第428話 うっかり中ボスがミケの逆鱗に触れてしまう件
「はいはい、痛かったねぇ茶々ちゃん……これに
さすがお兄ちゃんだ、あとちょっと一緒に探索頑張ってね」
「紗良お姉ちゃん、2匹とも探索続けられそう? コロ助はよく藪に突っ込んで、くっ付き草だらけになって戻って来ることがあるけど……。
さすがにサボテンの
「香多奈こそ大丈夫なの、さっきまで日差しの強さにダウンしてたみたいだけど。このエリアの攻略終わったから、あと1層の我慢だからね。
宝箱の中身を見て、少しは元気を回復したら?」
そう茶化す姫香だが、やっぱり妹の体調は心配みたいである。それもその筈、末妹の香多奈の顔は急な体温上昇で赤みを帯びてしまっている始末。
それでも宝箱の魅力には逆らえないようで、素直に姉の言葉に従う香多奈。サボテン人間のドロップは、魔石(小)に良く分からない平たい肉塊の様なモノだった。
拾ったツグミから手渡された姫香は、それを見て不思議顔。長女にコレ何だろうと訊ねるが、紗良もサボテンの果肉かなぁと自信の無さそうな返答である。
護人がそれを見て、九州の方じゃそれを食べるんじゃ無かったかなと、サボテンステーキの存在を子供たちに教える。それって美味しいのと、信じられないような末妹の叫び。
ハスキー達は、果肉に対しては全くの無反応振り……そんなのご飯に出されても、困っちゃうよなとの認識なのかも。食いしん坊揃いの彼女達には、残念ながらサボテンの果肉はヒットせず。
それより宝箱の中身にも、観賞用のサボテンが幾つか入っていた。可愛い形状なのだが、取り出したそれに何となくビビって距離を空けるハスキー達である。
それを面白がる香多奈は、少々意地が悪い気も。
他にも魔石(小)や魔玉(火)や、温いポーションやMP回復ポーションも回収出来た。コインも5枚ほど入っていたし、甲殻素材もたっぷり入っている。
それを鞄に放り込む香多奈は、とっても嬉しそうで何よりである。その隣には、相変わらず心優しいルルンバちゃんが傘を差して控えている。
それを見た茶々丸が日陰に入って来ようとして、香多奈の周囲は蒸れ蒸れ状態と言う。相変わらずわちゃわちゃ振りの来栖家だが、強力な日差しはやっぱり辛いよう。
元気を振り絞っての3層目への挑戦、ワープ移動を果たした先も同じく安定の砂漠エリアだった。そこは織り込み済みで、移動してすぐの敵の襲撃も予想範囲内。
敵の集団は、今度はラクダの騎馬隊とサソリ獣人のセットだった。サソリ獣人は初見だが、砂漠の民の様な軽装で短槍と盾持ちの割合が多い。
ラクダの背に騎乗しているのは、さっきと同じく
対する来栖家チームは、まずはその突進を止める作業から。負けずに突進をかまそうとする茶々丸を落ち着かせ、紗良の《氷雪》が吹き荒れる。
その発する冷気に、思わず涼しいと元気を取り戻す香多奈。
「わっ、確かに涼しいけど……ミケの『雷槌』は、何で一緒に発動したのっ? ご機嫌斜めで、苛立ってたから八つ当たりパターンかなっ!?」
「そうかも、ミケちゃんも暑さにバテて来たかも知れないかな。多分、今の攻撃は完全な八つ当たりだと思う」
「ミケさんも暑さには弱いもんね、仕方が無いよっ」
香多奈の
来栖家的にも、大魔神ミケのご機嫌は何としても保っておきたい最重要事項には違いなく。さっさと残りの敵を倒して、このエリアを退出しようと慌しい。
結果、長女の紗良も、ミケの為に回収した傘を差しての日よけ対策を始める事に。その上に《氷雪》をゆるく操作して、周囲の空気を涼しくしてみたり。
やり過ぎかとも思ったが、末妹の香多奈もこれには絶賛の高評価振り。ミケも途端にご機嫌になったので、まぁ良いかと紗良もこれをキープする事に。
もっとも、こんな裏技はMPがいつまで持つか定かでは無い。さっさと中ボスに遭遇しないかなぁと、砂漠を歩きながら紗良はそんな事を考える。
前衛陣が、残ったラクダの騎馬隊の群れをようやく駆逐に成功してくれた。ドロップ品の確定を、ツグミが率先して行っての束の間の休息時間。
そんな中、涼しい空気を察知してペット達が紗良の元へと集まって来る。
「あらら、紗良姉さんが大人気だよ……仕方ないよね、こんなに暑いんだから。ミケも機嫌を回復したみたいだし、それは良いんだけどさ。
MPは最後まで持ちそうなの、紗良姉さん?」
「分からないけど、ミケちゃんの為に頑張ってみるよっ。他の子達は、もうちょっと我慢してね……それよりも、怪我した子はいないかな?
