第462話 海賊船とがっぷり四つで海上戦をこなす件



「贅沢な悩みだよねぇ、手元に『宝の地図』が2枚もあるなんて! でも新しく“戦艦ダンジョン”で手に入れた方のは、どこの地図だか分かんないんだよねぇ。

 それより、せっかく敵をたくさん倒したのに、魔石が全然回収出来なかったよっ。残念だなぁ、何で私のお願いは水の精霊さんに通りにくいのかなぁ?

 確率は、今のところ半々なんだよね」

「本当だよね、幽霊船のドロップした魔石はさぞかし大きかったでしょうに……ツグミもちょっと遠過ぎて、《空間倉庫》に回収出来なかったみたい。

 海の上には、そもそも影が無いもんねぇ」

「そっかぁ、でも……そうは言っても、あんな敵に接近戦を挑むのも怖いよねぇ。骸骨兵の中には、弓兵も結構いたみたいだし。

 こっちに乗り込まれたりしたら、大騒ぎになっちゃうよ」


 そうなったら、活躍の機会の無かったコロ助や茶々丸は喜ぶかも知れないけど。やはり幽霊船みたいな大物は、最大火力で遠くから焼き切るのが最良な手段だろう。

 何しろこちらには、そんなチート染みた手段が手札にあるのだ。その切り札の1枚のレイジーは、現在も火の鳥を量産しての偵察中である。


 さすがにMPが心許ないので、茶々丸が現在《マナプール》での支援中だ。お母さんレイジーの役に立てるのが嬉しいのか、支援とは言え張り切ってる茶々丸である。

 そんなペット達の頑張りをサポートすべく、姫香も目撃情報をネットで検索中。みっちゃんにもラインで確認しての、情報戦にはネットの力は心強い。


 そしてルルンバちゃんだが、現在も小型フェリーを乗っ取り中と言う。そのお陰なのか、さっきの倍の速度で爆走中の小型フェリーである。

 紗良が周囲に《結界》を張ってるのは、ひとえにミケのご機嫌取りのため。潮風が嫌いなこのニャンコ、幽霊船の撃墜には必要な戦力には違いなく。

 肝心な時にねられていたら、目も当てられないので。


「うん、やっぱり因島の周辺に目撃情報は多いみたい……昨日も見たって、しかもタイプの違うのが2隻ほど? 結構大きい幽霊船が、目撃情報に上がってるね」

「そりゃ少し厄介だな、幽霊船にもレア種とかいたら嫌過ぎるんだが……まぁ、さっきの撃墜速度を見ていたら、心配する程でも無いかな?」

「無いんじゃないかなっ、それより……さっき階段を転げ落ちた協会の人たち、ちゃんとポーション飲んだかな?

 こっちに来なくなったけど、私たちは仕事続けていいんだよね?


 そりゃいいでしょと、素っ気ない対応の姫香はともかくとして。あんな連中を心配する香多奈は、やっぱり性根が優しいなと紗良は秘かに感心する。

 ただ単に、ハスキー達のお茶目で怪我したのを、怒って来ないか心配しているだけかもだが。しかもその後、ルルンバちゃんによる船ジャックである。


 もし訴えられたら、どれだけの罪状になるんだろうと戦々恐々な長女だったり。護人や姫香は全く心配しておらず、海上マップを眺めて作戦を練るのに夢中だけど。

 そしてそれはハスキー達も同じみたい、特にレイジーはれっとした表情で反省の色は全く無し。むしろ同じ船にいる連中を、厄介払いしたくて仕方が無いのかも。


 そんな行動に出られたら困る護人は、とにかく今回の依頼をさっさと終わらせるのに尽力するのみ。姫香がそろそろ目的の海域に入ったかもと、そう口にするのを耳にすると。

 レイジーに頼んで、さっきの作戦の二番煎じを敢行する。


「わおっ、やっぱ凄いねぇレイジーってば! 最近はミケに隠れて、凄さが目立たなくなってた気もしてたけど……狼だけじゃなくって、炎を鳥に替えちゃうなんてっ!

 頑張れレイジーっ、幽霊船を見付けてねっ!」

「茶々丸っ、アンタの《マナプール》でレイジーを助けてあげて。このスキルって、かなりMP消費する筈だからっ。そうそう、いい子だねっ……香多奈、ここにエーテル流し込んで本当に大丈夫なのっ?

