第471話 来栖邸で派手に遠征帰還祝いを行う件



 月末に向けての来栖邸の周辺の雰囲気は、あるじとペット勢が戻って来た事でとっても賑やかに。お隣さん達もそれに乗せられて、活気づいて来ている。

 そうした中でのお隣さんを招いての夕食会は、さすがにちょっと無理をしてしまった。何しろ気付いたら、無人だった4軒屋が今は全て埋まっているのだ。


 彼ら全員を招くとすると、さすがに広い来栖邸のリビングでも収まり切らない。そんな訳で、いつもの中庭を開放してのバーベキュー方式へと落ち着いた次第。

 そのお招きにあずかったお隣さんの中でも、小鳩や星羅せいらは食事のお手伝いに早めに立ち寄ってくれていた。夕方の特訓を早めに切り上げ、来栖家のキッチンに詰めている。


 そんな事前準備も、美登利やザジが参加を決め込むと途端に賑やかになって行き。紗良から三原のお土産話を聞き出しながら、忙しくお握りを山と作る作業。

 ザジもこの頃は、花嫁修業と称して家事全般をお隣さんから習っているようだ。その分、探索業はチームの休止から遠ざかってはいるみたい。


 ただ、誘われれば星羅と協会チームにもついて行くし、町のパトロールにも参加をしているよう。アクティブな彼女らしく、つまりは家にじっとしているのが嫌いなのだろう。

 まあそれも、地域の良い関わり振りとも評せる。


「最近はウチのリーダー、本格的にセイラを鍛える事に決めたみたいだニャ! 4つ目のチームがなかなか決まらないから、とうとう自分で育てる事に決めたみたいだニャ。

 セイラは見所あるし、ウチのチーム員に招いても良い位だニャ!」

「買いかぶって貰って有り難いけど、確かに“喰らうモノ”の攻略失敗から随分と間が開いちゃってるって話だよね。それって、“アビス”と“浮遊大陸”の騒動の時期の事なんでしょ?

 私からしたら、来栖家チームが探索に失敗するってのがまず信じられないんだけど。動画を観たら、随分と強い敵のオンパレードだったよねぇ。

 まぁ、この町の事だから手伝いたい気持ちはあるけどさ」

「私たちのチームも、生活は安定して来たけどようやく凛香お姉ちゃんだけC級ランクだからねぇ。それでも強くなったよね、毎日の訓練もサボって無いし!

 でもやばり、B級以上のダンジョン探索は無理っ!」


 そんな小鳩の言葉に、ザジが真っ先に肯定の言葉をかけてお姉さん振っている。家族のいない境遇のお隣さん同士、きずなの繋がりはこんな感じでとっても強固。

 毎日の訓練でも、ザジはとっても面倒見が良かったりする。リリアラもそうだが、彼女も同じくこの異世界で居場所を見付けた格好なのだろう。


 そして凛香チームの子供達も、ムッターシャやザジには良くなついている。空き家屋を紹介した立場の来栖家としては、この顛末に大いに安堵していたりして。

 護人もたまにムッターシャと、露天風呂でそんな会話をするのだが。彼もこの事態が進展しない現状に、苛立いらだって自らチームを鍛える事に決め込んだ様子。


 つまりは星羅と協会の土屋と柊木を、何とかA級ランクの腕前まで押し上げて。前回探索に協力してくれた、島根の『ライオン丸』と組ませたらどうかと。

 星羅は今は前衛の動きを勉強しているけど、元は強力な支援能力を持つ後衛職である。なるほど、それならかなり安定したチームが出来上がるかも知れない。

 問題は、例の島根のA級ランクのチームの返答だったり。


 それもまぁ、大丈夫な気が護人の脳内ではそこはかとなく浮上している。何しろ星羅チームは、3人ともが妙齢の女子である。あの女好きの団体が、首を縦に振らない筈が無い。

 ただし、連中のリーダーの勝柴かつしばが、ここに滞在した最終日に紗良に告白して盛大に振られている。それを思い出して、そんな思い出の地に来てくれるかなって心配も少々。


 まぁ、何とかなるだろうと、護人は協会に改めて依頼しておく事に。そんな会話は、実は現在も早めに訪れた土屋と柊木との間で交わされていた。

 持参したビールを柊木に持たされた護人は、その件についてどう思うかと両者に相談される始末。“喰らうモノ”ダンジョンは、この日馬桜町でもかなりの比重を持つ案件ではある。


 彼女たちが赴任した任務は、“聖女”と“異世界チーム”の御用達ごようたしに他ならない。とは言え、今からA級ランクを目指せと言われて、燃え上がる情熱が無いかと言われれば嘘になる。

 驚いた事に、その情熱は土屋女史の方が柊木よりずっと強いそうな。人見知りの彼女は、後輩の背に隠れて何も言葉を発そうとはしないけれど。

 ムッターシャの強化案には、つまり3人とも前向きだとの事。


「あっ、何か摘まみも持って来れば良かったっスねぇ。いやこう見えても、先輩も意外と飲める口なんスよ……あっ、それはそうとチーム全員A級ランク昇格おめでとうございます!

