第457話 15層に到達して庭園ダンジョンを締める件



 その後付近の捜索をして、発見した東屋に宝箱が設置されていたのを見付けた一行。中からは鑑定の書(上級)やら薬品類やら、木の実やら魔石(小)が出て来て。

 他には木の素材が少々に苔類やドライフラワーが少々、どんぐりやら食べられない木の実も結構な数入っていた。その程度かなと思ったが、木の実をかたどったペンダントはどうやら魔法アイテムらしい。


 妖精ちゃん的には当たりっぽいけど、彼女は途中で出たお饅頭が食べたくて仕方が無い様子。仕方が無いので、いつもの香多奈のボッケで軽食を与える作戦に。

 そんな雑多な事態をこなしながら、12層は何とかクリア出来た。つまりは東屋のすぐ近くに階段を発見して、時間を掛けずに13層へと到達する事が出来て。


 そこも景色は似たような感じで、広々とした日本庭園が周囲に窺える。涼しげな池と石橋と石灯籠、東屋も幾つか形違いのが池の周りに散在していて。

 それを囲むように小高い丘の散策コースと、紫陽花あじさい小路が続いていると言う。もっとも景色を楽しむ前に、池の方からリザードマンの舞台が出現して襲い掛かって来ているけど。

 その相手に忙しい前衛陣と、応援する後衛陣。


「おっと、後ろからも大セミと……あの黒い奴らは、アリ獣人の群れかな? 数も多いな、こっちは俺とルルンバちゃんで片付けようか。

 連中に近付かれる前に、紗良の魔法で減らす手もあるな」

「それじゃあ向こうの群れに撃ちますね、護人さんっ。空から来る敵は、そちらで相手をお願いします……えいっ!」

「頑張れ、紗良お姉ちゃんっ……やっぱり13層まで来ると、敵も多いし大変だねっ!」


 そんな事を口にする末妹は、いつも通りで至って呑気そうなのだが。幸いにも紗良の先制打は、1ダース以上ものアリ獣人の兵団に大打撃を与えたようで。

 前に出ながらも飛び交う大セミを弓矢で迎撃していた、護人も時間的余裕を貰えて一安心。ルルンバちゃんも同じく、魔銃で護人の真似をしながら敵の数減らしに貢献して。


 そして冷気ダメージを喰らったアリ獣人は、どうやら思いっ切り弱点属性だった様で既にヘロヘロ。良いのかなって感じで前に出たルルンバちゃんが、武器を振るって倒して行くのだが。

