第447話 2層以降も癖のある敵が出現する件



 幸いな事に、そこまでこの“戦艦ダンジョン”のフロアは広くはないみたいだ。敵は凶悪な仕様の奴らが多いけど、階段を発見出来たのはインして20分後の事。

 オーバーフロー直後もあって、敵との遭遇がほぼ無かったのもあっての事だけど。この調子なら、さほど時間も掛らずに5層のボスの間へと辿り着けそう。


 新造ダンジョンなので、そこが最深層の可能性は大いに高い。そんな最短攻略を望みながら、進む第2層の探索である。慎重に進むハスキー達と、先頭を行く護人とルルンバちゃん。

 後衛陣も、硬化ポーションを飲んでいるとは言え緊張感は半端ない。コロ助などはいつもより後衛寄りで、いつでも《防御の陣》を張れるようスタン張っている。


 それは姫香も同じ事、『圧縮』スキルで敵の銃弾や自爆攻撃を防げるかは自信は無いけど。直撃よりは遥かにマシなので、いつでもスキルを展開出来る心構えで進む少女である。

 そんな緊迫した雰囲気で、第2層の探索は続く。


「敵の数は確かに少ないけど、出て来るモンスターのアクが強いと言うか……自爆攻撃とか、本当に勘弁して欲しいよねぇ、護人さん」

「そうだな……今回の探索は時間が掛かってもいいから、慎重に防御的な陣形で進もうか。トラップもあるかも知れないから、みんな気をつけて行こう」

「トラップって、ひょっとして地雷とか? 踏んだら吹っ飛んじゃうんだっけ、怖いねぇ」


 映画の知識でそう話す末妹だが、実際はそんなには怖くは無さそう。姉やハスキー達に囲まれたこの陣形は、確かに心細いとは言えないけれど。

 それなりに緊張感は持っているようで、踏み出す足も恐る恐るな感じを受ける。ツグミも『探知』スキルをフルに活用して、チームの安全確保に忙しい。


 何しろ、本当に香多奈の言うように地雷とか仕掛けてある可能性も皆無では無いのだ。慎重に進んで悪い事は何も無いと、護人とルルンバちゃんは並んで進んで行く。

 それに少し遅れて、ツグミが追従しての危険感知を行って。そうして進む第2層に、ようやく敵が出現した。そいつらは骸骨で、あまり強くなさそう。


 今更スケルトンの群れなど怖くないが、そいつ等は一行が近付くと一斉に炎を噴き出し始めた。まるで肉体のようにそれをまとい、骸骨とは思えない俊敏な動きで迫って来る。

 護人とルルンバちゃんもその動きには苦労しているようで、ハスキー達の参入後も攻防は一進一退の有り様で。何しろレイジーの『魔炎』も効果が無いし、他のスキルも炎の肉にダメージを阻止されてしまうのだ。

 今のところは、倒せたのは護人が強引に斬り倒した1体のみ。


 それでもレイジーが『可変ソード』に、コロ助が『白木のハンマー』に武器を持ち換えて風向きは完全にこちらに。相性と言うのは大事で、今回の戦闘もまさにそんな感じで。

 ようやく減って行く敵影に、加勢しようと構えていた姫香たちもホッと一息。さすが高ランクダンジョンだと、気を休めずに周囲に気を配りながら戦況を見据えて。


 戦闘がひと段落ついた後も、護人に気楽に語り掛けずに臨戦態勢を崩さない。2層でこんな強敵が、雑魚で出現するダンジョンなのだ。

 何かあった後で後悔しても、それは遅きに失すると言うモノ。



 そして第2層の探索の再開、隊列は入った時と同じく護人とルルンバちゃんが先頭である。さっきは良い所の無かったルルンバちゃんは、ヤル気だけは満々で。

 周辺の探知も頑張る様にと、リーダーに言われてから気合も入りまくりである。とは言え不慣れな前衛で、そんな気合もやや空回りしている感も。


 護人はそれを察してちょっと反省、やはり育成は1日にしてならずと言うか。普段から色んな経験をさせてやらないと、こんないざと言う時に苦労する事になるのだ。

 ルルンバちゃんは何も悪くはない……便利だからと、つい毎度の探索で後衛の護衛役を押し付けてしまっていたのは自分なのだ。従順な彼は、文句も言わずにそれを全力でこなしてくれて。