 アンタ、良く知らない癖に思い切った事したわねっ!」


 おんなじMP回復薬じゃんと、末妹の理屈は一応筋は通っているけど。薬も与え過ぎたら毒になるんだよと、姫香は釈然としない様子である。

 とにかくそんな茶々丸のサポートスキルもあって、レイジーの炎の鳥は八方向を空から偵察してくれて。約10分後には、レイジーの遠吠えで進む方向が決定した。


 今度は10時の方向に舵取り、ルルンバちゃんの操舵は相変わらず速度からしてヤバい。お陰で紗良は、ミケの為に掛けた《結界》を解除する機会を失ってしまい。

 戦闘中でも無いのに、そろそろ継続MPが苦しい状況に。


 魔法スキルに関しては、こうやって使い続ける事で性能や持続時間が伸びる事は分かっているので。紗良も使い続ける事はやぶさかでは無いのだが、MP枯渇の気分の悪さは如何いかんともし難く。

 とうとう船酔いに似た症状で、倒れ込む一歩寸前に追い込まれ。


「ご、ゴメンねミケちゃん……これ以上のスキルでの風除けは無理っ! フードの中に入れてあげるから、それで勘弁してね?」

「ミケさんは潮の匂いも嫌いかもだから、機嫌は悪くなるかも。でも紗良お姉ちゃんっは頑張ったよっ、《結界》スキルを張ってる時間は確実に前より伸びてたもんっ!」

「我が儘なミケのために、みんなが気を遣ってる……レイジーも頑張ってくれてるのに、ちょっと不憫だよねぇ?

 これが犬と猫の違いなのかもね、護人さん」


 確かにそうかも知れない、犬は一般的にはご主人に忠実で献身的なイメージがあるのに対して。猫は気まぐれで我が儘、それが良いと言う飼い主さんに支持されている印象が。

 もっとも来栖家では、一番の年長者が猫のミケと言うのが大きい気もする。一度大きく体調を崩した事もあったし、家族が気遣うのも当然なのかも。


 それでも、特殊スキルを頑張って維持しているレイジーが、ミケより構われてないのはやっぱり不憫かも。いや、護人はちゃんと見守って心の中で応援はしてるけど。

 その甲斐あってか、レイジーが2度目の偵察隊を飛ばして30分後。ようやく反応があったと、レイジーの遠吠えに喜ぶ来栖家チームの面々である。


 今度は2時の方向らしく、ルルンバちゃんは言われた通りに舵を切ってくれた。乗っ取り操縦に慣れて来たのか、本体も船首に移動しての臨戦態勢と言う。

 どの子も器用だよねと、思わず呟く姫香だけれど。護人も全く同じ印象で、頼もしいやらこの先どうなるのか少々不安な気持ちも。


 力と言うのは不定形で、ある日突然自分達の扱い切れない形に膨らむ可能性だってあるのだ。それを思うと、強くなったなと単純に喜んで良い案件でも無い気がする。

 それより3時間以上の瀬戸内海クルージングは、いよいよ佳境に差し掛かって来た。ルルンバちゃんと一緒に船主に立った護人と姫香は、海に浮かぶ船をうっすらと肉眼で確認。

 間違いなく、アレに向かってこの船は進んでいる模様だ。


「あれっ、護人さん……私には、船が2そう並んで浮かんでるように見えるんだけど。見間違いかな、片方は結構大きく見えるかも?」

「ああっ、凄いっ……アレって海賊船じゃん、帆にドクロのマークが見えるよっ! もう片方は、残念ながら普通の幽霊船かなっ?

 ちゃんと2艘浮いてるよ、姫香お姉ちゃん」

「う~ん、凄い引きだなぁ……でかしたぞ、レイジー! さあっ、みんな戦闘準備だ……ちなみにこの船を沈められたら、港に帰れなくて大変な目に遭うからな。

 その辺を踏まえて、向こうの船を沈めてやろうっ!」


 護人に褒められて尻尾を振って喜ぶレイジーと、目的の船を発見して意気上がるメンバーたち。ただし紗良とレイジーはMP切れで、今回は活躍出来そうにない。

 しかも相手は幽霊船で、直接殴るって訳にも行かないし。さっきみたいに、ルルンバちゃんのレーザー砲に頼るくらいしか有効な手は思い付かないのだけれど。


 そろそろ甲板にいる敵の姿も見える距離になって、先に動いたのは何と向こうの海賊船だった。しかも大砲の弾が飛んで来ると言う、ご無体な攻撃方法で。

 これを喰らったらさすがに不味い、小型フェリー船など一発で沈みかねないし。そんな訳で、咄嗟に姫香が毎度の『圧縮』スキルでの防御を敢行。

 それは何とか成功したが、次々と砲弾が飛んで来る鬼仕様。


 コロ助の《防御の陣》も手伝って、空中戦の遣り取りは暫く続くかと思われたけど。レイジーの操っていた火の鳥が、そんな目立つ砲塔を放っておく筈もなく。

 空からの急襲で、一部燃え上がり始める敵の船体である。ルルンバちゃんは、挟み撃ちにしようとして来るもう一隻を、何とか沈めようと魔玉(火)や『波動砲』を撃ち込んでいる所。