あっ、お水の補給もしなくちゃねっ!」
甲斐甲斐しく世話をする紗良に、ハスキー達も嬉しそうに尻尾を振っている。それから水の代わりに果汁ポーションを飲んで、次なる戦いへと備える構え。
じっとしていても暑いのだ、ここから逃れるにはさっさとこのフロアをクリアするに限る。そんな訳での再出発だが、張り切って進んでいたのはやっぱり最初だけ。
数分もすると、立派な毛皮が災いして途端にへばり始めるハスキー達である。それでも5分後には、砂漠に埋もれた荷台付きトラックを発見してくれた。
荷台は
メインは南国のフルーツに、それから魔石や魔玉やコインが混じっている感じ。パイナップルを丸ごと見たのが初めての末妹は、これどうやって食べるのと不思議顔。
反対に紗良は嬉しそう、他にも良く分からない果実は多くて護人もその正体を知らず。後で鑑定プレートで調べようと、取り敢えずここは回収を先に済ませる事に。
そうこうしている内に、敵の第2陣が出現して来た。
「おっと、また大サソリが湧いたな……獣人タイプもいるみたいだ、みんな毒には充分に気をつけて戦ってくれ。
ボス級も湧くかもだから、周囲の変化はよく見てカバーし合って行こう」
「了解っ、ボス出たらこのエリアは倒して終了だよっ、みんな!」
姫香のその言葉に、張り切って敵の討伐に向かうペット達である。サイズは2割増しで大きくなっているけど、そんな事に
コロ助のハンマーアタックが、容赦なく敵を吹っ飛ばして戦線を保ってくれる。硬い装甲の敵だが、これで弱った所にツグミが『土蜘蛛』での止め差し。
こんな砂地だが、ツグミの土系のスキルは不都合なく作動してくれている。そしてサソリ獣人に関しては、レイジーの炎のブレスで怯んだところに茶々丸の突進が良いコンビプレー。
そこに姫香も参戦して、硬い装甲の敵相手にも押せ押せのムードを作り出している。護人も弓矢での後方支援で、属性の矢弾の効きを試してみたり。
そうして、敵の姿がほぼ消えた瞬間に地面に異変が。
地面と言うより砂の陥没、それは明らかに何者かの
下方と言うより急に出来たすり鉢状の坂である、つまりは蟻地獄の巣のような。実際にその底辺には、巨大なアリジゴクが
間違いなくこのフロアのボスの、突然の登場に慌てふためく来栖家チームの面々。何と後衛陣まで、その地面の陥没に巻き込まれていてさあ大変!
