第436話 広大なエリアの“広大ダンジョン”をさ迷い歩く件
一行が侵入を果たしたのは、広い広大キャンパスの北の入り口だった。百台は駐車可能な駐車場にキャンピングカーを置いて、やっぱり巨大なドーム状のワープゲートを通っての探索開始である。
こんな巨大なワープゲートは、恐らく“
確かにこれなら、広大の元の建物に侵入も無理な相談だと一目でわかる。巨大なドームのお陰で、大半の建物が消失してしまっているのだ。
小島博士の説明によると、この元東広島キャンバスの広さは半端では無かったらしい。駐車場も東西南北に幾つもあるし、敷地内にはグランドや競技場や野球場だってある。
学部も法学部や経済学部、社会科学研究科や生物生産学部など多彩で。実験施設や研究棟も多数存在するし、歩いての移動も決して楽では無いそうな。
そんなキャンパス内で、かつての実験のデータを入手するなんて正気の沙汰では無い依頼である。しかしダンジョンと言うのは不思議で、かえって過去の品物が綺麗なままで保存されている事も少なくないそうな。
それは探索経験の豊富な、来栖家チームも良く目撃している事象ではある。どういう理屈かまでは知らないが、昔の品が綺麗な状態で宝箱に入っていたり。
もしくは、建物そのものが保存状態も良くダンジョン化していたりとか。そう言う意味では、
とは言え、やはり難易度も高く達成率は限りなく低く思えるけど。
そこまで責任の持てない護人は、時間制限を決めて安全第一で潜るのみ。そう言う取り決めなのだから、向こうも文句を言って来ない筈である。
そもそも中年を過ぎた研究職の人物の歩調に合わせて、探索とか平気なのかも怪しい所。このダンジョンがA級で、オーバーフロー直後って現状も既に予定外だ。
そんな事など関係ないハスキー軍団は、慣れないエリアでも元気に一行を先導してくれている。広域ダンジョンで、情報不足を加味しても頼りになる相棒たちである。
そして突入して早々、新たな真実が小島博士の口から発覚した。
「えっ、ここって複合ダンジョンなんですか、小島博士? 聞いてませんよ、協会の職員も何も言って無かったし!」
「うむっ、今回の私の使命は複合ダンジョンの推移の視察も含まれておってな。ずっと楽しみだったんじゃが、ようやく叶ってウキウキじゃよ。
そもそも、複合ダンジョンとは何か知っとるかな、香多奈君?」
「えっ、知らないかなぁ……何かが重なってるのかな、名前からして」
その通りと、さっきから興奮して
講習では、まずはダンジョンの危険性を嫌と言うほど聞かされるのだ。次に口を酸っぱくして言われるのは、ダンジョンコアの扱い方である。
もしも運良く、探索中に最深層に辿り着いて大ボスを討伐出来たとして。そこに鎮座するコアを、外に持ち出すのは厳禁である。何故なら、コアは活動を休止こそすれ、停止は絶対にしないから。
“大変動”の初期には、そんな情報はもちろん誰も知らなかった。そして比較的層の浅いダンジョンも多かったため、このコアの持ち出しが多発したのだった。
もちろん名目は研究の為で、研究機関では日夜コアの特性の研究がされていたのだ。そしてある日、それが間違いだったと気付いた時には既に手遅れ。
そして持ち込まれたコアの数も、決して1個とは限らない。広大の場合、2個のコアが同じ敷地に保管されていたようだ。それがある日、突然活性化して複合ダンジョンの出来上がりである。
その特徴だが、つまりは特性が2つあるって事に尽きる。
「へえっ、じゃあ……全然違う特性のダンジョンがくっ付いてるって感じなのかな? 良く分かんないけど、全然敵が出て来ないね」
「オーバーフローがあった直後だからね、それにしても複合ダンジョンなんて初めて入るね、護人さん。あっ、“アビス”とかもそうなのかな?
良く分かんないけど、そんな場所もあるんだねぇ」
「ダンジョンからコアを持ち帰る危険性を、誰も知らなかった時代の悲劇じゃよ。ほれっ、アッチ辺りがそうなんじゃないかな?
何となく遺跡風の建築物が、現代建築に混じって建っておるじゃないか」
そう言われれば、明らかに中世風の石造りの建造物が現代建築と融合している。さっきから何となく感じていた違和感は、この辺りが関係しているのかも。
香多奈などは、大学ってそんなモノなのかと思っていたみたい。さっきからキョロキョロして撮影に忙しいが、青い空やタイル式の歩道や立派な街路樹など景色はとても良い。
確かにこれでモンスターが出なかったら、ペット達の散歩道としては最高には違いない。そんな事を考えていると、ダンジョン内での最初の敵と遭遇した。
とは言え、オーバーフロー騒動でたっぷり相手をした雑魚のゴブリン集団である。遺跡風の建物から姿を見せて、騒ぎながらこちらに接近して来ている。
まぁ、たった3匹では相手にすらならない。
「あららっ、ハスキー達がさっさと倒しちゃったよ……叔父さんっ、ここって割と難易度の高いダンジョンなんでしょ?
中は広いみたいだけど、敵はそうでも無いのかな?」
「さっきワイバーンも出て来てたでしょ、アンタの頭の中はスッカラカンなんじゃないの? 大型の敵も多分だけど出て来るよ、雰囲気で分かるもん。
建物も多いエリアだけど、それ以外の野外エリアも広いもんね」
「ふむっ、なかなかに面白い考察じゃな、姫香君……それはどんな感覚で、いつ頃に芽生えたモノなのか言語化出来るかな?
