第440話 チームの合流に難航しながら階層を渡って行く件
発見したワープ魔方陣を使って、6層から第7層へと移動を果たした紗良と姫香の姉妹チームである。それから、さて池はどっちとチームの主導は姫香が担うスタイルのよう。
それはお泊まり組とのチーム編成でもそうだったし、ちっとも構わない紗良なのだが。レイジーとコロ助の安否が定かでないのが、やや気掛かりだねとの発言。
その辺の考えをスッポリ忘れていた姫香は、そうだったと頼もしい参謀を尊敬の目で眺めた後。相棒に向かって、遠吠えで確認してみようと提案をする。
ただしこの方法は、近くにいる敵の集団も招くかも知れない。こちらの準備も万端にして、ついでに池の方角も確かめて行なうのがベストかも。
そんな感じでの作戦を立てて、姉妹は近くの建物へと入って行く。それから眺めの良い高所からのマップ確認をしようと、階段を上がって行く一行であった。
そして5階建ての現代建築の屋上へと到達して、まずは周囲の確認をする。この頃には、すっかり当初の
今はその百倍、全員の合流が最重要事項なのだ。
「あっ、あった……池って多分、あそこじゃ無いかなっ!? 樹が生えててちょっと見えにくいけど、確かに
良かった、ここからそんなには離れてないね」
「あっ、本当だ……あっちは恐らく、遺跡エリアみたいだね。このまま順調に、香多奈ちゃんと合流が出来ると良いんだけど。
それじゃあ、危険かもだけどツグミちゃんの遠吠えやってみる?」
オッケーとの軽い返事で、相棒へと合図を送る姫香の表情はいつも通りに明るい。案外すぐに、レイジー達も見付かると信じて疑っていない様子である。
そして屋上から響き渡る、ツグミの狼に似た遠吠え……そのお返しを聞き逃すまいと、姉妹は耳をそばだてて周囲の変化をじっと覗う仕草。
まぁ、聴覚に関してもツグミの方がずっと優れているのだが。何度か試した結果、返事が無いと知ってガックリと肩を落とす姉妹とハスキー犬である。
ミケはじっと空の一角を睨んでおり、どうやら危惧した通りに招かれざる敵がやって来たみたい。2匹の飛竜には、何故かそれぞれ虎顔の獣人が騎乗しているのが窺えた。
甲冑も立派だし、どうやらかなりの強さの敵みたいだ。それでも姉妹は慌てずに、打ち合わせ通りに紗良の《氷雪》からの迎撃を即時に行う。
それを察知して、すかさず離れて行く2匹の騎手付きワイバーン。さすがに操り手がいると、単純な攻撃はして来ないみたいで厄介である。
そして同時に、階下から騒がしい気配が漂って来た。ツグミが敵の一団が階段を上って来たよと、主に知らせて迎撃の準備に向かっている。
あちこち忙しくなって来たが、こんな感じに囲まれるとはちょっと予想外。取り敢えず、こんな見晴らしの良い屋上からはさっさと離れるに限る。
ところが追加で真っ赤な竜の飛来を確認して、紗良がええっと驚く素振り。ソイツは飛竜の3倍は体格が良く、同じく背中に騎手を乗せているのが垣間見えた。
姫香も同じく、これは完全に予想外と焦った表情に。
「とにかく建物に入っちゃおう、紗良姉さんっ……中の敵をやっつけてから、飛んでる連中の事は後で考えようっ!」
「わ、分かった……ミケちゃん、いざと言う時は助けてねっ!?」
安心しろとニャーと返事を返すミケは、紗良の肩の上でまだまだ余裕そうな表情。子供が乗り越える試練は、高ければそれだけ成長が見込めるのだ。
香多奈くらいのチビッ子ならともかく、上の2人は今が成長期である。どんどん強い敵と対面して、強くなって貰わないとこっちが困るってモノ。
まぁ、あの空飛ぶトカゲは少々手強いかも。1匹程度は間引いてやって、2匹は少し弱らせてやるべきか……この2人も、まだまだヒヨッ子には違いないし。
――そう考えるミケは、やっぱり来栖家の子供には甘々なのだった。
「あれっ、今の遠吠え……コロ助じゃないね、レイジーでも無いやっ。って事はツグミかな、どっちから聞こえて来たか分かる、茶々丸?
