第450話 秘密の通路の奥に大ボスへの通路を発見する件



「うわっ、紗良お姉ちゃんと妖精ちゃんが、本棚の奥に隠し扉を発見したよっ! 何か凄いかもっ、暗くて良く分かんないけど奥には何があるのっ!?」

「えっと、通路が続いてるのかな? この奥に、次の層への階段があったら嬉しいな……ダンジョン的には、ひょっとしたら見付かって欲しくなかったかもだけど」

「あっ、そうかもね紗良姉さん……何かこの新造ダンジョンって、往生際の悪い感じがヒシヒシと伝わって来るよ。

 この分だと、大ボスも相当強いかもね、護人さん」

「なるほどね、向こうはコアの休止はしたくないのか……こっちは依頼だし、壊さなきゃ始まらないんだが。何にしろ、ボス戦は近いみたいだな。

 そこの通路も変な仕掛けがあるかも、注意して行こうか」


 そう口にする護人に、それじゃあ自分とツグミで先行して進むねと姫香の提案。嫌な予感のする護人は、それは自分が行こうと代役を買って出る。

 真っ暗で細長い通路は、どうやら少し先で小部屋に繋がっているようだ。隠し通路に罠を仕掛けるのは、常識に照らし合わすと変ではある。


 とは言え、相手はダンジョンでそこに常識を求めるのもやっぱり変には違いなく。何より護人は、嫌な予感をこの暗闇の通路からヒシヒシと感じており。

 それはツグミも同じらしく、さっきから仕切りに鼻を鳴らして警告を発している。すったもんだの議論の挙句に、先行して進むのは護人とルルンバちゃんに決定した。


 そんな訳で、先ほどと同じフォーメーションで細くて昏い通路を進んで行く事に。そしてやっぱり作動した仕掛けは、何と降り注ぐ銃弾と言う洒落にならない罠だった。

 すぐ後ろをフォローの名目で続いていた、姫香とツグミもこの仕掛けを解除には至らず。そもそも感知から攻撃のシステムは、罠とかそんなレベルでは無さそう。

 どちらかと言えば、待ち伏せに近い雰囲気かも。


 それを護人は『硬化』スキルで、そしてルルンバちゃんは持ち前のボディで耐え忍ぶ。そして反撃のビームで、直に仕掛けの銃身を破壊すると言う荒技を敢行。

 お陰で仕掛けは止んだけど、かなり酷い仕掛けに一同騒然となってしまった。ここまで殺意が高いダンジョンは、“喰らうモノ”以来かも知れない。


 コアまで来て欲しくないと言う相手の思惑は、どうやら的を射ているのかも。そんな事を考えながら、先頭の護人は突き当りの小部屋へと辿り着く。そこにはビームで原形を留めていない銃トラップと、それから地下へと続く階段が。

 ようやくの発見だが、香多奈などは少々怖気おじけ付いている感じも。それよりこの小部屋も、端の方には机や小物が散らばって、壁にはどこかの地図なんかも張られていた。


 机下の木箱には、大した物は入っていないねと軽くチェックしていた姫香が報告する。その時、そちらに飛んで行った妖精ちゃんは、貼られていた薄汚い地図を凝視して不思議顔に。

 それに気付いた末妹が、ひょっとして宝の地図かなとテンションを回復させて寄って来た。姫香も一緒になって覗き込むその地図だが、どこかの島だなって以上は分からず。

 ただし島の一部に印は付いてるので、宝の場所を記している可能性も。


 そんな子供達が注視する中、ポンと何かを思い出した感じの妖精ちゃんのリアクション。そして小さな淑女は、これは“浮遊大陸”の地図に間違い無いと言い放った。

 コアの場所が、これで完全に分かったなと1人で納得模様のおチビさんである。そしたらこれは、“浮遊大陸”の宝物庫の場所を指し示しているのかなぁと、紗良まで加わっての熱い討論に。


 絶対に間違い無いよと、物凄く興奮している末妹の後押しはともかくとして。これが本物だったら、来栖家は図らずも2枚目の『宝の地図』をゲットした事になってしまう。

 大喜びの末妹だが、妖精ちゃんが頭上からキッチリと水を差している。つまりは『宝の地図』なんて、ダンジョンが獲物を招き寄せるき餌に過ぎないのだと。

 不用心に食い付くと、痛い目に遭うのは目に見えているぞと。


「なるほどっ、確かにその通りだよ……妖精ちゃんも、たまにはいい事言うんだねぇ。確かにお菓子あげるって言われてホイホイついて行って、誘拐されるタイプだよね、香多奈って。