 ろくな反撃も出来ずに、何と言うかルルンバちゃんの前衛の練習台みたいな感じで戦闘は終了の運びに。それでも喜んでガッツポーズをする、末っ子気質の彼である。


 それとほぼ同時に、前衛陣もリザードマンの群れを撃破し終わった様子で。ところがツグミは依然として警戒態勢で、それにいち早く主の姫香も気付いての声掛け。

 チームに対して、まだ敵が近くに潜んでいるよと。


「おっと、どこに潜んでるんだろうな……ひょっとしたら、また精霊系の強い奴かも。みんな、充分に気をつけて行こう」

「えっ、でも……ツグミでも怪しい気配しか分かんないんでしょ? このまま敵が出て来るまで、こうやって我慢比べしてるの?」

「そんな心配いらないよ、香多奈……大体の位置は分かってるし、向こうもそんな気長な性格の筈は無いでしょ。

 すぐに我慢出来なくなって、襲い掛かって来るわよ」


 その姫香の言葉通り、ツグミの警戒していた敵の気配は一気に濃くなって爆ぜて行った。いざとなったら護人も《心眼》を使う予定だったけど、その心配は杞憂に終わって。

 目立ちたがり屋だったのかと思う程、その登場は派手で一行の度肝を抜いた。池の近くの石灯籠が、突然巨大化して襲い掛かって来たのだ。


 その姿はゴーレムに見えなくもないが、初手に石のつぶてを放って来る所を見るに。どうやらコイツも、岩の狂精霊かなと見当をつける護人である。

 その旨の警戒をチームに飛ばして、盾を手に前へと出て行くチームリーダーだったけど。石の礫は、今や投石かってレベルで容赦のない有り様。


 ハスキー達は何とか避けているけど、反撃までには転じられない様子。姫香も『圧縮』ガードで精一杯、その場から動けずに敵の攻撃が止むのを待っている。

 そこにルルンバちゃんの『波動砲』が炸裂して、やりたい放題だった岩のゴーレムモドキの動きを止めた。その隙を見定めて、護人と姫香が同時に突っ込んで行く。


 命の危機を感じたのか、その進行を塞ぐように岩で出来た壁が瞬時に立ち上がった。魔法の岩壁に行く手を阻まれて、立ち往生する両者であったけど。

 ルルンバちゃんは空気を読まず、尚もレーザー砲を撃ち続け。哀れな岩の狂精霊は、全ての攻撃は防ぎ切れずに次第にボロボロになって行くのみ。

 そして護人が飛行で接近した瞬間に、既に勝負はついていた。


「やったね、護人さんっ! ひあっ、それにしても怖かったね……あんなにたくさん岩礫を飛ばされたら、あざだけじゃ済まなかったよ。

 ハスキー達は平気だったかな、誰も怪我してない?」

「今診るね……連戦になっちゃったし、休憩を挟んでも良いかもですね、護人さん。ハスキー達に茶々丸ちゃん、こっちにおいで?」

「それじゃあ私は、ルルンバちゃんと魔石拾ってるね!」


 そんな訳でいつもの休息風景、ハスキー達も素直に従って紗良の元へと集まって来る。姫香も相棒をガシガシ撫でて、MP回復ポーションの準備を始める。

 このフロアはさすがに敵に関しては品切れの様で、辺りは平和そのものの静けさ。時折響く鹿威しのカッコン音と、遠くから聞こえる滝水の落下音が良いアクセントである。


 そんな中での休憩も、10分程度で恙無つつがなく終了して。香多奈からこのフロアの滝はまだ見て無いねと、催促の言葉が発された。

 それを受けて、奥の池へ続く木立ちへと進行方向を定めるハスキー達。階段を発見出来なかったら無駄足なのだが、家族の言葉には敏感なレイジー達である。


 そして景色を愛でながら進む事数分、狩り残しのモンスターの相手をしながらの道のりの果てに。なかなか立派な滝を発見して、おおっとテンションの上がる子供たち。

 香多奈も熱心に撮影を始めて、紗良に対して水浴びのシーンが撮りたいとか無茶振りして来る始末。まぁ、靴を脱いで滝つぼに入って欲しいって意味らしいけど。


 マイナスイオンが何たらとか、被写体にコロ助も参加してとかうるさく喋りまくる末妹に対して。ダンジョンの中だから、出てるのは魔素だけだよと鋭いツッコミの姫香だったり。