こっちの場所が分から……ああっ、レイジーとコロ助に呼び掛けてるのかっ! でも返事が聞こえないね、この階層にはいないのかなぁ?」
ハスキーの声色もその遠吠えの意味も、瞬時に理解してしまう優秀な末妹の香多奈である。今も相変わらず池の
ミミックとの戦いに勝利した香多奈チームは、そのドロップに大いに沸いて気勢を上げた。それから小休憩を挟みつつ、姉たちの合流を待っている所。
そこにツグミの遠吠えのお陰で、姉たちの居場所と言うか方向の見当はついてしまった。それなら、こちらから合流するのも悪くは無いねと、前向きな計画を掲げてみたり。
茶々丸も大いに賛成らしく、こっちから聞こえて来たよと少女に猛アピールを示している。何なら背中に乗って行くかいと、じっとしているのが嫌いな性分は相変わらず。
それは末妹も同じで、待ちの姿勢で既に30分以上が経過していた。いや、その半分は大蟹と喧嘩したり、ミミックと壮絶なド突き合いをしていたけど。
とにかく待つのが好きではない香多奈は、それじゃあ移動しようかと一行に提案をしてみる。素直なルルンバちゃんは、サッと立ち上がって追従の構え。
茶々丸に至っては、喜んで先導する素振りである。
そうして意気揚々と移動を始めた香多奈チームは、不意に上空に脅威の影を感じて立ち止まる破目に。そして見たのは、ワイバーンが2体にその倍以上巨体な赤竜の飛行する姿だった。
これは洒落にならないなと、あんぐりと口を開けて凝視する末妹である。アレを撃墜とか、ルルンバちゃんの『波動砲』でも果たして可能だろうか?
幸い向こうはこちらに気付いておらず、ある建物の上空を
それは必要な行動だったので、ある意味仕方の無い事ではある。問題は、あの巨体の赤竜だ……騎乗兵までいて、何と言うかさすが高ランクダンジョンの7階層である。
出て来る敵まで、洒落にならない何とも高ランク振り。
「ここから攻撃したとして、仕留め切れなかったら今度はこっちが狙われちゃうよね。どうしよう、相手は巨体だから建物には入れないとは思うけど。
それより先に、お姉ちゃん達と合流すべきかなぁ?」
それなりにチームにくっ付いて経験のある香多奈は、敵のタゲを取るとどうなるかは良く分かっている。そんな訳で、ルルンバちゃんで手出ししたいけどその後を恐れて出来ない状況。
そんな感じで悩んでいると、ワイバーンたちが窓に向かって突進し始めた。目の前の現代建築の
どうやら中でも戦闘が繰り広げられているようで、それに対する横槍の襲撃に。姉のピンチと慌てた香多奈は、思わず隣のAIロボに『波動砲』の命令を下してしまった。
結果、窓に取り付いていたワイバーンは、見事に一撃で討ち取る事に成功。ただし、当然こちらの存在もバレて、残った飛行部隊に目を付けられてしまった。
それを感じて、さっさとこの場を立ち去ろうと画策する香多奈。とは言え、空からの圧と殺気は、少女の身を竦ませるのには充分なレベル。
茶々丸が機転を利かせて、素早い割り込みからのボクの背に乗れ的な合図を送って来た。咄嗟にその背に
上空からは、建物の
ルルンバちゃんが続けて敵を撃ち落とそうとするも、茂った枝葉が邪魔で上手く照準を取れない。そして逆襲の炎のブレスが、敵の赤竜から放たれての大ピンチ!