 その指揮は末妹の香多奈が担っており、弾込めも事前に少女が担って準備万端である。その甲斐あって、近付こうと画策していた片方の幽霊船は近付く前にボロボロで。

 このまま行けば、何とか接近までに沈められそう。


「いいよっ、さすがルルンバちゃんだねっ! このまま沈めちゃえっ……敵の弓矢攻撃が届くようになったら、この船も危なくなっちゃうからね!

 ちゃんと船の操縦もするんだよ、ルルンバちゃん!」

「アンタってば、そんな難題を押し付けて……まぁ、ルルンバちゃんが出来てるなら良いけど。紗良姉さんっ、こっちにも炎か雷の爆破石を頂戴っ!

 直接ぶん投げて、船にダメージを与えてやるんだっ!」

「なるほど、良い手かも知れないな……おっと、萌は何をやるつもりだ?」


 遠隔攻撃が足りないと知った萌は、フェリー船の壁に仁王立ちして敵の海賊船を睨んだかと思ったら。手にした『黒雷の長槍』を天に掲げての招雷行為を敢行する。

 ミケのあの勢いには到底及ばないが、それでも萌の呼んだ雷は海賊船のマストに落ちてくれて。炎も上がって敵の陣営は割と悲惨な現状に。


 ちなみにミケはまだ静観の構え、皆の頑張りを紗良の懐から目を細めて眺めている。手を貸し過ぎては子供達の成長の妨げと、そんな思いなのかは定かでは無いけど。

 そして萌の行動に触発された香多奈も、そう言えば荷物の中に火の玉を撃ち出す杖があったよと発言する。『カボチャの杖』は、死蔵しておくには強力な武器には違いなく。


 それでも使っていないのは、以前に末妹が遊びに使って危うく敷地内で山火事になる所だったから。こんな危ないモノは封印だと、家族で決定して以来紗良の鞄の中行きに。

 そして改めて使ったその杖の威力は、やっぱり凄かったと言うしか。使用者の香多奈は、あっという間にハイ状態でMP枯渇でぶっ倒れる破目に。

 慌ててそれを介護する紗良も、同じく顔色は優れない。


「あっ、香多奈のヤンチャの火遊びで、海賊船のデッキ部分に火がついたかもっ!? でも相手も随分接近して、弓矢の攻撃も始まっちゃった!

 骸骨兵の数多いね、海賊の首領っぽい大物もいるよ、護人さんっ!」

「ああ、何とかガードを頼むよ、姫香……もう片方の幽霊船は、ルルンバちゃんがもうすぐ沈めてくれそうだ。

 こっちの海賊船は、何とか俺たちで撃破してやろう」

「そうだね、香多奈はMP不足でぶっ倒れたし、ミケは手出しするつもりは無いみたいだし。でもあと一手が難しいよねっ、レイジーもさすがに茶々丸の補佐があっても、召喚魔法は打ち止めみたいだよ。

 私も《豪風》で攻撃してみようかなぁ?」


 そう言う姫香だが、コロ助と一緒に相手から放たれる矢弾の防御に忙しそう。護人も何とか加勢したいけど、弓矢の射撃でこちらより大きな船が沈むとも考えられない。

 その時、薔薇のマントが奇妙な引っ張るような動きを示した。ご主人の思念を読んだのか、遠距離攻撃なら任せとけみたいな変身を始めている。


 その形状は、何と言うかロケットランチャーのような筒の形状で。嫌な予感の護人は、そう言えば先日の“戦艦ダンジョン”でロケット砲弾をゲットしたなと思い出す。

 そんな事を考えている内に、薔薇のマントは勝手に照準を敵の海賊船に合わせた模様。肩口から砲塔を生やした格好の護人は、もう好きにしてくれと思考放棄。


 そして派手な発射音と共に放たれるロケット砲と、危うく鼓膜を破壊されそうになる護人と言う。無事に命中した砲弾は、着弾地点で派手に爆発をしてくれた。

 続いて3発ほど撃ったところで、向こうの海賊船は割と悲惨な形状に。黒煙を上げながら、束の間そのシルエットが揺蕩たゆたったかと思ったら。

 一条の煙を残して、突然フッと消えてしまった。





 ――かくして壮絶な海上の戦いは、静かな幕引きとなるのだった。







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