第443話 “ダン団”の残り香が日馬桜町まで漂って来る件
“広大ダンジョン”の攻略を、何とか無事に終えた一行は、その日は近くの宿で一晩過ごした。来栖家チームに関しては、次の日の日曜もお昼までは小旅行を満喫する計画である。
昨日の探索は、実際には攻略と言うより護衛任務で、間引き案件とも違っていた。その内実も、いきなり妙なモンスターに絡まれて、ダンジョン内でチームがバラバラになると言う非常事態に。
それを何とか、誰も欠ける事無く脱出できたのは本当に
ただし、この手の依頼は二度と受けないと、チーム的には固く誓ったのは当然であろう。日馬桜町は、どっちにしろ地元の間引き案件で精一杯な所もある。
それを口実に断れば、まぁ角も立たないだろう。
ちなみにゼミ生チームも、昨日は同じ宿に泊まって夜は結構騒いだりもしちゃってたり。小島博士はさすが元地元だけあって、周囲のお店にも顔が利いたよう。
一晩過ごした翌日の今日は、その顔の広さで海の幸の販売店にも寄る事に。魔法の鞄も持って来てるので、出来れば色々と買い貯めたい所。
そう張り切る紗良は、もちろんお隣さんのお土産類も計算に入れていた。小島博士の紹介の直営店から、購入した量も半端では無い感じ。
ほぼ買い占め状態だが、それでも紗良の買い物欲求は治まる事が無かった。近くに大型スーパーを発見して、みんなで特攻を掛ける事を提案して来る。
こんなアグレッシブな長女も珍しい、とは言え実際はそこまで買い込む品も無かったのだけど。何しろ生鮮食品に関しては、地元の3倍以上の値段がザラと言う。
全員が高っと絶叫して、結局は買い込んだのは日用品とか果物とかお肉の類いに留める事に。そもそも農家の来栖家には、野菜を買い込む必要も無い。
それにしても食料品を含めた物価の高さは、何と言うか心配になるレベル。都会の生活に固執する人の、気心が全く分からない紗良である。
コンビニが近いからって、無くて当然の生活をしている者には不便の感覚が分からない。逆にたまに入ったりすると、値引きされていない商品を買う意味が分からないと言う。
どの道、この時代はコンビニの数もめっきり減ってしまっている。
「ほらっ、コンビニなんか入っても買うモノ特に無かったでしょ、香多奈。最近は雑誌とかも売られてないし、高いジュースや食べ物しか置いてないんだよっ」
「なんか思ってたのと違った……もっと最先端のお店かと思ってたけど、アイスくらいしか欲しいモノ無かったよ」
「コンビニの利点は、町のあちこちにあって24時間いつでも利用出来る便利さだったんだよねぇ。今の時代は24時間営業でも無いし、店舗数も減っちゃってるし。
そもそも流通も確保されてないから、品数も全然足りないよね」
紗良の辛辣な評価だけど、大体その通りで何とも悲しい現実である。それでも全員がアイスを買って、今は昼食後の周囲の街並みの散策タイムと言った所。
お昼も小島博士のお勧めの中華屋さんで、値段は張ったけど美味しかった。子供達も満足そうだったし、
そんな感じで時間を過ごして、家の事も心配なのでそろそろ帰路につく事に。2台連なっての高速道路の旅路は、今回も何事も無く
そして家族で相談した結果、家に帰る前に協会に立ち寄る事に。東広島の協会は、誓約書の関係で探索後にも1度立ち寄ったのだが。
何だか冷めた反応で、そこで魔石を売るのは取り止めたのだ。
どちらにしろ、動画編集は慣れてる能見さんにして欲しいってのが子供達の本音である。用事があって立ち寄るのなら、魔石も地元で売った方が良い。
お土産も渡したいし、夏前キャンプの話も少しは詰めておきたい。と言う訳で、来栖家のキャンピングカーは、家に帰る前に協会の敷地内の駐車場に。
旅行や探索の疲れの窺えない子供達は、勢い良く車から降りて行く。それに対し、買い物と運転の疲労ダメージの残る護人は、よっこらしょと爺臭いリアクション。
ちなみにゼミ生チームは、ここで別れて一足先に帰路につく流れに。さすがに探索に同行し、その夜宴会騒ぎに参加した老齢の教授は精魂を使い果たした模様。
そんな訳で、さっさと家で休みたいとの事でここからは別行動に。残りのゼミ生も、噂の複合ダンジョンの動画をその目で確認したくて仕方が無いみたい。
まぁ、そう言う意味では今回の探索も無駄では無かったと思いたい。
「あら、みなさんお帰りなさい……ラインで無事に依頼を遂行出来たのは知ってましたけど、帰りに寄ってくれるなんて嬉しいですね。
動画編集の依頼ですか、それじゃあ一緒に観ましょうか」
「それもあるけど、お土産渡すのと魔石もこっちで売ろうかなって。向こうの協会は慣れないし、どうせ今日には地元に戻る予定だったからね。
そんな訳で……はいっ、みんなにお土産っ!」
「今回は大変だったんだから、能見さんっ……回収品もあんまり多くなかったし、ダンジョンについたと思ったらオーバーフロー騒動に巻き込まれるしさ。
依頼任務は、もう金輪際しないってみんなで決めたからね!」
そんな姫香の宣言に、お疲れ様と
その隣で、江川に今回分の魔石や薬品類を渡した護人は、ヤレヤレと肩の荷が降りたように一息つく。それから妖精ちゃんの力を借りて、今回の回収品の魔法アイテムのチェックなど。
そしてやっぱり、その数の少なさにA級ダンジョンに潜った甲斐は無かったなとガッカリ顔に。あれだけ苦労したと言うのに、魔法アイテムはたったの3つである。
この分では、換金額も今回は大した事は無いかも?
【知識の学生帽】装備効果:知力&魔法耐性up・中
【不死鳥のネックレス】装備効果:攻撃無効(限定) ・大
【飛翔の箒】使用効果:飛翔&掃除&魔力up・大
その他:『鑑定プレート』(薬品)×1、『強化の巻物』 (魔法防御)×2
とは言え、『鑑定プレート(薬品)』は売れば百万以上の値はつくし、『不死鳥のネックレス』なんてトンデモ性能である。これは回数限定とは言え、即死攻撃を無効にする効果があるみたい。
『飛翔の
それからちゃんとお店で購入した、箱のお菓子も幾つか一緒に。仁志支部長は喜んでお礼を言って来るのだが、動画を観ている能見さんは一転して曇り顔に。
場面はいきなり広大駐車場のオーバーフロー騒動で、動画の中はフィーバー状態。小島博士の動画データも、コピーさせて貰ってるよと姫香はご機嫌なのだけど。
この騒動を抑えた報酬は、ちゃんと東広島の協会から貰ったのですかとの能見さんの質問に。えっ、本当は貰えたのとお金にがめつい香多奈の返答。
この頃から、穏やかだった仁志の顔色も冴えなくなって来た。
それからおもむろに席を外して、どうやら向こうに事実確認の電話を入れている模様。それに関係なく、動画はどんどん進んで例のバグ型モンスターの出現シーン。
その異様さには、さすがの能見さんも顔色を失い、何ですかこの凶悪な敵はと説明を求める素振り。何かダンジョンを破壊するモンスターらしいよと、妖精ちゃんの台詞をそのまま伝える末妹である。
そこからのみんなバラバラ事件は、能見さんや仁志もショックだった模様。家族が揃うまでの動画に、皆が
そして7層での感動の再会から、10層でのようやく全員の集結に至るシーンを視聴して。能見さんは動画を観ながら、何だかウルッと来ている様子。
そこからの『実験研究棟』内の家探し動画は、言ってみれば単なる付け足しに過ぎなかった。感動も何も無い、いや元教授の2人は大いに感激していたようだけど。
子供達も一緒に探索して、ケースに展示されていた素材類を幾つか拝借した。それにはレア素材も混じっていたようで、これはリリアラのお土産に良さそうだとの会話が交わされている。
ついでに言うと、ホワイトボードやマジック類、白衣やら実験器具各種はゼミ生の勉強会に寄付する事に。参考書や問題集も、使い道があるならそうなる予定。
レポート用紙など紙類も、大いに授業に役立つ事だろう。
そんな事をしていると、江川がようやく奥から換金を終えて出て来た。そして護人へと今回の売り上げ額の提示、案の定に今回は魔石が122万と薬品その他が8万円と伸びずの結果に。
追加で依頼任務の代金を貰えて、まぁ何とかって感じである。その代金が予定より多くて不審に思っていると、どうやらオーバーフローを阻止した代金らしい。
本来なら東広島の協会で支払われていたと、謝罪を口にする仁志支部長である。お人好しの護人は、構いませんよと軽く流して気にしていない素振り。
今回の探索にしても、回収品も多くなかったとブー垂れる子供達なのだが。あんな災難があったのに、全員が無事に生き残れただけで幸いである。
ただし、今回の貢献度諸々のポイントのお陰で、姫香がうっかりA級ランクの資格に達したとの報告に。思わず真顔になって、茫然自失の体の護人だったり。
それを喜ぶのは、本人を含めた子供達だけと言う。
そんな騒ぎがあっての数日後、来栖家もゼミ生チームも普段の生活に戻っていた。東広島の奮闘も、そこの協会の不手際もあっという間に過去のモノと成り果て。
姫香にしても、A級にランクアップしたからと言って、特に何が変わったと言う事も無く。夕方の特訓を頑張るのも同じく、日々の生活を普通に過ごすのだった。
ちなみにスキル書2枚とオーブ珠1個の相性チェックに関しては、毎度の
それを当然と受け入れて、日常生活を送る来栖家チームなのであった。ついでにワイバーン肉は、お隣にも配って大好評のうちにほぼ1日で消費された。
確かにアレは癖になる味だが、その為だけに“広大ダンジョン”に通おうとは思わない。ただし、妖精ちゃんのお勧めで一応は入り口のゲートの位置情報は取っておいた。
その結果、ワープ装置でひとっ飛びの到着は可能となった。とは言え、そっちに行く位なら、宝の地図のある“アビス”に行きたいとは末妹の香多奈の弁である。
とにかく、そんな感じで山の上は平穏な日常が続いていた。
その平和を破る知らせが、不意に日馬桜町の協会の仁志支部長から。その日は曇り空で、護人は午前の農作業を終えて一息ついた所だった。
最近は普通に、お隣さんのキッズチームが農業を手伝いに来てくれる。紗良や姫香も、授業の無い日はルルンバちゃんを連れてそれに参加している。
そんな若者に囲まれて電話を受けた護人は、すぐにこれは良くない
仁志支部長の声音は、最初から切迫していて悪い報告を口にするのには適していた。しかし、まさかそれが三原絡みの惨事だとは夢にも思わなかった護人である。
護衛艦“いずも”のダンジョン化の話は、あちこちから報告されていて知っていたのだが。今回はそれに輪を掛けて、酷い事態が巻き起こったそう。
何と三原の街中に、獣人軍とホムンクルス軍が突然に襲撃をかましたとの話。結果、向こうの街中は現在大パニック中だとの事。
そのモンスター軍は、明らかにオーバーフローでダンジョンから湧き出た野良では無いそう。つまりはどうやってか、異界から侵入して来た血肉を持つ異界の侵略者だとの話である。
そして現在、三原の“ダン団”組織は壊滅してほぼ機能していない。
協会も街を追い出されて、現在進行形で戦力の統率者が不在の現状に。あっという間に被害は拡大し、街は壊滅状態との報告が入って来たそう。
その事態を重く見た協会本部は、県内の戦力でレイドチームを立ち上げる事を決定した。つまりは三原市の奪還を目的に、レイド作戦を実行するそうである。
そのレイドのリーダーは、S級ランクの甲斐谷が担うとの事。
――つまりこの電話は、その作戦への参加のお誘い的な?
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