やはり、ダンジョン探索を長くこなして得られた直観かのぅ?」
そんな感覚の言語化は難しいし、今は危険を伴う探索中である。実際、探索をこなすにつれて不思議な感覚が芽生える事は、探索者の間でも良く持ち上がる話題である。
レベルアップは有名だけど、“変質”は肉体のみならず感覚にも変化を及ぼすよう。魔素への適応は、人類を新たな境地へと引き上げる切っ掛けになっているのかも。
その辺の研究ももちろん大事だが、探索中の現時点では付き合うつもりはない来栖家チームである。そんな訳で、依頼の内容を
それに素直に従うハスキー達、オーバーフロー後だけあって移動はスムーズ。立ち
富樫元教授によると、昔の研究施設を目指してそこにあるデータを確保したいそう。研究には金も時間も掛かるので、駄目ならもう一度同じ研究などとは、現代では贅沢に過ぎるそう。
それで仕方無く、過去のデータを求めてダンジョン探索に
まぁそれは、どの職業にも言える事かもだけど。
探索業もそこは同じで、頑張ってダンジョンに潜っても望んだ結果を得られるとは限らない。時には死の危険に
大半の探索者は、実力も高くないのでそんな
小島博士が混じったせいで、そんな話題に事欠かない探索道中になってしまった。紗良や香多奈も、いつもの授業を思い出してか積極的に発言している始末。
それを隣で聞いている、ルルンバちゃんや萌は何を思うのか。案外と為になるなぁって感じで、耳を傾けていたら面白いのかも知れない。
護人としては、程々にして欲しいなぁって感想しかない。
「ほうっ、複合ダンジョンの中はこんな感じなのか……建物が完全に融合しとるな、コア同士に上下関係とか存在するのかのぅ?
もっと情報を集めて、解析が必要な案件じゃな」
「私もこんな存在があるの、初めて知ったし貴重なのは分かるけどさ。滅多に無いパターンのダンジョンの情報を調べるより、普通の奴の調査が先なんじゃ無いの、先生?」
「いやいや、こう言うのは比較検討が大事なんじゃよ……そもそもダンジョンの正常がどれかなんて、誰も知り得てないじゃろう、香多奈君?
平均値を取るにしても、色んな場所のタイプの違うダンジョンを把握して行かないとね。そう言う意味じゃ、こんな場所への遠征も意味があるとは思わないかね?」
そんなのは
確かに旅行に意味があるとすれば、実際に自分の目で見て肌で感じる事以外の何物でもない。観るだけならネット動画で充分だし、体感するのは大事だと護人も思う。
こうやって経験の引き出しを増やしていく作業は、後の人生に役に立つ事もあるのだろう。とは言え現在は、行く当てもなく“広大ダンジョン”の1層を
富樫元教授の話だと、現代建築棟の『遺伝子実験棟』か『実験研究棟』があれば中の散策をしたいとの事。歩き回った限りでは、遺跡建築物の侵食のお陰で、現代建築物が昔の配置と全然違うそうな。
そんな中、目的の建物を探すのは至難の
結局は30分以上歩き回って、ワイバーンとの戦闘が1度だけあった。その後、取り敢えず適当な建物の中に入ろうかとの話になって、そこのホールに階層渡りのゲートを発見出来た。
ダンジョン入り口のドーム型とはタイプが違うけど、基本は一緒で次の層に繋がっているっポイ。問題は繋がっている場所が、本当に次の層かどうか。
以前にレイドで潜った“
そんな気遣いがここにもあれば嬉しいけど、そんな親切なダンジョンはそうそう無いだろう。とは言え、繋がる先が何層か分からないのはちょっと怖い。
まぁ、普通に考えれば2層の筈なのだが。
「敵はまだ少ないかな、その点は助かってるよね。ここはちゃんと2層でいいんだよね、いっぺん外に出て現代建物を探して回らなきゃ。
見付からなかったら、ちょっと長丁場になるかもだね、護人さん」
「お昼からの探索だからな、あんまり無理して長居はしたくないんだが……5層に到着する前に、なんとか望みの研究データを入手する事を祈ろうか」
「そうだねぇ、まさか遺跡タイプのダンジョンが混じってるとは思わなかったもんねぇ。大型の敵も多いみたいだし、捜して歩き回るのは苦労しそうかも?
護衛の依頼もあるし、今回は運頼みで歩き回るのも大変だねぇ」
姫香や紗良の言葉はまさに正論で、時間を気にしながらダンジョン内を歩き回るのは神経を遣いそう。何しろここは、広域ダンジョン指定でもあるのだ。
しかも複合ダンジョンで、もう既に訳の分からない状況である。いきなりオーバーフローの歓迎からの、
とは言え、任務を放って好きに探索する訳にも行かない。そもそも依頼を果たす必要が無ければ、こんな所に潜りに来る必要も無い。
とにかくさっさと目的の場所が見付かるのを願って、このまま階層を更新して行くしかない。先行きが不透明なのは、いつもの探索でも同じ事だ。
護衛依頼と言う重荷があるにしても、そこはルルンバちゃんと萌を信頼するしかない。取り敢えず外に出ようとの姫香の言葉で、ハスキー達が行動を始めてくれた。
推定2層の元大学キャンパスへと、再び飛び出しての探索の開始である。もっとも今歩いているキャンパス道は、紛い物のダンジョン生成の通路である。
つまりは、学生では無くモンスターが徘徊していると言う。
建物の外に出てしばらく歩いていると、突然オークの集団と遭遇した。ハスキー達がすかさず襲い掛かって、サクッと片付けての安全確保。
それから後方を振り返って、どっちに進むのとのお伺い。
――残念なのは、正しい方向が誰にも分からないって事。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます