の移動が組み込まれている感じで。しかも今回はボルダリングのコースに加えて木登りからの上方向の移動がある模様。

 これは慣れている人には何でもないけど、腕力の無い女性の大半は苦手かも? 紗良も当然、類にたがわず思いっ切り不安そうな表情を浮かべている。


 ただまぁ、振り子の仕掛けは半分以下に減っているしその点は安心出来そう。とは言え、落ちたらただでは済まない高さの場所が、何か所か垣間見えるのも事実で。

 難易度的には、やっぱり結構跳ね上がっている気が。しかもモンスター達の襲来を、アスレ攻略中に受けたら大変危険なのは当然である。

 そんな訳で、こちらもスタート前に色々と策を練る事に。


「やっぱり、ここは安定のルルンバちゃんに活躍して貰う? 紗良姉さんにしがみ付いて貰って、空中輸送する感じがいいかな?

 さすがにこのコースで、あの高さから落ちたら洒落にならないよ」

「叔父さんに運んで貰っても良いよね、マントで飛べるんだし。姫香お姉ちゃんはまだ飛べないの、その白いマントで?」


 無茶を言うなと言う姫香の視線と、役目を貰って張り切り始めるルルンバちゃんと言う構図に。紗良は何の反論もせず、黙って決定に従う構えの様子。

 足手まといになりたくないと言う本音と、これ以上のアスレ挑戦は体力的に無理そうな実情に。そんな訳で、ルルンバちゃんにすがるような視線を送ってみたり。


 それ以上に献身的な妹達が、布とロープで即席のブランコのようなモノを作って。これに腰掛けてルルンバちゃんに運んで貰うといいよと、そんな提案をしてくれた。

 問題はルルンバちゃんの馬力なのだが、その点は恐らくは問題は無い筈。普通のドローンならまず無理だが、スキルを得たAIロボのルルンバちゃんは桁外れの馬力を有しており。


 人の重さなど物ともしないし、現にさっきは香多奈を楽々崖上まで送り届けてくれた。とは言え、やっぱり飛行中に敵に襲われると怖過ぎるので。

 まずは先行部隊で、モンスターを駆逐する作戦に。


 それを担うのは、さっきと同じくハスキー達&茶々丸で、指揮は姫香がとる形に決定。その後は後衛陣が、色々とサポートしながら行ける所までは進む感じで。

 そして子供達が感心したこのエリアの全貌だけど、とにかく所々に生えている樹木がとっても目立つ。浮き島の段も確実に5段はあるので、その位は木登りをする破目になりそう。


 それを楽しそうと言い切る末妹は、言うまでも無く普段からそんな遊びに夢中なタイプ。先行している姫香も同じで、お転婆娘なのは誰もが知る事実である。

 そんな先行していた前衛陣は、早くも出て来た敵と遣り合っていた。今回も地上はゴーレムやトランプ兵がメインで、空からは大蛾や大トンボに混じって飛翔するソード型の敵の姿が。


 そんな厄介そうな敵の集団を、張り切って相手取っている前衛陣の面々である。2層目と言う事で、慣れもあってその戦い振りによどみは無い。

 そんな訳で、あっという間に敵の数を減らして行って、安全な進行ルートの確保に務めるハスキー達。茶々丸のお手伝いも、問題無く機能していて良い感じ。


 そして最初の樹木の元へと辿り着いた前衛陣は、そのルートの安全性のチェックを揃って始める。その役目は主に姫香とツグミだが、どうやら伏兵の類いや変な仕掛けは無い模様だ。

