第480話 1つ目の扉を踏破して2つ目のアスレコースに挑む件



 宝箱の中身は、鑑定の書に毎度の薬品類に魔石(中)が5個。魔玉(風)が8個に木の実が7個、ミスリルインゴットが5本に金のインゴットが2本とまずまず。

 それからグリフォンの羽毛とかくちばしとか、素材類も中ボス関係のがたくさん入っていた。最後に翼をかたどった大振りの鍵が1本、これで無事目的は果たせた感じ。


 中ボスからも魔石(中)が1個と、スキル書が1枚ドロップしてまずまずの回収だった。そんな収穫物に満足しながら、一行はワープ魔方陣を潜ってゼロ層フロアへと帰って行く。

 そこにはルルンバちゃんの本体パーツが待っていてくれて、何となく感心する香多奈である。それから色々と指示を与えて、本体とドローンに別々の動きをさせてみたり。


 それをたどたどしくも従順にこなすAIロボ、どうやら分離した状態でもある程度の遠隔操作は可能らしい。元は魔導ゴーレムだったらしい本体パーツ、相当に優秀である。

 コレもっと欲しいかもと、妙なおねだりを始める末妹の相手は姫香に任せて。護人は次の扉を選定して、休憩が終わったらお昼前にもう1つこなそうかと子供達に告げる。

 それに関しては、全く反対の無い姉妹である。


 まぁ、紗良の表情は相変わらず浮かない感じではあるモノの。今日中に5つの扉となると、そうのんびりしていられないのも当然ではある。

 それじゃあそろそろ始めようかとの号令に、は~いと元気に応じる香多奈。ハスキー達に続いて、最初にクリアした隣の扉へと飛び込んで行く。


 それを追いかける形で、次々にエリア進出を果たす来栖家チームの面々。そして次なるアスレコースを目の当たりにして、しばし感嘆の顔付きで固まってしまった。

 今回も壮大なコースが用意されていて、造りに関しては最初のコースに少し似ている。ただし障害物の数は倍増しており、木製の壁やらシーソー型の仕掛けやら盛りだくさん。


 ついでに落下の仕掛けと言うか、コースアウトは渦巻きに呑まれて溺れ死ぬ仕様は変わらず。さすが試練のダンジョンと言うべきか、そのプレッシャーは相当なレベルである。

 コースに関しては、一番上の浮き島がゴールに変わりはない様子。直線距離だと10分も掛からない距離だが、今回も恐らく邪魔をする敵は多数いる筈。

 そうでないと、試練の意味も半減してしまう。


「あれっ、でも……今回のエリア、進むコースが簡単過ぎる気がするんだけど? 丸太の渡り橋も2本仕様だし、他の仕掛けも簡単に渡れちゃいそう。

 その分、敵が強くなってるとかなのかな?」

「姫香お姉ちゃんの目は節穴だねっ、すぐ横にある丸い玉が見えないのっ!? 私の予想だと、これを転がしてゴールまで進むんじゃないかな?

 多分だけど、ゴール地点にゴルフみたいな大きな穴がある筈だよっ!」

「えっ、そうなのか……この玉、結構な重さがありそうなんだが。コースに沿って押して行くとなると、かなりの重労働だな。

 仕方無い、必要になるんなら俺が転がして行こうか」


 家族内でそんな役割分担が決まって、さて後はゴールに向かって進むだけ。紗良はコースの難易度を改めて見渡して、明らかにホッとした表情を浮かべている。

 そして香多奈だが、大人でも抱え上げれない玉の横に刺さっている2本の旗をじっと眺めて。これもひょっとして、何かに使うのかなぁとの推測に及んでいた。


 そっちは放っておいて、私たちは敵の討伐での露払いに励むよとの姫香の号令に。ハスキー達と茶々丸は、元気に先行して進んで行くのだった。

 護人は問題の丸い玉を、転がす作業に忙しく励み始める。それは大人の背丈よりは低いけれど、押してみると重さは結構なモノだと判明した。


 これを押して、丸太の橋を渡るのは結構な重労働かも。幸い丸太は2本並んでいるので、下手をしなければ下のプールに落っこちる事は無さそう。

 それでも重量は結構あるので、力加減を含めて慎重に扱うべきだ。こんな玉転がしゲームだが、やり直しが利かないとなると相当なプレッシャーが。


 姫香とハスキー達は、敵の討伐へと先行して進んでいる。それを追いかけようと、護人も玉を転がして最初の難所である丸太へと近付き始める。

 それを眺めていた紗良だが、慌てた様子で香多奈を呼び止める素振り。


 どうしたのかなと護人が振り返ると、何やら入り口の門の前でルルンバちゃんを掴まえて企んでいる様子の末妹。勝手に離れたら危ないだろうと、護人が注意する前にヌッと門から出現するルルンバちゃん(下部パーツ)である。

