第426話 土砂降りから一転して晴天エリアに突入する件



 大量のモンスターの襲撃を何とか退けて、ツグミとルルンバちゃんが今は落ちた魔石を回収中。相変わらずこのエリアは土砂降り仕様だが、来栖家チーム周りは傘に守られたような状況だ。

 精霊の加護は凄いなと、護人は周囲の様子を改めて伺いながらの感想を述べる。既に中ボスのいる3層に到着しているチームだが、さてここからどう動くべきか。


 お地蔵様のいる場所を目指すのか、それとも中ボスが出て来るのを待つのも手なのかも。どちらが正解かも分からぬまま、しばらく休憩に入る一行。

 突入してからまだ1時間程度だが、香多奈は早くもお腹が空いたとお昼を待ち侘びるコメント。取り敢えず、この扉をクリアしたらお昼休憩の予定ではある。


 場はあれからパッタリ襲撃も止んで、これは移動を強いられるパターンかも。そんな訳で、護人は怪しい場所を探してチームを移動させる事に。

 珍しく密集系での移動だが、ハスキー達の動きによどみは無い。


 そして5分も移動しない内に、再度の襲撃が木々の向こうから。山道っぽい周囲の景色は、土砂降りにぬかるんで歩き難い事この上ない。

 戦闘も同じで、油断していると足を滑らせそうになってしまう。向こうは大カエルや泥魔人ばかりで、地形効果をむしろ最大限に活かしているラインナップである。


 それでも地力に勝る来栖家チームは、次々と出て来るモンスター達を退けて行く。気が付けば敵の第2陣も、綺麗に片付け終えての戦闘終了。

 ところでお地蔵さまはどこかなと、獣道の先を眺める末妹はどこかのんびり模様である。そろそろ終盤に差し掛かる雨降りエリアに、どうも飽きが来ているのだろう。


 それを注意しようと姫香が口を開き掛けた瞬間、地面がドスンと確かに揺れた。地震とは違う、何か巨大なモノが足音を響かせて移動しているような?

 ここはダンジョン内なので、それもちっとも不思議ではない。ハスキー達も警戒して、周囲に警戒を飛ばして次のアクション待ちの状況。

 すると、続いて割と近くから鳴り響いて来る地響きだったり。


「わおっ、ここの中ボスは大きいモンスター系かなっ? この足音からすると、凄く大きいかも……どっちの方向か分かる、姫香お姉ちゃん?」

「多分アッチ方面かな、ハスキー達が全員向いてるし……でっかい敵だとしたら、倒すのもかなり厄介かも知れないねっ。

 この扉エリアのラスボスなら、力を合わせて倒そうっ!」

「おっと、顔が出て来た……本当にデカいな、取っ掛かりを作るのも大変そうだ」


 このエリアの中ボスは、木々の上から来栖家チームを見下ろす人型の泥巨人だった。首には大きなテルテル坊主を幾つも飾っていて、それ以外は全て泥の塊で出来ている。

 大きさは軽く十メートルを超していて、護人の言う通りどうやって倒すか悩むレベル。それでもペット勢の闘志は、全く衰えずヤル気は満々。


 口火を切ったのは、しかし敵の中ボスが先だった。首に掛けたテルテル坊主たちが青い輝きを放ったと思ったら、泥の混じった水滴弾が襲い掛かって来た。

 それを慌てず驚かず、バリアで迎え撃つ来栖家チーム。姫香の『圧縮』やコロ助の《防御の陣》や、紗良の《結界》などがそれらを弾き返す。


 それから逆襲の、レイジーの最大出力の炎のブレスが踏み出した敵の左足に炸裂する。泥の魔物相手にその選択はどうかなと思った、護人の予想は大きく裏切られた。

 大量の霧の発生と共に、泥魔人の左足は乾燥して大きくヒビが入って行く。しかも霧が良い具合に敵の視界を遮って、その隙に他の面々も次の一手の準備に入る。

 その辺は、打ち合わせせずとも連携はバッチリ。


「コイツはコア持ちだ、それを壊せば活動を停止する……場所は喉の下辺りかな、俺がシャベルで掘り進めるから破壊は誰か頼む!」

「了解、護人さんっ……足を狙って、敵の足止めをするもいいかもっ。そうやって、奴の意識を散らしてやって!」


 簡単な作戦を言い渡して、護人は薔薇のマントの飛翔能力を利用して敵の顔の前へ。別に挑発している訳では無いが、そこからでないとさすがに『掘削』で邪魔な泥を取り除けない。

