第453話 “三景園ダンジョン”の2層以降を間引きする件



「あっ、2層目でいきなり宝箱を発見しちゃった! やったね、何か置かれてる気がしたんだよね、この建物の中って。

 ツグミ、罠のチェックお願いねっ!」

「うわっ、香多奈ったら本当に目敏めざといなぁ……でも幸先良いよね、ついでに景色も良いから探索してても楽しいし。

 今度は滝のある方に行ってみようよ、紗良姉さん」

「そうねぇ……でも現実世界より、ダンジョンの中の方が管理が良いって皮肉な話よね」


 紗良の言う通り、建物や自然の管理は現在でのレジャー施設では酷いモノ。それが何故か、ダンジョンの中では美しく保たれていて建物も新しくなっている。

 時間逆行まで行ってしまえる、その管理は物凄いクオリティ。おまけに宝箱の中身の品も、綺麗な新品で取り揃えてくれているのは素晴らしい。


 この現象は、どこのダンジョンに訪れてもほぼ確認出来てしまえる。特性的に、そう言う能力を全てのダンジョンが備えているのだろう。

 だから宝箱から出て来た茶木一式も、当然新品で揃えられており。ポストカードや木の葉のしおりや座布団も、同じく新品で使われた形跡は全く無し。


 それを紗良と一緒に回収する末妹は、とっても楽しそうで鼻歌など歌ったりして。他にもポーション800mlとMP回復ポーション900mlが、水差しの中に入っていた。

 それを丁寧に回収する紗良も、ホクホク顔でとっても上機嫌。そして、まだMP回復は良いかなと、ハスキー達の体調管理にも目を光らせるチームの縁の下の力持ち役である。


 まだまだみんな元気だよと、姫香もそれには追従の構え。それを証明するように、ハスキー達はさっさと探索に戻りたくてうずうずしている様子である。

 護人も回収が終わったのを見て、ハスキー達にゴーサインを送る。そして再び庭園フロアに出ての探索開始、相変わらず春のエリアは心地良い日差しで気持ちが良い。

 それでも敵は、当然のようにちゃっかりと襲い掛かって来る。


 それを撃破して、順調に進むハスキー軍団と茶々丸……と思ったら、池に近付き過ぎた茶々丸が、新たに水棲モンスターを釣り上げるハプニングが。

 コロ助の役割だとふざけて言ってた餌役は、何故か茶々丸がになっていたと言う。それも嫌がらずに、綺麗に片付けるハスキー達はとっても偉い。


 姫香も積極的に参戦して、護人も後方から弓矢でお手伝いのいつもの構図。2層にも出現したイタチ獣人や大カエルは、5分程度で消滅して行った。

 もっとも、まだ建物から池の周りを半周もしていないけれど。もっと先に進めば、またモンスターの団体様と遭遇する機会はあるだろう。


 姫香は先程売店で入手した案内マップを手に、滝はあっちの方かなとハスキー達に行き先の指示出し。桜の咲き誇る庭園エリアを、順調に移動する来栖家チーム。

 その景色はやっぱり素晴らしく綺麗で、庭を縫って進む遊歩道もしっかりと整備されている。ダンジョンってやっぱり凄い、まぁモンスターが湧くのが玉に瑕だが。


 フィールド型ダンジョンのせいか、それとも間引きを長らくサボっていた為か。2層を進む一行は、既に結構なモンスターとの遭遇率となっていた。

 ハスキー達も、張り切ってそれらを殲滅して行ってる。


「敵の数が多い気がするね……入り口で測った魔素鑑定の数値も、割と高かったし当然なのかな? 紗良姉さんが、ミーティングで精霊系の敵に注意って言ってたけど。

 この調子なら、この先で遭遇する確率も高いかも?」

「ああっ、ウチのチームも何回か戦った事あったよねぇ……“日本庭園”とか“滝下ダンジョン”とか、確かに強い奴が多かったよね!

