第479話 ダンジョンの仕様に文句を言いつつ階層を下る件



 鬼の造るダンジョンって、何でこんなアスレ仕様なのとの文句は口に出しても仕方が無いコト。思えば最初の“樹上ダンジョン”も、それは見事なアスレチックコースだった。

 それでも今回は、帰還用の魔方陣がすぐ後ろに開いてくれている。つまりは、いつリタイアしても簡単に入り口に戻って行ける親切設計となっている。


 その点は有り難い、そして現在ゼロ層フロアにはルルンバちゃんの魔道ゴーレムボディが。あれは放置していても、ある程度勝手に動いてくれるのだ。

 万が一の侵入者が来ても、持ち去られる事はまず無いだろう。まぁ、ここは来栖家の敷地内なので、その時点で完全に不法侵入にはなってしまう。

 とは言えこのダンジョン、異界にも通じているし用心はおこたれない。


「でも面白いよね、分離しても別々に動けるなんて……ルルンバちゃんも、私たちの知らない内に進化しているのかも?

 その内、レイジーみたいにいっぱい機械の手下を引き連れちゃうのかな?」

「あのスキルは凄く強いけど、レイジーも操るの大変そうだからねぇ……ルルンバちゃんがそんな事になったら、戦闘とか凄く派手になっちゃうかも?」

「いや、それはともかく……分離機能をさっさと思い出すべきだったな。半端にあのボディでも進めそうなルートがあったから、つい無理してしまったけど。

 この先も続く事を思うと、落下のリスクは避けるべきだな」


 あの重さじゃ、落ちたら絶対浮かんでこないもんねと呑気な物言いの姫香。実際にそうなったら本気でヤバいし、そんな未来は考えたくもない。その点は、香多奈も同意してルルンバちゃんに声を掛けている。

 ドローン形態のAIロボは、重荷を下ろした事にいかにもホッとしている様子。気軽に宙返りなんか披露して、良い調子なのをアピール中。


 そして浮き島の中心のワープ魔方陣を潜って、ようやく2層へと到着した家族チーム。そこには、1層とほぼ変わらぬ仕様のアスレチックコースが拡がっていた。

 それを確認した紗良の顔色は、やっぱり優れぬままと言う。ゴールまでの距離はさっきと同じ程度で、ハスキー達はさっさと歩き始めている。


 さっきのエリアでは、何だかんだで50分近く掛かってしまった。今回は半分の時間でクリアしようと、姫香などは意気も高く掛け声を上げている。

 それに応じる香多奈も、元気に声を出して追従する構え。ルルンバちゃんなど、さっさと先行して敵と空中戦を繰り広げ始めていたり。

 つまりは今回も、飛行タイプの敵がわんさか出現していた。


 大蛾などは、レイジーの『魔炎』やコロ助の『牙突』でポロポロ堕ちてくれて討伐は楽。逆にガーゴイルは硬くて厄介で、このエリアで一番の強敵かも。

 そこに姫香も参戦して、ツグミと一緒に敵の迎撃に参加する。下が丸太だったりと、足場の悪い中で空を飛ぶ敵と戦うのはかなり大変だ。


 ただし、『圧縮』スキルと《闇操》スキルの使い手のこのペア、かなり器用な戦い方が出来上がっており。そこに《豪風》とかが加わると、スピードのある大鷹も迂闊うかつに近寄れない。

 そんな感じで、先行チームは押せ押せムードで敵を駆逐して行く。


 後衛チームはそれとは逆で、とにかく安全にアスレチックコースを渡り切るのに全力である。ミケを抱っこする香多奈が先頭で、その後を紗良とフォロー役の萌が付いて歩く布陣。

 しんがりを護人が務めるが、その腕には弓矢がしっかりと握られており。こちらをタゲる敵がいれば、いつでも迎撃出来る態勢は充分に整っている。


 それでも心情的には、ルルンバちゃんが身軽になってくれて一安心。紗良も何だかんだで、運動音痴なだけで基本のスペックはレベルアップで上昇している。

 戦闘度胸も最近はついて来たし、訓練場でも毎日頑張っているのだ。それでも苦手意識と言うのは、やっぱりそう簡単にぬぐえる物では無い。


 とは言え、集中すればそこまで難解なコースでは無い丸太渡りである。たまにグラっと揺れたりとか、意地悪なポイントも存在したりもするけれど。

 それから下方の渦巻く溜め池も、落ちた時の恐怖を不必要にあおっている気もする。もっとも前回みたいに、竹槍を敷き詰めた落とし穴とかよりは随分マシ。

 あれは正直、ルルンバちゃん以外は落ちたら助からない。


「いいねっ、紗良お姉ちゃん……段々とリズムに乗れて来てるよっ! その調子で行こう、もうすぐ半分の地点を超えるからねっ!

