第448話 手強い中ボスを倒してぬか喜びをする件  



「それじゃあ、そろそろみんな硬化ポーションを飲み直そうか? ハスキー達は特にね、さっきの甲板の戦闘でも危なかったし。

 やっぱり怖いねぇ、銃を撃つ音が近くで響くのは」

「そうだね、さっきは障害物が近くにあって良かったよ……護人さんは平気だった? ルルンバちゃんと一緒に、銃の弾の中で戦闘してたみたいだけど」

「何とかね、ルルンバちゃんを盾にして接近出来てるから助かってるよ。本当に頼もしいけど……さっきの機神が、マシンガンの他にロケット砲を装備しててな。

 さっきも戦闘中に、アレを使われてたらさすがに不味かったかもな。みんなも現代兵器を持つ敵との対戦は、充分に注意してくれよ」

「ひえっ、そんなのまで出て来るんだ……ルルンバちゃんの波動砲と、どっちが強いかなぁ?」


 強いかなぁと言われても、喰らうのはこっち側である……香多奈の興味は尊重するが、間違ってもそんな攻撃など味わいたくない護人だったり。

 ルルンバちゃんなら、何とか持ちこたえられるかも知れないけれど。ある程度剥き出しのドローン部分に当たると、木っ端微塵みじんになってしまう恐れが。


 ちなみに、現在一行がいるのは4層フロアの甲板で、さっきと違って戦艦の野外は静かなモノ。もっともその静寂は、大きな戦闘を一度こなした後に勝ち得たものだけど。

 階層またぎの来栖家チームを出迎えたのは、1ダース以上のゴーストの集団だった。どれも戦闘服を着ていたり、武者姿だったりと時代背景は様々だったけど。


 熱烈な出迎えに、スキルを駆使して立ち向かうハスキー軍団。ゴースト軍は、どいつも立派な銃や刀を所持しているけど、何故か憑りつき攻撃しかして来ない。

 その点は有り難いが、怨念なのか負のオーラを発するゴースト軍の絶叫は強烈で。まるで呪いのデバフを振り撒いているようで、対処する一行は気が気では無かったり。

 それでも何とか、無事に掃討を終えて一息つく来栖家チーム。


「浄化ポーションの詰め替えオッケーだよ、紗良姉さんっ。それにしても、前回の探索で回収した破邪の巻物の強化が効いたねっ!

 それとは別に、ゴーストの時代背景がごっちゃだったのが気になったね」

「軍服来た人と、鎧を着たお侍さんが一緒に混じってたねぇ……でもまぁ、ゴーストが銃や刀を使って来なくって本当に助かったね、姫香ちゃん

 『魔法のお守り(浄化)』も、かなり効果あったかな?」


 ゴーストの討伐の際に使った浄化ポーションを手早く詰め替えて、一行は小休憩を終わらせる。突入して既に2時間以上、まだ余力はあるとは言え。

 銃弾が飛び交う戦場など、当然慣れておらず精神は割とすり減っている気も。そんな探索道中だが、残りあと2層とお互いに励まし合って。


 護人とルルンバちゃんの先行で、艦内への扉へと張り付いての様子見に。ツグミも加わって、扉の向こうの安全を確認して慎重に中へと潜り込んで行く。

 そして幾つ目かの罠が、扉に仕掛けられているのを発見して背筋をザワつかせる護人。ツグミの《闇操》で解除されていたが、仕掛けられた爆薬を目にすると心中穏やかではいられない。


そんな仕掛けは、この“戦艦ダンジョン”では良く見掛ける類いのトラップで。殺意の高いエリアを進む一行の、精神的負担はかなり高めをキープしている。

 そして艦内の通路でも、同じく襲い掛かって来るパペットアーミーの軍団。マシンガンの掃射に肝を冷やしつつ、全く怯まないルルンバちゃんを頼もしく感じての進軍である。


 何故か通路の途中に築かれている土嚢どのうに苦労しながら、探索はパワー任せに進んで行く。どうやらルルンバちゃんが前衛だと、割と力任せの方針に偏るようだ。

 彼が前衛に不慣れと言うのも、恐らくは理由の1つなのだろう。その点は、チームとして大いに反省しなければ。いろんな可能性を模索して、チームの完成度を高めるためには。

 対応力を磨くために、こうやって陣形を試すのも手である。


 そうして詰まれた土嚢の向こうには、地雷が仕掛けられたり宝箱が置かれてあったり。その宝箱は当然のように罠付きで、本当に侮れない。

 ちなみにここまでの探索で、初使用の『魔法の飛行ランプ』は撃ち落とされて破壊されてしまっていた。自動飛行で光源として便利だったのに、あっという間の退場劇。


 あ~あと嘆く末妹だが、銃弾飛び交うダンジョンで使ったこっちも悪いよねと、姫香は逆にサッパリしたモノ。魔玉(光)は洞窟タイプのダンジョンでは、割と良く出るらしいのだが。

 伝手の無い来栖家チームは、唯一協会で購入しているアイテムだったのだ。やはり探索中に光源が無いと、人間は色々と隙や戸惑いが生まれてしまう。

 ペット達は、実はそうでも無かったりするのだが。


 回収出来たアイテム類に関しては、安定の薬品類や鑑定の書から当たりのオーブ珠が1個に加え。ライフル銃や弾丸が普通に混じっていて、教育上あまり宜しくない。

 捨てて行く訳にも行かないので、一応回収はするのだけれど。間違っても自分達では使いたくないよねとは、子供達の総意ではあるらしい。



 そんな感じで、トラップの多い通路を進む事15分以上。この層で出て来るのは、マシンガン持ちのパペット兵士がメインなのだけど。

 たまにグールやゴースト、それからシャドウ族の上位の影魔人が出て来て一行を驚かせて来て。何故かシャドウ族に強い茶々丸が、活躍して皆を驚かせると言う。


 拳銃やマシンガンの回収が、いよいよ1ダースに及んでしまった頃。ようやく5層への扉を発見して、そろそろダンジョンボスの背中が見え始めたかも。

 チームの余力は充分だが、正直これ以上このダンジョンに長居はしたくない。そんな意気込みで、続けて5層の通路を窺う来栖家チームである。


 ボスの部屋を探す手掛かりだが、今のところは機関室や兵器倉庫、それから屋外の甲板が怪しいポイントか。階段の出現場所でもあるので、大きく的外れではない筈。

 そんな推察で進む一行だが、段々とモンスター達の足止めが酷くなって来た。グールの上位種も出て来たり、ゴーストも呪いの魔法を使って来る奴が出現したり。


 さっきの香多奈の言ったとおり、敷地内ダンジョンで入手した破邪の巻物とか『魔法のお守り』がとっても有り難い。護人も離れては『破魔矢』を撃ち込み、近付けば『魔断ちの神剣』で斬りつけて絶好調の活躍振りで。

 コロ助の『白木のハンマー』も、すっかり破邪モードでグールだろうがゴーストだろうが、ぺしゃんこにしていく無法振り。そして手強い呪いゴーストを倒したのも、コロ助のハンマーだった。

 こちらも絶好調のコロ助は、意気揚々と通路を見渡して得意顔。


「ふうっ、誰も呪いの散布を受けた子はいないよねっ? ボス前の雑魚だってのに、やたらと手強かったよね、護人さん。

 敷地内ダンジョンでの強化があって、本当に良かったよ」

「コロ助が有頂天になってる……一応褒めた方が良いのかな、調子に乗っちゃいそうな気もするけど。まぁいっか、ホラお水をお飲み?

 みんなの分もあるからね、もうちょっとでボスの間だよっ」

「そうだな、小休憩のついでに果汁ポーションも飲んでおこうか。ボス戦に備えて、みんな準備しておいてくれ」


 その言葉に紗良は頷いて、カバンの中からみんなの果汁ポーションの準備を始める。香多奈もそれを手伝って、ハスキー達を集合させての音頭取り。

 そんな感じで休憩も終わって、いよいよ最後の中ボスの間の位置を絞り込み。どうやら兵器格納庫か甲板が怪しいとの2択から、試しに先に覗いてみた格納庫には。


 バッチリ中ボスの部屋仕様で、つまり扉を開けた事で中ボスは既に反応してしまっていて。広い格納庫に潜んでいたのは、オスプレイ型の機神兵だった。

 回転する両脇のプロペラと、その巨大で武装されたメタリックボディは。このダンジョンの大ボスに相応しい威容で、ハスキー達でさえ思わずビビってしまう程。


 子供達も、まさかこんな巨大な現代兵器が出て来るとは夢にも思っていなかった様子で。こんなのどうやって倒すのよと、入り口付近で大騒ぎする始末だ。

 護人も同様で、その兵器の矛先がこちらを向いているとすれば尚更である。しかもこの機神タイプのボスモンスター、その腹部からわんさか兵士タイプのパペット兵を生み出し続けていると言う。

 なかなか非常識なボスの仕様に、来栖家チームもプチパニック状態だ。


「うわっ、この前の“アビス”の上陸騒動の時みたいな、でっかいヘリが飛んでるっ!? どれがボスなのっ、ひょっとしてあの飛んでるのもモンスターとかっ!?」

「いや、その可能性が高いな……奴の正面は俺とルルンバちゃんが請け負うから、皆は左右に散ってくれ。現代兵器には充分に注意して、あまり近付き過ぎないようになっ!