香多奈の絶叫に、離れた場所のルルンバちゃんは大慌て。
その時、上空から別の不協和音が響き渡った。それと同時に、ワイバーンの悲鳴が聞こえて来て宙の敵の動揺した気配が。続いての墜落の気配に、驚いて香多奈が空を見上げる。
そこには何と、首を斬られたワイバーンと現在進行形で戦闘中の護人と赤竜の姿が。護人は薔薇のマントの力で宙を飛んでいて、ワイバーンを一刀両断したのも護人の仕業らしい。
少女を乗せて駆けていた茶々丸も、リーダーの姿に思わず急停止して空を仰ぎ見る。それからルルンバちゃんも合流して、建物の近くで空中戦を応援する素振り。
さすがに手出しは誤射が怖いので出来ないが、どうやらその必要も無いようだ。飛行する赤竜を相手に、空中戦に慣れて来た護人が押し気味に戦いを進めている。
余裕の出て来た香多奈が、茶々丸の背に跨ったまま『応援』を叔父に向けて飛ばし始めた。そのお陰でパフォーマンスの向上した斬撃に、とうとう手強い赤竜も
その隙を見事に突いての、ルルンバちゃんの地上からの一刺し。
「やったね、ルルンバちゃんっ……止めの一撃、ナイスだよっ!! うわっ、でもまだあの竜生きてるねっ……凄い生命力、みんな油断しちゃダメだよっ!
さっきみたいに、火だるまにされそうになっちゃうからね」
「香多奈、無事だったか……茶々丸とルルンバちゃんも一緒だなっ、良かった。コイツに止めを刺したら、上の階にいる紗良と姫香たちと合流しよう。
あと行方が分からないのは、レイジーとコロ助かな?」
香多奈はそうだねと返事をしながら、茶々丸のお尻を窺ってそこに
香多奈はベルトのポーチからポーションを取り出して、茶々丸を
そして護人が大物の赤竜の止めを刺し終わると、ひょっこりと物陰から富樫元教授が顔を出した。護衛役の萌も一緒で、これには他の仲間達も嬉しそう。
そして赤竜のドロップ品を、嬉々として集め始める現金な末妹とルルンバちゃん。さっきまでの心細さは遠く彼方まで吹き飛んで、後は姉達と合流するだけである。
いや、まだ家族全員が揃ったわけでは無いけれど。
護人の話によると、外に待機しているゼミ生チームも、レイジーとコロ助の姿を確認していないそう。つまりは未だに、この“広大ダンジョン”の中にいるって事だ。
それなら探しに行かないと、ついでに小島博士も
――その安否を心配しつつ、探索はもう少し続きそう。
その頃、レイジー達は発見したワープ魔方陣を潜って9層へと進んでしまっていた。結果的には待ちの戦術の方が良かったが、レイジーを責めるのはあまりに酷と言うモノ。
護衛犬として主人と離れたストレスは、それ程に強かったって事である。そして新たな層へと飛び出た彼女が最初にしたのは、切ない感情のこもった遠吠えだった。
しかし残念ながら、その声に反応したのはモンスターの群れだけと言う結果に。次々と寄って来る敵の群れを腹立ちまぎれに撃破しながら、レイジーとコロ助は主と仲間の姿を求めて進んで行く。
自分達だけなら何とでもなるけど、不本意ながら同行している存在もいるのだ。スピードで敵を
そして溜まった魔石の数は、何と2層で40個近くと言う。余りに効率の悪い捜索方法に、根気よりも体力の方がさすがに先に尽きてしまいそう。
仕方無く建物の中に潜んで、休憩を取る2匹と1人の混成チーム。小島博士だけは、こんなダンジョンの奥深くまで来れた事の興奮を隠し切れていない様子。
そんな訳で、先ほどからハスキー達を相手に講義の口調が止まらない。
「いや、凄いねぇ……動画で観る以上の迫力だよ、君たちの戦闘風景は! 犬がスキル書を覚えると言う論文は、大半の研究者は
地動説と一緒だね……頭でっかちの彼らは、信じたい事象だけしか脳に入って来ないんだな。ダンジョンの不条理を本当に呑み込めてない輩は、発言を控えるべきだと私は思うよ。
いやしかし、我が古き学び舎の変わり様には驚いたね!」
黙れと言う感情は、恐らく敵を引き付けて困るのはそっちだぞと言う警告だと思いたい。ハスキー達の感情を何となく理解出来てしまう小島博士は、仕方なく語りを一旦休止する。
護人君に通信機を1セット借りればよかったねと、今更ながらの後悔を口にしつつ。
ゼミ生達は、現在の状況を心配しているだろうか……いや待て、それなら我々がこのエリアの端に辿り着いて、ダンジョンの外に出てしまえさえすれば。
彼女を通じて、来栖家チームに安否の連絡だけは入れられるって事?
――その可能性は、果たしてどの程度
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