 どうやら今回の緩いコースは、魔導ゴーレムでも通行が可能だと判断した模様。確かにルルンバちゃんのレーザー砲があると無いとでは、チームの強さにも関わって来る。


 そして呑気に、後衛陣の見ている前で合体して完全体を披露するルルンバちゃんであった。香多奈はそれを見て拍手で祝って、さぁ行くよと元気に出発の合図。

 呆れた護人だが、敢えて何も言わず自分の仕事に戻る事に。



 そして前衛だが、こちらも与えられた仕事を従順にこなしていた。今回も飛行タイプの敵がメインだけど、浮き島部分にはゴーレムやモグラ獣人も散見している。

 飛行タイプの敵は、相変わらずの大蛾にガーゴイル、それから鳥型のモンスターも何匹か。襲って来るスピードに差があるので、少々厄介ではある。


 後は敵の硬度の差にさえ気をつければ、数減らしは特に苦では無さげ。ゴーレムやガーゴイルは、相変わらずの硬度で気をつけないと武器を弾かれてしまう。

 こんなタイプの敵は、ハンマー持ちのコロ助が大好物である。レイジーやツグミも、敵の羽根を破壊して落下ダメージで器用に倒している模様だ。


 そんな彼女たちの戦闘頭脳は恐るべし、空中の敵もそんな感じでどんどん数が減って行く。そして雑魚だと思っていたモグラ獣人も、意外と厄介だと判明した。

 つまりはコイツ、落とし穴を掘って来るのだ。


「わっ、ひゃあっ……!」


 そんな慌てた叫び声は、姫香の戦闘中では結構珍しいかも。ツグミも驚いてフォローしようとするのだが、何しろ主人は半分土に埋まってしまっている。

 下手をしたら、浮き島を貫通して下の渦潮にドッポンなんて事もあり得るかも。とか思っていたら、別の場所でコロ助も土の中へと吸い込まれてしまった。


 慌ててコロ助の名を呼ぶ姫香は、自分も何とか落とし穴から脱出を試みる。幸いにも、この機会を狙って襲い掛かるモグラ獣人はツグミが全て返り討ちに。

 そしてコロ助も、何とか無事に地上に復帰してくれた様子で何より。四足歩行の犬を落とすとは、モグラ獣人の落とし穴は恐るべし。

 まぁ、コロ助がどん臭いだけかも知れないが。


 そんなコロ助にドンマイと声を掛けつつ、腹立ち紛れにモグラ獣人に八つ当たり。隣を見ると、コロ助もモグラ獣人をハンマーで執拗に責め立てていた。

 どうやら考える事は同じらしい、それでも空中と同じく地上の敵も随分数を減らす事に成功。ついでにゴーレムも殴って壊して、これで敵の半分は殲滅完了。


 これ以上進むと、後衛陣と距離が離れ過ぎてチーム的に不味い。姫香はハスキー達を呼び寄せて、休憩しつつ後衛を待つよと声を掛ける。

 そしておわんを取り出して、エーテルを注いで犬達に振る舞ってあげる。ついでに茶々丸のも用意してあげて、後衛陣の進捗しんちょく具合を遠目にチェック。


 護人の押す巨大な玉は、こちらに随分と近付いて来ていた。その前を香多奈と萌が歩いており、後ろから紗良とルルンバちゃんが付いて来ている。

 香多奈は何故か旗を2本肩にかついでおり、ルルンバちゃんは本体と合体し直していた。どうしてそうなったのかは不明だが、まぁ戦力的には上々だろう。

 香多奈の旗については、戦利品か何かのつもりだろうか。


「叔父さん、頑張れっ……疲れたら、ルルンバちゃんが交代してくれるよっ! ってか、次の層も続いてこんな仕掛けだったら大変だよね。

 そしたらルルンバちゃんにやって貰ったらいいよ、叔父さんっ!」

「そうだな、これは間違いなく明日は筋肉痛コースだな……意外と全身の筋肉を使うし、ついでに下に落とさないように神経も使うし」

「私も明日は、筋肉痛で起きるの辛いでしょうね……レベルアップの恩恵も、さすがに疲労軽減までには及びませんもんね」


 そんな事を話し合いながら、ようやく中央付近の浮き島へと到着した一行である。そして姫香から、その辺にモグラ獣人の掘った落とし穴があるから気をつけてねと忠告を貰って。

