第458話 遠征2日目の夜をゆったりキャンプで過ごす件
“三景園ダンジョン”の攻略を、何とか無事に終えたその夕方の来栖家なのだが。疲れたねぇとか呑気に話し合いながら、行き先は家長の護人に丸投げの子供達である。
さすがに2日連続でのダンジョン探索は、遠征以外では経験が無いので。年に何度かあるかなって感じで、疲労が
それはペット達も同じで、キャンピングカーのお決まりの位置に居座って今は静かなモノ。護人は車を走らせながら、そんな一行に近くのキャンプ場に今夜は泊まるよと告げる。
昨日もキャンプ泊だったので、さすがに連日は辛いかなとも思うのだけれど。空港近くのホテルだと、さすがにペット達は連れて入れないので。
それならせっかくのキャンピングカーなので、こちらに宿泊する方が良いとの判断だ。とは言えお風呂くらいは入りたいので、それは何とかホテルに頼み込むつもり。
そんな訳で、ちょっと寄り道して現在はホテル前の駐車場である。
「町の奪還チームは、さすがにまだ帰って来てないみたいだな。ホテルの人に聞いたら、このホテルには大浴場もあるみたいだよ。
そっちを使わせて貰えるそうだから、みんなで行っておいで」
「は~い、それじゃあミケさんを預かっておいてね、叔父さんっ♪ ちょっと長湯になるかもだけど、それは仕方ないよねっ!」
「なるべく早く戻るね、護人さん……ハスキー達も、車で大人しく待っててね!」
そんな感じで、留守番にハスキー達を残してホテルへと向かう家族である。そこも半分は、三原奪還作戦の前哨基地と化している雰囲気で。
ロビーでさっそく、協会の職員に捕まってしまう護人であった。まぁ、護人も話したい事があったので、その点は良かったけど。
昨日の探索終わりは、空港方面まで戻る前に民宿に寄ってお風呂だけ借りたのだった。それから空港の空き地でキャンプ泊をして、協会スタッフとは接触しなかったので。
向こうも相当忙しかったみたいで、サポート要員のこちらに構う暇は無かった模様。それでも2日目の今日は、何か用件でもあるのか接触を持って来て。
そんな訳で、ミケを抱えたままホテルのロビーに誘われる護人である。ミケの同伴は、単に末妹の我が儘だったりして。つまりは、猫位ならホテル側も見逃してくれるだろうと。
さすがにお風呂に連行は(ミケが)嫌がるので、こうやって護人に預けられた次第である。ミケにしても、家族のボディガード気分を満喫しているようで。
まぁ、睡眠を優先するのはご愛敬って感じ。
「今回は、時間を取らせてしまって申し訳ありません。A級ランクの『日馬割』チームのリーダー、来栖護人様で
先日の“戦艦ダンジョン”のコア持ち出しの成功については、こちらも把握しております。今日は確か、近場の“三景園ダンジョン”の間引きをなさったとか。
お疲れさまでした……それで、こちらの方とは初見で?」
「そうですね、初めまして……世羅のギルド『疾風連合』のギルマス、
自分は戦闘員では無いので、こうやってバックアップにほっつき歩いている次第でして」
「はぁ、どうも初めまして……『日馬割』ギルドの来栖護人と申します。そう言えば、2方面での作戦内容だと最初の説明で聞きましたね。
なるほど、それはお疲れ様です」
お互いに挨拶やら名刺交換を挟んで、握手を交わす両者である。桐谷と名乗った若者は、眼鏡をかけた優男って感じで確かに戦闘力はほぼ無さそうだ。
それでもギルドのリーダーになったって事は、よほど頭が切れるのだろう。ギルド管理能力に優れていれば、確かに探索者でなくてもその役割は担えると護人も思う。
そして前線に出ない代わりに、情報収集やらバックアップで活躍しさえすれば。確かに戦ってる者にしても、信頼は置けるし本隊の被害も少なくて済むだろう。
その点は前線でバリバリ戦っている、“皇帝”甲斐谷とは真逆ではあるけど。どっちが良いって話でも無いだろうし、護人にしても論じるつもりもない。