 みんなっ、しっかり注意して進んでねっ!」


 香多奈の相槌あいづちに、隣を進むルルンバちゃんが了解のゼスチャーを返して来る。萌も同じく、喉を鳴らして対応に抜かりは無いよとのアピール。

 すっかり護衛役が板について来た両者だが、実はその役目が勿体もったい無い程の戦闘能力を有しており。来栖家チームは前衛過多の現状のため、こんないびつな陣形となっている次第。


 他のチームが聞いたら、羨ましさに歯軋はぎしりして悔しがるかも。それはともかく、前衛のハスキー軍団&茶々丸は今もふらりと寄って来たウッドゴーレムを倒した所。

 そいつは薪を少々ドロップしてくれて、最近キャンプ生活の一行は思わず喜ぶ有り様。魔石の回収も順調で、もちろんレイド作戦とは言えこの取り分は来栖家のモノ。


 他の市街奪還作戦のチームには申し訳ないが、彼らの方が協会からの報酬は多く貰う予定だそう。その点に関しては、しっかり考えられているみたいで安心である。

 つまり来栖家チームに関しては、心置きなく与えられた任務をこなせば良い。このダンジョンの間引きを、たっぷりと時間を掛けて行うとか。

 適材適所なので、どこからも文句を言われる筋合いも無い。


 そうやって進んで行った一行は、やがて山裾やますその突き当たりにあまり大きくない滝を発見した。その景観も確かに素晴らしいけど、どうやら楽しんでいる暇は無さげである。

 何故なら目当ての階段は発見出来たけど、滝つぼに巨大オオサンショウウオも確認してしまったのだ。“三段峡ダンジョン”でも散々に相手をしたが、コイツも負けないくらいの巨大な図体を誇っている。


