第449話 頑張って潜ればそれなりのご褒美も待っている?件
げんなりした表情の護人に対して、宝箱の中身チェックの子供達はとっても幸せそう。ペット達は休憩中で、まだ先がある事に対しては何の不満も無さそうだ。
逆にまだ探索が続く事に、嬉しそうなのは恐らく護人の気のせいだろう。子供達は確実に嬉しそうだけど、突入して既に3時間は経過しており。
疲れはある筈で、ここで昼休憩を挟むべきかも。てっきり5層で終わりと思って、12時をオーバーしても頑張ってしまっていたのだ。
安全を考えれば、こんな物騒なダンジョンで長時間の休憩なと取るべきではない。コアを破壊して脱出後に、休憩など幾らでも取れるのだから。
その目論見が狂ったのは、ひとえに護人の考えの甘さ
この相棒も、さっきの戦いでは本当に頑張ってくれた。
と言うか、降り注ぐ弾丸を装備していた魔法アイテムの『反射』で弾いていたようにも見えた。そんな器用な事が出来るのかなと、戦闘風景を眺めていた紗良の不思議顔に。
何となく、レイジーなら出来てしまいそうって思う護人である。ハスキー軍団は、夜にもダンジョンで鍛錬を積むほどの頑張り屋さんなのだ。
その位の実力が付いていても、何となく納得してしまえそうだったり。それはともかく、宝箱の中身は割と豪華で子供達も嬉しそう。
まずは鑑定の書(上級)が4枚に、ポーション800mlにMP回復ポーション700ml、硬化ポーション800mlまで入っていた。ここでの補充は、素直に有り難い。
他にも魔結晶(小)が何と16個に強化の巻物が2枚、拳銃やマシンガンや実弾の箱が数パックずつ。バズーカ砲や砲弾セットまで出て来て、さてどう処理したモノやら。
更にはここでもレーション(缶詰)や医療キット、軍用のブーツやランタンやバックパックが出て来た。鞄や弾を
大当たりが入っていた事で、長女の紗良も嬉しそう。
「それにしても、次の層があるなんて意表を突かれたよね、護人さんっ。どうするの、あと1層かそこらだとしたらついでに行っちゃう?」
「お腹空いたしお昼にしようよっ、叔父さんっ! お昼の時間とっくに過ぎてるよっ、働き過ぎは良くないと思うのっ。
ハスキー達も、きっとお腹が空いてるよっ!」
「まぁ、そうだな……この先が1層だけって保証も無いし、休憩を兼ねてここでお昼にしようか。紗良、悪いけどお昼ご飯の用意を頼むよ。
中途半端かもだけど、ここで1時間かそこら休む事にしよう」
確かに残りが1層ぽっちなら、頑張って片付ける手もある。そうとは限らないのなら、中途半端でもここで休むのはアリだと護人は判断を下す。
姫香もそれには反対もせず、紗良の食事の支度を手伝っている。ハスキー達もおこぼれ目当てで、すかさず脇の甘い末妹の近くに陣取る素振り。
ハスキー達の食事は朝夕2回と決まっているので、ここで与えると完全に間食ではある。その点は護人からして甘いので、末妹の融通は誰にも
そもそも探索で、一番真面目に頑張っているのはハスキー達である。その理論を振りかざして、ハスキー達におやつを与える香多奈である。
しかし実はその行為が、ハスキー達に舐められる要因になっている事実を本人だけが知らないと言う。ペットとの上下関係は案外と重要で、甘やかすばかりだと向こうをつけ上がらせてしまうのだ。
挙句の果てには、自分より格下だと認定されると言う悲しい事態に。
護人や姫香はそれを知っているので、過剰なサービスは控えて主人らしさを普段から心掛けている。ただまぁ、年少の末妹にそれを行うのは難しいのもまた事実。
そんな感じの、毎回恒例の来栖家の賑やかな昼食風景に。キャンプ施設で用意したホットサンドは、家族にもハスキー達にも大好評でホッと胸を撫で下ろす紗良であった。
そして食べ終わってからは、これまた恒例の雑談タイムに突入。ハスキー達は家族の周囲に寝そべって、完全にリラックス状態である。