 結果、今まで後衛からのビーム砲くらいでしか、活躍の場が無かったと言う。後は護人と同じく、遠隔攻撃での前衛サポートがメインだったし。

 そんな彼に、危険だからといきなり前衛役を押し付けるなんて。本来は恥じるべき所業なのだが、本人的にはとっても嬉しいみたいで何と言うか。

 本当に、素直で頭の下がる性格のAIロボである。


 そして言いつけ通りに、その《床マイスター》の称号に物を言わせて罠を発見。得意満面のルルンバちゃんと、その罠の解除を行うツグミである。

 戦闘面でも威力を発揮する彼は、次のグール戦でも壁役を頑張ってくれて。グールはゾンビの上位互換らしく、毒の牙や咬み付き攻撃はかなり厄介な敵らしい。


 それを物ともせず、浄化ポーションを塗布した剣で敵を駆逐して行く彼はある意味無敵だ。ただし浄化ポーションを用意したのは姫香で、魔銃の弾込めは香多奈がやってくれている。

 その辺の面倒は必要だが、それを差し引いても有能には違いなく。何より真面目な性格と、無敵のボディはどこに出しても誇れる性能である。


 護人もこの相棒に隠れて、そんなに目立って無いけど敵の殲滅に一役買っての指揮振りはさすが。一歩引いた位置にいる、ツグミやレイジーへの指示出しも秀逸だし。

 お陰で大きな事故も無く、2層を突破に至る一行である。


「おっと、ここはさっきの兵器格納庫かな? 敵の密度も段々と上がって来たし、3層はもっと多くなって来るかもな。

 向こうまで渡って、後は階段を下れば3層だな」

「後衛って暇だなぁ……いつでも替わっても大丈夫だからね、護人さん。香多奈の相手も、いい加減に飽きちゃったよ」

「何よっ、姫香お姉ちゃんが喧嘩を吹っ掛けて来るだけじゃんかっ!」


 探索中にそんなやり取りは、いつものペースには違いないけど。この陣形の最大の短所が、この姫香と香多奈の距離の近さなのは何と言う皮肉だろうか。

 紗良のたしなめの勢いは、この姉妹喧嘩の仲裁にはやや弱い気も。それでも戦闘が始まると、さすがに2人ともそちらに集中してくれるので。


 現状では破綻にまでは行っておらず、まずは一安心といった所。実際、この第3層では道をはばむ敵の数もグッと増えて来たようで。

 知恵を失った毒持ちグールに紛れて、拳銃持ちのパペット兵士もこちらを狙って来る有り様。こんなのに背後から奇襲を掛けられたら、本当に大変な目に遭ってしまう。

 それに気付いた一行は、より慎重に歩を進める。


 ところがここから戦艦内のルートは、より複雑になって来てしまっていた。あちこち彷徨さまよって、行き止まりの小部屋に宝箱を1個見付けたのは良かったけれど。

 さっき階段を見付けた機械室は、10分余り歩き回って手掛かりは得られず。ちなみに宝箱には、木の実や薬品の他に強化の巻物2枚にスキル書1枚が入っていた。


 さすが新造ダンジョンと喜ぶ子供たち……実はさっきの戦いでも、拳銃持ちパペットたちが色々とドロップしてくれていたのだ。スキル書もそうだが、何と拳銃や弾丸など物騒なアイテムまで。

 そのドロップには、さすがに眉をひそめて素直に喜べない表情の子供達だったけど。この宝箱からは、他にもパックのレーションが割と大量に出て来た。


 他にも迷彩服やアーミーナイフ、ヘルメットに高性能のヘッドライトなどなど。これがひょっとして軍人さん達の遺品かなと思うと、かなり微妙ではあるけれど。

 拳銃を渡されるよりは幾分かマシで、この携帯食は美味しいのかなぁと香多奈などは盛り上がっている。色々と種類はあるみたいで、持ち歩く非常食には良いかも。

 紗良もご機嫌で、それらをどんどん鞄に詰め込んで行く。


「拳銃とかはともかくとして、携帯食や装備品は青空市でも売れるかもね。それより、あと進んでないルートはどっちだっけ?

