第470話 1週間振りに愛しの我が家へ戻って来れた件
今年は空梅雨かと思われたが、そうでも無くって取り敢えず農家としては一安心。もっとも、降り過ぎも困るし天候に関してはいつも悩ましいところ。
そして気が付けば、5月ももうすぐ終わりと言う。今年は“春先の異変”の予言から“喰らうモノ”の出現、敷地内のダンジョン攻略などイベント満載だった。
そうこうしている内に1年ももうすぐ半ば、あっという間の出来事にも感じてしまう。そんな中での“アビス”や“浮遊大陸”騒動、そしてつい先日の三原奪還作戦であった。
目まぐるしい日々には違いなく、こうやって邸宅内で雨模様の庭を眺めるとまるで別世界のように感じてしまう。それでも心が落ち着くのは、やはりマイホーム効果だろうか。
そんな悪天候も、午後には何とか持ち直してくれた。予報によると、明日以降は晴れ間が続くそう。遠征の終了から既に3日が過ぎて、そろそろ探索の後片付けに本格的に手を付けるべきか。
協会からも、そろそろ催促の電話が掛かって来ているし。
「ええっと……そんな訳で明日の金曜日に、協会に換金と動画編集のお願いに行こうと思うんだが。その前に家族で、色々と話し合っておきたいかなと。
ちなみにその次の土曜日は、わざわざ『四葉ワークス』の販売車がウチまで買い取りに来てくれるそうだよ。何か買いたい物があったら、今の内に考えておいてくれ」
「は~いっ、あっ……明日の夕食はお隣さんを招いてパーティするんだっけ、紗良お姉ちゃん? 飾りつけの準備もしなくちゃ、色々と忙しくなるかなっ♪」
「パーティって言うか、留守番をしてくれたお礼だけどね? ウサギ肉が大量にあるから、それを使って色々と料理しようと思ってるの。
えっと、それでお話の内容は何でしょう、護人さん?」
真面目な紗良は、そう言って
そして護人の発した言葉だけど、それは今回の遠征の稼ぎについての提案だった。確かにうちのチームは奪回作戦のフォロー役に頑張ったけど、楽をさせて貰ったのも事実である。
こっちはダンジョン間引きがメインで、奪還作戦で死闘を繰り広げた彼らより儲けてしまうのも気が引ける。そんな訳で、魔石の換金代をある程度三原の復興に寄付しようとの提案である。
その家長の提案に、真っ先に賛成したのは男前な性格の姫香だった。紗良も気性が優しいので、問題は無いし現に賛成の素振り。
問題はお金にがめつい末妹なのだが、意外にもすんなりと了承してくれてビックリ。驚きのリアクションを取る姉の姫香だが、本人は澄ました顔色。
とにかくそんな感じで、家族の了承も意外と簡単に取れてしまった。これで幾らか気が楽になった護人は、週末の予定に前向きに臨めそう。
家族での話し合いは、そうして円満に終わるのだった――
そうして金曜日の午後、放課後で学校から解放された香多奈を家族で出迎えて。戦利品を大量に持参しての、協会への換金作業に出掛ける来栖家チームである。
前もって3つのダンジョン分を持って行くと通達してあるので、その点に関しては怒られる事も無い筈。溜まった動画編集依頼は、ちょっと気の毒かもだけど。
来栖家の探索動画だが、かなり毎回好評みたいで子供達も嬉しそう。それは編集を手掛けた能見さんも同じで、その腕前は姫香も信頼を置いてる様子。
