第454話 庭園の中ボス戦を思いっ切り満喫する件



 4層は茶屋の建物からスタートで、今回は隠された宝箱は無し。それを残念がりながら、建物を出て次のルートを模索する姫香である。

 要するに、さっきと同じ道順で良いかとのリーダーの護人への問いかけに。階段への最短ルートなら文句は無いよと、単純な往復作業に否は無いとの返しなのだが。


 香多奈はそれが不服なようで、たまには別の道も通ってみようよと我が儘全開である。とは言え、その寄り道の途中に下層への階段がある確率はとっても低い。

 いや、この“三景園ダンジョン”はフィールド型なので、複数の下層への通路がある可能性は捨て切れないけど。わざわざ過剰な労働をしてまで、それを突き止めるのもどうかなと。


 まぁ、今後の探索者への情報として今回は来栖家チームが苦労するのはアリかもだけど。単なる末妹の我が儘に振り回されるってのは、如何いかがなモノかと憤慨する姫香である。

 ハスキー達は、さっさと進めさせてくれと姉妹の睨み合いにはまるで興味が無い様子。そして結局は、末妹に甘い護人が折れるパターンに。

 つまりは、少し縁側の散歩道も試してみようと。


「本当に護人さんってば、香多奈の我が儘に甘いんだからっ! ハスキー達、この層は向こうの山側の遊歩道で、次の層への階段を探すわよっ。

 もし無かったら、香多奈のお尻にかじり付いてもいいからねっ!」

「何でよっ、階段が見付からなくても私の責任じゃ無いでしょっ!?」

「ほらほら、喧嘩しないで……ハスキー達は全然構わずに飛んでっちゃったし、私たちも急いで追わなきゃ」


 本当に命令に忠実なハスキー達は、ぶっちゃけどのルートでも構わないみたい。要するに、自分達の出番がちゃんとあって暴れられればストレスは溜まらないのだ。

 紗良の声掛けに、不承不承の体で姫香がハスキー達を追い駆け始める。香多奈たち後衛も進み始めるが、少女は気掛かりなのか隣を歩く護人に確認の言葉。


 つまりは、もし別のルートで階段が見付からなくても罰は無いよねと。ハスキーにお尻を齧られる罰はともかくとして、お昼ご飯抜きとかも絶対に嫌だ。

 それを聞いて、護人は思わず成る程と考え込む素振り。それを見て慌てる末妹を見て、後ろを歩く紗良がクスクスと笑い始めている。

 総じて、後衛陣はとっても平和な道のりで。



 一方の前衛陣は、斜面の茂みから出現した大ハクビシンやイタチ獣人の群れに嬉々として襲い掛かって。さほど時間も掛けずに、魔石へと変えて行っている。

 茶々丸もその速度について行けているのは、彼の成長の証と捉えて良いモノか。姫香は後ろから眺めながら、何となくハスキー達の戦闘風景の分析をしてみる事に。


 最近やたらと殲滅速度が上がった理由は、どうやらレイジーの『蝸牛のペンダント』にあるらしい。その空間収納能力で、レイジーは自在に武器を選択して戦うスタイルを身につけて。

 それを見習うツグミとコロ助も、咬み付くより武器を咥えて戦うスタイルに自然とシフトして行って。そのせいで、犬らしくない洗練された戦いが目の前に広がっている。


 レイジーは『焔の魔剣』と『可変ソード』を、敵と場所によって使い分けている感じだろうか。もちろん『炎のランプ』も自己管理していて、今後は使う頻度も上がるかも。

 ツグミは『八双自在鞭』がお気に入りで、延焼や放電や冷却の追加効果を勉強中の模様。母親にならって、使う頻度も上昇しており腕前もメキメキ上がっている。


 コロ助に関しては、今のところは『白木のハンマー』のみの扱いだけど。所持スキルの『剛力』と合わせると、これが侮れない威力となって発揮される事に。

 硬い敵との相性は、そんな訳でチームではトップクラスにのぼり詰め。ハンマーを持つと、途端にご機嫌になるお調子者のコロ助なのであった。

 そんなハスキー達は、このエリアも絶好調で進んでおり。


 しょせんはC級ダンジョンのモンスターが相手と言うのもあって、あっという間に距離を稼いで行き。後衛陣が追い付くのを待ちながら、指示された階段探しを行っている。

 優秀なハスキー軍団の手際を、姫香も呆れ半分に眺めており。一緒に探索出来て楽しくて仕方なさそうな彼女達を、褒めてやりながら絆の確立など行いつつ。


 気付けば丘の尾根に辿り着いていて、そこからの見晴らしは確かに良い。末妹にほれ見ろと言われるのはしゃくだが、その奥の斜面についでに階段も発見してしまって。

 その手際もついでに褒めてあげて、後衛陣が追い付くのを待つ姫香だけど。次はいよいよ第5層だし、この先は余り勝手もさせていられない。


 何しろ次は中ボスのエリアだし、ハスキー達ばかりに頼る訳にも。探索のレベルアップのお陰か、強さとスタミナは遥かに以前よりアップした彼女達とは言え。

 たまにはこちらも活躍しないと、一緒に来た意味が無いじゃんと姫香などは思ってみたり。そんな訳で、中ボス戦は自分が戦うねと姫香はリーダーに立候補。


「まぁ、それは構わないけど……おっと、階段もちゃんと見付かったんだな。ハスキー達もご苦労様、まだ強い敵は出て来てはいないみたいだな。

 次は中ボス層だし、気を引き締めて行こうか」

「ほらほらっ、やっぱりこっちのルートにも階段あったじゃん……それに凄く良い眺めだよっ、回り道するのも全然アリじゃんかっ!

 お姉ちゃんってば、頭が固いんだから」

「何で1個階段が見付かっただけで、そこまで言われなきゃなんないのよっ!?」


 そして始まる姉妹喧嘩に、毎度の護人と紗良の取り成しが介入して。騒がしい一行は、階段を降りて中ボスの待つ第5層へと足を踏み入れる。

 そして小高い丘の尾根から見下ろした、池の中央の建物にビックリ仰天。さっきまでのエリアには、絶対に無かったお堂みたいな池の上の建造物は一体ナニ?


 想像は色々と巡らせられるけど、ダンジョンもなかなかオツな仕掛けを用意してくれる。つまりはあそこが、5層の中ボスの部屋となっているみたい。

 敵の姿は見えるかなと、騒々しく注視する子供達だけど。そこまでサービス精神は旺盛では無いようで、今のところは壁の無い板の間のステージに敵影は無し。


 その代わり、そこに近付くまでに戦闘が少々……例の如くのイタチ獣人やウッドゴーレムが、茂みから飛び出して来て足止め役を担うけど。

 ハスキー軍団&茶々丸が、手早く片付けてくれて無事に池の前まで到達に成功。そこからは池の中央の舞台まで一本道の木製の橋が掛かっている。

 それを渡れば、恐らくは中ボス戦の流れの筈。


 ところが一行が舞台に足を掛けても、中ボスの姿は未だに出現せず。舞台の端っこには下への階段と、それから宝箱のセットが窺えて。

 取っちゃいますよぉと、香多奈のお茶目な忠告は恐らくは関係無かったのだろう。それでもハスキー達が中央へと進み寄ると、ようやく周囲の水面に変化が。


 ようやく来たかと一行は迎撃の構えを取るが、どっこい敵の仕掛けは想像以上だった。何と水弾のような、水の蛇のような物体が3方向から襲い掛かって来て。

 その勢いと速度は凄まじく、武器で受けた姫香は愛用の鍬を吹き飛ばされてしまった程。吹き飛んだ鍬は、お堂の屋根の裏側に突き刺さって水没はまぬがれたけど。


 ハスキー達は手出しも出来ず、護人も盾を弾かれ大ピンチ。後衛陣も同じく、悲鳴をあげながらルルンバちゃんの影に入る事には成功して事なきを得たとは言え。

 そのルルンバちゃんも、どうする事も出来ずに固まってしまっている。敵の種類も判然としない中、この不意打ちは上手くやられたって感じ。

 何よりツグミも反応出来なかったとは、敵を褒めるしかない。


「ヤバいよ、護人さんっ……私の武器が吹っ飛んでいっちゃった! 敵の正体も分からないし、どうしたらいいと思う!?」

「敵は離れてる者を狙い撃ちしてるな……いったん密集して、敵の攻撃を見定めよう。紗良っ、近くの水面を氷魔法で固めてくれっ!

