第466話 構造の変わらない“兎ダンジョン”を降りて行く件



 ここは中ボスの間に退出用の魔方陣の類いは用意されてないようで、ガッカリな一行である。それでも宝箱は大振りで、色も銀色なので期待は持てるかも。

 さっそくツグミの罠チェック後に、中身の回収を始める子供たち。お決まりの鑑定の書や魔結晶(小)に加えて、薬品の中にはやっぱり色合いが明らかに違うのが混じっていた。


 それから木の実も同じく、色んな種類の中に見慣れない香りの強い奴が幾つか。それを慎重に選り分けて、魔法の鞄の中へと仕舞い込んで行く紗良であった。

 そして今回の兎グッズは、割と大量の絵本だった模様。それらを吟味しながら鞄に詰め込む紗良は、ちょっと幸せそう。他にもガスマスクや兎の尻尾の形のアクセサリーは、妖精ちゃんに言わせると当たりらしい。


 そして例によって、縫いぐるみが幾つかと金貨の詰まった袋が3つ。どうやら今回の宝箱が大きかったのは、この縫いぐるみのせいだった模様。

 まぁ、その縫いぐるみも全部個性があって可愛くて良かった。巨大サイズも混じっていて、香多奈だと両手で抱えないといけない大きさの奴とかも。


 とは言え、姫香も香多奈も縫いぐるみが大好きって程でも無い。姉妹の中では、敢えて挙げるとしたら紗良だろうか。彼女もどちらかと言えば、自分で作って楽しむ派である。

 既成のモノは、子供達全員が嬉しいって程でもないかも。


「宝箱が銀色だから、中身を期待したのに期待外れだったね! 次に行こうっ、あっでも……お腹空いて来たかも、お昼が先かなぁ?」

「こんな殺風景な洞窟の中で、お昼食べるのもちょっとねぇ……でもまぁ、先に進んでも似たような景色なのかもだよね。

 どうしよう護人さん、ここで昼食にする?」

「そうだな、次は6層か……それならちょっと覗いてみて、景色の良い方でお昼にしようか」


 そんなリーダーの提案に、は~いと元気に返事をして動き出す一行である。ちなみにさっきの中ボスウサギは、魔石(中)とスキル書をしっかりドロップしてくれた。

 強さに違わぬドロップだけど、そう考えるとこの先も難敵の出現確率も高い気が。それでも頑として先頭を譲らない姫香は、ツグミを従えて6層へと進み始める。


 そして数分も歩かない内に、大声で一行にお昼に快適そうなエリアを発見したよとの報告。それは後続の皆もしっかり目にしており、兎の跳ね回る野原エリアだった。

 本当に長閑のどかな雰囲気で、跳ね回る兎がモンスターでなければどんなに良かっただろうか。コロ助がすかさず『咆哮』を発して、飛び回っていた連中を釣ってくれた。


 お陰で不用意に動き回って、罠に掛かる不幸を回避出来て嬉しい限り。そんな寄って来たウサギの中には、幸い手強いタイプは混じっていなかった模様。

 数分で、サクッと処理に成功してまずは一安心。そして改めてエリアを見渡すと、どうやらフィールド型に変わった訳でも無いようだ。

 空こそ窺えるけど、野原はぐるっと崖に囲われて移動は不能っぽい。


「ああっ、空は見えるけど移動は崖に空いた洞窟を潜って進まなきゃいけないんだ。なるほどね、でもまぁ薄暗い洞窟ばっかりじゃ無くなって良かったかもね。

 護人さん、ここならお昼の雰囲気も明るくなって良いんじゃないかな?」

「そうだな……それじゃあ済まないが、昼ごはんの用意を頼むよ、紗良。ここでお昼休憩にしよう、ハスキー達も休んでいいぞ」


 そう主に言われて、元気に尻尾を振るハスキー軍団である。紗良は言われた通りにお昼の準備を始めて、姫香は結界装置を作動させて安全の確保。

 香多奈は敷かれたブルーシートの席に、無意味に回収した兎の縫いぐるみを並べている。割とシュールな光景に、ハスキー達もひるんで近付こうとしない有り様。


 その行為は、姫香にげんこつで強制終了されて即座に終わりとなった。ハスキー達をビビらせて遊ぶんじゃ無いわよと、姫香のお怒りはごもっとも。

 それでもランチの時間になると、ちゃっかり末妹からおこぼれを貰うハスキー達である。その辺は既に慣習となっていて、止める者はいない有り様。


 今日はお握りが多めだが、スープにひと煮立ちさせた麺を合わせて、即席ラーメン的なサイドメニューも用意されていた。そっちも好評で、あっという間に麺の束は無くなって行く。

 美味しいねとの評価は、紗良にとってはどんな宝箱にも勝る報酬だったり。そんな時間を過ごしながら、長閑な野原での昼休憩を過ごす一行。

 時刻はもうすぐ2時、今回は開始がやや遅かったので時間配分は大変かも。


「今回は帰還の方法が歩きだからな、15層はさすがに無茶だし10層が目安かな? 仕掛けも多いから神経を遣うし、その位が丁度いいだろうな。

 みんなもそれでいいね、今回は無理しない方向で」

「了解っ、護人さん……でも今日で、一応三原の遠征は終わりなんでしょ? だったら、少しくらい夕方を過ぎても大丈夫じゃない?」

「でもウチは、長く探索が続くと集中力が持たなくなるからねぇ? 私も無理はしない方がいいと思うよ、姫香ちゃん」


 そんな紗良の的確な忠告で、午後の探索は無理をしないって流れに。そして再開する6層の探索だが、やっぱり出現するのは圧倒的にウサギ型のモンスターばかり。

 ウサギ型モンスターの種類については、相変わらず一角ウサギが多いかも。それに混じって、毛が鎧と化した奴とか棘状に変形した奴が数匹ほど。


 強さに関しては、それ程に上がった感じも受けないと姫香の報告である。ハスキー達もサクサク倒しており、草食動物に対しての油断も特にない。

 そして移動先の洞窟だけど、この6層からは結構な分岐がある感じ。とは言っても、大抵の洞窟はすぐに行き止まりとなっていた。


 その突き当りには、大抵は宝箱が置いてあって毒ガスやらミミックやらの意地悪な仕掛けが。姫香とツグミのペアは、それらを全く時間を掛けずに解いて行ってくれる。

 お陰で、コツを掴んだ一行は探索時間もかえって短縮する勢い。


 エリアはたまに綺麗な野原の大空洞にぶつかって、階段は洞窟かコンクリ通路の行き当たりに存在するパターンみたい。それを把握した来栖家チームは、勢いに乗って階層を攻略して行く。