 4層への階段が見付からないね、ここまでは順調だってのに」

「突入して、まだ1時間半くらいだっけ……敵の数も多くなって来てるし、この先はもっと大変かもねぇ。

 姫香ちゃん、分岐で上への階段はまだ通って無いかも?」

「上って行けるの、船の外に出ちゃうんじゃない?」


 そう口にする香多奈だが、船の甲板に出ると言う選択肢はアリかは不明。まぁ、出れてしまえるのかも分からないし、他に探索すべき場所が無いなら行くしかない。

 そう結論付けて、再び敵の居なくなった艦内通路を進み始める来栖家チーム。紗良の覚えていた分岐には、確かに上へと続く鉄製の階段が窺えた。


 その視線を辿って行くと、上の方には恐らく外へと続く鉄製の分厚いハッチが。この艦内の扉は、どこも似たような造りだがルルンバちゃんが通り抜けるのも一苦労なのだ。

 敵影が無いのを確認して、護人とルルンバちゃんの前衛陣は階段を上がって行って扉前へ。それから用心して外を窺うと、予想通りにそこは船の甲板となっていた。


 潮風の匂いと波の音が響いて来て、風も意外と強いみたいだ。それよりも、真っ先に偵察に顔を出したルルンバちゃんが、次の瞬間には銃撃に遭って酷い目に。

 それを意に介さずに扉を潜って、反撃に転じるAIお掃除ロボ。


 すかさずそれに続く護人に、ハスキー達も風のように従っての扉の外の安全確保作戦の開始である。レイジーの『魔炎』が左辺で派手に舞い上がって、マシンガン持ちのパペット兵が火だるまに。

 中央のルルンバちゃんの突進に、護人も長刀とシャベルの二刀流でお手伝い。弾避けにルルンバちゃんを使うのは、この際勘弁して貰って。


 その影から躍り出て、マシンガン持ちのパペット兵を長剣で薙ぎ倒して行く護人。ルルンバちゃんも直接武器の扱いは不慣れながら、パワーの差で敵を圧倒して行って。

 何とか後衛陣が、甲板へと出ても大丈夫な安全地帯の確保に成功する。そして同時に発見する、次の層への階段が甲板の船首の先の方に。


 そのルートを塞ぐように、2体の機神型兵器が配置されていた。サイズはルルンバちゃんと同じ位で、大き過ぎもしないが決して小さくも無い。

 そしてそいつもマシンガン持ちで、派手に銃弾をばら撒いて来る。慌てて物陰に避難するハスキー達、逆にルルンバちゃんは物怖じせずに前進して行く。

 護人も同じく、ルルンバちゃんの死角から敵へと接近。


 作戦を考えている暇も無い、銃弾の雨は暴力以外の何物でも無いのだ。それを一刻も早く止めさせなければ、家族の誰かが傷ついてしまう。

 その意識での前進は、ルルンバちゃんとて同じ事。自分となる敵の行動を、真っ向から否定するための接近と。それからお返しの『波動砲』と、武器での一撃。


 後ろに張り付いていた護人は、いつの間にか勇ましさを身に着けていた相棒に頼もしさを感じつつ。死角から躍り出ての、止めの一撃を機神のコアへと見舞って行く。

 片方のずんぐり型の機神は、レーザー砲で機体の真ん中に風穴が開いていて行動不能状態だ。護人とルルンバちゃんが斬りつけたシャープ型の機神も、コアを破壊されてゆっくりと崩れ落ちて行った。


 その機神の武器のパーツに、ロケット砲があるのを見た護人は改めて絶句状態に。使われなくて良かったが、もし使われていたらどうなっていた事やら。

 ルルンバちゃんのレーザー砲も大概だが、人間相手にロケット砲を持ち出すダンジョンのモンスターもやり過ぎだ。ずんぐり型の敵に止めを刺しながら、さっさとここの攻略を終えたくて仕方の無い護人である。

 この先も、現代兵器には要注意で進まなければ。


 幸いながら、ここは新造ダンジョンなのでそんなに層は深くないのが有り難い。精々が5層かその程度で、攻略は完成する筈である。

 そしてダンジョンコアを外に持ち帰れば、ここでの依頼は完了である。4層への階段も確保して、中ボスの間も手が届くところへと近付いて来た。


 引き続き護人とルルンバちゃんの前衛で、何とか事故も無く終わらせたい所ではあるけど。この先も波乱の予感が、ひしひしと感じられるのは気のせいだろうか?

 そんな思いで、護人は階段を降りて行くのだった。





 ――“戦艦ダンジョン”の攻略は、そろそろ佳境へ。






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