 ダンジョンジョークの上手い姫香に対して、お姉ちゃんは黙っててと喧嘩の始まりそうな雰囲気の中。コロ助は浅瀬で水遊びを始めて、何だか収集もつきそうにない感じ。

 ちなみに階段は、すぐ近くに発見済みである。


「ほらっ、階段も見付かったしそろそろ移動するぞ、みんな。お昼ご飯も食べて、集中力も切れかかって来ている頃だろうけど。

 あと2層分、何とか頑張ってくれよ」

「は~い、歩き回るのも疲れて来たし、さっさと15層の中ボス倒して終わろうっ!」

「そうだね、間引きも充分やったと思うし……後は15層まで進んで、帰還用の魔方陣使ってみんなで戻るだけだねっ!」


 そう言って気勢を上げる姉妹は、こんな場面ではとっても仲良しだ。水遊びをしていたハスキー達も、進めの号令を受けて階段へと向かって行く。

 長時間の探索では、どうしても中だるみと言うか途中で集中力が途切れがちではあるけど。そんな中での探索は、大怪我に繋がるかもと護人の懸念はおおむね正しい。


 ハスキー達に限っては、そこまでたるんで無くて足取りもきびきびしている。そして辿り着いた14層でも、一行は熱烈な歓迎を受け。

 山側からはアリ獣人と大セミの襲来が、池の方面からはリザードマンと水蛇の混成軍が。幾らも進まない内に挟み撃ちに遭って、またまたこのフロアでも派手な戦闘が始まった。


 望まない挟み撃ちだけど、向こうのテリトリーなので待ち伏せとか各個撃破も儘ならず。仕方なく、さっきと同じ陣容で両面作戦で迎え撃つ来栖家チームである。

 そして、またも初っ端に吹き荒れる紗良の《氷雪》の猛威。


 その反対側では、レイジーの『魔炎』が威力を発揮していて場は一気にカオス状態へ。相変わらず派手なハスキー達の戦闘シーンだが、敵の数は確実に減っている。

 護人とルルンバちゃん側も、空の敵を遠距離武器で確実に駆逐して行って。弱った地上部隊のアリ獣人の到来を、のんびり待つ余裕まである様子。


 そう言う意味では、敵が固まった場所への魔法の先制打は優れた作戦ではある。場所やタイミングを選ぶので、毎回使える戦法では無いのだけれど。

 紗良も積極的な性格では無いので、自分からは言い出さないのがネックではある。まぁ、そんな細かい作戦が無くても、来栖家チームはパワーで押し切ってしまえるのだが。


 今回もそんな感じで、リザードマンとアリ獣人の軍勢は全て魔石に変わって行って。その数を数えると、30個近くと言う物凄いフィーバー振りだった。

 それから15分後には、幾つかの戦闘を経て15層へと辿り着いて。ちょっと探し回っただけで、池の中央に板張りの舞台となっていた中ボスの間を発見した。

 あとはそこに居座る、ボスを討伐して戻るだけ。



「そんな訳で、最後の中ボス戦は気を引き締めて行こうか。どうしても緩みそうになったら、ミケに頼んでもいいから余計な怪我だけはしないようにな。

 もう3時過ぎだから、6時間以上か……確かに集中力もなくなるな」

「そうですね……でもそのせいで怪我をするのも、確かにつまらないですもんね。香多奈ちゃん、あとちょっとだからお互いに頑張ろうっ!」

「えっ、私まだまだ元気だよっ? まぁ、ミケさんが最後位は出番が欲しいってんなら、譲ってあげても良いけど」


 元気と集中力は微妙に違うのだが、ミケはそろそろ締めの時間かと紗良の肩の上で起き上がる素振り。この中ボスの間も大き目のお堂の舞台で、中ボスの姿も確認済み。

 それは双頭のリザードマンで、体長は3メートルはあろうかと言う大物で。池の上に張り出した舞台には、部下のリザードマンも多数窺えるのだが。


 それなら紗良姉も先制の攻撃をしちゃえばと、ヤンチャな作戦会議はいつもの速攻に傾きそう。そんな訳で、敵の反応しそうなギリギリまで近付いての、身も蓋も無い遠隔魔法のダブル攻撃の敢行など。

 その暴虐の2属性の魔法は、破壊不能と言われるダンジョンの構造物すら壊す勢いで。特にミケの『雷槌』は、ある程度固まっていたモンスターを薙ぎ払って行く。


 香多奈がうひゃとか、そんな呟きを発する間に戦いは終わっていた。まぁ、あの一方的な暴力を戦いと呼ぶかは判断の分かれる所だろうけど。

 そうして敵の姿の完全に消滅した舞台に、一行はゆっくりと近付いて行く。舞台の上には魔石が幾つかと、ちゃんとスキル書も1枚落ちていて何より。

 何しろさっきの攻撃は、何もかも薙ぎ払おうって威力だったし。


「良かった、ちゃんとドロップ品は残ってたよ……ミケさんってば、たまの出番になると物凄く張り切っちゃうんだから。

 ちゃんと帰りのワープ通路と、宝箱もあるね!」

「良かったな、帰りが延々と歩きじゃ無くて……それじゃあ、宝箱の中身を回収して帰ろうか。戻ってゆっくり休もう、さすがに連日の探索は疲労度が違うしな」


 私はまだまだ平気なのにと、強がる末妹の発言はさて置いて。宝箱を回収する紗良と香多奈は、中身を確認しながら相変わらず幸せそう。

 それこそ連日の探索の疲れも吹っ飛ぶ、特効薬とでもいおうか。例え中身が、鑑定の書や薬品類、魔結晶(中)や魔玉や木の実と至って普通だったとしても。


 妖精ちゃんによると、紫陽花の柄の法被が当たりらしいのだが。それを除けば、後は中級エリクサーくらいしか当たりは無かった模様である。

 それでも今回も無事に探索を終われそうで、それが何よりの知らせである。護人としては、この後も子供の休める環境を整えてやらないといけないけど。

 チームの運営リーダーとしては、そこまでが探索と言えるかも?





 ――ダンジョンの奥深く、そんな事を考える護人であった。







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