第429話 5つ目の扉の向こうで信じられない光景を目にする件
ゼロ層の扉前に戻って少しの休憩、汗を
午後からの3層の攻略だが、約2時間近く掛かってしまっていた。そのため、小腹が空いているメンバーもチラホラ。長女は、それ用に作って来たお握りを配布したりと完璧なマネージャー振り。
ハスキー達も、香多奈からオヤツ代わりにジャーキーを貰ってご機嫌である。何しろこの後は、本日2度目の最終フロアの大ボス戦となっているのだ。
さっきの巨大カタツムリ並みの大ボスが出るかなと、姫香も闘志をたぎらせており。ハスキー軍団もそれに釣られて、やってやるぜとヤル気満々。
そして軽食タイムも終わって、さぁ最後のフロアに挑む時間である。紗良が鞄から取り出した4本の鍵を、中央の扉のパネルに姫香がかざして様子を見る。
次の瞬間、4つのパネルに鍵は吸い込まれて扉がオープン。
「さて、ミケはさっきのフロアで、召喚スキルにMPを使い過ぎてヘロヘロだからね。あまり負担を掛けずに、他のメンバーで倒す方向で頑張ろうか。
敵が単体だったら、俺も積極的に前へと出るかな?」
「次は頑張るってルルンバちゃんも言ってるよ、叔父さんっ! 茶々丸はムチャはしたらダメだよっ、アンタはミケさんみたいな必殺技が無いんだから!」
「まぁ、言い方はきついけど香多奈の言う通りだね……茶々丸はまだ子供なんだから、無茶したら駄目だよっ? レイジーの言うこと聞いて、前に出過ぎないようにね。
最悪、でっかい敵に踏み潰されちゃうよ?」
姫香にまでそう言われて、ションボリな茶々丸だがそれは仕方がない。チームの中で一番危なっかしいのは、このヤンチャ者なのは揺ぎ無い事実である。
そんな仔ヤギを率いて、いよいよ最終エリアへと突入する来栖家チーム。入ったエリアは薄暗いが、しかし光源は前方の各所から感じられた。
それどころか、何故か漏れ聞こえて来る
後から乗り込んだ子供達もビックリ、そこには神社の境内内に設置された出店の列が真っ直ぐに伸びていた。
ただし、そこを行き交うお客の姿は全く1人も窺えない。どこか物寂しく感じたのは、恐らくはそのせいだろう。それでもしっかり、パペットの店員はどの出店にも存在しており。
露店の形は、しっかり成している様子である。
「うわぁ、どんな敵が出て来るのかって思ってたら……完全に予想外だねぇ、この露店通りで遊んで行って良いのかな?
ほらお姉ちゃん、射的とかヨーヨー
「……あっ、ひょっとしてここで金色のコインがお金になるのかなっ!? ここまで結構貯まっていて、どこで使うのかなって思ってたんだけど。
えっと、近付いても大丈夫だよねっ?」
「どうだろう、ちょっと試してみようか……紗良姉さん、コイン何枚か貸してみて。護人さん、お金持って来てるならちょっと貸してっ!」
そんな訳で、戸惑っている紗良の代わりに、恐れ知らずの姫香がお金とコインを握りしめてプチ実験スタート。取り敢えず近くの露店へと近付いて、店番のパペットへお伺いなど。
試しに最初は普通のお金を出してみるが、パペット店員は黙って首を横に振る仕草。それを見て、今度は金色のコインを手のひらに載せて姫香が差し出す。
すると店員は静かに頷いて、目の前のりんご飴風の商品を指し示した。珍しくパタパタと飛んで来た妖精ちゃんが、虹色の果実が2つ混じっているなと鋭い指摘。
他は宝箱によく入っている木の実なので、少なくとも無駄な出費にはならない。とは言え値段が同じなら、虹色の果実を買った方が断然お得ではある。
書かれている値段ボードを見ると、りんご飴(?)は一律でコイン2枚らしい。
そしてさっきの遣り取りで、日本円は使えない事が判明した。そんな事よりどれが虹色の果実なのと、ネタバレ行為を一切気にしない
妖精ちゃんも素直に答えて、これで当たりの2個を狙い撃ちでの購入と相成った。コインを4枚使ったけれど、まずまずの取り引きだったと姫香は満足顔。
そしてそれを受け取った香多奈は、妖精ちゃんと仲良くそれを齧り始める始末。アンタそれレベルアップ果実だよと、呆れる姉の忠告はマルっと無視である。
甘味は別腹だもんと、食べるのを止めない食いしん坊1人と1匹はある意味立派。それより危険は無さそうと、露店通りはただの販売エリアじゃ無いかとの姫香の推測に。
それじゃあ今度は自分が試そうかと、護人は紗良にコインの数を訊ねる。4つの扉を巡っている内に、金色のコインはいつの間にか80枚以上集まっていたよう。
それを手に、今度は護人が近場の露店へと近付いて行く。レイジーが追従すると、他の面々も何となく付き従って
とは言え、特に露店の雰囲気に変化は訪れず。
「おっと、これはお面売り場かな……ひょっとして、この中にも魔法アイテムが混じってる可能性があるのかな?