 パッと見、体長は8メートル程度だろうか。人など軽く丸呑み出来そうな大きな口と、体から発する水気は下手すると水竜に見えなくもない。

 そして水の槍が連続で飛来、それを慌ててブロックする前衛陣。どうやら喧嘩っ早い奴みたいで、向こうは早くも臨戦態勢である。


 中ボスでも無いのにズルくないとの、香多奈の批難の声もごもっとも。まぁ、出て来てしまったモノは仕方が無い、迅速に処理して道を空けて貰わないと。

 そんな訳で突進して行くハスキー軍団と茶々丸だが、相手の反撃も熾烈で木々をぎ倒して大暴れ。慌てて避難する後衛陣と、ブロックにと動き出す護人とルルンバちゃん。

 予期せぬ大物との遭遇に、皆のスイッチが戦闘モードに切り替わる。


「尻尾のブン回しに注意しろっ、俺とルルンバちゃんで滝へと押し返すっ! 水魔法には各自で対処してくれ、また来るぞっ!」

「了解っ、護人さんっ……ツグミっ、タイミングを合わせて死角から接近するよっ!」

「お姉ちゃん頑張れっ! みんなも頑張れっ!!」


 末妹の香多奈の『応援』が飛ぶ中、護人とルルンバちゃんの押し返しは見事に成功。先日の前衛コンビでの活動で、随分と息も合って来ている感じも受ける。

 そして相手の体勢が崩れた所に、姫香とツグミのペアの突進からの斬りつけ攻撃が炸裂した。巨体にもひるまない勇猛は、姫香の持ち味でもある。


 そこからの一気呵成かせいの押し込みは、まさに来栖家パワーと評するべきか。最初は大騒ぎしていた巨大オオサンショウウオだったが、物の5分で討伐完了。

 喜ぶ香多奈だが、それはドロップ品を確認したせいもあるのかも。魔石(中)とオーブ珠が1個ずつに、綺麗なガラス容器に入った何かの液体も回収する事が出来た。


 どうやら錬金用のレア素材らしく、紗良と妖精ちゃんがそれを見て喜んでいる。そして3層への階段も確保出来て、今回の探索の道のりもまずまず順調だ。

 階段を降りる前に、一行は周囲の景色を眺めながらの小休憩を行う。こんな休憩の時は、景色の良いフィールド型ダンジョンは有り難いねと話し合ってみたり。

 そして気力を回復した一行は、第3層へと進んで行く。




 そこも相変わらず、春の柔らかい気温のエリアで景色も良好である。先行するハスキー達も、春の花の香りにどこか戦闘意欲が減衰している気も。

 それがこのダンジョンの仕掛けなら、大したモノには違いない。出現するイタチ獣人やウッドゴーレムの群れは、ハスキー達にとっては大した脅威では無さげである。


 サクサク倒しながら、池をのぞむ遊歩道ルートを今度は戻る感じで進んで行く一行。階段や宝箱のありそうな場所のチェックも、抜かりなく行って前進する。

 とは言え、最初の東屋あずまやにはその手のお土産は置いておらず。それじゃあ売店のある建物に直行かなと、話す姫香を制してツグミが立派な椿つばきの木を指し示した。


 その枝に吊るされた篭を見付けて、香多奈がひゃっほうと小さくジャンプ。さっき苦労して大物を倒したのに、宝箱が無かった事態には大いに不満だった様で。

 ここでの帳尻合わせに、やっぱりねの顔付きに。


「ほらねっ、強い敵を倒したんだから、ちゃんと報酬は貰わないと。バランスが取れないと、ダンジョンも気持ちが悪いと思うのっ!」

「何のバランスよ、それにしても……季節外れのオレンジとか、達磨だるまが篭に入ってるのは何でかな、護人さんっ?」

「うん、案外と三原の名産とかなのかな……達磨は確か空港にも置かれてたし、お土産品とかなんだろう」


 そうなんだと、紗良と一緒に回収しながら姫香は納得したような顔付きに。香多奈も顔を突っ込んで、これは好きなオレンジだとはしゃいだ声をあげている。

 デコポンは甘さの際立つオレンジで、香多奈どころか姫香も大好物である。一緒に入っていた三原だるまは、護人の言う通りに三原の特産品。


 他には鑑定の書が4枚にポーション1000mlとエーテル600ml、それから魔結晶(小)が8個に木の実が7個。それから椿を模ったブローチが1つ入っていた。

 篭の大半はデコポンで、他のアイテムはそれに埋もれて良く見えない有り様である。それらを手際よく選り分けて鞄に仕舞い込む紗良は、とってもご機嫌な様子。


 それからある程度寄り道しながら、敵の間引きを忠実に行う来栖家チーム。ハスキー達はとっても働き者で、敵の居場所を発見する能力も飛びぬけている感じ。

 先日の“戦艦ダンジョン”で満足に戦えなかったさを晴らすように、その進行は止まりそうもない。姫香も途中から、戦闘参加を諦める程の速度はアレだけど。

 ハスキー達には、まだまだ疲労の色も窺えないので止めるのもちょっと。


 それでも10層以上を攻略するとして、ハスキー達の疲労は軽減させてやりたい。そう言う姫香に、家族は頭を寄せ合っての作戦会議を行う。

 そして妥協案として、茶々丸に再び萌を乗せてみる事に。


「うん、茶々丸ならハスキー達のスピードに、余裕でついて行けるもんね……それに萌が乗っかれば、単純に戦力は2倍だし。

 これなら敵の殲滅速度も上がるし、前衛の負担も減るかな?」

「そう言えば、最初はこの戦法ばっかりだったよね……何で止めたんだっけ、あんま覚えてないや。そもそも、茶々丸は最初の頃って、穂積ほづみちゃんの姿を借りてたんだっけ?

 あれもかなり、乱暴な戦法じゃ無かった?」

「あ~っ、そうだったねぇ……何で止めちゃったんだっけ? 萌ちゃんが鎧を着れるようになって、戦力として独り立ちしたのが大きかったのかな?

 茶々丸ちゃんも、その頃には独り立ち出来そうな感じだったし」


 そう言う紗良だが、間違っても茶々丸は独り立ちなど出来ていないよねと。目と目で語り合う護人と姫香は、センシティブな問題だけに決して口に出して否定はせず。

 そして久し振りにペアを組んだ茶々萌コンビに関しては、お互いにしっくり来ているようで問題は無さそう。相変わらず、どこかの勇猛な騎士然としたその立ち振る舞いは、仔ヤギに騎乗してるとは思えない程である。


 そしてその変更を、待ちくたびれた表情で待っていたハスキー達は、主人のオーケーを貰って猛ダッシュ。相変わらずのその速度に、しかし茶々丸は猛然と追いすがる。

 置いてけ堀のその他の面々は、程々にねと遠い声援を送るのみ。


 やっぱりフィールド型ダンジョンの解放感は、こんな感じで自由度が高過ぎる。お陰でハスキー達も駆け回り放題で、結果こんな感じでチームが分裂する破目に。

 まぁ、それもリーダーの護人の叱れない気質が、多大に影響しているとも言えるけど。ハスキー達に下手にストレスを与えるより、この狩りの方式は性に合ってるとも。


 そうして一行は、バラバラになったりくっ付いたりを繰り返して池の側の建物へと到着した。滝のポイントから約15分、フィールド型の踏破にしては随分と速い気が。

 本気のハスキー達の実力は、今やA級ランクを軽く素通りしている気も。





 ――かくして一行は、3層をクリアして第4層へ。






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