 レイジーにミケ、子供達を頼んだぞっ!」

「私たちの事も信用してよ、護人さんっ……あんな見掛け倒しのモンスター、私たちで真っ先に撃ち落としてあげるよっ!

 まずは湧いてる兵隊の掃除に行くよ、ツグミっ!」


 そう言って勇ましく右手から廻って行く姫香、それを見て紗良は香多奈の手を取って左の隅っこへ。お供の萌が、今回は盾を構えてそれに追随している。

 それを確認して、護人が中央から距離を詰めに掛かる。物凄い豪風を纏って兵器庫で浮き上がるボス機神は、向かって来る相手をロックオンした模様。


 両サイドに装備されているバルカン砲が、物凄い音を立てて近付く護人に放たれる。その勢いに、思わず盾を構えてその場に釘づけにされてしまうけど。

 リーダーのピンチに、背中側に位置したルルンバちゃんがまずは反応して。レーザー砲での敵の右辺の兵装を、撃ち抜いてのナイスフォロー振りを発揮してくれた。


 同時に雷神の合いの手と言うか、つまりはミケのひと睨みで左側の翼と吐き出された兵団に大打撃が。ミケの沸点は、高いようで意外と低い時が間々あるのだけれど。

 今回も敵の仕打ちは、うっかり彼女の逆鱗に触れてしまった模様で。その一撃を浴びたボス機兵は、為す術もなく浮遊状態からドスンと真下に落下の憂き目に。

 お陰で熾烈だった攻撃も、すっかり止んでしまった。


 それを好機と見て、再び前進を開始する護人。しっかり“四腕”を発動させて、敵のコクピット目掛けてジャンプで飛びついてのガラス割りに及んで。

 その瞬間も、敵は尚もパペット兵士やストーンゴーレムを両サイドの開かれたハッチから吐き出していた。形状と大きさからして、そんなに大量に乗ってる筈も無いのに不思議である。


 その雑魚たちを、両側から挟み込んで迎撃して行く姫香とハスキー軍団と茶々丸である。雑魚と言ってもマシンガン持ちも混じっているので、その兵力は決して侮れない。

 それでも“四腕”で強引にフロントガラスを割って、機内へと侵入を果たした護人は。周囲を《心眼》で見回して、しっかりとこのボスモンスターのコアの発見に至る。


 後はそれを破壊してやれば、このヘリ型の機神も活動を停止する筈。次の瞬間、それは見事に叶って何とかこちらに怪我人が出る前に戦闘は終了した。

 ただまぁ、ボスから湧いた雑魚までは消えてくれなかったけれど。


 それらを倒すのに、追加で数分費やしたのはまだ良い方だろう。慎重に戦えと言ったのは護人の指示だし、全員がそれを守った結果なのだから。

 お陰であの厄介そうなボスを相手に、こちらの被害も軽微で済んだ。茶々丸が例の如く突っ込み過ぎて、マシンガンの掃射を浴びた時にはビビったけど。


 幸いながらも軽傷で済んだのは、着込んだ装備のお陰か前もって飲んだ硬化ポーションの恩恵か。どちらにしても、紗良の治療で普通に前線復帰出来そうで何よりだ。

 つまりは、戦闘終了して周囲を探索していた姉妹から驚きの報告が。香多奈の魔石(大)とオーブ珠と何かの砲弾を拾ったとの物騒な報告はさておいて。


 姫香からの報告は、ダンジョンコアが無くて代わりに階段を見付けたとの衝撃的なモノ。つまりはこのダンジョン、5層が深層では無かったらしい。

 あれだけ大掛かりなボスを用意しておいて、それは無いよねと呆れる末妹だけど。護人も全く同じ意見で、新造ダンジョンの癖に成長し過ぎだと辛辣な評価。


 とは言え、コアに用のある一行は否応なく先に進むしか無く。これ以上のボスに出遭わない事を祈りながら、消えかけていた闘志をもう一度燃やすのだった。

 いやしかし、本当にこれ以上の仕掛けは勘弁して欲しい。





 ――先を思って出て来るのは、そんなマイナス思考ばかりなのだった。






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