 さっきよりずっと速いよ……ほらっ、ミケさんも応援してあげて?」

「ミャ~ッ」


 律儀に応援してくれたミケに応えるために、気合を入れ直して歩みを進める紗良である。実際にミケの発した言葉は、末妹に対するアンタこそちゃんと前向いて歩けとの注意だったり。

 その翻訳内容は、来栖家内では香多奈だけが知る事実。末妹は完全にしらばっくれていたけど、確かに今回はミケを抱えて歩いているのは香多奈なのだ。

 それなのに、後ろ歩きとかされたら気が気では無いかも。


 そんな騒ぎの最中でも、敵の殲滅は順調で出て来る敵はハスキー達前衛陣によって全て駆逐されて行く。今回はルルンバちゃんも空中戦で参加していて、しかもかなりの撃墜振り。

 姫香も同じく、練習中の《豪風》の遠隔攻撃を敵に対して試している。愛用のくわを手首でクルッと回しての、風魔法の撃ち出しを何度か挑戦中である。


 前の層もだったけど、さすが“鬼の試練ダンジョン”である。1層辺りに出て来る敵の数は、相変わらず半端ない。ここも飛行系の敵を中心に、50匹前後いただろうか。

 しかも見晴らしがやたらと良いので、一気に押し寄せて来てさばくのが大変である。それでも何とか敵の全滅に成功して、姫香は大声でそれを護人に報告する。


 その頃には、後衛の紗良は半分地点を超えていて、もう少しで姫香たちに合流出来そうな位置にいた。護人は前衛をねぎらってから、先に進んでいていいよと声を掛ける。

 それを素直に受けた前衛陣は、張り切って最後の網アスレへと挑み始める。


 それに続いて、何とか網のコースを登り切る事に成功した紗良である。ハスキー達はスキルを使ったにしろ、軽々と踏破したのが納得いかない彼女だったけど。

 自分の力のみで登り切った、その浮き島にはある程度の広いスペースが。その中央には移動用のワープ魔方陣が存在し、家族が待ってくれ……ていると思ったら。


 高場から眺めた際に、ひっそりと設置されていた宝箱を遠くに発見したそうで。それを回収しに、姫香とツグミのペアは出張中みたい。

 しばらく待っていると、肩に宝箱を担いだ状態で姫香が2度目の頂上踏破に成功した。そして楽しみに待っていた香多奈と、仲良く中身チェックを始める。


 中からは薬品類が2種類に何かの苗が2本、それから種で出来た泥団子が数個。ついでに頑丈なロープが数束に、何故かバランスボールが幾つか。

 最後に、ミスリル製の肘当てと膝当てが1つずつ。


 アスレコースにはピッタリだが、ミスリル製とは性能が良過ぎる気も。それらを回収しながら、テンション上がりまくりの姫香と香多奈である。

 一方の紗良は疲労の回復に務めており、自分が辿って来たコースを見返してひたすら感心していた。過去の自分の能力だったら、恐らくは途中でギブアップしていただろう。


「ふうっ、私だってやれば出来るんだ……」

「ご苦労様、紗良……次は恐らくボスの間だから、気合い入れ直して行こうか。別に今日中に全部の扉をクリアする必要も無いし、ペースは紗良に合わせるからね。

 無理せず、駄目だと思ったらそう言ってくれて構わないよ」

「そうだねっ、紗良お姉ちゃんのペースで良いからねっ!」


 そう言う香多奈だが、本人は全く疲れていないみたい。宝箱の回収が終わって、さあ次の層に行くぞとハスキー達に号令を掛けている。

 そんな少女をうらやみながらも、紗良も立ち上がって次の層の探索準備を始める。ハスキー達も、次々と張り切ってワープ魔方陣へと飛び込んで行く。

 さて、そんな訳で最初の中ボス戦の開始だ。




 3層の造りも言うに及ばず、そして浮き島の中央には既にうっすらと中ボスの姿が。アレはいつ反応するのかなぁと、呑気な姫香の呟きである。

 フォルム的にはグリフォンとか、強い敵に見えるので注意はとっても必要かも。そんな紗良の助言に、了解と元気に返事をして姫香が先頭切って進み始める。