動画の撮影に関しては、チームでは香多奈のお仕事となっている。そのデータの扱いやらアップ後のチェックに関しては、全て姫香が
チームとしての動画関連の係は、姫香だとの認識だったり。
「いらっしゃい、みなさん……取り敢えずは遠征お疲れさまでした、本当に無事で何よりです。えっと、作戦の参加報酬は既に向こうで貰っているんでしたよね。
それでしたら、今日は魔石の換金と動画編集の依頼で良かったでしょうか?」
「そうですね、ダンジョン3つ分なので量が少々アレですが。それからもう1件、お願いと言うか手伝って欲しい案件がありまして。
協会を通した方が、恐らく
何でしょうと、小首を傾げた能見さんを
それに紗良と姫香も参加して、いつものみんな参加の動画チェックの始まり。それを余所に、護人は3つ分のダンジョンの魔石の換金を江川に頼む。
それから仁志支部長と、のんびりって訳でも無いけど世間話など。護人としても、その後の三原の情勢や復興話を仕入れておきたい気持ちも大きい。
何しろお隣さんには星羅もいるし、自分達も関わったレイド作戦でもある。幸いにも、その後の協会の三原支部つくりから復興に関しては、まずまず順調だとの事。
動画チェックでは、いきなりの“戦艦ダンジョン”での、物凄い銃弾の飛び交う戦闘が映し出される破目に。それを観ている能見さんどころか、子供達もひえっとか声をあげている。
探索していた本人たちでも、あの空間に関してはやはり奇異に見えるのかも。そして5層で終わりだろうと高を
これは酷いよねと、女性陣は揃っておカンムリなコメントを発している。
「いやしかし、市街戦に回されずに本当に良かったですね……まぁ、こんな言い方も正しくは無いのかも知れませんけど。あの戦いでは参加した探索者に死傷者も出たし、子供を抱えるチームに依頼をするべきでは無かったと今でも思っています。
それでも作戦が何とか終わってくれて、協会としてはホッとしてますよ」
「こっちも全く同じ思いですよ……今回は探索の日程が詰まっていたし、特殊な依頼やダンジョンが多かったですからね。
無事に戻って来れて、こっちもホッとしてますよ」
そんな会話を挟みながら、あれこれと探索情報を交換する2人である。その中には物騒な噂が幾つか混じっていて、日馬桜町の隣町の連続失踪事件はさてどうしたモノか。
毎日って訳では無いのだが、町民が何人か夜中に襲われたとか。或いは自宅に居ながら、失踪したとかそんな事件が続いているみたい。
隣町の自警団チームも、頭を抱えて原因究明に走り回っているそうな。それでも犯人の目星は、今の所は全くついていないとの話。ちなみに事件現場の魔素鑑定では、割と高い数値が出ているそうである。
ひょっとして、凶悪な野良モンスターの可能性も高いとの推測も。
その話の流れで、護人は“喰らうモノ”ダンジョンの4チーム目について水を向けてみるも。そろそろ異世界チームからも催促されている護人は、色んな探索動画をムッターシャに見せるのだが。
なかなか彼のお眼鏡に適うチームは存在せず、A級ランクだろうと平気で駄目出しする始末。そんな訳で、4つ目のチームは未だに決まらないと言う。
「……つまり護人さんは、この連日の失踪事件は“喰らうモノ”から出て来た野良モンスターの仕業だとお思いで?
確かにこの町でも、あのダンジョンだけは特殊には違いありませんけど」
「いやまぁ、可能性は高いと思ってるだけですが……町外れで隣町とも一番近いし、そもそもオーバーフローが無かった時点で怪しいですよね。
まぁ、絶対そうだとは断定は出来ませんけど」
そんな会話の最中にも、動画視聴の女性陣は
ここも15層の長丁場ながらも、見どころはそんなには無いって事で。割と早送りを使っての、8層と9層の見どころをみんなで観ている模様だ。
レイジーの負傷シーンでは、小さい悲鳴の上がる能見さんだったけど。次の日のフェリーの海上パトロールでは、凄い活躍してたからねと香多奈のフォロー。
アレは凄かったねと、姫香もノリノリで来栖家のエースを
それを観たいとの能見さんの意見に、飽くまで普通だった“三景園ダンジョン”の後半は超早送りとなってしまった。そして小型フェリーに乗っての“幽霊船”との戦闘シーンに、驚いて言葉も無い様子。
いや、その前の“戦艦ダンジョン”でも、戦闘ヘリタイプの機神ゴーレムを撃墜してはいたけど。何と言うか、チーム全体が人間離れして来た感が凄まじい。
それはレイジーの火の鳥召喚も同じ事、ちょっと常識では考えられない能力には違いなく。その後の護人のロケット砲の射出など、些細な事に感じてしまう。
そう素直に口にすると、アレは受けたよねと笑いながら口にする末妹の香多奈。そして速攻で姉の姫香に叩かれて、涙目になっていたりして。
そう言う所は、全く普通の姉妹にしか見えないのだった。
「いやまぁ、薔薇のマントのお茶目は今に始まった事じゃ無いしな。そう言う意味じゃ、本当に制御不能なビックリ箱だよ」
「今回の遠征で、私も白百合のマントと何となく意思疎通が出来るようになって来たよ。結構ハードな旅だったけど、色々と実りも多かったよね。
紗良姉さんと茶々丸も、新しいスキル覚えたし」
「あっ、実は私も何か知らない内にスキル覚えてた……」
そんな衝撃の発言を口にする末妹に、家族ばかりか能見さんも大声を発して驚いている。紗良の《浄化》は2日目のキャンプ泊で、見事覚えた特殊スキルである。
そして茶々丸の《飛天槍角》は、“兎ダンジョン”の回収品のオーブ珠から覚えたモノ。これは念願の遠隔系の攻撃スキルで、本人もとっても嬉しそう。これは戻ってからの相性チェックで、見事引き当てた覚え立てのスキルである。
他は全員駄目だったので、何とも引きが良いとも思っていたけど。まさか末妹が、知らない内にスキルを覚えていたとは……本人の談では、スキル書からでなく自然発現らしい。
末妹の告白では、遊びで鑑定プレートをハスキー達や茶々丸に使っていて、ついでに自分のも見直した所。知らないスキルが生えていて、何となく今まで黙っていたそうな。
その名も『一心同体』と言うそうで、その名前から何のスキルなのかは判読出来ず。まぁ、『友愛』にしてもそうだったので、今更って気がしないでも無い。
とにかくお騒がせな末妹に、寄せられる視線は呆れ8割で観念2割と言った所か。
そこにようやく江川が、3回分の探索の換金作業が終わったと報告しに戻って来た。その額だけど、“戦艦ダンジョン”の魔石と薬品代が約180万円との事。
その翌日に探索した、“三景園ダンジョン”は15層まで潜っただけあって、290万円とまずまず。精霊系のモンスターは、軒並み高価な魔石を落としてくれたお陰かも。
それから3日目の海上パトロールの結果だが、“幽霊船”を3隻撃破した報酬が何と200円万以上。船を撃破してゲットした魔石(特大)の値が、この値段を叩き出した模様だ。
普段は大きい魔石は、強化の巻物用に取っておく来栖家なのだが。今回はそんなみみっちい事をせず、大盤振る舞いの販売となっている。
そして最後に訪れた“大久野島ダンジョン”だが、こちらはさすがに高額だった。何しろ幸運ウサギと“幽霊船”の撃破で、こちらでも魔石(特大)を2個獲得したのだ。
結果、320万円と協会の職員も思わず蒼褪める金額に。そしてそれらを三原の復興のために寄付しますと、告げた時の仁志や能見さんのリアクションと来たら。
まぁ、それだけの衝撃だったのは何となく理解出来る護人である。
そこからの顛末は、天地を引っ繰り返したようで能見さんも動画チェックどころじゃなくなってしまった。その事務作業については、改めて日を設けてお願いしますと涙ながらに訴えられる始末。
どうやらまたやってしまったかなと、協会に爆弾を投じた自覚の無い来栖家の面々である。ハスキー達も、そんな人間たちのあたふたした姿を呑気に寝そべって眺めるのみ。
江川も何とも言えない表情で、これはチームの正当な報酬ですよと訴えて来る。護人としては、他にも企業に売れそうな回収品もあるし、レイド参加費はしっかり貰っている。
本人的には、それを含めてスッキリ遠征を終えた感覚である。
――子供達もハスキー達も満足気、これが普段の来栖家クオリティ。
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