第469話 広島周辺の探索者&ダンジョン事情その19
宮島は観光地の印象が強いが、実際は島の大半が原始林だったり山深き未開の地である。
訪れる観光客も、いるにはいるが命懸けと言う現状である。それでも自警団の機能は上手く作用しており、オーバーフローを上手く抑え込んでいる。
観光業界の人々は
それでも“厳島ダンジョン”はB級クラスで、間引きは割と大変である。今では地元の専属探索者も数チーム育っており、対応出来る者もいるにはいる。
まぁ最初の数年は、外部の探索者チームに頼って何とかやり過ごして来た経緯が。何しろ宮島は日本三景の1つであり、世界遺産でもあるのだ。
下手な対応は、出来ないってのが人情である。
そんな宮島には、
何しろ低いとは言え、山登りはそれなりにハードである。主に7つの登山経路が存在するけど、歩いて登るとどれも1時間半~2時間は掛かってしまう。
一番楽なのは、ロープウエーを使ったコースだろうか。まぁ、上ったからと言って景観の良い眺め位しか得るモノは無いのだけれど。
初代内閣総理大臣の伊藤博文は絶賛したそうなので、それなりの真価はあるのだろう。そんな弥山の頂上に、怪しく近づく影があった。
いや、影と言うには大き過ぎると言うか……天空を
改めて宮島と大きさを較べても、“浮遊大陸”は数倍デカい。そんなモノが空に浮いているのは、ある意味新たな観光地と
その動きが、まさか宮島の真上で止まるとは誰も想像しなかった。
そして宮島の弥山に存在する、山頂の巨石群が妖しい光を放ったかと思ったら。鳴動と共に、それは新たなダンジョンの入り口を生成したのだった。
いや、正確に言うとそれは異次元のワープ通路と言うべきか。ダンジョンではあるが、それが生まれた主な目的は真上に存在する“浮遊大陸”との架け橋に他ならず。
或いは、“浮遊大陸”に存在する“最古のダンジョン”の9つ目の入り口とも。弥山には昔から七不思議が存在して、今は途絶えて見られないモノもあったりするのだが。
まるでそれを蒸し返したような、不思議現象の発露である。それに気付いた地元住人は、大騒ぎしてどうしたモノかと頭を悩ませるのだが。
出来てしまったモノは仕方が無い、改めて4つ目のダンジョンとして管理をするしか。例えそれが、難易度の高い“太古のダンジョン”への通路だったとしても。
ちなみに後に専門家や研究者が訪れて、この原因を調べたそうなのだが。この宮島のナニが“浮遊大陸”を招き寄せたのか、
本当に、
――そしてその縁は、今度は宮島と探索者を繋ぐ事に。
三原市の奪還作戦は、数日間に及んでそれなりに激しい戦闘が続いた。それを指揮する“皇帝”甲斐谷は、連日に渡って疲労
それでも相手の軍勢を、徐々に減らして行っての
仲間の探索者の働きは、そう言う意味では絶賛出来るレベルには違いない。味方の損害も幾らか出はしたけど、壮絶な市街戦は終始押し気味でこちらのペース。
そんな敵の獣人軍は、半数以上は雑魚モンスターで占められていた。ただし、中には強烈な魔法やスキルを使う奴や、指揮力を発揮する輩もいて決して
それからもう1つ、味方の偵察部隊が確認したドーム状の魔方陣の存在が市内に2ヵ所ほど。そこからどうやら、定期的に敵の増援部隊が送られて来ているようである。
これをまず潰さない事には、イタチごっこなのが判明した。
その情報を、しかし早めに得られたのは
もちろん“ダン団”組織の幹部連中は、とっくに逃げ去ってこの地にはいない。それでもその部下だった探索者の内の何割かは、捨てられた地元を正常に戻そうと尽力してくれていた。
そもそも、この地の異変は護衛艦“いずも”のダンジョン化から端を発していた。その頃には“ダン団”組織は
利権問題から不満は溜まりまくって、組織のトップが詰められて死亡したのも当然の流れだった。そのトップに追従していた下っ端たちは、蜘蛛の子を散らすように逃げ出したのもこれまた当然か。
かくして三原の地は、仕切る者のいない空白地帯に。
その
そんな初動の遅さが、敵に時間を与えてしまった感は否めない。気付けば市内に湧いたドーム型の魔方陣から、獣人軍とホムンクルス軍が
その数百を超す軍勢は、知っての通り市内の7ヵ所に拠点を作って、市民を
“皇帝”甲斐谷に関しては、指揮はもちろん自身もチームを率いて戦場に身を投じていた。しかも積極的に、敵の強い指揮官を潰しての大立ち回りを何度も行ったのだ。
周囲に立ち上る
かくして5日間に渡る大作戦は、何とか成功と言える範囲で終結する事に。具体的には2つのドーム状の魔方陣を破壊して、敵の拠点も全て潰す事が出来た。
結果、指揮を執った甲斐谷は何とか
その戦闘中に、分かった事が幾つか。2つの軍勢、つまり獣人軍とホムンクルス軍は、決して仲が良い訳では無いと言う事実が1つ。その獣人軍の方に関しては、知能はあまり高くは無いと言う報告も上がっていた。
例えば獣人軍は、挑発されたら不利な状況でも突進して来る
獣人軍の指揮を執っていた指揮官クラスのオーガは、実際何体か撃破する事に成功した。しかし、ホムンクルス軍の指揮官に関しては、魔方陣を破壊する前にまんまと逃げられてしまった。