 姫香が身をもって、そのルートを踏破して後衛にオッケーのサインを送る。


「おっと、最初の木登りポイントまでの安全は確保されたみたいだな。それじゃあ俺たちも進もうか、頼んだぞルルンバちゃん。

 香多奈も撮影に夢中になって、足を踏み外したりしないようにな」

「は~い、それじゃあ出発しようか、萌っ♪ 木登りは競争だからね、負けないよっ!」


 競争は止めなさいと、苦労の絶えない護人のお説教はともかくとして。紗良をぶら下げたルルンバちゃんも、普通に宙を滑空して調子は悪く無さげである。

 それを護衛しながら、護人も歩を進み始めるのだが。お調子乗りの末妹も目が離せなくて、後衛の護衛もなかなかに大変な道中だったり。


 萌がレイジーやツグミ程にしっかりしていれば、そこまで心配は必要無いのだけれど。まだ子供の仔ドラゴンに、そこまで期待をするのは可哀想ではある。

 それより今回の木登りコース、振り子の仕掛けが無くなってくれたのは良い点ではあるけど。難易度が低くなった訳ではない筈と、油断せずに目を光らせる護人。


 そしてそれは、前衛の姫香やハスキー達も同様で。敵の強さや道に仕掛けられた罠の類いに、細心の注意を払いながら2つ目の浮き島を進行中である。

 落とし穴もそうだが、ツグミもうっかりすると見逃してしまう向こうの罠のレベルは大したモノで。そして今回の新たな仕掛けは、2つ目の樹木で見事に作動してしまった。

 昆虫の待ち伏せトラップに、ビックリして慌てふためく前衛陣。


「わわっ、甲虫タイプと合わせて、景色と同化して待ち伏せしてた奴までいるっ! みんな気をつけて、意外と数も多いかもっ!?」

「お姉ちゃん、油断しないで頑張って! 上から大蜘蛛も来てるよっ、姫香お姉ちゃんがタゲられてるっからっ!」


 香多奈のそんな叫びを耳にしながら、擬態していた大カマキリの横薙ぎの一撃を華麗に避ける姫香である。そして樹木の葉の茂みに隠れていた大蜘蛛は、意外に大きかったのが判明。

 そいつの蜘蛛糸吐き攻撃は、ツグミがブロックしてくれた。そしてレイジーの『魔炎』と、コロ助の『牙突』スキルでの反撃が一斉に見舞われて。


 その頃には姫香の反撃態勢も整って、何とか雑魚の甲虫タイプの数も減って行ってくれていた。大カマキリと遣り合うその隣では、大蜘蛛がこんがりとレイジーによって丸焼きに。

 そして鍬の一撃で、意外と粘った大カマキリも没。


 全員の無事を確認して、それを後衛陣に手を振って知らせた姫香は。再び頂上のゴール地点を目指して、元気に垂直のルートを進んで行く。

 つまりは木登りから、もう一度似たような戦闘をこなして。最終地点は浮き島が狭くて大変だったけど、何とか全員が怪我も無く登頂に成功した。


 その知らせを聞いて、ようやく紗良もルルンバちゃんに運ばれて、空のルートを進んで行く。護衛役のミケも、楽な移動に何の文句も無さげである。

 護人と香多奈は、前衛が安全を確保したルートをそのまま踏襲してクリアに成功。数分後には、前衛陣と合流して2層目も無事に攻略は終了した。


 そしてゴール地点の浮き島にあったのは、ワープ魔方陣と小さな宝箱が1つずつ。宝箱の中からは、定番の薬品類や木の実や魔結晶(中)が7個ほど。

 それから蟲を模ったペンダントとか、金貨やインゴットが少々。定番のセットだが、無いよりはマシだとそれらを魔法の鞄へと詰め込む子供達であった。


 つまりは、紗良も無事に合流出来て一安心の次第である。ルルンバちゃんの飛行形態も、人が乗ったくらいで安定性が失われる事も無かった模様。

 本当に底の知れない、ルルンバちゃんのパワーである。



 そしてMP回復を含めた休憩後、満を持して最終の3層目へと突入を果たす来栖家チーム。まずはコースの下見だが、さっきの層に近い感じに見受けられる。

 つまりは縦へと登って行く感じのコースで、樹木の生えた木登りエリアって感じ。難易度までは分からないけど、敵の強さが上がっていると大変かも。


 相変わらずのアスレチックエリアに、思わず盛大なため息をつく紗良は仕方が無いと思う。逆に姫香は、さっきと同じ攻略法で良いよねと護人に確認を行った後に。

 ハスキー達を従えて、さっさと丸太の橋を渡って敵を倒しに先行する素振り。茶々丸も遅れじとそれに追従して、来栖家はあっという間にいつもの2チームへと別れて行く。


 そして程無く、前衛チームは出て来たトランプ兵士やゴーレムたちと斬り結んでの戦闘開始。すっかり見慣れた敵なので、姫香たちに躊躇ためらいは無い。

 ただし、最初の樹木に近付くにつれて、木の幹を回転するソード型の敵は少々厄介かも。勢いが強過ぎて、これを仕留めるのにちょっと時間が掛かってしまった。

 さすが最終層、一筋縄では行かない感じ。


「金属系のモンスターは厄介だなぁ、しかも飛び回って斬りつけて来るし……さて、最初の木登りだけど待ち伏せに気をつけて行こうっ!

 そこにでっかい芋虫がいるね、刺されたら毒を喰らうかも?」

「それは毛虫でしょ、姫香お姉ちゃん……コロ助、やっちゃえっ!」


 指名されたコロ助は、刺されるのも嫌なので『牙突』を飛ばしての木の幹に居座る敵に対処するも。何故か樹上から、棘付きの丸太が降って来て驚いての回避行動。

 これには姫香もビックリ、ちなみに避け切れなかった芋虫は一緒に地面に落ちて昇天してしまった。凶悪な仕掛けだが、自爆とはどう考えれば良いモノか。


 念の為にと『歩脚術』で先行してくれたレイジーだが、大カミキリムシが数匹寄って来ただけ。それらを茶々丸と一緒に倒し終え、取り敢えずは最初の木登りは成功って事に。

 そして次の浮き島では、ガーゴイル数匹のお出迎えが。間を置かない戦闘はなかなかハードだが、ガーゴイル達まで棘付き丸太を落として来る嫌がらせ行為に。


 酷い仕掛けのエリアだが、運動神経の優れた前衛陣はそれらを華麗に避けて行き。逆に宙を飛ぶガーゴイル達の不意を突いて、次々に撃墜して行く始末。

 そして2本目の樹木の木登りも、とり付いていた蟲型のモンスターを始末しつつのクリアとなって。最終層だけあって、慣れも手伝ってのスピード進行振りはさすがである。

 そしてそろそろ、登頂部のゴール地点が見えて来て。


 そこに待ち受ける、回転する刃を纏った不気味な魔法生物も同時に視界に入って来た。それは巨大なガーゴイルの様で、ライオンの頭に獣の身体と蝙蝠こうもりの翼を有しており。

 しかもその身体を中心に、ガードするように刃物が高速で回転していると言う。中ボスに相応しく強そうだが、さて誰が対戦するべきか。


 白木のハンマーを咥えたコロ助が、試しに行って良いかと姫香にお伺いを立てる。それに対して、意外にもあっさりオッケーのサインが帰って来て、思わず歓喜するコロ助である。

 もっとも、姫香とツグミは蟲型モンスターの討伐に忙しくって、それ所では無いのだが。お手伝いのレイジーと茶々丸も同じく、このエリアの雑魚も軽く50匹を超える軍勢で。


 そこでコロ助は、まだ末妹の『応援』が残っている間に特攻を掛けるべく。巨大化した体躯のまま、《韋駄天》を使用してのまさかの急襲に成功する。

 敵が急に目の前に出現して、中ボスの獅子顔ガーゴイルはさぞかし慌てたであろう。それでも回転する刃の束は、オート防御に優れた性能なのも事実で。

 ところがコロ助、そんな事には構わずハンマーでのぶん殴り攻撃。


 久々に回って来た見せ場に、有頂天のコロ助らしい豪快なその一打。そしてその武器は、木製とも思えない強度と攻撃力を誇っており。

 瞬く間に硬い表皮も回転する刃も、もろとも破壊して行くその剛腕振りと来たら。ハスキー軍団の中でも目立たない存在だが、その地力は着実に育っている模様。


 慌てた敵の腕の横薙ぎも、追加での刃召喚魔法も何のその。気付けばコロ助は、姫香たちが到着する前に中ボスをボロボロに破壊し終わっていた。

 それからどうやって感じのドヤ顔、まだまだヤンチャで褒められたい盛りのコロ助である。それに気付いた姫香が、良くやったねと体中をわしゃわしゃしてあげて。


 そして最終フロアの登頂部のチェック、そこには毎度のように帰還用の魔方陣と宝箱のセットが。それから敵の姿が完全に無い事を確認して、姫香は後衛にオッケーの合図を送る。

 そしてルルンバちゃんに運ばれて来る紗良と、それを見守って自力で歩いて来る護人と香多奈。萌も護衛役をこなしながら、末妹に付き従っている。


 香多奈はせっかくの中ボス戦を、遠くからでしか確認出来なかった事がとても悔しそう。撮影役なのにと文句を言ってるが、そこはまぁ仕方の無い事か。

 撮影よりも安全の方が大事だし、末妹の我が儘を全て叶えるのはどうやっても無理なのだし。どうしてもと言うのなら、撮影用の小型カメラを買う位だろうか。

 それをルルンバちゃんに常時装着で、カバーし合って貰えれば。





 ――とにかくこれで、何とか3つ目の扉も無事クリア。







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