そしてその桐谷がさっそく切り出したのは、何と護人が“戦艦ダンジョン”で回収した現代兵器の売買だった。確かにそれら軍用品を、上手く使えば戦力アップは間違いなしだ。
ただまぁ、銃やら何やら簡単に扱えるかは不明だけど。例えばチームに、元自衛隊員でもいればその点を心配する事も無いって事でもある。
そう尋ねると、向こうは柔らかい笑みで深く頷いて。
「それなら問題ありませんね……実はこちらも兵器類を回収したのは良いけど、どう扱うべきか協会に相談しようと思ってたんです。
何なら岩国のチームに融通しようかって、仲間とも話していたんですが。協会が倫理的に問題無いと仰るなら、無償でそちらにお譲りしますよ。
まぁ、そこまで大量に回収出来た訳では無いですけど」
「協会的には何の問題もありませんが……えっ、無償で……?」
その申し出には、協会の職員どころか当の桐谷も驚いた表情で。護人からすれば、こんな非常事態に向こうの足元を見て売りつける気など全く無い。
ミケを抱え上げて、キャンピングカーに案内しますと申し出ると。慌てて追従する両者だが、その表情は相変わらず戸惑いっばなしである。
そこからの武器の受け渡しは、何とか無事に成功となった。向こうも魔法の鞄を持参していたし、北のチームも順調に作戦を進められているって情報も得られたし。
相変わらず来客には容赦のない、ハスキー達の威圧に関しては可哀想だったけど。終始顔を蒼褪めさせていた桐谷と協会職員は、生きた心地がしなかったかも?
その代わりと言ってはアレだが、拳銃やマシンガンやバズーカ砲に加え、弾丸各種と思ったより回収品は多かった。ついでにエーテルや上級ポーションも融通して、相手の作戦成功など祈っての送り出しに。
ハスキー達は主の言葉に、特に何の感慨も抱かなかったようで。ここは来栖家の敷地だぞと、それに関しては一歩も引かない構え。来客の立場からしてみれば、終始崖淵に追い込まれた
その点については、申し訳ない気分でいっぱいの護人ではあった。
それでも厄介な兵器の在庫を片付ける事が出来て、一応は良かったのだろう。その後は護人も風呂に入りたかったので、ミケを車内に残して再びホテルへと赴いて。
30分後に戻ってみると、既に子供達もキャンピングカーで寛いでいた。紗良は夕食の準備を始めており、香多奈は先日ゲットした宝の地図を眺めてニマニマしている。
それから姫香が、妖精ちゃんに手伝って貰って魔法アイテムの鑑定終わったよと報告して来て。雑用を率先してやってくれる子供達は、本当に有り難い限り。
その結果報告を、座りながら受ける護人である。
【迷彩のバンダナ】装備効果:気配遮断&隠密・中
【弾丸のペンダント】装備効果:水耐性&衝撃耐性・小
【手榴弾のペンダント】装備効果:衝撃耐性&ステup・中
【飛迅の薙刀】装備効果:不折&鋭刃&波撃・大
その他:『強化の巻物』 (攻撃)×2『強化の巻物』 (防御)×2、『魔法の軍用鞄』(空間収納)×1、『銃剣付き魔銃』×1
【椿のブローチ】装備効果:耐性up・小
【紅葉柄の着物】装備効果:ステup&耐性up・中
【魔法の杖】装備効果:魔力up・中
【木の実のペンダント】装備効果:遠隔攻撃up・小
【紫陽花の法被】装備効果:サイズ補正&攻撃力up・大
その他:『強化の巻物』 (耐性)×2、『沼龍の血』(秘薬素材)×700ml
新造ダンジョンと期待したけど、魔法アイテムに関してはショボかった“戦艦ダンジョン”の回収内容である。それでも魔法の鞄と魔銃、それから魔法の地図のゲットは凄いかも。
ついでに護人も、兵器類を協会に渡して処分したよと家族に報告。それは良かったねと、姫香は満足そうに頷くのだが。香多奈は処分との発言に、お金にならなかったのと不満そう。
それはともかく、その他の迷彩服や何やらの遺留品と思われる品々だが。ダンジョン法に