敵の本拠地方面へ、まさか追い掛けて行く訳にも行かずな状況に。そんな訳で討伐戦は満点とは行かなかったけど、それはある程度は仕方の無い事。
完勝とはならなかったが、敵を追い出す事には成功したのだ。
――そんな訳で、ひとまず三原の奪還作戦は幕を閉じたのだった。
三原市奪還に参加した岩国の2チーム、ヘンリーの所属する『ヘブンズドア』と“魔弾製造機”伊澤がリーダーの『グレイス』だけど。取り敢えず任務を無事に終了して、今はホッと一息ついている所。
彼らが今いるのは広島市の外れの飲食店で、ほぼ貸し切り状態でのランチ中である。何しろどう頑張っても、探索者でのし上がった彼らの威圧感は半端なく。
後から入って来た連中は、軒並みUターンして帰って行く有り様。そんな2チームに混じって、やはり岩国からサポートメンバーとして参加したチームが。
4人組のこのチーム、エース格の“人喰い”鬼島を初めてとして、何と全員が冒険者ランクを有していない。協会の子飼いの彼らは、ダンジョン攻略をメインの仕事とはして来なかったのだ。
彼らの“サポート”には、活動物資の確保や情報収集の他に、厄介者の排除も含まれる。つまりは岩国の協会に所属しながらも、同じ探索者を狙う不埒者の排除も彼らの仕事なのだ。
岩国のみならず、力を得れば手っ取り早く稼ごうとする
現在はそれもひと段落ついて、裏社会から表舞台へと躍り出る機会を窺っている感じ。そんな訳で、現在形で名を馳せている『ヘブンズドア』と『グレイス』の、両チームのお付きみたいな形で勉強中である。
今は食事をしながら、そのデビュー戦について皆で話し合っている所。
「いや、今回の三原市の奪還戦でも、影ながら功績をあげてたじゃないか。ここでデビューしても全然良かったのに、何でこの影からサポート気質は抜けないかね?
チーム名は決め直したのかい、鬼島? チーム『影忍』も悪くはないが、そのままズバリはさすがにやり過ぎだと思うぞ。
もっと華やかな感じで売り出そうって、協会も言ってたし」
「ウチら的には、影ながらサポートの方が性に合ってるんですがね……今更、探索者としてデビューしてくれって言われても、戸惑いしか無いですよ。
なぁっ、
「そうですね……しかも、デビュー戦が大規模レイドに参加でって事になってるんでしょ? コナ付けて来る悪辣チームは、私らでかなり
他のチームと仲良くしろって、今更言われても」
そう言う
岩国の協会の方針で、ダンジョンでのレベルアップと悪漢探索者の淘汰を同時にこなす暗部として数年活躍して。それに馴染み過ぎて、表舞台の進出に
ヘンリーやギルは、何とかその後押しを頑張っているが
単純に、それを埋もれさせたままにしておくのは
そんな彼らの次の案件は、地元の“岩国基地ダンジョン”と山口県
そんな話の中で、ふとヘンリーが来栖家チームは参加してくれるかなと口にした。岩国の協会は、三原の件が終わったら正式に依頼を出すつもりらしいのだが。
家族チームが、続けざまにレイド案件を承諾するかは疑問である。
「えっと、そのチームって確か……チビッ子どころかペットも混じってる、変わった編成のA級チームなんスよね?
動画は観た事あるけど、何とも掴み
「そうね、私も同感……強さの基準が良く分からない感じ? 強い戦闘能力はペットの恩恵にも取れるし、AIロボに至っては何で後衛に配置されてるの?
普通は前衛でしょ、おかしいでしょ?」
「いやまぁ、その辺の理解は確かに外から判断するのは難しいだろうな。まぁ、表舞台に出るのなら、お前たちもあのチームには慣れておくべきじゃ無いかな?
彼らの理不尽なくらいの強さとか、家族の
そんなヘンリーの説明に、やっぱり納得の行かなそうな“羅刹”舞戻である。同じ席で食事中の、情報収集がメイン担当でリーダー格の
今度の作戦でお近づきになれたら、是非とも色々と情報を仕入れたいっスねと楽しそう。金髪のチャラい容姿の彼だが、扱う情報に関しては凄腕の人材である。
岩国の協会も重宝していて、若いながらもチーム内の評価はかなり高いと言う。戦闘能力こそ高くは無いけど、影の任務には無くてはならない存在には違いなく。
荒くれ者の摘発にしても、証拠もなく倒して間違いでしたじゃ済まされない。ある意味チーム『影忍』の核でもあった三笠だが、彼も表舞台にはあまり興味は無さそう。
むしろこのまま引退して、余生を
例の“魔境”の話ですかと、情報通の三笠の興味は尽きない様子。
「いいっスね、今度その青空市ってのに連れて行って下さいよ……そのチームの橋渡しと、それからレイド依頼もしなきゃなんないんスよね?
強いチームと対するのは、いつだって楽しいですからね。何しろ、たった1年でA級にのし上がった伝説のチームなんでしょ。
是非とも我々も、顔通しお願いしますよ」
――そんな生意気な物言いの後輩に、何となく嫌な予感のヘンリーだった。
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