 大き過ぎる敵ってのも考え物だ、手順をキッチリ踏まないと弱点をいぶり出せないのだから。闇雲に弱点に攻撃を与えても、さすがに向こうも警戒するだろう。


 つまり一連の作業は、なるべく素早く行わないと。護人は『土竜のシャベル』と『金のシャベル』の二刀流で、飛翔しながら敵の顔の前へと躍り出る。

 当然ながら、泥魔人も巨大な手を振ってそれを払いのける仕草。同時に奴の足元では、次々と通常サイズの泥人形が生まれ始めていた。


 それを指摘する香多奈は、とっても興奮していて騒がしい程だ。コロ助と茶々丸と萌が、それに応じて雑魚たちの処理に向かってくれている。

 姫香はツグミのフォローを得て、レイジーが水分を抜いた左足の破壊を継続中。ヒビが徐々に大きくなって、巨体がぐらついて大変そうだ。


 その逆の右足を、ルルンバちゃんのレーザービームが貫いて行く。香多奈の指示での『波動砲』の射撃は、相変わらずの威力でとうとう泥魔人は両手をついてしまう事態に。

 ここまで来ると、護人も随分と余裕を持てるようになって来る。シャベルの二刀流で敵の喉元を掘り下げて行き、とうとう泥魔人のコアがき出しになった。

 そこに狙い済ました、ミケの『雷龍』の一撃が。


 同じくその瞬間を敵の足元で狙っていた姫香は、止めを取られたとちょっと悔しそう。まぁ、ミケのやる事に対しては、家族の誰も本気では怒れない。

 コアを撃ち抜かれた泥魔人は、その巨体を維持出来る訳もなく。そのまま大量の泥と粒子とになって、暫くは崩壊の時間を続けていた。


 それを見ながら、ようやく飛翔状態を解いて地上へと降りて行く護人。寄って来た香多奈が、雨が止んだよと空を指差しながら報告して来た。

 見上げた空には、一筋の陽光と大きな虹の演出が。そして崩壊の終わった中ボスの跡地には、大きな宝箱と退出用の魔方陣が湧いててくれていた。

 それらの品が、このエリアは終了だとしっかり告知してくれている。


「ふうっ、何とか倒せたね……あんな大物を相手にすると、やっぱりドキドキするよねっ! それにしても、ミケに手柄を取られるとは思って無かったなぁ」

「ミケさんは、大きい奴に上から圧し掛かられるのが大っ嫌いだからねぇ。奴が出て来た瞬間に、ストレス感じてたんじゃないのかな?

 それにしても、最後に意気な演出してくれたよねっ♪」


 本当に綺麗ねと、紗良も寄って来て末妹のコメントに同意する。それからすっかり定番の、ペット達の怪我チェックへと去って行った。花より団子の香多奈も、ルルンバちゃんを連れてドロップ品の回収へ。

 姫香とツグミのペアは、それじゃあ宝箱の中身チェックをしようとウキウキ模様で宝箱の前へ。ドロップ品を回収して来た香多奈が、それに走って合流して行く。


 泥魔人のドロップは豪華で、魔石(大)とスキル書とそれからテルテル坊主の首飾りが1つずつ。首飾りには5つほど可愛いテルテル坊主がくっ付いており、魔法アイテムの匂いがする。