そもそも新品でドロップするので、遺留品と称するのも考え過ぎだと協会職員からは妙な顔をされてしまった。そんな訳で、残りの品は青空市ででも売りに出す事に。
そして今日の“三景園ダンジョン”の魔法アイテムだけど、15層潜ったにしては微妙かも。まぁ、魔法アイテムは運の要素も強かったりするけれど。
回収品についても微妙で、デコポンやもみじ饅頭が嬉しいかなって感じ。薪の束も回収出来たので、そちらはキャンプで有り難く使わせて貰う予定。
米粉の麺も同じく、それらや虹色の果実についても紗良が美味しく調理してくれる事だろう。最近は誰が食べるかって議論も無く、食卓に出されたら欲しい人が食べる方針で。
たまに香多奈がパクつくと、姉の姫香に白い目で見られる程度だ。ミケや萌に関しては、固形の果物には見向きもしないと言う。
それはそれで、何だか不公平感が漂って嫌な紗良なのだった。
ハスキー達に関しては、自主練で経験値稼ぎもしている様だし別に構わないのだが。たまに香多奈もお裾分けしているし、来栖家の平穏はそうやって保たれていたりして。
そんな感じで、姫香の報告会は終了して。後はスキル書とオーブ珠の相性チェックだねと、この2日で回収したスキル書とオーブ珠をキャンピングカーの机に並べる姫香。
それを見て、ハスキー達が毎度の行為かと反応して寄って来た。何だかんだで、スキル取得で己の強さを高めるのは、彼女達にも好評な模様である。
人間の子供姿に変身済みの茶々丸も、興奮しながら自分の番を待っている。今回は2つのダンジョンを足して、合計で10回程度のチェックとなかなか大変なのだけど。
まずは香多奈が全て玉砕、姫香も自分のチェックを終えて駄目だったとアッサリ報告して。それから近くにいた、ツグミとレイジーのチェックを始めている。
香多奈も
それから萌の短い手に苦労しながらのチェック、姫香はルルンバちゃんの吸い込み口にスキル書を押し込むと言う独特の方法を経て。後は護人と紗良だけとなって、何故か子供達の期待は一身に家長の護人に集まると言う。
これは最初の、護人がなかなかスキルを覚えられなかったトラウマに原因があると思われるけど。何故か期待されてない紗良が、オーブ珠のスキルを引き当ててしまうと言う珍事に。
アレっと言う微妙な空気の中、護人は見事に総スカンのいつものパターン。それでも家族の中で、1人でも当たりを引き当てたのは当然大きいし嬉しい出来事だ。
そんな訳で、バンザーイと騒ぎ始める子供達だった。
「あっ、ありがとうみんな……えっと、妖精ちゃんには《浄化》のスキルを覚えたと言われたかなっ? あっ、護人さん……夕食の下準備が出来たから、車を出しても大丈夫ですよ。
今夜の宿泊先は、確か近くのキャンプ場でしたっけ?」
「そうだね、明日は丸1日休んで良いってお達しをさっき貰ったから、そこで明日はゆっくりしようか。施設の管理者のいなくなったキャンプ場だから、多少荒れてるとは思うけど。
トイレくらいは使えるだろうし、広いスペースもある筈だからね」
「了解っ、でも《浄化》スキルかぁ……紗良姉さんも、星羅ちゃんみたいに将来は西広島の“聖女”とか言われるようになるのかな?
楽しみだね、これで来栖家チームもまた強くなるよっ!」
紗良お姉ちゃんも、もうすぐA級ランクだもんねと香多奈は
今の時代、各自治体は問題点を山ほど抱えているし、広域ダンジョンはあちこちに存在するのだ。探索者の数は相変わらず不足気味で、特に高ランクとなると引っ張りだこなのは間違いなし。
既に来栖家チームは、そんなサイクルに突入していると言えなくも無いけど。これ以上の忙しい案件を抱えるとか、家の田畑の世話もあるので無理!
そんな感じで、脳内で忙しなく考える護人である。
――そんな騒がしい夕闇の中、キャンピングカーは静かに出発するのだった。
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