流砂の速度はそこまで速くは無くて、最前線のハスキー達もまだ大巨大アリジゴクとの距離はある。とは言え、あんな鋏でチョッキンされたら痛いでは済まなさそう。
巻き込まれた香多奈は、腰まで砂に呑み込まれて大騒ぎしてヘルプを求めている。ルルンバちゃんと萌が、末妹を救出しようと流砂に苦労しながら奮闘中。
砂の底に混乱の元がいると気付いたレイジーは、『歩脚術』を駆使して流砂の上に降り立った。それから怒りの『魔炎』攻撃を駆使するも、それを察知した敵は素早く砂に潜ってしまう。
その頃には、護人も何とか流砂から抜け出して、後衛の紗良と香多奈の安全の確保に忙しい。具体的には、薔薇のマントの飛行能力での安全圏への脱出である。
それに萌も立体機動で追随して、安全圏に置いて来た2人の護衛は問題無し。その時紗良が、ミケちゃんがいないと悲鳴のように叫び声をあげた。
どうやら流砂に呑み込まれた瞬間に、振り落とされてしまったらしい。
「護人さんっ、どうしようっ……ミケちゃんちっちゃいから、流砂に呑み込まれて浮かんで来れないかもっ!?
私がしっかり抱っこしてたら、こんな事にはならなかったのに」
「大丈夫、ミケもレベル高いからHPはそれなりにある筈だ……今から救出に行くから、2人はここにいてくれ。
萌、しっかり護衛を頼んだぞ」
そう言って飛び去る護人は、まるで映画かアニメのヒーローみたい。そして辿り着いたすり鉢状の流砂の中心では、レイジーと巨大アリジゴクのガチ戦闘が繰り広げられていた。
姫香はツグミに《闇操》で救助され、その後に『圧縮』の足場を作っての避難中。近くにいたコロ助も何とか救出して、今は荒ぶる茶々丸に救いの手を差し伸べている所。
各所で騒ぎは起きているが、確かにミケの姿はどこにも窺えない。ルルンバちゃんですら、流砂に
その近くにいる筈と、護人も声を掛けるのだが反応は無し。
その時、奇妙な音色の鳴動が砂の中から発された。この灼熱の炎天下の中、寒気さえ覚えるその不吉な音は砂の中を高速で移動しているよう。
危機感を覚えた護人が飛んで離れた瞬間、それは砂塵を振り
放電の音は容赦のないレベルで、雷龍が飛び出した箇所は高温のせいかガラス化している始末。敵どころか、味方までビビらすミケの特殊スキルはまさに天災レベル。
その接近を察知した巨大アリジゴクは、さすがに危機感を覚えたのだろう。再び地中に潜って、相手の攻撃をやり過ごそうとする。
逃がすかとばかりに、襲い掛かる雷龍は周囲の砂ごと放電しての無差別攻撃に転じた。巻き込まれる事を恐れたレイジーが、その場を慌てて離れたのは賢明な判断である。
護人や姫香にしても、こうなると離れた場所で見守るしかない。姫香など、ツグミに抱き付いて中ボスの運命に
つまりは、これはもう相手は完全に詰んでるよねと。
「ミケったら、本当に短気だよねぇ……砂に埋もれても『透過』スキル使えば良かったのに。それよりツグミっ、ルルンバちゃんを流砂から掘り出してあげなきゃ。
護人さんっ、紗良姉さんと香多奈は無事だよねっ?」
「ああ、もちろんだ……おっと、帰還用の魔方陣が湧いてくれたな。これでこの灼熱フロアとはおさらばだ、さっさと出る準備を整えなきゃな」
そんな訳で、来栖家チームの最後の奮闘で帰還の準備が整えられて行く。帰還用の魔方陣は、すり鉢状の一番底に湧いていてとっても不便ではあるモノの。
家族で何とかその場まで降りて来て、一緒に湧いた宝箱のチェックを済ませ。鑑定の書や魔結晶(小)や薬品が少々、魔玉(火)や木の実や金色のコインを回収に至った。
それからもちろん、大振りのオレンジ色の鍵も入っていて、これで4つ揃った計算だ。後は大鋏の様な形状の武器が1つに、砂金の入った袋も3つ程。
中ボスの巨大アリジゴクは魔石(中)とオーブ珠を落としたし、回収に関してはまずまずといった所か。これで残すは、4つ揃えた鍵が必要な中央の扉エリアのみ。
時間はまだ充分あるし、チームの気力もまだ途切れていない。
――ようやく全ての苦労が報われる、その瞬間はもうすぐ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます