第444話 三原案件が来栖家チームに巡って来る件



 その話題は、東広島地区に遠征に行ってた最中にも、護人達の耳に入って来ていた。三原の町のオーバーフローの話題とか、ともすれば“ダン団”関連は星羅せいらにも関係する噂。

 なので詳しく聞きたかったのだが、西条の協会にも詳細は不明との事でかえって不気味ではあった。来栖家チームとしても、その場にいて出来る事は何も無い。


 そんな訳で、しっかりその地元の協会で依頼達成の報告をして、来栖邸宅へと2時間以上掛けて戻ったのだった。それから数日もしない内に、何と協会から依頼が舞い込んで来た。

 それがどうやら噂にあった、三原方面の問題絡みとの事でビックリ。A級に上がってから、この手の依頼に振り回される機会の多い来栖家チームである。


 そして子供達も、その依頼に意外と乗り気と言ういつものサイクル。それ以上に、今では同じギルドの星羅の古巣と言うか故郷である。

 情報は彼女も欲しいだろうし、噂だけでなくその目で“ダン団”のその後の顛末も確認しておきたいだろう。そう言う意味も込めて、前向きな返事を返す事に。

 どの道、依頼を断ると面倒な目に遭いそう。


「協会の土屋さんと柊木さんも、詳しい内容は知らなかったみたいだね。でも聞き及んだ話では、三原の町がモンスターに襲われて壊滅状態なんだって。

 “ダン団”組織は、その前に崩壊していて守る探索者もほぼいなかったみたい。不運が重なったって言うか、自業自得だって柊木さんは笑ってたけど。

 住んでる人達にとっては、笑い事じゃ済まないよねぇ?」

「そうだな、どうやらまたB級以上のチームが集合して、町奪還のレイド戦になりそうだね。ウチは子供もいるし、楽な部署に回して欲しいね。

 ただまぁ、何日掛かるか分からない依頼内容なのが心配だな」

「今週末で、敷地内の5つ目のダンジョンを制覇出来ると思ったのにねぇ。世の中って上手く行かないね、まぁ連続で週末に遠征するのに反対はしないけど。

 もちろん私も行くからね、叔父さんっ!」


 そう言って荒ぶる末妹だが、週末の土日だけでは片付きそうにない依頼である。つまりは小学校を何日か休む事になりそうで、その辺は仕方が無いのかも。

 香多奈だけ家に残して、残りの者が遠征に出掛けるのもそれはそれで心配だ。今はお隣さんがみっちりと増えたとは言え、何をしでかすか分からないのが子供と言う生き物なのだ。


 そんな訳で、前向きな返事と配属部署の要請込みでの返答をしたところ。半日もせずに、何と仁志支部長と能見さんが揃って車で峠道を登って来てくれた。

 どうやら電話での応対では、切実さが伝わらないとでも思ったのだろう。まさか失礼に当たるとは思ってない筈だが、護人としても直接話し合う方がやり易い。


 紗良などは、早くも夕食を食べて行って下さいねと歓待の素振り。一瞬だけ嬉しそうな表情を見せた両者だが、すぐに仕事モードの顔に戻って行く。

 そして来栖家の応接間で、今回の依頼の説明を始める能見さんである。室内には姫香も同席しており、何故かミケも抱っこされて姫香の膝の上に。

 それだけで、場がホンワリしてしまうのは致し方が無い。


「まずは依頼を受けて頂けると言う事で、そのお礼を直接言いたくてこうしてやって来た次第でして。夕食にまでよばれて、大変恐縮なのが本音なのですが。

 今回の遠征も、S級の“皇帝”甲斐谷チームが恐らく指揮をると思われます。目的は三原の奪還と、その後の住民の安全確保となっておりまして。

 現在の三原ですが、獣人軍とホムンクルス軍の襲撃で壊滅状態にあります」

「この2つの軍勢ですが……特徴は、何と言っても倒しても遺体が魔石にならないって事ですかね。つまりダンジョン産では無く、異世界からの侵略者で間違いなさそうです。

 その事について、護人さんの方で何か心当たりはありませんか?」

「急にそう言われてもなぁ……姫香は、何か思いつく事はあるかい?」


 そう護人に話を振られ、う~んと眉根を寄せて考え込む姫香。異世界関係の話を聞くなら、ムッターシャチームか妖精ちゃんに訊くのが一番かなと前置きして。

 それから第一に思い付くのは、例の“浮遊大陸”での勢力図である。あれは誰に聞いたのだったか、そこでは獣人軍とホムンクルス軍と死霊軍が覇権を争っていると。


 その端っこで、パペット領主が細々と生活してたよねと姫香の言葉に。異界ゲートが偶然三原に開通したのでなければ、その2つの軍勢から思い付くのは、そこしか無いねと護人も同意。