 宝箱に関しては、まずは鑑定の書が5枚に魔玉(水)が10個に魔石(中)が6個。薬品はポーション900mlに、エーテル800mlと解毒ポーション700ml。


 他にも木の実が7個に、長刀や石で出来た小さなお地蔵様やら、レインコートや高給傘が割とたくさん。そして最後に、布素材と金色のコインが9枚ほど。

 それから大きなしずく型の鍵が1つで、この扉の攻略は全て終了の運びに。残る扉は中央の鍵付きを含めてあと2つ、何とか今日中に全部回れそうだ。

 その前に、来栖家は予定通りお昼休みを挟む流れに。




 お腹空いたとの末妹のコメントを聞きながら、チームで敷地内ダンジョンを後にする。そして探索着から普段着に着替えて、お昼の準備を始める紗良と姫香。

 スケジュール的には順調で、後は午後の探索を成功させるのみ。夕方までには今日の予定をこなせる感じで、既にダンジョンでの回収品も大量に保管出来ている。


 特に雨降りエリアで回収した品には、水耐性の良装備品が幾つか混じってそうで期待大だ。不安があるとしたら、ここまで出て来た金色のコインの使い所だろうか。

 一体いつどこで使うのか、今の所は全くの不明と来ている。まさか鍵を開けた大ボスエリアって事も無いだろうし、謎は深まるばかり。


 それから“天候ダンジョン”の最後の扉エリアだが、何が待ち受けているのやら。まぁ、それはもう少しすれば自ずと分かる事でもある。

 あれこれ考えるより、今は休息と腹ごしらえが先だ。


 そんな訳で、いつものくつろいだ感じでの昼食を終えた家族であった。妖精ちゃんも遠慮せず、小さいナリの癖に麺を一生懸命すすっていた。

 それを見学するのはなかなか面白くて、ただし本人は割と一生懸命だったりして。テーブルの上で油断していると、ミケの襲撃に遭う確率も跳ね上がるのだ。


 ただまぁ、最近はその辺の攻防も以前ほどでは無くなっている。1つは子供達も気をつけて、ミケが妖精ちゃんを襲う前に確保しているのだ。

 それからミケも、この小さな生き物を揶揄からかうのに飽きて来ている感も。視界の端で動き回られたら、少々イラッとするのは仕方が無いとして。

 何だかんだと、妖精ちゃんも家族認定をして貰えた感じなのかも?



 そんな昼食休憩も終わって、そろそろ午後の探索も開始の時間に。それを感じ取って、ペット達も縁側へと集まって来た。特に茶々丸は、置いて行かれたらたまらないって感じ。

 役に立つよのアピールも激しくて、香多奈が落ち着かせるのも一苦労である。結局はレイジーにいさめられて大人しくなったが、ヤル気だけはチーム1番だ。


「茶々丸は、自分をハスキー犬だと思ってるのかなぁ? 多分だけど、夜中も一緒に行動してるよね、この子ってば」

「ウチの敷地は広いからねぇ……野生動物を追い払うのに、ハスキー達だけじゃ大変だろうから、茶々丸の助けは助かってるんじゃないかな?」

「でもこの子、たまに畑の野菜を盗み食いするよねっ」


 末妹の憤慨した口調に、その位は仕方が無いなと諦めた様子の護人である。護人の畑の作業中にも、この人懐っこい仔ヤギは終始主人の後ろに付いて回って来るのだ。

 そして指定された地域の雑草を食べてくれる事もあるし、植えてる野菜を食われる事もある。彼はそれなりにグルメの様で、雑草よりキャベツや白菜の方が口に合うみたい。


 護人も目に余るようなら叱るけど、大抵はおやつ代わりにと諦めている。何しろ茶々丸はまだまだ成長期真っ盛りだし、探索でもそれなりに頑張ってくれているのだ。

 そもそも護人も、叱って子育ては苦手と言う事もあって。甘やかされて育つ茶々丸の主な教育係は、かくしてレイジーがになう流れとなっている模様。


 そんな一団は、再び探索着に着替えて庭先に集合を果たした。そして香多奈の、午後も頑張るぞの号令と共に、再度の“ダンジョン内ダンジョン”を目指して歩き始める。

 そして5分後には、例のゼロ層である5枚の扉前に到着。それから残りの鍵を求めて、4つ目の扉へと張り切って突入して行く。念の為に水耐性の装備を全員に配布して、対応策はバッチリな来栖家チーム。

 ところが明る過ぎる日差しに、それは無駄足だったと知る破目に。


 と言うか、さっきと正反対のまぶし過ぎる日差しのエリアである。しかも見渡すと、周囲は砂漠地帯で影の出来てる場所はほぼ無い状況。

 この変化には、さすがにビックリな子供達とペット勢である。気温も随分と高いみたいで、じりじりと照り付ける日差しによって、立ってるだけで汗が噴き出して来そう。


 なるほどと、早くもこのエリアの意地悪仕様に気付いた子供たち。さっきの土砂降りもそうだったけど、このエリアも日差しのダメージで探索者をいじめる仕様みたい。

 そして砂浜のような細かな砂の地面は、移動するのも大変そう。山の上育ちの来栖家には、その大変さは現時点であまりピンと来ていない。

 とは言え、見渡す限りの砂漠が広がるエリアであるだ。





 ――そして出て来た敵も、やっぱり砂漠の生物メインみたい。







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