第432話 次の週の探索が待ち遠しくて仕方ない末妹な件



 その週の間じゅう、末妹の香多奈の機嫌はすこぶる良くて大変だった。ゴールデンウイークが終わって、そろそろ梅をぐ季節かなと家族では話が交わされていると言うのに。

 本人は、次の週末のダンジョンの行き先に迷っているようで大変な有り様。それと言うのも、“アビス”探索で入手した『宝の地図』のせいなのは間違いなさそう。


 それから“ダンジョン内ダンジョン”も4つ目をクリアして、あと残すは1つだけとなった。これをクリアすれば、待望の鬼の試練のクリアとなる。

 これをこなせば、香多奈は小鬼から個別にご褒美を貰う約束をしているらしい。そっちが先でも全然いいよねと、幸せそうに悩む少女だったり。


 来栖家的にも、この課題のクリアは妖精ちゃんとの約束のトリガーともなっている。これを見事こなせば、ダンジョンの消滅の仕方を教えてくれるとの話で。

 厄介な“裏庭ダンジョン”を敷地内に持つ身としては、このミッションはでも早くこなしたい。ただし、彼女の言い草ではその手段を手に入れるにも実力が必要な模様。

 その点に関しては、決して気を抜ける案件では無い。


 もちろんそれは、“アビス”で手に入れた『宝の地図`34』にしても同じ事。これが“アビス”の34層を意味しているのなら、つまりはそんな深層に挑まなくてはいけないって事である。

 しかも“アビス”の回廊には、24もの扉が存在するのだ。どれが宝の地図の示す入り口か、数少ないヒントをもとに考察しないと辿り着けないようになっている。


 最悪、24回も挑戦を繰り返さないといけない事を思うと、とっても気が重い案件でもある。どちらかと言えば、護人は“ダンジョン内ダンジョン”の5つ目を先にこなしたい派である。

 もっとも、前回のダンジョン探索の後始末が先には違いないのだが。鍵のダンジョンを色々と巡った結果、回収品は結構な量になってしまっていた。


 それを妖精ちゃんと一緒に片付ける香多奈も、やっぱりとても幸せそう。今は週の間ではあるけど、今日の放課後には香多奈同伴で協会に行く事になりそう。

 それはともかく、前回の魔法アイテムはこんな感じ。



【蝸牛のペンダント】装備効果:ステup&空間収納・小

【蝸牛の盾】装備効果:防御up&空間収納・中

【蝸牛の荷物入れ】使用効果:空間収納・大

【唐傘レインコート】装備効果:水耐性up&・中

【紫陽花のネックレス】装備効果:水耐性up・小

【姫帝のヘルム】装備効果:装備者に《水神の加護》付与

【真紅龍の兜】装備効果:装備者に《水神の加護》付与

【テルテル坊主の首飾り】装備効果:水耐性&水弾・大

【水切りの長刀】装備効果:水属性&切断up・中

【水湧き地蔵】使用効果:湧き水効果・永続

【魔法のレインコート】装備効果:水耐性&ステup・中

【蟻地獄の大鋏】装備効果:殺傷&切断up・中

【ひょっとこお面】装備効果:炎のブレス&強靭&ステup・大

【鑑定プレート】使用効果:アイテム専用・永続

【魔法の飛行ランプ】使用効果:使用者を追跡&光明・永続

【心の宝珠】使用効果:使用者はスキル《オーラ増強》を習得


その他:『強化の巻物』 (攻撃)×3、『強化の巻物』 (耐性up)×2、『破魔矢』 (破邪)×20、『強化の巻物』 (防御)×2、『魔法のお守り』(浄化)×4、『神域の雫酒』(秘薬素材)×500ml




 蝸牛の装備品は、何と空間収納が付属している優れた魔法アイテムだった。これは売るのは惜しいので、家族で分配して使う事になりそう。

 それから水耐性の装備品も、今回は数多く出てくれた。これは土砂降りエリアのお陰で、しかもあの4番目のダンジョンは、真ん中の扉がまさかの露店通りだったと言う。


 魔法アイテムの回収も良かったし、封じるのは惜しくもあったのだけど。家族で相談した結果、ダンジョンコアは破壊してしまう事に。

 やはり家の敷地内のダンジョンだし、このダンジョンは他より素早く復活するとの話。それなら経験値にしてしまおうと、姫香が率先しての発言からの行動である。


 強く反対する者もおらず、いつもの通りに家族の血肉になる流れに。その瞬間に4つ目のダンジョン攻略が完了して、残るはあと1つとなった次第である。

 かくして、最初の香多奈の贅沢な悩みに戻る。


「香多奈っ、朝からブツブツ言ってないで、早く学校行く支度しなさいよっ。そろそろお隣さんが迎えに来るわよ?