いや、まだダンジョン内なので周囲への警戒は怠っていないのだろうけど。護衛任務に慣れている彼女たちは、寛いだ状態でも安全確保は万全である。
そんな中で話題に上がるのは、あと何層だろうねとかここのダンジョンは回収品がショボいよねとか。そんな他愛ない事を、食後の飲み物を口にしながら話し合う。
いや、本当はドロップは結構多いし、さすが新造ダンジョンだけはある。何と言うか、その中身が兵器や弾丸に
そんな回収品、さすがに子供達は正規のカウントに含まないみたい。
「それにしても、中に入ったらこのダンジョンが一体どこから来たのか、少しはヒントがあるかなって思ってたけどさ。
今のところは全然だね……護人さんは、何か感じるモノはある?」
「どうかな……確かに“アビス”か“浮遊大陸”から流れて来たコアだと推測したら、筋書き的にはピッタリ合うんだろうけどね。
俺はそこまで、ダンジョンの癖とか気にした事は無いからなぁ」
「妖精ちゃんは、ここは“太古のダンジョン”の
突飛な妖精ちゃんのダンジョン論を聞かされて、来栖家の面々も混乱気味に。来栖家チームもこの1年、色んなダンジョンに潜ってそこに癖があるのは理解している。
サービス精神が
本当に個性は様々で、それは出て来る敵にしても同じ事が言える。ただまぁ、モンスターに関しては、その場所に沿った感じのラインアップが圧倒的に多い。
現にここも、兵士タイプのモンスターが大半で厄介極まりない。ついでに出て来るゴーストにも
要するにリサイクルと言うか、ダンジョンは完全な無から生まれる訳ではないのは確定している。その次に考えるのは、それなら系統はあるのかって事だろうか。
妖精ちゃんはあると断言しているし、“アビス”で見た扉の列はまさにそうなのかも。そうなると、『ダンジョン=生物』論はかなり真実味を帯びてくるような?
小島博士の講義を週3で受けているだけあって、子供達はこの手の話題に完璧について来ている。そしたら私たち、今ダンジョンの胃袋にいるんだねと香多奈は興奮気味。
でも不死の生物って現実的じゃないよねと、姫香などはその説に懐疑的みたい。そんな話をしながら、食後の休憩時間は過ぎて行く。
そして1時間後、それじゃ探索を再開しようとリーダーの号令が。
それに元気に返事をする子供たちと、ハスキー軍団と茶々丸の素早いアクション。あと何層あるのか分からないけど、休憩は充分に取ったし残りを頑張るのみ。
6層から変化はあるのかなと、警戒しながら先のフロアを確認する一行。実際に変化は大ありで、何と6層エリアは床も壁も板張りの造りになっていた。
どうやら船体には違いないけど、戦艦ではなくもっと古い船の船内らしい。壁に取り付けた灯りが全て発光石なのは、異界の船の可能性も。
船内だと推測したのは、廊下の揺れと漂って来る潮の匂いから。ハスキー達も、この変化には戸惑ったように、周囲を見渡して進む方向を模索している。
それも6層最初の敵との遭遇するまで、ハスキー達は今や完全にそちらに思考をシフトした模様。燃える死霊兵士の一団を相手に、容赦なく突っ込んで
火の扱いに関しては、木造船など物凄く注意を払っている筈なのだが。そんなの台無しな一団の出現に、護人も同じく混乱模様でこのフロアの特性に思考を巡らせる。
幸い戦闘に関しては、相変わらず前衛陣が頑張ってくれている。
「木造フロアだけど、ここは船内に間違いは無さそうだな……灯りが魔法の石に頼ってる時点で、こちらの世界の船かどうか怪しいけど。
どちらにしろ、相当広い船体だし探索も大変そうかな?」
「そうですね……でも護人さん、敵が剣銃持って出現はもう無くなったかもですよ? それだけでも、みんなの負担は減ったかも」
そう言えば、このダンジョンは護人とルルンバちゃんが前衛でと言う約束だったような。大休憩の後なので、ついうっかりしていた。
慌てて前に出ようとしたけど、割と狭い廊下では前衛の交代も
そしてどさくさに
それならこのまま、ハスキー達に任せるのも一つの手かも。
そんな感じで、いつもの場所をなし崩し的に手に入れたハスキー軍団であった。そうして敵を綺麗に倒し終えると、嗅覚の
6層の敵は青い炎を
鎧にしても日本の甲冑もあれば、西洋の鎧姿も存在していてバラエティ豊か。何と言うかフロアともそぐわないし、とってつけ感が半端ない気がする。
そんな事に構わずに進むハスキー軍団は、前衛は自分達のモノだと張り切っている感がアリアリ。そして、探索&敵の殲滅をしながら進む事20分余り。
船内通路の突き当りの扉を、ハスキー達は発見して後ろを振り返る。
「おっと、突き当りの扉か……一応ここが大ボスの間って事もあるし、みんな充分に注意して行こうか。今の所は拳銃持ちの敵はフロアに見掛けないけど、そっちも注意だな。
もし出て来た時は、すぐに前衛を交替するからね」
「いいけど、ハスキー達はストレス溜まりまくっちゃうかもね……それにここ、多分だけど大ボスの間とは違う気がするかなっ?
この奥の部屋はもう少し小さいかも、分かんないけど」
「香多奈の
そう言う姫香は、ハスキー達に急かされて観音開きの扉を開け放つ。敵が待ち構えているかと思ったけど、少なくとも視界に入る動く影は全く無し。
そして香多奈の言うように、そこまで広い部屋でも無かった模様。どちらかと言えば整理された本棚や机や応接セットが目立つ、執務室のような
船長室か何かかなぁと、後から入って来た紗良は自分の推測を口にする。そこはまさにそんな感じの部屋の造りで、机の後ろには豪華な宝箱が1つ。
それに喜ぶ子供達と、宝箱に突っ込む茶々丸と言うどこかで見た構図に。ミミックだと言う叫び声が響く前に、ハンマー持参のコロ助の介入がなされた。
茶々丸とコロ助の戦闘は、とっても楽しそうで護人も姫香も手を出すのを
その中には薬品類やオーブ珠に混じって、何故か手榴弾や煙幕弾やロケット砲弾がゴロゴロ。他にも迷彩服やらバンダナやら、手榴弾を模したペンダントも出て来ていた。
最後には魔銃と、それからプレイボーイ誌が数冊。
「えっ……ここはフロアが変わって、拳銃持ちの敵なんて出て来てないのに何で? さっきの層なら分かるけど、それにこれって魔銃じゃない?
あっ、何かエッチな雑誌も入ってたよ、叔父さんっ!」
「ちょっと、そんなの捨てて行きなさい、香多奈のアンポンタンっ! ツグミ、危ない弾とか落ちてるから、慎重に収納に入れときなさいねっ!
ほんとにっ、ここの宝物の組み合わせってどうなってるのよっ!?」
確かにおかしいが、文句を言う相手を間違ってるよと香多奈は小声で抗議を返すのみ。プリプリ怒っている姫香に楯突いても、反撃が怖いのは長年の付き合いで知っている。
それより、ここに次の層への階段があると思っていたのに、当てが外れて損した気分の末妹である。探索時間が追加で掛かってしまうのは、ハスキー達にしても不本意かも。
そんな気分を察してか、部屋の探索を続けるペット勢である。妖精ちゃんまで本棚のチェックを始めて、しかもここが怪しいなとか1冊の本を突き始める。
それに気付いた弟子の紗良が、床に散らばったアイテム回収を終えて師匠の下へと駆けつける。それからこの本かなと抜き出すつもりが、何故かビクともしないと言う不思議。
不審に思った紗良は、あれこれ試して不意にある可能性に気付いた。仕掛け扉の場合、本を押し込んで作動するってパターンがあったような?
果たして、そのアクションで横にスライドし始める本棚の一角である。
――そしてその奥に、薄暗い隠し通路が出現するのだった。
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