いやしかし、それを前もって聞くのも変な話だな」
「叔父さん、妖精ちゃんが右上のひょっとこのお面だって言ってるよ!」
どうやら混じっていたらしい、しかも狐や鬼やウ〇トラマンや仮面〇イダーなど色んなお面がある。その中で、何故にひょっとこのお面なのか、護人は意味不明だなぁとか思いつつ。
値段を見るとコイン4枚らしく、素直にその代金を払って購入に至る護人であった。そう言えば、ひょっとこは
実際は、おかめと並んで縁起物として扱われるみたいである。性能は不明だが、まぁ安く購入出来て良かったと思いたい。しかし受け取った子供達は、誰も付けようとはせず微妙な表情。
それより安全と分かった面々は、それならと自分達も自由にコインを使いたい素振り。射的やヨーヨー釣りを前に、興奮してそれぞれコインを
特に香多奈は、超遊ぶ気満々でハッスルしている。
そして紗良からコインをせしめて、水ヨーヨー釣りの露店前に陣取って行く。隣から覗き込むコロ助や茶々丸をブロックして、2コイン払って釣り針を購入。
やっぱり飛んで来た妖精ちゃんが、水風船の中身はポーションが入っているなと暴露。俄然ヤル気の増した香多奈は、絶対に5個以上釣るよと勇ましい限り。
ところが最初のチャレンジは、1個も取れずにこよりが切れてしまうハプニング。いや、確かにこよりは濡らしてしまうと、簡単に切れる仕様になっている。
熱くなった末妹は、すかさず2度目の挑戦権を買い取って。頭に乗っかる妖精ちゃんの応援を受け、何とか最初の1個をゲットに至る。その成果に、大喜びするチビッ子コンビ。
一方の姫香は、1ゲーム2コインの射的に挑戦していた。1ゲームでコルク製の弾は2発で、そこはまぁ良心的と言えるかも知れない。
どっこい、的との距離は結構離れていて、これらを当てて落とすのは案外と難しい。実際に2射続けて外した姫香は、何なのよとおカンムリである。
どうやら自信があったようだが、その自信は全く根拠は無かったようである。
これはさすがに反則だろうとパペット店員を見遣るが、当然ながら彼は全くの無反応。恐る恐るコインを2枚、護人が支払うとちゃんとコルク弾を2つくれた。
それから姫香が隣にやって来て、あの景品が高そうだとか、あの上の奴は絶対に狙うべきだとか妙な入れ知恵。結局はコイン8枚を使って、8個の景品を荒稼ぎする来栖家であった。
撃ち落とした景品の中には、明らかに大当たりの鑑定プレートなんかもあったりして。後は薬品の入ったプラ瓶が数本に、魔石や魔玉入りのプラ瓶も数本。
幸いにも、パペット店員は嫌な顔をせずに景品交換に応じてくれた。
「さっすが護人さんっ、百発百中だったね! もっとやれば良かったのに、まだまだ景品はたくさん置かれてたんだから」
「いや、さすがにこれ以上は……おっと、香多奈も水風船を4つも取って来たな。幾らコインを使ったかは、訊かないでおいてあげなさい、姫香」
満面の笑みの末妹だが、確かに何枚コインを費やしたかは自己申告である。こっそり後ろから応援していた姉の紗良も、その事についてはノーコメントの構え。
取り敢えずはゲームを楽しんでいたようで何よりだが、それ以上に儲けが出た事を喜んでいる香多奈である。風船の中に薬品が入っているそうで、なるほど何ともユーモラスな露店の景品交換システムだ。
ここの境内の露店は、こんな感じでコインで探索者に儲けて行って貰うエリアなのかも。ハスキー達の反応から、近くに敵がいないのはハッキリしている。
しかし、まさかこのまま戦闘無しで終了とかってアリ?