 あ~あ、朝からこんなに散らかしちゃって」

「散らかしたんじゃなくて、魔法アイテムの鑑定を妖精ちゃんとしてたんだよっ! だってお姉ちゃん達、ほったらかしで全然しないじゃんかっ!」

「ほらほら、朝から喧嘩しないの……香多奈ちゃん、ここは私が片付けておくから学校に行く支度をしてらっしゃい。放課後はみんなで、協会に行って換金しようね?

 護人さんにも、ちゃんと時間とっといて貰うから」


 そんな感じで、朝からドタバタしている来栖邸である。そして間を置かず、お隣さんから和香と穂積が学校に行こうよと、朝の挨拶を縁側で発して来た。

 いつもの朝の流れで、ハスキー達に囲まれたお隣さんは超元気で生き生きしている。それに負けないくらい、家の中から末妹の大きな返事が響き渡った。


 コロ助と萌は、お出掛けの時間だなと護人が玄関先に付けたボロの白バンへと向かって行く。そこでご主人を待ちながら、のんびりと朝の雰囲気を味わっている。

 濃密な山の空気は、やはり他とは一味違って味わい深い。


 そんな清浄な時間は、しかし一瞬で崩れて後はもう年少組の騒がしい語りで台無しに。毎日付き合う護人は、よくまぁ語る事が尽きないなと不思議で仕方が無い。

 どの子も基本は、昨日あった事を素直にそのまま口に出すのだが。香多奈の話題もそんな訳で、ダンジョン回収のサボテンをステーキ風にして夕食に食べた感想がメインだった。


 その感想は残念ながら、普通のお肉の方がいいよねと紗良の努力は報われずの結果に。一緒に回収した南国フルーツも、食べ慣れてないだけあって家族の評判はイマイチだった。

 それより家族的には、干しシイタケとか炎系の魔玉の補充の方が有り難かったかも。それからスキル書の相性チェックの結果と、1個だけ出た宝珠の行方についても車内は大盛り上がり。

 お喋り好きの香多奈は、場をグイグイと盛りあげて絶好調。


「そんでねっ、スキル書の1枚は何とコロ助が久々に相性チェックで引き当てたのっ! 凄いと思わないっ、コロ助ってばまた強くなったんだよ!?

 それから宝珠は、家族で相談した結果レイジーに使って貰う事になったの。だって、レイジーはコロ助のお母さんだからね。

 コロ助ばっかり強くなったら、レイジーが可愛そうじゃない?」

「えっ、そうかな……まぁ、確かにレイジーはリーダー犬だもんね! ペット勢では、今のところはミケちゃんの強さが飛び抜けてる感じだし。

 いいんじゃないかな、それでどんなスキルを覚えたの、香多奈ちゃん?」

「えっと……叔父さん、何だっけ?」


 コロ助は『咆哮』と言うスキルを覚えて、レイジーは《オーラ増強》と言う特殊スキルを習得した。レイジーが宝玉を使った経緯は、何と言うかさっきの和香の推測が実は一番近い。

 来栖家のダブルエースのミケとレイジーだが、最近はミケの活躍ばかりが目立つようになっていた。その理不尽な暴虐スキルに、頑張ってレイジーも対抗して欲しいと言う子供たちの願いの結果の譲渡である。


 そんな訳で、レイジーがめでたく宝珠の使用に至ったのだが、本人的にはそのスキルの習得に満足そうだった。少なくとも主の護人にはそう見えたし、そう一安心したのが数日前の事。

 そこから換金作業や魔法アイテムの確定をしてなかったのは、次の日の日曜日に色々と仕事が入ったためだ。植松の爺婆が家に来て、敷地内の梅の実ぎ作業の前準備とか、柏餅を作ったりだとか。


 柏餅に関しては、本当はゴールデンウイーク中にやりたかったイベントである。その時はお泊まり組がいたために、若い子たちはピザの方が良いだろうと言う爺婆の計らいでお流れになった次第。