 6層は30分程度掛かってしまったけど、7層はほんの20分程度で攻略に成功した。ただし、この層に居座っていた茶髪の魔法ウサギには相当な苦戦をいられた。


 レア種程では無かったけど、首切りウサギにしろ雑魚の中に潜んでいるので始末に悪い。お陰で姫香をかばったツグミが、肩口に大きな火傷を負ってしまった。

 慌てた姫香が巨大兎の突進技を喰らって、場は一気にカオス状態に。前衛が崩れるかと思ったが、そこは地力に勝る来栖家チームである。


 すかさずコロ助が、《防御の陣》で姫香のフォローに入ってくれた。そして後衛からは、護人の雨のような矢弾の仕返しが見舞われる。

 この時点でよれよれの魔法ウサギに、レイジーの接近してのほむらの魔剣での止め差し。ついでに巨大兎は、茶々丸の突進に耐えられず引っくり返って戦意喪失してしまった。

 そこに駆けつけた萌が、槍で串刺しして戦闘終了。


「姫香、大丈夫だったか!? ツグミも火傷が酷いな……紗良っ、治療を頼む!」

「私は転がされただけだから平気、ツグミから治療してあげて。ゴメンねツグミ、私をかばったせいで酷い傷を負っちゃった……」

「紗良お姉ちゃんの作った服のお陰で、火傷はそこまで酷くは無いかな……あっ、でもやっぱり痛そうかも。

 ほらっ、上級ポーションも一緒に飲みなさい、ツグミ」


 敵が全ていなくなったのを確認して、慌てて治療に入る後衛陣である。姫香の怪我はそれ程でも無かったけど、ツグミの火傷はちょっと心配になるレベル。

 紗良の『回復』と並行して、香多奈も上級ポーションを飲ませての治療を施す。数分後には、何とかツグミの容態は快方へと向かってくれていた。


 明らかに安堵して、ツグミの頭を撫で回す姫香であった。見返りにスキル書を落とした魔法ウサギだが、釣り合わないよねと怒りは収まらない様子。

 巨大兎もウサギ肉をたんまり落として、ドロップは決して悪くない“兎ダンジョン”である。とは言え、人気スポットにはなりそうもない雰囲気は漂っている。


 とにかくツグミも、何とか動けるまで回復してくれてホッと一息の面々。本当は後衛で休ませてあげたいけど、毒の罠のあるこのダンジョンではそうも行かず。

 ルルンバちゃんなら行けるかもだが、ツグミは姫香の隣ポジションを頑として譲るつもりは無い様子。何しろ姫香とのペア組は、ツグミが生まれてからずっとなのだ。

 ちょっとの怪我くらいで、それを明け渡すなんて冗談じゃない。


 そんな強い意志が垣間見え、護人も強くは言えないまま探索は再開される流れに。そしてしばらくして、7層の突き当りに階段を発見した。

 8層の攻略へと一行は移って、ツグミも動きに変な所は無くてまずは一安心。そして野原エリアで遭遇した兎の一団に、勇猛果敢に挑みかかって行く。


 そのフォローを後衛も頑張って、とにかく変なアクシデントを起こさないように必死な一行。今回の遠征は、思えばこんな冷や冷やした場面ばかりかも。

 やっぱり高ランクのダンジョンのはしごは大変だなと、改めて思う護人である。そんな事を考えながらも、戦闘は順調に進んで行く。


 この層で初出の双頭ウサギも、幸いにも変な特殊スキルも無くて良かった。いや、実は別々の顔が別々に魔法を使って来たのだが、先制で潰す事に成功した。

 実は怖い敵だったかもだが、先読みしたツグミが見事に先手を打って退治する事に成功。影に紛れて襲って来た漆黒ウサギは、茶々丸のフォローで退治に至る事が出来た。

 ここに来て、見事なコンピプレーを披露するペット達だったり。


「よしっ、いいよツグミに茶々丸っ! 厄介そうな敵は、どんどん先に倒して行っちゃえ……後ちょっとで、ここの野原の敵も全部いなくなるよっ!」

「コロ助も頑張れっ、茶々丸に手柄を取られてたら駄目だよっ!」


 そう言われたコロ助は、ハンマーで棘ウサギをペチャンコにし終わった所。彼のパワーも、『剛力』スキルと香多奈の『応援』を貰うととんでもないレベルに達してしまう。

 別に茶々丸と競うつもりは無いし、チームで狩りをするのは彼の中の本能である。そしてみんなで強くなる、そう言う意味ではハスキーの方が平和主義なのかも。


 そうして野原の戦いも、ひと段落ついて小休憩へ。このダンジョンは、層の平均モンスター数が他の所より多い気がするねと姫香が口にする。

 その大半はウサギ型モンスターで、倒すのに手間はそんなに掛からないのが良い。ただし、たまに強い敵が混ざってるのが本当に厄介で意地悪である。


 末妹もそれには憤慨しており、コロ助や茶々丸に気をつけるんだよと助言している。特にコロ助など、今は首輪も破壊されて戦闘ベストも戻ったら補修が必要な破損具合。

 前情報がほぼ無い怖さに、護人もあまり冷静ではいられない。しかし、ハスキー達に全くひるむ様子はなく、休憩が終わると率先して行動を始めてくれる。

 それに自然に、勇気付けられる一行だったり。



 そして8層の突き当りに、またもや宝箱を発見……それは案の定ミミックだったが、それを討伐後に突き当りの壁にツグミが兎穴っぽいモノを発見した。

 その中を調べてみると、鑑定の書やら薬品類が枯葉と一緒に出て来てくれた。魔石(中)も8個まとめて出て来たので、この穴は大当たりである。


 ちなみにさっきの魔法ウサギや双頭ウサギも、倒すと魔石(中)をドロップしてくれた。それだけ強敵だったと言う証拠が、物理的にも証明された次第。

 他にも色々と入ってるねとはしゃぐ末妹だったが、出て来たのが人参やキャベツ玉だと知って微妙な表情に。後は兎の頭巾だとか、うさ耳やバニーさんの衣装とかとんでもない物まで。


 コレ何と訊ねる香多奈だが、護人も姉もその質問を完全にスルーする。回収し忘れが無いのを確認して、さて次は9層への階段を見付ける作業だ。

 しつこく訊いて来る末妹は、そんな大人たちの反応でピンと来たようだ。エッチな奴でしょうと、その使用目的に核心を突いた発言に至ってしまった。


 護人は嫌な汗をきながら、セクシー系の舞台衣装でそれ自体に罪は無いよと穏便な返し。それならお姉ちゃんに着て貰おうかと、妙な返しをする末妹。

 それは安定の姫香の拳骨げんこつで、一応は丸く収まる流れに。





 ――そんな訳で、紗良も姫香もバニー衣装は着ずに済みそう?







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