 1年ちょっとで3人も昇格なんて、協会勤務していても覚えの無い偉業ですよっ。しかも、今回の遠征で得た報酬を、全て三原の復興に寄付したって話じゃ無いですか!

 これぞ英雄ですね、協会の評価もうなぎ上りっスよ」

「いや、寄付したのは魔石の売り上げだけだから……正確には、回収品でウチのチームにも儲けは出るし、言う程の英雄的行為でも無いと思うよ。

 協会の評価が上がっても、厄介な頼み事が増えるだけだし。出来れば目立たず、地元の依頼だけこなして地味に生活をしていたいよ」


 縁側でそんな事を話し合いながら、ビールを飲んでの軽い談話に。気を利かせた和香と穂積が、台所からおつまみを持って来てくれて護人に差し出してくれた。

 年少組との距離も、近頃はグッと近付いて良く懐かれている護人である。田畑の手伝いも積極的に参加してくれて、香多奈も釣られて手伝う率が高くなった気も。


 物凄く良いサイクルに、護人も内心で喜んでいたのだが。考えてみれば、彼ら彼女らも親を亡くした子供ばかりなのだ。大人を頼ってなつくのは、自然の流れなのかも知れない。

 それでも積極的に、家畜の世話や田畑の仕事を覚えてくれるお隣さんのキッズ達。今では来栖家が分けた鶏が、順調に育って卵が定期的に取れるようになっている。


 そうなると、番犬もいたらいいねとお隣さんとも話し合って止まらない未来予想図である。何しろ田舎の鶏は、高確率で狐や何やらの標的になるのだ。

 愛玩あいがんで無く、護衛犬は実用的にも必要な存在だったり。



 そこからは、夕食の準備が出来るまで動画を観ながらのお喋りタイム。ちなみに姫香と香多奈は、外でバーベキューの準備を進めている。

 今回は色々と考えた挙句、若い連中は中庭でバーベキューでお持て成しする事に。つまりは凛香チームの面々や、ゼミ生はこっちの参加で勘弁して貰う流れ。


 土屋チームや教授や異世界チームは、室内でゆっくり飲み会をしようって腹である。そして柊木は、参加メンバーの中ではいける口らしい。

 土屋もうわばみとの事だが、全然口数は多くならないので何とも。そして彼女達が気になったのは、やはり“兎ダンジョン”の12層の顛末らしい。


 紗良の《浄化》で幽霊船が丸々蒸発したのも驚きだが、あんな感じで深層から野良モンスターが生まれるのも衝撃の事実には違いなく。

 協会の能見さんや、もちろん仁志もこの事実には驚いていた。その驚きは紗良の手腕しゅわん込みだったので、こちらとしては何ともコメントし辛かった。

 ちなみに、紗良は今回無事にA級へと昇進が決定。


 全額を三原の復興に寄付したと言うのに、この所業である……これで来栖家は、晴れて3人ともがA級ランクへと昇格して押しも押されぬトップチームに。

 ちなみに、“兎ダンジョン”の魔法アイテムも既にチェック済み。



【力の宝珠】使用効果:使用者はスキル《経験値up》を習得

【魔法のガスマスク】装備効果:毒無効、耐性up・小

【魔ウサギの尻尾】装備効果:跳躍up&幸運up

【魔ウサギの頭巾】装備効果:聴覚up&跳躍up・小

【魔法のマスク】装備効果:毒無効&五感up・中

【魔ウサギの耳】装備効果:聴力up&魔力up・中

【呪いの兎人形】設置効果:悪夢&精神崩壊&呪い・永続

【兎の船首飾り】設置効果:幸運招来&繁栄・永続


その他:『強化の巻物』(耐毒)×1、『強化の巻物』(耐性up)×2、『魔導の書』(魔力up)×1、『錬金レシピ本』(毒薬)×1




 “兎ダンジョン”の12層の、その後の来栖家チームの顛末だが順調に脱出に至った。その前に、しっかり宝箱から鑑定の書(上級)や魔玉(水)や属性石(土&火)、それから強化の巻物を2枚にオーブ珠を2個を回収し。