 とは言え、茶化して言ったけど『異世界ゲート』がある日突然開く可能性もゼロでは無い。ムッターシャチームもそうやってこの地に来たのだし、充分あり得る話だ。


 そうなると、敵モンスターを一掃した後に、そのゲートなり何なりを閉じる作業が待っている。それが可能かも不明だし、ここで話し合っていてもらちは明かないだろう。

 そこに、リリアラなら詳しいんじゃないかなと姫香の助け舟が。彼女達が、この作戦に同行してくれるかは全くの不明だけれど。それどころか、星羅にこの事を伝えるべきかも迷ってしまう。

 何しろ故郷の崩壊って、割とデリケートなニュースである。


 仁志支部長も、もし異世界チームや星羅がヘルプに入ってくれれば、それ相応の謝礼は用意すると約束してくれた。来栖家チーム的には、週末の金曜日に出発するように言い渡されて。

 星羅も今はお隣さんで、土屋と柊木と共に健全な生活を営んでいる。家屋の修理もとどこおりなく終わって、3人での共同生活も住み心地は悪くないそう。


 今や“ダン団”組織からの脱却を成功させて、穏やかな生活に戻れた星羅がどんな選択をするか。それは不明だけど、護人も姫香も最大限のフォローはしてあげるつもり。

 田舎の住人は、その手の人情だけは厚いのだ――




 それからあっという間に時は過ぎ、今日は出発予定の金曜日である。香多奈もちゃっかりと学校を休み、探索の準備をして庭先で準備体操など行っている。

 その隣では、茶々丸がぴょんぴょん跳ねての、良く分からない準備体操の真似事など。姫香はカーゴ車にルルンバちゃんの機体を詰め込み、忘れ物が無いかのチェック中。


 同じく庭先には、協会の土屋女史と柊木が来栖家チームをお見送りしようと訪れていた。数日留守にするとの事で、家の鍵も預かっての注意事項は既に聞き終わっている。

 家畜の世話に関しては、凛香チームが行う事になっているので問題は無い。それから万が一の野良モンスター騒ぎがあったら、異世界チームが指揮を執る決まりになっていた。


 1年前に比べて、対応力は格段に上がっている山の上の来栖邸の近辺である。植松の爺婆も、毎日田んぼを見に上がって来てくれるとの事で心配は無さそう。

 後顧こうこうれいは無いけれど、ちょっと星羅のメンタルが心配な一行である。結局は同行はしないとの本人の判断だけど、その方が良いと護人も思う。


 戦場となっている故郷で手助け出来る事もあるかもだが、正体がバレればそれ以上に厄介だ。元の木阿弥もくあみで“聖女”と依存されるかもだし、最悪だと故郷を見捨てたと責められる可能性も。

 そんなのは、自分の安全しか考えてない身勝手な人たちの意見でしか無い。大勢に責められる方はたまったモノでは無いし、逃げ出した引け目も彼女にはある。

 その手の言葉は、星羅のメンタル的に重大な負荷になってしまうだろう。


 そんな場所には近付かないのが吉、進んで精神的な負担を背負い込む事も無い。そんな来栖家の勧めもあって、留守番役に留まった星羅であった。

 しかしその表情は冴えず、その辺は同居している協会の2人に任せるしかない。この3人での同居も、意外と上手く行ってるようで来栖家としても安心だ。


 そんな訳で、準備も整っての来栖家のキャンピングカーは出発する。最初の目的地だが、今回声を掛けられた探索者チームの集合場所らしい。

 協会からの通知では、まずは三原にある『広島空港』に全チームが集まるとの事。午後の遅い時間に集合して、作戦会議から行動は明日以降になるそう。


 広島市内からも遠い立地のこの空港、西広島に住んでいると岩国空港の方が圧倒的に近いと言う。“大変動”以降の現在は、飛行機もろくに飛ばないので今はただの空き地である。

 それを有効利用すべく、今回の集合場所になったらしい。騒動となった街は海側なので、山側にある空港からは割と結構な距離がある。

 ただし作戦本部は、その位の距離を開けないと安心出来ないとも言える。


 そんな感じでの前線基地に指定された『広島空港』は、前回訪れた“広大ダンジョン”の西条インターよりもう少し向こう。護人も道順をバッチリ覚えており、道中の妨害もほぼ無く済んで移動はスムーズ。

 予定通りの時間に到着した一行は、空港の前で集合場所の確認に忙しい。目敏めざとい香多奈が、まずは空港の建物内に動き回っている人影を発見した。


 どうやら既に、探索者のチームは複数集合しているみたいだ。ゴツイ装甲車やキャンピングカーが何台か、目立たない場所に駐車されている。

 何だか極秘任務みたいな雰囲気だが、確かに向こうの軍勢にこっちの前準備は知られない方が都合が良い。協会からは詳しい話は聞いてないけど、今回は結構な数のチームが参加する雰囲気。


 来栖家チームも目立たない場所に駐車して、建物の中へと入って行く。長い間使われてないターミナル内は、無機質でどこか寂し気な感じ。

 それでも動き回ってる探索者達の、活気はそれをぬぐい去るレベル。


「おっ、これは遠路はるばる、A級の来栖家チームがお出ましだぞっ! 司令官の“皇帝”甲斐谷はそこの奥のテントの中だよ、他のメンバーはそっちの座席でくつろいでいてくれ。

 ターミナル内の片付けは終わってるけど、歩き回ると危ない場所もあるかもだから気をつけて。ペット達も、建物内でも基本自由で構わないよ」

「あっ、ご親切にどうも……チームの集まりは、現段階でどの位でしょうかね?」


 出迎えに出て来てくれたのは、ギルド『麒麟』の淳二だった。市内で活躍中の、甲斐谷チームとも親交の深い人物だ。それから尾道の『Zig-Zag』のリーダーも、挨拶に出向いてくれていた。

 子供達はお言葉に甘えて、リーダー同士の難しい話を避けてターミナルの待合室に座っている事に。香多奈は中の様子が珍しいのか、撮影をしながら凄いねぇとはしゃいでいる。


 ジャンボジェット機とか見えるかなと、姫香もガラス越しに滑走路の方を見遣っている。しかし残念ながら、その手の飛行機は外に野ざらしにはなっていない模様。

 ペット達も、ターミナルの様相には少し落ち着かないようで、子供達と身を寄せ合うようにしている。まだ夕方には早い時刻で、夕食まで結構暇な時間かも。


 護人は他の探索者に案内されて、既に指令室のような場所に向かって行って不在である。護衛役のレイジーも同じく、子供達は家長が戻って来るのをただ待つだけ。

 要するに、夕食までは何もやる事が無い感じだ。


「暇だね、お姉ちゃん……この建物の中、ちょっと見て回ったりしたらダメかな?」

「駄目に決まってるでしょ、香多奈……大人しくしてなさい、ただでさえ私たちは他のチームより目立ってるんだから。

 ルルンバちゃんも、無暗に飛び回らずじっとしてるんだよ?」

「私たちの方でも、情報集められたら有意義な時間潰しなんだけどねぇ……やっぱり、他のチームに声を掛けるのはちょっと怖いかも」


 青空市での勢いはどこへやらの紗良は、情報収集がしたいけど勇気がイマイチ出ない模様。飛行モードで飛び回っていたルルンバちゃんは、言われた通りに飛び回るのを止めて子供たちの前へと着地する。

 それを見ていた近くの男女ペアが、物珍しさからか話し掛けようと近寄って来た。それを察してブロックに立ち上がるツグミとコロ助、護衛犬の迫力はさすがである。


 それを主の姫香は制止して、相手に悪意は無いよとなだめる作業。今回の作戦に参加する探索者チームなのは、この場にいる事で判明している。

 悪意のある無しは勘と言うか、相手の眼や物腰を見ての姫香の判断である。その男女は共に強そうで、恐らくはB級ランク以上はありそうだ。

 年齢的には、20代は過ぎて護人と同じ位だろうか。


「おっと、私たちは怪しい者じゃないよ……同じ作戦に参加するみたいだし、挨拶をって思っただけだから。私は呉の『千貫大和』ってチームの、天城って言うB級ランクの探索者なの。

 こっちも同じチームで、やっぱりB級の“天壊”の不知火って名前ね。そちらは西広島の来栖家チームで合ってるかな?」

「ええ、そうです……リーダーは作戦会議で留守にしてますけど、私たちはチーム員に間違いありません。あのっ、呉のチームなら詳しい現状を知ってますか?

 私たち、西広島のチームなんで最新情報にうとくって」


 コミュ力お化けの姫香が、そう言って話の切っ掛けを与えて、事情通っぽい探索者を釣り上げる事に成功する。香多奈も率先してお手伝い、席を空けてここにどうぞと招く仕草。

 そんな感じで、戸惑う『千貫大和』の2人からの事情聴取を数十分ほど。さすがに向こうは竹原を挟んでお隣の市だけある、三原の異変には詳しい模様。

 それは今から、約一週間前に始まったそうで。





 ――それから町の壊滅まで、あっという間だったとの話。






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