 でも“浮遊大陸”には、また遊びには行きたいよねぇ」

「星羅ちゃんもお世話になったもんね、あのパペットさん達の集落には。この地図が“浮遊大陸”だとすると、それはどの辺になるの、妖精ちゃん?」


 パペット領はこの辺だったかなと、島の端っこを律儀に指差してくれる妖精ちゃん。印の場所とは遠く離れていて、彼女によるとそこは“死霊軍”の領地の外れなのだそう。

 しかも恐らく、地図のマークは“過去の遺跡跡地”を示しているそう。宝物庫の在処ありかとしての信憑性は、そう考えると大いにただよって来る。


 だからと言って、妖精ちゃんの理論ではこれは完璧な撒き餌である。もっとも香多奈に言わせれば、撒き餌でだってお腹は膨れるじゃんとの返し。

 つまりは自然界において、それは完全な勝利らしい。そうだなと珍しく押され気味の小さな淑女は、末妹の食い意地に負けを認めた感じを受ける。



 そんな流れで、取り敢えず『宝の地図』は紗良が回収して、さっきと同じ陣形で一行は第7層へ。新造ダンジョンだけあって、そろそろ深層な感じはヒシヒシと伝わって来る。

 そして出た先でも熱烈な歓迎を受け、その予感は確信へと近付いて行く。鎧武者やら軍人のゴーストに次々と襲撃されるも、来栖家チームは全て返り討ちに。


 実に15分以上の戦闘時間は、かなり熾烈を極める事に。幸いチームに負傷者も出ず、厄介なゴーストも全て浄化に成功する事が出来た。

 倒した数に至っては20体以上だっただろうか、広くない通路で何と言う激闘振り。その後の探索でも、雑魚と呼ぶには強いモンスターが立ちはだかって来た。


 この7層で実に40分以上掛けて、ようやく甲板へと通じるルートを発見。それ以外は行き止まりとか罠の仕掛けばかりで、宝箱すら置かれていない寂しい通路しか無かった。

 そしてやっとこさ辿り着いた船外の風景は、何だか不穏な雰囲気。


「おっと、これはようやく大ボスの間に辿り着いたかな。奥にコアが置かれてるな……敵は複数いるみたいだし、前衛で手分けして抑え込むぞ!」

「了解っ、今回のボスも手強そう……あっちの硬そうな兵器モンスターは、護人さんに任せるねっ!」

「わわっ、あっちの奥の奴はミサイルとか平気で撃って来そう……コロ助、ちゃんと私たちを守ってよねっ!」


 そうご主人の香多奈に言われて、レイジーと一緒に敵に突っ込もうと思っていたコロ助は仕方なく控える事に。甲板の上は敵であふれていて、戦う奴は選び放題だと言うのに。

 敵の種類だが、まずは来栖家チームが一番警戒している、5層でも出たヘリ機兵の巨大版が1機。ずんぐりしたタイプの重装ヘリは、さっきより凶悪で横の扉から排出する敵も強そうだ。