 他にもウサギの置き物やら妙な兎の人形やら、兎の船首飾りやらも一緒に回収。後は金貨が数袋に、紗良が飛び上がって喜んだ錬金レシピ本が1冊ほど。


 10層の中ボス部屋でも、スキル書やオーブ珠は結構入手したし、何より宝珠《経験値up》は普通に使えそう。誰が取得するか、話し合いは必要だけど。

 ついでに12層のオーブ珠から、茶々丸が《飛天槍角》と言うスキルを覚えた。香多奈も知らない内に『一心同体』と言う名のスキルを取得して、チーム強化も順調だ。


 レベル的にも、いつの間にやらチーム全員のレベルが30台に乗っかっていた。ハスキー達に至っては35に近い数値で、萌や茶々丸も随分成長して25オーバーである。

 今回の三原遠征で、また一つ成長を果たした来栖家チームの面々である。たださすがに、“兎ダンジョン”の12層の海に張られたワープ魔方陣を抜ける際は、一筋縄では行かなかった。

 何しろ海の上を歩いて渡ったのだ、姫香の『圧縮』の道造りも一苦労。


 それを動画で眺める土屋と柊木は、スマホを観ながら凄いですねと感心のコメント。その視聴に、いつの間にやらムッターシャとリリアラも混じって来ており。

 柊木はそれに気付いて、お酒の用意に忙しそう。異世界組も酒には強く、彼らのペースで飲むと護人は必ず先に潰されてしまうので大変だ。


 今回の来栖家の遠征動画は、彼らも全部チェックしたらしい。そうして、自分たちも参加しても良かったねと、そんなコメントを呑気に口にしている。ただまぁ、今回のメインはレイドを組んでの市街戦だったのだ。

 異界のチームを組み込むには、色々と意思疎通の面で不味いだろうと、協会の上の方で配慮があったみたい。何しろ今回、騒動を起こしたのは異界のモンスター達だったのだ。


 元々は異世界チームの立場は、モンスター退治の戦力と言うよりは異界からの使者って感じらしい。その異文化の聞き取り作業は、実は小島博士が1枚噛んでいたりして。

 本来は政治案件で、どこかから調査隊が派遣されてどうのこうのと騒ぎが巻き起こる筈だったのを。協会が何とか専用職員の派遣と、小島博士の聞き取ったデータ提供で収めているって感じみたい。

 小島博士って、実は意外とあなどれない仕事振りである。


 異世界チームも変に騒がれる事も無く、今の生活には満足しているようで護人としても一安心。彼らの使命の“喰らうモノ”の討伐はとどこおっているけど、現状では戦力不足なので仕方が無い。

 その辺の支度は、水面下で少しずつだが整って来ている。来栖家チームの経験積みも同じ事、前回の雪辱に姫香など物凄く燃えている。


 そうこうしている内に、宴会の準備も整って来たよう。中庭の会場では凛香チームやゼミ生やザジが揃って、これ以上ない賑やかさに。

 お酒も入って無いのに、若さって本当に凄い。お相伴しょうばんに与ろうと寄って来たハスキー達も、その騒ぎにちょっと引いている。ただし茶々丸に関しては、一緒にそのノリを楽しんでいるみたい。


 来栖邸内も、大人組が出て来た料理に盛り上がりを見せ始めており。何しろ新鮮なお肉が、“兎ダンジョン”で大量に入手出来たのだ。

 やっぱり大量に回収した、人参やキャベツやカブと一緒にお隣さんに配りはしたモノの。この宴会で使わない手は無いと、そんな料理がどんどん並べられて行く。

 そして給仕の和香は、何故か着物姿と言う。


「あっ、和香ちゃん可愛いっスねぇ……今回の三原遠征のお土産ですか! ウチも香多奈ちゃんからバニー衣装を貰ったけど……今から着替えて来た方がいいっスかね、護人さん?

 先輩は全力で拒否してたんで、酔った状態でも無理だとは思いますけど」

「いや、そこまでしなくても大丈夫……ウチの子供達は、その手の冗談が好きでね。本気にしなくていいよ、趣味で着る分には何も言わないから。

 まぁ、お土産を気に入って貰えて良かったよ」

「ウサちゃんのビスケットが、美味しかった……」


 そう呟く土屋は、相変わらずコミュ障のために長文を発するのは苦手みたい。何にしろ、今後も良好な関係をお隣さん達と築くのは、護人としても大事には違いない。

 来月も、ひょっとしたら遠征を頼まれる身としては、そう言う絆作りはとっても重要だ。岩国遠征の話もそうだが、お隣の町の住民失踪なんて怪しい案件も耳に入って来ているのだ。

 どうやら来栖家を取り巻く環境も、この梅雨つゆ空と同じくスッキリしない模様。





 ――ビールを口にしながら、そんな事を思う護人だった。






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