 結果、新しく作ったピザ窯をフル活用したため、子供の日に作る予定の柏餅は忘れ去られる破目に。それをしっかり覚えていた子供達は、日をずらしての今回の製作となったのだった。

 お陰で協会に換金に行く予定は、大きくずれ込む結果に。


 それにごうを煮やした妖精ちゃんが、末妹の香多奈をせっついての今日の騒ぎである。ちなみに他の魔法アイテムについても、気になる品がチラホラ。

 例えば姫香と香多奈の、笠地蔵の仕掛けから戻って来たヘルム装備とか。名前が変に変わっていたり、装備者に《水神の加護》が付与されていたりと何だか凄そう。


 水耐性の装備も結構補充出来たし、『水湧き地蔵』は露天風呂の強化にとってもタイムリー。これで水を溜める時間が、半減されるねとは朝の末妹のコメントである。

 それから面白そうなのが『ひょっとこお面』の性能だろうか。かなりの良品で、『炎のブレス』のスキルが付いていて普通に売れば100万近い値が付きそう。


 それから、何と言っても大当たりなのが『鑑定プレート(アイテム)』だろう。これさえあれば、もう消耗品の鑑定の書に頼らずほぼ全てのアイテムが鑑定出来てしまう。

 それから『魔法の飛行ランプ』だが、これは最後に出現した宝箱に入っていた品である。お賽銭を奮発した効果なのか、最後に湧いた宝箱の中身はかなり凄かった。

 それこそ、金の宝箱に匹敵する程の内容に子供達は狂喜乱舞。


 他にも魔結晶(中)と魔石(大)の詰め合わせとか、虹色の果実やオーブ珠とか。薬品系も豊富にあったし、御神酒おみきたるで入っていたし。レア素材も幾つか入っていて、これには紗良も大喜び。

 リリアラとの共同錬金開発は、当然ながら素材の種類が増える程にレシピは増えて行く。その素材の入手先は、当然ながらダンジョンがメイン。


 リリアラはたまに異界の集落におもむいて、取り引きなどを行っているようだ。加えてダンジョンでの回収は、レア物をただでゲット出来る数少ないチャンスである。

 彼女のチームは現在は休止状態だが、その内に“喰らうモノ”の攻略に向けて再活動予定らしい。近くリハビリを兼ねて、付近のダンジョンに潜ろうかって話も上がっているのだとか。


 それでなくても、ダンジョンの数の多過ぎる日馬桜町である。選べる選択肢はり取り見取り、ただしやっぱりリリアラ自体は研究職が性に合っている模様。

 その点は紗良も同様で、近い将来そっち方面で稼げるようになる可能性だってある。ただし本人は、頑として家族チームの形状にこだわっている感じを受ける。

 その辺の内面の感情は、まぁ本人にしか分からないだろう。


 彼女も本当の両親を“大変動”でうしなって、天涯孤独の身で来栖家に受け入れられた身の上である。その辺の事情やトラウマが、大きく作用しているのかも知れない。

 それはともかく、前回の探索の最後に大当たりを引いてご満悦な子供たちであった。その顛末も、香多奈は自慢げに登校中の車内でお隣さんに報告していた。


 結果として、先週末の“ダンジョン内ダンジョン”の家族チームでの探索は、青空市と企業売りに回す薬品やアイテムも多く回収出来て大成功だった。しかも魔法アイテムの回収も、いつもより多くて誰がどれを使うかで悩むほど。

 最後の宝箱から出て来た『魔法の飛行ランプ』だが、どうやら性能は魔玉(光)とほぼ同じらしい。ただしこちらは使い捨てでは無く、永久的に魔石で稼働するっぽい。


 こちらも性能的には上物で、売るには勿体無いので今後の探索で使う予定。レイジーとコロ助の覚えたスキルを含めて、久々にバージョンアップした来栖家チームである。

 日々の忙しさで、その辺が現状おざなりになっているのが悲しい所。まぁ、今日の放課後の協会への報告から、探索後の片付けや新スキルのチェック作業は進む予定。

 ただしかし、1回の探索で溜まり過ぎた魔石の量は少々不安かも。





 ――持ち込む量が多過ぎて、また能見さんに叱られなければ良いのだが。







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