 そしてレイジーと茶々丸が向かう先には、骸骨の馬に乗ったゾンビ武者とその部下たちが。ボス級の騎士武者は、骸骨馬を華麗にあやつって空中を闊歩かっぽしている。

 姫香もツグミを従えて、ソイツを倒しに参戦して行く。いかにも硬そうなヘリ機兵の方は、護人とルルンバちゃんが相手取る作戦のよう。


 もっとも、そちらも鎧武者の雑魚を両扉から排出中で忙しない。時代のバランスはまるで取れていないけど、たまに軍服のゾンビやゴーストも混じって来る。

 それらに対して、紗良の先制の《氷雪》が豪快に範囲ダメージでヒットした。甲板の上1メートルに位置していたヘリ機兵は、その一撃でいきなり与太よたってくれた。

 紗良の魔力は、『魔導の書』のお陰かかなり上がっている模様。


 全体的に向こうのボスのパワーも、かなり上がっていて攻防戦への必死さは漂って来ている。しかしそれ以上に、来栖家チームの戦力は上回っていた。

 ルルンバちゃんも前衛に向かいつつ、レーザー砲をブッ放しての遠隔攻撃。場は一気にカオス状態で、大ボスのヘリ機兵はたまらず甲板へと墜落して行った。


 そのタイミングで発射された、ロケット弾とガトリング砲のセット攻撃。イタチの最後っ屁みたいな反撃だが、当ればこちらもただでは済まない。

 そのロケット弾の攻撃を、投網のように広がって捕獲に成功する薔薇のマントである。何とも破天荒な防御方法だが、どうやったのかマントが捕獲したロケット弾は爆破せず。


 降り注ぐ弾丸は『硬化』でしのいで、標的となった護人はヘリ機兵との距離をどんどん詰めて行く。そこに天空から、空気を引き裂くような音と共に落ちて来る雷光。

 どうやら今回は、ミケも攻撃参加を決め込んだ模様だ。


 その隣では、炎のブレスから部下のゾンビを蹴散らしに掛かるレイジーの姿が。敵の騎馬武者は、依然として宙を駆けていてその攻撃は届かない。

 弱ったそいつ等を茶々丸が蹴散らして行き、甲板の上をうろつく敵はどんどん姿を減らして行く。そこに空中から襲い掛かる騎馬武者ボス、大槍のぎ払いが地上へと見舞われた。


 それは距離があるにも関わらず、何と茶々丸にヒットして傷を負わせてしまった。回り込んで接近していた姫香は大慌て、何とか接近して敵の自由を奪う構え。

 ツグミも同じく、主のサポートにスキルを撃ち込んで敵の足止めを頑張っている。見た目より遥かに強靭な骸骨馬は、ツグミの『土蜘蛛』に怯んだ様子も見せず。


 それどころか、『圧縮』の足場で宙へと近付いて来た、姫香を蹴り飛ばして去って行く。慌ててフォローするツグミだが、幸い姫香は大怪我は負っていない様子。

 どうやらこのボス、見た目以上に相当なクセ者らしい。それを喰らった姫香は、逆に負けん気に火が付いたよう。《舞姫》と《豪風》を発動させて、もう一度果敢に突っ込んで行く。


 その頃地上では、茶々丸が倒されて後衛陣は割と大変な騒ぎになっていた。レイジーが上手く立ち回って、その周辺に敵が寄り付く事は今の所は無い。

 茶々丸も意識は保っているようで、後衛から萌がダッシュでフォローへと回って来た。それを待つまでも無く、宙を駆ける大ボスに襲い掛かる姫香。

 その一撃は、風をまとってまるでハンマーの如し。


 愛用のくわの現在の形状だが、大鎌のような湾曲した斬撃を放つ武器に変わっていた。そして何故か今回の一撃は、彼女の怒りゲージのせいか派手な豪風を纏っていた。

 ダウンバースト込みのその斬撃に、人馬共々甲板へと叩きつけられる大ボス。その衝撃は、ほぼ減って無かった敵のHPを喰らい尽くすのに充分だった。


 気付けばボスの片割れはドロップ品を撒き散らしており、その後に訪れる一瞬の静寂。それは恐らく、ダンジョンが自分の運命を悟った諦念ていねんの瞬間だったのかも知れない。

 つまりは、護人とルルンバちゃんのコンビも、ヘリ機兵の破壊を順調にこなし終わっており。5層と同じタイプだけあって、二番せんじに苦労も無かった様子。

 かくして、新造の“戦艦ダンジョン”の大ボス戦は終了の運びに。




 最後まで手強かったこの新造ダンジョンだったけど、茶々丸の負傷も幸い紗良の治療で回復してくれた。後はドロップ品と宝箱を回収して、コアを破壊して持ち帰るだけ。

 宝箱に関しては、鑑定の書や薬品類や魔結晶(中)が回収出来た。他にも良品の薙刀なぎなたやら近代武器や弾丸が少々、武者の鎧や兜や大判小判が1袋分とまずまず。


 そして全て終わってのコア破壊は、毎度の姫香が威勢良くになう流れに。そのくわの振るいに少々怒りが混じっていたのも、まぁ仕方の無い事か。

 それから紗良が、協会の職員に手渡された魔素遮断しゃだんの袋を取り出して。破壊された艶やかな石を、丁寧に拾って袋へと放り込んで行く。


 与えられた任務は、これにて全て完了。後は無事にダンジョンを脱出して、この袋を待っている協会の職員に渡せば良いだけだ。

 その後にコアがどう使われるかは、来栖家チームにはあずかり知らぬコト。護人の予想では、どこかの廃墟か洞窟に放り込んで放置するのだろう。


 その結果、コアを移動されたこの護衛艦が、再び使えるようになるかも不明だ。来栖家にしてみれば、言われた任務をこなしてこれ以上は責任は持てない。

 ダンジョンの意志など、一介の探索者に分かる筈も無し。





 ――精々が、三原の奪還作戦と同じく無事に進むのを祈るのみ。






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