第441話 何とか最後は大団円を迎える事が出来た件
「護人さんっ、良かったぁ……ちゃんと合流出来たよっ! あらっ、香多奈もいたんだ……アンタ、こっちが迎えに行こうと思ってたんだから、ちゃんと安全な場所で待ってなさいよ。
本当に、落ち着きのない子なんだから」
「うるさいなお姉ちゃんはっ、放っておいてよっ! ああっ、ツグミもミケさんも無事でよかったねっ……あとはレイジーとコロ助だけかな、どこにいるんだろっ?
あっ、小島先生もいないのかっ」
「そうね、小島先生を含めたみんなが通信機を持って無いから、合流するのも一苦労なのよ。さっきのツグミちゃんの遠吠えにも、返事は無かったみたいだし。
護人さんの方にも、心当たりは無いですよね?」
あれば嬉しいけれど、現状では手掛かりになる情報はまるでナシ。困った状況には違いなく、さっきから何度か外にいる美登利とも連絡を取り合っているのだ。
どうやら頑張り屋さんのレイジーは、こちらの本隊を探すのを諦めていないよう。頑としてダンジョンからの脱出と言う手段は、とってくれない模様である。
このダンジョン、“
それはリタイアとでも思っているのか、本当の最終手段って感じに捉えている可能性も。つまりは何とか合流するのが、一番手っ取り早い手段には違いない。
問題は、レイジー達がどの層にいるのかの手掛かりが全く無い事に尽きる。3層で全員が次元の裂け目に落とされて、護人達は5~7層でそれぞれ目覚めた。
レイジー達は、果たしてそれより浅い層にいるのか、それとももっと深い層なのか。こちらも待つのがベストなのか、進んで良いのか判断が出来ないのがもどかしい。
かくして、答えの無いジレンマに陥る来栖家チームである。
半々の確率に掛けて、進んでみるって手もあるにはある。ただし、間違っていたら永遠に出会えず、それを実行するのもかなり勇気がいる。
考え込む様子の護人に、姫香がツグミに訊いてみようかと妙案を口にした。つまり家族の
そんな無茶振りをと戸惑う護人だが、それはツグミも同様だった模様。困り顔で主に向けて降参の合図、まぁ仕方無いよねと慰める姫香である。
そして、その流れ弾は香多奈に飛ぶ事に。
「えっ、レイジーとコロ助の現在位置が分かるかって? う~ん、そう言われてもねぇ……コロ助ってば、私が授業を受けてる時に勝手に散歩に出掛けるんだよねぇ。
そういう時は、すぐサボってるなって分かるけど」
「えっ、そう言うモノなの……私はツグミが敷地内のどこにいるかなんて、家の中にいても全然分かんないよ。香多奈の妙な能力が、知らない内に開花してるとか?