などと考えつつも、雰囲気で次の露店を覗いてしまう子供たち。相変わらず祭囃子は鳴り響いていて、貸し切りの出店スペースを魅力的に演出している。
紗良によると、金色のコインはまだたっぷり50枚は残っているそう。それを全部露店で使い切るのも、なかなかに大変な作業には違いない。
香多奈がお守りや絵馬や破魔矢を売ってる出店を発見して、何か買ってあげてよとの優しい発言。他に目立った露店と言えば、くじ引きとか型抜き遊び位だろうか。
金魚すくいが無いよねぇと、残念そうに
そんな訳で、今度は紗良も加わって子供達で数回、くじ引きと型抜きで時間を費やす。ペット達は暇そうながらも、主たちが真剣にゲームに興じるのを見守っている。
結果、10分後に紗良が型抜きで魔結晶(大)を1個ゲット。売れば50万円の価値の景品である、正直換金率がぶっ壊れている異世界露店だったり。
姫香もくじで、スキル書を当ててご満悦な表情。
それでもやっぱり、一番凄かったのはミケの力を借りた香多奈だった。くじ引きにニャンコを
その執念で引き当てたのは、何と最高報酬の宝珠だった。当たった瞬間に、パペット店員が鐘を手にして振り回しての大当たりの告知はヤケクソ気味?
香多奈も大喜びで、ミケを抱っこしたまま周囲を飛び跳ねている。姫香など、その執念に驚いて声も出ない模様。護人も同じく、驚きより呆れた感情の方が上かも。
そんな感じで露店の最後で、コインの散財をしてしまったがそこを含めて予定通り。その分、アイテム回収も大物をゲット出来て、ご満悦な子供達であった。
それでも手元に30枚は残ってしまって、さてこの残ったコインはどうするべき? その時末妹が、境内の奥に立派と言うには古ぼったい本殿を発見した。
アレが目的地かなと、そちらを見遣る姫香は既に屋台遊びは満足した様子。香多奈も最高商品を当てたくじ引きを、これ以上続けようとは思っていない感じだ。
そんな訳で、一行は最後に家族で本殿にお参りに行く事に。
そして
基本は壁が無く、外からも神楽が見える設計の神楽殿である。その前にデンと賽銭箱が置かれていて、上には立派なしめ縄が飾られていた。
本殿の周囲は真っ暗だが、神楽殿は明かりが灯っていて不自然に明るい。何か仕掛けがあるのかなと、考えを巡らす子供達は退出用の魔方陣の場所を探りたいみたい。
敵が最後に出て来るかもと、姫香が武器を手に用心は崩さない構え。ハスキー達も最後の一戦に備えて、子供達の前へと出ての戦闘準備。
しかし香多奈が提案したのは全く逆で、お賽銭をあげて良いかと護人へのお伺い。確かに神様に会いに来てるのに、マナーは守らないと駄目だよねと紗良も賛同する。
そんな訳で、大盤振る舞いで残りの30枚近くを、全てお賽銭箱へと放り入れる紗良と香多奈。それから家族揃っての、二礼二拍手一礼でのここに
それがどんな神様なのか、そこは全く定かでは無いけれど。
その瞬間、神楽の舞台に一瞬で人影が現れた。
その人物は、いつの間にか鳴り響いている神楽音楽に合わせ、優雅に踊り始めていた。これには警戒していたハスキー達も反応出来ず、子供達も呆気にとられるしかない。
護人も同じく、ただしその踊り手に悪意の類いが全く無いのは理解しており。完全に場を仕切る踊り手に視線を奪われ、成り行きを見守るだけ。
そして視線を切らなかった筈なのに、いつの間にか神楽の踊り手は姿を消していた。神楽殿には退出用の魔方陣と宝箱が1つ、それからその奥の間にはダンジョンコアが。
結局は、このフロアには最後までボスは出現せず。
――つまりは、これにて5つ目の扉は攻略終了の流れに。
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