第427話 一面の砂漠エリアに色々と手古摺る件



「うわっ、砂漠と言えばサソリだよねっ……おっきいのが5匹ほど、こっちに向かって来ているよっ! このダンジョンの事だから、多分雑魚はわんさか湧いて来るんじゃないかな?

 暑くて大変だけど、頑張って全部やっつけようっ!」

「それは良いけど、足場が砂地で動きにくいなぁ。ハスキー達はそんなでも無いのかな、さすがの運動性能だねっ」

「無理せず引き付けて、1体ずつ倒して行こうか。まずは砂地に慣れるのが先だぞ、姫香……これだけ環境が変化する仕掛けも、かなり厄介だなぁ」


 護人の言う通り、急な環境の変化にペット達も戸惑いは隠し切れていない模様。それでも敵の突進は待ってくれず、大サソリの群れはすぐに接敵して来た。

 硬い甲殻と毒の一撃は、かなり厄介に感じる敵の群れである。ところが、それを意に介さない前衛陣……相手がレイジーの炎のブレスにひるんだ所に、姫香と茶々丸が飛び込んでの甲殻に穴を開ける一撃をお見舞いする。


 更にはツグミとコロ助のフォローの間に、護人も前に出て『掘削』スキルで敵に風穴を開けて行く。こたつサイズの大サソリの群れは、そんな感じで討伐は完了。

 一息つきながら、さて次はどっちに向かおうかと護人と姫香の会話中に。ルルンバちゃんが魔石を拾って、ついでに砂遊びを始める始末。

 いや、恐らくはこんな広大な砂地が珍しいのだろう。


 香多奈も一緒になって、サラサラの砂をすくっては凄いねと呟いている。萌も同じく、しゃがみ込んで少女の手元を珍しそうに覗き込む仕草。

 紗良はこまめな水分補給をしなきゃねと、早くもチームの体調管理に気を配る素振り。そんな日照りエリアに、さて目的となる場所はどっちやら?


 ハスキー達が勤勉に気配を探りまくって、ようやく進むべき方向を見定めたよう。結果、砂漠の小丘の向こう側へと、一行は改めてスタートを切る事に。

 何しろ今回挑むダンジョンは、揃って退出用の魔方陣が湧いてくれないのだ。一度入ったら、3層の中ボスを倒すまで退出は不可能と言うスパルタ仕様。


 そんなエリアで、ぐずぐず迷ってなどいられないのも確かである。とにかく突き進めば敵は出て来るし、一定数を倒したら事態は動くのも経験で知っている。

 クリアした扉の数は、あれやこれやで2桁に軽く達しているのだ。その辺で戸惑う事も無く、とにかく邁進まいしんするのみ。そして次に出て来たのは、何と砂漠を疾走するラクダの騎馬隊だった。

 乗っているのは、ターバンを巻いた狐顔の獣人らしい。


「うわっ、凄い……ラクダの騎馬兵がこっちに突っ込んで来るよっ! 結構な数だね、ルルンバちゃんにも出て通せんぼして貰う?」

「あっ、茶々丸が勝手に突っ込んで行っちゃった……仕方ないな、レイジーとツグミはフォローお願い。

 ラクダって意外と背が高いね、みんな踏み潰されないようにねっ!」


 確かに疾走するラクダの騎馬隊は、結構な迫力でハスキー達など蹴散らしてしまいそうな勢い。茶々丸も《巨大化》で体格を水増ししてるけど、それでも向こうに分はある感じ。

 果たして勝算があっての正面突破なのか、疑問に思うけど訊ねるだけ無駄だろう。それでも《刺殺術》と『角の英知』でかさ増しした角は、とっても立派で突進の威力はあるのだ。


 そして実際、その角での突進で騎馬団の中央に風穴を開ける茶々丸であった。それにれっとついて行っていたコロ助が、死角から騎手の狐獣人に飛び掛かって振り落として行く。

 お声の掛かったルルンバちゃんも、前へと出て魔銃での掃討戦のお手伝い。護人も同じく、弓矢で騎手を狙って近付くまでにその数を減らして行く。


 騎手を失ったラクダの暴走は、近付いた端から姫香が愛用のくわでの狩り取り作業。もっとも半数は、ハスキー軍団と茶々丸が前線で倒してくれている。

 間延びした戦況となったのは、ひとえに茶々丸が暴走したためである。困った子だねと呟く姫香は、既に周囲の敵を全て倒し終わっていた。

 ルルンバちゃんも、さっさと魔石拾いモードへと移行中。



 それから姫香による、茶々丸のお叱りタイムと休憩時間を挟んで。紗良がしきりに、熱中症を危惧して皆へと水分補給を勧める時間を経ての再度の出発に。

 叱られた茶々丸は、とぼとぼとレイジーの後ろを項垂れての移動中である。そして先頭を歩いていたツグミが、妙な建造物を砂漠のど真ん中に発見した。


 それは1本の電柱と、それから半分砂に埋もれた電話ボックスだった。携帯電話の普及で、すっかり見掛けなくなった過去の遺物である。

 それをこんな砂漠のど真ん中で見ると、何だか感慨深いモノが。と言うか、違和感の方が大きいかも……中に入って、置かれた品を確かめるのを躊躇ためらう位には。


 それでもボックスの中には、緑色の公衆電話とその下の棚に小さな宝箱が置かれていた。ガラスの扉は、半分砂に埋もれて容易には開いてくれそうに無い。

 それでも優秀なツグミは、《闇操》の変形技でガラスを割らずに箱を取り出してくれた。それを見ていた香多奈は、凄いねと大はしゃぎで飛び上がって喜んでいる。

 その中には、しっかりとコインが6枚確認出来た。


 他にも鑑定の書が数枚に、魔結晶(小)や魔玉(火)が数個ずつ。それから未使用のテレホンカードが数枚に、古い硬貨がこれまた数枚ほど。

 硬貨はどうやら昔の年代のモノらしいけど、公衆電話との関係は不明である。それより暑いねと、末妹はそろそろ日差しにバテて来た発言を口にする。


 護人もこんな急激の天候の変化は、頭に無くてどうしたモノかと考えてしまう。子供達が不調を訴えるなら、探索を取り止めて戻りたいのが本音だ。

 しかし、ここのエリアは帰還用の魔方陣を探し当てるまで退去不可と来ている。その極悪仕様に悩んでいたら、敵の大物が先に出現して来た。

 今度の敵は、さっきの泥魔人に似た砂魔人らしい。


「あららっ、ひょっとしてコイツも大きいだけの二番煎じかな? さっきの泥人形が、大量の砂に替わっただけだよ。

 どっかにコアを隠してるよね、さっさと見付けて倒しちゃおう、ツグミっ!」

「いけいけ、姫香お姉ちゃんっ……このエリアは暑いから、さっさと敵を倒してお家に帰ろうっ!」


 マイペースな香多奈の呼びかけに、ヤル気をうながされた訳でも無いだろうけど。今回は姫香が、巨大な砂魔人の表面の砂をはぎ取る作業をになっている。

 『圧縮』スキルで足場を作って、回転しながら鍬での連撃を繰り出す剛腕振り。敵の太い腕で殴られても関係ナシで、その場に居座っての小型暴風ガール。


 ツグミもそれをフォロー、敵の目潰し砂巻き攻撃を完璧にブロックしている。そしてき出しになる砂魔人のコア部分を、『土蜘蛛』で撃破したのもツグミだった。

 そうしてさっきは割と攻略に苦労した、巨大魔人をペアで撃破すると言う快挙を成し遂げてしまった。応援していた香多奈も、素直に姉の活躍に盛り上がっている。


 そして出現するワープ魔方陣、今回は残念ながら宝箱は出現せず。意外とあっさりと、この第1層は突破出来た感覚ではある。

 ただし照り付ける日差しのせいで、子供達の消耗は意外と激しいかも。ハスキー達も立派な毛皮のせいで、実は暑い気候は苦手としているのだ。

 つまりこの扉のエリアとは、相性的には良くない感じ。



 そんな訳で照り付ける日差しの元、再度の探索開始である。お次は2層目だが、早くも香多奈あたりは暑さで機能が半減している感じだ。

 それを言うと、ハスキー達もどこか足取りが重く感じる気もする。足を取られる砂場の移動は、やはり人間も動物もそれなりに大変なのかも。


 それ以上に気温の上昇が酷くて、やっぱりそっちが最大の難点かも。風もそよとも吹かないこの砂漠地帯、ただ突っ立ているだけで消耗してしまうと言う。

 そしてついでに、さっきの倍の数の大サソリも1番手に寄って来た。今回はそれに砂大トカゲも混ざっていて、かなりの大群となっている。


 コロ助は既に白木のハンマーを咥えて、大サソリの群れへと突進中。それに続こうとした茶々丸を、アンタはトカゲにしなさいと姫香が軌道修正する。

 そのフォローを姫香とツグミが担って、コロ助のフォローにはレイジーが向かう様子。もっとも、フォローと言うより片っ端から炎のブレスで燃やして行っているレイジーである。


 新たに対面した砂大トカゲだが、特に厄介な特殊技も無い感じ。対応に当たったメンツでとどこおりなく始末して、5分後には砂上の戦いはひと段落ついていた。

 ご苦労様と、汗だくの姫香にタオルを渡す紗良マネージャー。それから水分補給も勧めて、家族の体調管理に忙しい長女である。もっとも、その役目が大事なのは誰もが理解している。

 逆らう者は、来栖家チームには誰一人として存在しないと言う。


「今回の扉エリアも、出て来る敵の数は多いみたいだねぇ……ハスキー達もしっかりお水を飲んでね、でないと途中でバテちゃうからね」

「ありがとう、紗良姉さん……でも休憩も、多く時間を取らない方がいいかもね? ここは立っているだけでも消耗しちゃうし、さっさと移動した方がまだマシかも。

 ツグミ、お水飲んだら活動再開するよっ!」


 ハスキー達も、姫香のその意見には同意した様子。さっさと水分補給を済ませると、怪しいポイントを探しに前進を再開してくれた。

 このフロアの太陽だが、真上から頑として動かない仕様みたい。さっきから自分の創り出す影は、真下にしか出来ずに障害物の創り出す影すらないエリアである。


 こんな場所での長い時間の活動は、確かに生命に関わってくる気も。そんな焦りも脳内に浮かぶ中、ハスキー達はしっかりと次の怪しい場所を探り当ててくれた。

 それは元は噴水だったのかも知れないが、今は砂に埋もれて水分の欠片も感じさせない。公園に設置されているような、噴水付きの丸いコンクリの水場だった。


 タイルの派手な色合いが、砂に埋もれてとってもモノ寂し気ではある。それでもツグミが、そのコンクリの小池の中に宝箱を発見してくれた。

 中にはポーション800mlにエーテル800ml、その薬品もかなり温くなっていると言う。木の実3個も同様で、このまま腐ってしまわないか心配なレベル。

 それでもコインと魔結晶(小)も入っていて、喜ぶ末妹である。


 と言うか、いつもは過剰に喜ぶ香多奈だが、ルルンバちゃんの側で動かないのはバテてる証拠だろう。ルルンバちゃんは甲斐甲斐しくも、さっき土砂降りエリアで回収した傘を末妹に差して日除けを作ってあげている。

 ルルンバちゃんは暑さも寒さも関係ない、スーパーボディの持ち主で羨ましい限り。香多奈の体調が心配な家族だが、次の敵の奇襲は容赦なくやって来た。


 しかも割と近場から、砂の下に潜んでいたらしい敵の一団が姿を現した。さっきの奴より巨大なサソリが3体に、それからサボテンの形状をした巨人が2体。

 護人はそのサボテン人間を見て、嫌な予感に襲われる。山を歩くうえで厄介なのは、こんな感じのとげを持つ植物たちである。

 気付かないで歩いて、皮膚を刺されるなんてザラなのだ。


 案の定、不用意に近付いた茶々丸とコロ助が、奴らの棘飛ばしにやられて悲鳴を上げた。慌ててフォローに入ろうとする姫香と、前線にようやく到着した護人。

 警戒の言葉を掛けながらも、態勢を何とか立て直そうと指示を飛ばすけれど。そこに巨大サソリの突進が見舞われて、来栖家チームは寸断の憂き目に。


 レイジーが魔炎のブレスを吐いて、咄嗟にサボテン人間1体のタゲを取ってくれた。姫香も道を塞いだ巨大サソリを沈めようと、愛用の鍬を振るって反撃に入っている。

 護人も自身に『硬化』スキルを掛けて、ようやくもう片方のサボテン人間の通せんぼに成功する。コイツは3メートルを超す体格で、人間の形状ながらも目や口は存在しない。


 つまりは顔が無いのだが、そのせいで殺気の類いを感じる事が極端に難しい特性を持っていた。次の挙動を捉えにくく、とぼけた形状ながらかなりの難敵である。

 それを知ってか、賢いレイジーは敢えて接近戦を挑まずキープに徹している。穴だらけになるのを嫌っての行動かもだが、今は最善手には違いない。

 そこにルルンバちゃんの『波動砲』が炸裂、まずは1体を撃破。


 その頃には萌も参戦して、巨大サソリを押し返す事に成功していた。姫香も最初に対峙していたサソリを倒し終え、護人も2体目のサボテン人間の討伐を完了。

 小柄な萌だが、呆れた事に自分より体格のずっと大きなサソリを引っ繰り返していた。遊んでいた訳ではなく、鎧の立体機動を試した結果らしい。


 ようやく前線に辿り着いた紗良が、コロ助と茶々丸の治療を始める。幸い目や鼻は傷付いておらず、出血もほぼ無くて済んでいて良かった。

 残った巨大サソリは、レイジーに丸焼きにされて2匹とも魔石に変わって行った。これでようやく、周囲に敵の姿は無くなって安全確保は完了。

 そしてサボテン人間のいた後に、それぞれ宝箱と魔方陣が。





 ――酷暑の2層目も、これで何とか攻略終了となりそう。






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