 それに続くハスキー達も、もちろんヤル気は充分で周囲に気を配って敵の接近を察知している。しばらくすると、案の定先頭集団に襲い掛かって来るモンスター軍団。

 ただし、中央の浮き島にいる中ボスはまだ微動だにしていなくて大助かり。飛行して接近して来たのは、さっきと同じく大蛾やガーゴイルがメインだった。


 それに今回は、大トンボやインプも少量混じっていて魔法攻撃がちょっと大変だ。姫香が指示を出しながら、最初に厄介な敵をやっつけてと叫んでいる。

 それに反応したルルンバちゃんが、インプに突っ込んでドッグファイトを始める。ツグミも得意の隠密からの、敵の死角に入っての撃墜を繰り返している。

 この3層の戦いも、来栖家チームの優位は揺ぎ無い感じ。


 茶々丸も物凄い跳躍から、敵を地面に撃ち落として仕留める作業。それにコロ助も加わって、硬いガーゴイルは彼らが破壊する役目になっている。

 柔らかい大蛾の類いは、レイジーが全て焼き払って宙はスッキリして来た。そんな事をやっていると、誰かのアクションが中ボスを刺激した模様。


 恐らくは茶々丸の跳躍だろうが、本人はまるでたじろいだ様子は無し。飛翔して来るグリフォンを、掛かってこいや的な視線で睨み付けている。

 ところがこの中ボス、ちょっと茶々丸の相手になるようなタマでは無かったよう。体格もそうだが、鷲とライオンの合成獣って時点で仔ヤギの出番は無い感じ。


 慌てて姫香が割って入ろうとするが、最初の衝突は既に起こった後だった。鷲のくちばしと仔ヤギの角(スキル込み)は、敢え無く敵に軍配が上がり。

 危うく吹き飛ばされて、小島の下の水流に流されそうになる茶々丸である。コロ助が素早く《韋駄天》で救出して、何とか事なきを得たけどパワーの差は歴然だ。


 他のメンバーも、中ボスが動き出したのを知って殲滅行動へと移り始める。まずは護人の『射撃』での弓矢が、ライオンの胴体に突き刺さった。

 たまらず絶叫する、空の王者の中ボスグリフォン。


「萌っ、そっち行った……ルルンバちゃんとこっちに追い込んで!」

「紗良姉さんっ、私たちは危ないから伏せておこうっ……萌に姫香お姉ちゃん、頑張って!」


 『応援』を貰った萌は、姫香の言いつけ通りに空の王者を追い込もうと槍での黒雷召喚など。あんな巨体との接近戦は、茶々丸の二の舞になりそうでかなり怖い。

 ルルンバちゃんも、インプをようやく全て倒し終わってこちらへと参戦。魔銃をぶっ放しながらも、グリフォンの前へと躍り出て姫香の方へと追い込む作業。


 ただまぁ、体格が全く違うのでそれもかなり難しい。どうしようかなって思っていたら、背後から急な威圧感が立ち上って来た。慌てて確認したら、薔薇のマントをたなびかせた護人がヘルプに飛んで来てくれた模様である。

 そのままの勢いで、中ボスの鼻面に一撃をかまして撃墜に成功。落ちて行く先は、姫香の注文通りに彼女の待ち構えていた場所と言う。


 そんな姫香は、瞳を爛々と輝かせてこれまた痛烈な一撃を墜落中のグリフォンへと見舞う。この強力ペアに掛かれば、中ボスと言えど長くはもたなかった模様。

 この一連の流れで、あっという間に敵の息の根は止まってしまった。これでこのフロアの敵は、全て掃討し終わったみたいで一安心。


 後はみんなで、一番高い場所にある浮き島まで登り切ればオッケーだ。そこには宝箱も設置されていて、退出用の魔方陣もしっかり用意されているのが窺える。

 香多奈がそれを見て、元気に全力前進と掛け声を掛けた。





 ――用意されているゴールテープを切るまで、あと少し前進あるのみ。






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