 反撃は、敵の来る方向を確定してからだ!」

「り、了解しました、護人さんっ」


 慌てる子供達に指示を出して、自分も改めて水弾を飛ばした推定中ボスに備える護人。恐ろしい威力の水魔法の使い手なのか、あの高速で飛来する水弾が敵の正体なのか。

 現時点ではまだどちらか分からないが、一行が固まった事で敵の飛来コースもある程度絞れるようになって。姫香の『圧縮』やコロ助の《防御の陣》で、何とか直撃は避けられるように。


 とは言え、障壁に当たった時の衝撃音は相変わらず凄まじいモノが。武器を取りに行けない姫香は、ひえっとか叫びながらも何とももどかしそうだ。

 そして紗良の《氷雪》だが、凄まじい勢いで水面を凍らせて行ってくれた。どうもこの前使った『魔導の書』は、精密度より威力の底上げに傾倒していたようで。


 お堂の橋が繋がっている側の半分を、真っ白い氷で埋め尽くして行く始末。それを見ていた香多奈は、おおっと驚きながら姉の手腕に感心する素振り。

 そして一緒に凍った間抜けな敵を発見して、隣の萌にそいつの粉砕を命じる。それはどうやら、両手で抱える大きさのミズスマシのようで、こいつが恐らく中ボスの正体か。

 だとしたら、あと2匹はまだどこかにいる筈。


「叔父さんっ、紗良お姉ちゃんと萌のコンビで1匹敵をやっつけたよっ! なんかミズスマシみたいな奴が、水の中に潜んでいるのかもっ!?」

「よくやった、氷魔法の作戦は想像以上の効果だったな……あと何匹かいるぞ、まだ気を抜くなっ!」

「萌ちゃんっ、氷の上で遊んでないで早く戻ってらっしゃい……そこにいると、敵に狙われちゃうわよっ!?」


 萌は別に遊んでいる訳ではなく、魔石が落ちていたので拾って帰ろうとしていたのだが。紗良の懸念は大当たりで、お堂を単身飛び出した彼は、中ボスの1匹に狙われる破目に。

 毎度のマッハの水弾体当たりに、しかし萌は慌てた感じも無く。その中心を見極めての、まさかのカウンターでの『黒雷の長槍』での突き攻撃。


 哀れな大ミズスマシは、避ける事も出来ずに周囲の水を剝がされて絶命してしまった。ビックリした末妹の称賛の叫び声に、彼は少し照れたように魔石を拾って帰路につく。

 その姿は、やっぱりどこかユーモラス。


 そしていつの間にか残り1匹になった中ボスも、コロ助の障壁にぶつかった所を何とか護人が捕獲に成功。と言うか、弾かれた角度が悪くて水中に本体が戻れなかったようで。

 その隙を突いての討伐に、これで全ての敵は倒し終わった感じか。念の為にと警戒しつつも、武器を回収に向かう姫香とそれを手伝うルルンバちゃん。


 そんな感じで壁なしお堂の舞台上でごそごそやってても、追加の襲撃はもう無い模様だ。つまり中ボス戦は、これにて終了は間違いないらしい。

 呆気無い気もするけど、C級ダンジョンの5階層だしこんなモノか。そんな事より、香多奈は宝箱の中身のチェックに忙しそう。


 姫香も無事に武器の回収を終えて、宝箱の中身回収に元気に合流している。入っていたのは平凡な薬品類に鑑定の書、木の実に魔石(中)が5個と言った所で。

 外れとまでは言わないけど、大喜びするには微妙なラインナップである。他には米粉の麺が幾らかと干しダコが入っていて、どちらも三原の名産品らしい。

 良く分からないけど、食料品は大歓迎の子供達である。


 昨日の夜は、“戦艦ダンジョン”で回収した軍用レーションも食べてみたのだが。概ね好評で、色んな種類のそれらを試し食いして楽しんだ次第である。

 今回の米粉の麺の回収品も、紗良は興味津々の様子で。どうやって皆に食べて貰おうかなと、早くも献立を考え始める始末だったり。


 そして今回の3体の中ボスは、魔石(小)が3個にスキル書が1枚と普通のドロップ。それらも回収を終えて、さてこれでこの層でする事も無くなった。

 そんな訳で、さっさと次の層へと歩を進める来栖家チームである。突入して2時間が経過しているが、まだお昼休憩には少し早いとの判断で。


 このまま進むとの決定は良いけど、中ボス撃破と同時に階段の横に魔方陣が出現していた。妖精ちゃんに見て貰ったら、バッチリ退出用のそれらしく。

 と言う事は、このダンジョンは節目の層まで辿り着ければ地上に戻るのは一瞬で済むみたいだ。とすると、10層を目指すか15層まで頑張るか。


 何層が最深層かは知らないけど、取り敢えずは頑張れるところまでは間引きすべきだろう。他の頑張っている探索者に申し訳ないし、一旦受けた依頼だし。

 とは言え、三原市近郊のダンジョン間引きはまだ控えているのだ。頑張り過ぎて、翌日以降のスケジュールに支障をきたしても不味いのは当然だ。

 その辺の塩梅は、当然ながらリーダーの護人が決める事。





 ――チーム運営って、傍から見るより遥かに大変だったり。





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