第467話 “兎ダンジョン”の深層でとんでもない物を発見する件



 8層の探索も、そんな騒動を挟みながら何とか無事に終了。つまりは9層への階段を発見して、これで残るは中ボスの部屋を含めて2層である。

 気合い入れて頑張ろうねと、先頭でチームを鼓舞する姫香にまだまだ疲れは無い様子。時間は午後の3時半で、順調に行けば4時半程度に10層はクリア出来る筈。


 そこから入り口まで歩いて戻ると、プラス1時間かもう少しだろうか。意外と大変だけど、敵は倒し終わっているので歩くだけである。

 そんな計算をする護人だが、子供達がまだまだ元気なのが少々気掛かりである。いや、元気なのは良いのだが、もっと進もうとか言い出しかねないのが何とも。


 今回の探索では、ペット達が負傷する事態が続出していて、正直さっさと戻りたい気持ちでいっぱい。そんなペット勢も、しかし全くヤル気は削がれてないけど。

 そして9層への階段を発見して、帰り時間を気にしながらの探索は続く。階段を降りると、最初のフロアは例の野原で敵の数は見える範囲で結構いそう。

 その辺は、既にお馴染みで今更驚きもしない一行である。


 そんな訳で、目に付く敵から片っ端にやっつけて行くハスキー達&茶々丸である。姫香も前へと出ながら、怪しい奴が混じって無いかのチェックに余念がない。

 幸いにも、特殊能力持ちウサギはこの群れにはいなさそう。安定の戦闘で、野原の敵の討伐には5分も掛からず。大半は雑魚の一角ウサギを、苦も無く成敗して行くハスキー達である。


 それからさっさと、次の層への階段を見付けようと移動を始める来栖家チーム。そして目敏めざとい香多奈が、ハスキー達に先んじて変わった兎を洞窟を抜けた野原で発見した。

 その金毛のウサギは、モンスターの癖にこちらを見ると逃げ出すと言う所業に及んだ。逃げられたら追い掛けたくなるのが犬の習性、そして香多奈も性格は犬寄りだったよう。


 アレ追い掛けてと、近くにいた萌に咄嗟とっさのお願い。萌は何の疑いも持たず、単独で洞窟へと逃げて行く金毛ウサギの追跡を開始する。

 一人じゃ危ないよと、紗良は心配するのだが時既に遅しな感じ。ハスキー達は野原のウサギ集団と戦線を構築しており、姫香もその中心にいて抜け出せず。

 結果、手の空いている護人が萌の後を追う事に。


「仕方ないな……後は頼んだよ、紗良。やっぱり単独先行は心配だからね、萌を連れ戻すまでここは頼んだよ」

「わっ、分かりました……ルルンバちゃん、いざと言う時はお願いねっ?」


 そんな感じで、頼られたルルンバちゃんは張り切って後衛で存在感を示している。一方の護人は、幅の狭い洞窟の奥へと消えた萌の捜索に必死。

 後で香多奈には、きつく言っておかないととは思うのだが。素直に従うメンバーが、周囲に多過ぎるのも問題な気がしないでも無い護人である。


 それよりこの手の幅狭な通路は、ほぼ行き止まりだと経験上分かっていて少し心配だ。変な仕掛けがセットである事も多くて、萌がそれに引っ掛かっていないと良いのだが。

 そんな心配は、30秒後には杞憂きゆうだと判明してまずは一安心。萌はてふてふとこちらに歩いて戻って来ており、その手には金色の小箱を抱えていた。


 どうやら金毛のウサギがドロップしたらしい、これも一緒に落ちたよと萌は魔石(特大)を差し出して来た。そんな強かったのかと思う護人だが、時間からして恐らく一撃だったのだろう。

 つまりはさっきの敵、幸運ウサギ的なボーナス?


「うおっ、宝珠が1個に虹色の果実が5つに……それからこれは、ひょっとして魔導の書かな? 弱い敵が落としたにしては、凄過ぎるドロップだなっ!」


 萌はクゥーと喉を鳴らして、楽勝の敵だったと動作付きでアピール。どうやら本当に、雑魚に混じってボーナス的なウサギ型の敵が混じっていたらしい。

 本当に変わったダンジョンだ、まぁ強敵が混じってるよりはマシだけど。そんな護人と萌が戻った頃には、野原の制圧は既に終わっていた。


 そして萌の成果に、飛び上がって喜ぶ末妹の香多奈である。紗良や姫香も驚いており、宝珠なんてどこに落ちてたのと金色の小箱の中身を確認している。

 どうやら、『幸運ウサギ』が1匹紛れてたみたいだねと護人は説明するけれど。そんなの本当にいたのと、納得いかなそうな姫香である。


 確かに意地悪な印象のダンジョンが、不意に好意を示しても簡単に信用は出来ないかも。ただし香多奈は、いたんだから良いじゃんと全く頓着とんちゃくしていない模様。

 末妹にとっては、良いアイテムがゲット出来れば万々歳なのだ。それよりこの宝珠はどんなスキルかなぁと、興味はそっちに向いてご機嫌である。


 その辺は、攻略を終えてのお楽しみだと先へ進むのをうながす護人であった。家には未使用の宝珠が2個もあるので、今回も過剰な期待はしていない。

 使えそうなスキルなら、まずは御の字って所だろうか。


 そして9層はそれ以上のトラブルは生じず、20分程度であっさりと10層への階段を発見出来た。予定の10層の中ボスだが、サクッと倒して終わらせたい。

 時刻は既に4時を回っており、どうやっても外へと出るのは5時を大きく過ぎるだろう。それより中ボス戦で、油断して怪我なとしないように気をつけないと。


 探索時間も長くなると、どうしても集中力を保つのが難しくなってしまう。5層の中ボスも割と歯応えがあったし、ここは護人が自ら前に出ようと立候補する。

 最後位は仕事をするよと言うと、ハスキー達は大人しく譲ってくれる雰囲気。それじゃあ私もと姫香が立候補して、このペア組で10層の中ボスに挑む事に。


 とは言え、ハスキー達も雑魚がいた場合に備えて、突っ込む準備に怠りは無い。小休憩を挟んで、それじゃ行くぞと護人が大きな中ボス部屋の扉に手を掛ける。

 そして中を確認しながら、部屋の中へと先頭に立って突入。そこは洞窟に出現した野原で、6層からはお馴染みのエリアだった。その中央には、何とウサギの群れの塊が待ち構えていた。

 護人と姫香が近付くと、それはバッと散会して行く。


「気をつけろっ、雑魚の中に強いのが混じってるぞ!」

「あの茶色いの、多分魔法使って来る奴だねっ……あっ、白いのもいた、アレ多分首切りウサギだっ!」

「みんな、頑張れっ! あっ、奥に頭が二つのウサギもいるよっ!?」


 香多奈が双頭ウサギを見付けて、これで厄介な奴らは揃い踏みって感じ。既にどの敵とも戦った経験のある一行は、意外と冷静にそいつらに対処する。

 まずは護人と首切りウサギだが、そもそも『黒檀の鎧』装備の護人に首を切られる心配も無い。それでも油断すると、手首や指は持って行かれる可能性も。


 そもそも、敵の脚を武器で弾く音も澄んだ音が響いて、その時点で並みじゃない。冷や汗を掻きながら、動きの素早いそのウサギと対峙する護人である。

 さすがに“四腕”の発動に対して、向こうは段々と対処し切れなくなって来た。そして止めは薔薇のマントのハンマーパンチで、哀れな首切りウサギはペチャンコに。


 可哀想だが、強敵で手は抜けなかったし仕方が無い……そしてやっぱり、転がり落ちる魔石(大)である。実はこいつが中ボスだったのかも、そうであっても不思議では無い。

 そしてその戦いの隣では、姫香が押せ押せで魔法ウサギに斬り掛かっていた。相手の魔法は『圧縮』と白百合のマントで上手く防いで、危なげのない戦い振り。


 野原の奥では、レイジーが双頭ウサギを噛み殺していてこちらも圧勝。雑魚もツグミとコロ助で全て片付けており、茶々丸はそのお手伝いに角を振るいまくっていた。

 相変わらずの猛進振りだが、最近は多少はマシになって来ており。レイジーのスパルタ教育が、ようやく形になって来たのかも知れない。

 そして姫香も、ようやくボス兎の討伐に成功!


「やった、ふうっ……手強かったな、コイツってば魔法の連射が途切れなくって! 見てよ護人さんっ、この敵ったら魔石(大)落としてる!

 見た目と強さが違い過ぎるのは、ちょっと卑怯じゃ無いかなっ!」

「まぁ、その気持ちはよく分かるな……何にしろ、みんな怪我無く戦闘を終われたかな? それじゃあ、宝物を回収して地上に戻ろうか」


 取り敢えずは肩の荷は下りたが、ダンジョンを脱出するまで完全に気は抜けない。紗良はハスキーと茶々丸の体調チェックを始め、姫香と香多奈は宝箱の回収に。

 宝箱の中には、鑑定の書や薬品類や魔結晶(中)が入っていた。他にもガスマスクやうさ耳やら、革素材や金貨の入った袋など色々。


 一番多かったのは、大根やカブや人参などの野菜類だった。薬品の一部は、どう見ても毒薬っぽくてこのダンジョンらしくてひどい。

 それらの鑑定は後回しで、全部回収し終わったよと姫香の報告に。紗良も怪我はありませんでしたと、ペット達のチェックを終えていつでも帰れると告げて来た。


 そこに待ったをかける、いつもの末妹の我がまま少女だったり。ただし今回は我が儘では無く、階段を降りた方が早く地上に戻れるかもとの予言口調。

 そんな訳無いでしょと、妹の意見を一刀両断の姉の姫香は拳骨げんこつを作って喧嘩上等の構え。素早く叔父の背後に隠れる香多奈は、だって潮の香りがするでしょと意見を曲げそうもない。

 つまりは、先に進めば海ルートで地上にショートカット出来ると。


「えっ、そんな事ってあるのかな、護人さん……?」

「分からないけど、妖精ちゃんまで奥のルートを推奨してるな。まぁ、1層か2層ほど進んでみようか……駄目だったら戻るで、香多奈も納得するだろうし」


 甘いなぁとの批判は甘んじて受けて、リーダーの言葉ならと先へと進み始める来栖家チームであった。既に夕方の4時過ぎなのに、確かに超過勤務には違いない。

 それでも文句を言わずに先頭を行くハスキー達、その姿からは何の不満も見い出せない。そして降り立つ11層は、やっぱり巨大な洞窟だった。


 先ほどまでと違うのは、香多奈の言う通りに潮の匂いが空気に混じっている事。四角いコンクリ通路も健在で、それに沿って進むとその理由が判明した。

 どうやら通路の奥は、海へと続いている様子である。そこでサハギン型のモンスターの歓迎を受けて、束の間の熾烈な戦闘を5分余り。


 洞窟内では骸骨やゾンビが待ち構えていて、ここに来て完全に兎テイストは脱した模様だ。とは言え敵の強さは、特に格段に上昇した感じも受けず。

 ゾンビに咬み付きたくないハスキー達は、率先して武器を振るい始める。その威力は相変わらず暴虐過ぎて、香多奈の思いついたアイデアは実行されず。

 つまりは、紗良の新しく覚えた新スキルのお披露目的な。


「えっ、《浄化》スキルってゾンビとかに効果あるのかな?」

「分かんないけど、何だか効きそうな気がしない? ハスキー達が全部倒しちゃったから、次に出て来た時に実験しなきゃだね!

 だから次は加減してよ、ハスキー達っ!」


 そんな後衛の遣り取りの実験コーナーは、12層でようやく実現する事に。11層の隠し海岸は、波際に難破船が1隻あったきりで香多奈の言う出口の類いは無し。

 大義名分を得て12層へと降りて来たが、ショートカット出口が無いとかなり辛い事態に。ところが12層を歩き回って、一行はとんでもないモノを発見してしまった。


 それは隠し海岸に停泊していた幽霊船で、その奥には巨大なワープ魔方陣が。つまりは、野良と化した幽霊船が、今にも生まれる瞬間だった模様で。

 出入口以外からも、野良って出て行くんだねと姫香は驚いた口調でそう呟いている。護人も同じく、こんな深層から野良が生まれるなんて思ってもいなかった。


 そう言えば、この層は全く雑魚との戦闘が無かったのはコイツのせいかも。レア種と言われれば、まさにそのカテゴリーにも属するのかも知れない。

 ただし香多奈は、あそこから外に出れるねとしてやったりの表情。


 まぁ、あんな巨大な船が出れるんだから、自分達も出ようと思えば可能だろう。それより甲板にぎっしりいる、骸骨兵やゾンビ達に見付かってしまって騒がしい事態に。

 香多奈が張り切って、紗良お姉ちゃんの出番だねと新スキルの出番を推奨している。その瞳はキラキラと輝いており、どんな効果か見てみたくて仕方が無い様子。


 護人も紗良の視線に頷いて、駄目ならルルンバちゃんとミケがいるさとスタンバイをうながす素振り。茶々丸が寄って来て、大物を仕留めるならと《マナプール》で自分のMPを分けるよと言って来る。

 そこまでお膳立てされると、引くに引けない紗良である。渾身の集中力からの《浄化》スキルの敢行は、しかし予想外の結末をもたらしてくれた。


 つまりは、あれだけ巨大だった幽霊船が、幻みたいに消失してしまったのだ。後に残るのは、小さなサイズの難破船と金色の宝箱が1つ、それから転がり落ちた魔石(特大)である。

 この結末には、一同ビックリで言葉も出ない程。





 ――後は宝箱を回収して、幽霊船のルートから脱出するだけ。







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