どっちみち手掛かりが無いんだから、ちょっとやってみなよ?」
「そうだな、ちょっと不安だが頼めるかい、香多奈?」
護人も姫香も、もちろん末妹に全責任を負わせるつもりは全く無い。それでもこの現状で、香多奈が有用なスキルを所持しているかも知れない可能性は捨て置けない。
そんな感じでの依頼なのだが、当の少女も良く分かってない表情。そんな事を頼まれても、コロ助の方から戻って来いよって思いがアリアリ。
それでも護人に頼まれた香多奈は、自身でも良く分からない能力を操ろうと努力を始めた。眉間にしわを寄せてルルンバちゃんに寄り掛かり、
パッと突然目を開けて、アレッと言う表情に。それからレイジーとコロ助は、ひょっとして10層の中ボスと戦っている最中かもと口にする。
それは多分だけど今現在の情報かもと、何かに目覚めてしまった香多奈の告白に。無茶を振った家族の面々も、それを信じて良いモノかと半信半疑な顔付きに。
それでも護人は、末妹を信じてチームに移動を指示する。この
もしそれが逆の目に出ても、悪いのは自分なのだ。
その時は自分1人になってでも、このダンジョンを周回すれば良いだけの話。レイジーに限って敵に倒されるなんて無いだろうし、その内に巡り合えるだろう。
問題は、例のバグ型モンスターにまた出くわした時である。あんな掴み処の無い敵と一戦交えるなど、ちょっと危な過ぎる。そんな事態になった際は、恐らく逃げの一択となるだろう。
とにかくチームとしての行動が決まると、子供達も張り切ってそれに従って動き始める。絶対にレイジー達と合流するぞと、率先して元気に移動を始める。
この層もさっさとゲートを見付けるぞと、気勢を上げる子供達だった。
その頃のレイジーとコロ助と、ついでに小島博士の居場所なのだが。本当に10階層まで到着しており、しかも何故か中ボスと戦闘中と言う。
その相手は、ある意味赤竜よりも手強いベヒモス型の巨躯の敵だった。カバに似たフォルムに水と土の特性を持ったこの強敵に、ロックオンされて追いかけ回される一行。
仕方無く戦闘に移行したのだが、恐ろしくタフな相手に
戦闘系のスキルも豊富で、地震を起こしたり洪水を起こしたりとやりたい放題。レイジーとの相性の悪さも相まって、防戦一方のハスキー達。体格差もそうだが、よくもまぁ10分以上持っているなって感じだ。
コロ助もサポートに徹しているけど、ツグミがいないので白木のハンマーが手元に無いのが痛い。あったとしても、この10メートル級のボスに通じるかは不明。
得意の『牙突』スキルも、ヒットしてもダメージになっているのか怪しい程のタフな敵に対して。コロ助としてはお手上げで、心中ではさっさと逃げだしたい所。
速度では上回っているのだから、それは決して不可能では無い。ただし
実際、レイジーの忍耐振りとタフさは絶賛されて
それにしてもこの体格差で、この善戦振りは凄まじい。
相手のブレスを『魔炎』で相殺し、踏み潰されそうな場面もひらりと
巨体を震わして苛立ちを表す中ボスだが、こちらを諦めてはくれないよう。逆に冷静なレイジーは、こっそり『蝸牛のペンダント』から『炎のランプ』を建物の陰にセットする。
そうして反撃の機会を窺いながら、中ボスの気を
教授本人は興奮しながら、この一戦をスマホで撮影中と言う。心中では、やはりハスキー達を連れてダンジョンを脱出すべきだったと後悔していた。
それも時既に遅しで、こんな敵に絡まれては脱出も何もあったモノではない。もしこんな敵を引き連れて外へ出てしまったら、市街地が大パニックに陥ってしまうだろう。
こうなった今は、ハスキー達の勝利をひたすら願うしかない状況である。と言うか、この10層での徘徊中に目当ての『実験研究棟』を偶然発見してしまっており。
小島博士としては、
彼も
何しろコアの持ち出し自体、現在では禁止されている次第である。中途半端なデータも、そこから発見はあり得る訳だし絶対に持ち出したい所。
とは言え、お隣さんの大切なペットを犠牲にとまでは思っていないのも事実。どうしたモノかと思い悩むも、教授に何の力添えが出来る訳でも無し。
明らかに劣勢な状況に、小島博士も思わず声に出してハスキー達を応援し始める。その声が届いた訳では無いのだろうが、レイジーの反撃が始まった。
そのきっかけだが、建物の陰に仕掛けていた『炎のランプ』から、突然大きな炎が立ち上がった。そこから無数の炎の狼が次々と召喚されて行き、その数は過去最高にのぼる勢い。
明らかに力を増しているレイジーの軍勢は、ゆうに10頭以上の群れとなって敵に襲い掛かって行った。そして炎の牙で、巨体のボス級の体力を削り始める。
その高熱の炎で、確実に中ボスにダメージを蓄積して行く。
そして数分後には、皮膚の大半を焦がしたボスの悲しき悲鳴が。更に数分後には、その巨体はとうとう動くのを止めてしまっていた。
そして最後は、『焔の魔剣』で敵の討伐を締め
それには安全な場所で秘かに応援していた、小島博士も思わず絶句。何と言うか、動画では毎回チェックしていたけど、それはいつも集団戦だったのだ。
こんなに個別の戦闘能力が際立つ事態も無くて、ハスキー達の評価を思わず改めてしまった。今までは、
それが今では、解き放たれたら危ない爆弾物みたいな認識?
今回は、あまり役に立たなかったコロ助も同じく、母ちゃんスゲェとか内心で感嘆しつつ。兄妹犬のツグミがいれば、もう少し連携取れたのになと悔しい思いも。
そもそも
さすがのレイジーも、あの巨体との20分以上の激闘で体力を相当に消耗したよう。移動用のワープ魔方陣と宝箱が湧いた横で、座り込んで休憩を取っている。
それを見て、小島博士が物陰からコッソリと近付いて来た。今になってハッキリ分かる、この人間がケチのつき始めだと。
だからと言って置いても行けず、これは随分と難しい問題である。それでも宝箱の中身の回収は、自分達には出来ないので人間の同行は大事かも。
何しろコロ助の主人は、この収集物が大好きなのだ。
「いやいや、本当に素晴らしい……今の戦闘シーンは、バッチリ録画してあるからね、レイジー君。後でご主人に観て貰うから、存分に褒めて貰うと良いよ。
さて、宝箱の中のアイテム回収も終わったし……おっと、そう言えばこの層に寄りたい建物があるんだが、ちょっと寄り道してもいいかな?」
相変わらずハスキー達のご機嫌取りに懸命な小島博士だが、それに対する2匹の様子がちょっとヘン。急に耳をそばだてて落ち着きが無くなったかと思ったら、立ち上がっての威勢の良い遠吠えを始めたのだ。
それを間近で見ていた教授は、驚き顔でハスキー達を眺める。そして嬉しそうな様子が湧き出ている2匹を見て、これはひょっとしてとの思い。
次の瞬間、物凄い速度で空を飛ぶ飛行物体を発見する2匹と1人。それは赤いマントをたなびかせて接近して来て、こちらを見初めると急降下を開始した。
その時には、小島博士も興奮して護人の名を呼びながら駆け寄っていた。それよりずっと早く、ご主人目掛けて駆けて行く2匹のハスキー犬。
その姿に心をうたれた教授は、その光景を撮影してみたり。
「良かった、ようやく合流出来た……レイジーもコロ助も無事だったようだね、本当に心配したぞ! おっと失礼、小島博士もご無事で何よりです。
他のメンバーは遅れてこちらへと移動中です、全員無事ですよ」
「おおっ、それは何よりですな……いや、私もこの2匹に本当にお世話になりましてな。さっきの大物との戦闘も、本当に素晴らしいモノでいたよ。
まさに護衛犬の面目躍如、いやぁ護人君にも見せたかったね!」
満面の笑顔でそんな事を言う小島博士は、これ以上なく胡散臭かった。それに慣れている護人は、何かの前振りかなと思う程度で、称賛の言葉は右から左に受け流す。
そして取り敢えず、ハスキー達の怪我チェックとMP補給を先に済ませておくのに
どこから強敵が出現するか分からないし、後続の子供達の心配もしなければ。さっきはレイジー達の安否が心配で、文字通り一足先に単独で飛んで来たのだ。
護人は『巻貝の通信機』で、合流に成功した事を姫香と外に待機している美登利に報告する。それからやれやれと、何とか事態の処理が叶った事に安堵のため息。
安心し切っているのはハスキー達も同じで、尻尾をブンブン振り回しながらMP回復ポーションを飲んでいる。後はチームの合流を待って、このダンジョンを後にするだけ。
そう口にする護人に、小島博士が慌てて待ったをかける。それから散々ゴネての、探索のもうひと踏ん張りを約束させられる流れに。
――そこはまぁ、年の功と言うか人柄とでも解釈するべき?
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