 再び休む間もなく、巨大な玉を押し始める護人であった。いや、実際はさすがに5分ほど休憩はしたのだが。あと半分だと自分を鼓舞して、上り坂の存在に顔をしかめる家長である。


 ここからはコースはより難易度が上がって、坂まで出て来て大変そう。ただし前衛の仕事は、もうほぼ終わっており追加の敵はほんの少しだった。

 そんな訳で何とか中央の浮き島まで、無事に巨大な玉を運び終えた護人であった。汗だくなのは仕方が無い、紗良にタオルを貰って一息つきながら顔をぬぐう。


 それから中央の穴を覗き込んで、他に何も無い事を確認する。つまりはこのエリア、次の層へのワープ魔方陣が存在しないのだ。

 姫香は、その穴に玉を落とせば湧くんじゃないかなと推理を口にしている。果たしてそれが正解で、これで見事次のエリアへの道が開いてくれた。

 素直に喜ぶ子供たち、香多奈に限っては手に持つ旗を振り回している。


「アンタ、その旗をいつまで持ってるつもりなの? そんなの青空市でも売れないでしょ、そこに置いて行きなさいよ」

「えっ、何かの仕掛けかと思って、せっかくここまで持って来たのに! 何か、どっかに怪しいポイントは見えないかな、コロ助。

 だって、これ見よがしにスタート地点の玉の横に立ててあったんだよ!?」

「そう言えばそうだったよね……あれっ、ここの窪みがそうじゃ無いかなぁ?」


 コロ助や萌が反応する前に、その仕掛けを見付けたのは何と紗良だった。驚く子供達の覗き込む先には、確かにこぶし大のくぼみが存在する。

 そこに香多奈が旗を差し込むと、ポンッとアイテム袋へと変わって行った。すかさず香多奈が中を改めると、魔結晶(小)が10個に魔玉(風)が12個入っていた。


 思わぬご褒美に、おおっと喜びの歓声が拡がる中。もう1個の窪みを探してと、ハスキー達に命令が下される。護人は地面に腰掛けて、ひたすら体力の回復中。

 そして5分後には、何とか2つ目の袋を回収して次のフロアへと移動を果たす。ちなみに2つ目の袋には、鑑定の書が10枚に魔石(小)が10個入っていた。



 そして再びコースの端に排出された一行の前には、巨大な玉とアスレチックコースの仕掛けが。ただし今度は、2層だけあって巨大な玉は2つへと増えていた。

 次はルルンバちゃんに頼ろうと思っていた護人は、思わず膝から崩れ落ちそうに。


「えっと、護人さん……ガンバ?」

「それじゃもう1個の玉は、ルルンバちゃんが運ぶ役目ねっ……途中で落としたら、絶対に駄目だからねっ!

 頑張ってゴール地点まで運ぶんだよっ!」


 その言葉に頑張るよと両手を振り上げる、何とも従順なAIロボである。そして香多奈は、今度は旗が3本あるよと喜んでそれを引き抜いている。

 その役目と出来れば変わって欲しいと、内心でくじけそうな護人は遥かゴール地点を仰ぎ見て。まさか3層目も同じ仕掛けなのかなと、ちょっと涙目になっちゃったり。


 それに気付かないハスキー軍団と茶々丸は、自分達の任務の先行しての敵の駆逐へと向かって行った。その姿は元気そのもので、こちらの苦労など知るよしも無し。

 それは仕方が無い、ハスキーにも仔ヤギにもこの役目は到底無理なのだから。姫香だけはそんな護人の心情に気付いていて、代わろうかと声を掛けてくれた。


 そこは男の意地と言うか、家長として子供達に弱い所など見せられない。こっちは任せておけと強がりを口にして、早々に玉転がしを楽しんでいるルルンバちゃんの後に続く護人である。

 少し先からは、威勢良く始まったハスキー達の戦闘音が響いて来た。それに気付いた姫香が、手伝って来るねとダッシュでそちらへと向かって行く。


 そして残された後衛陣は、さっきと同じペースで玉を転がして進む事に。ルルンバちゃんは意外と器用で、その足取りは護人よりも安定している気も。

 その疲れ知らずの機体に、護人はうらやまし気な視線など飛ばしてみたり。





 ――かくして2個の玉は、ゴロゴロとコースを転がって行くのだった。







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