第425話 2層目以降も雨降りエリアがずっと続く件
宝箱の中身に関しては、結構な確率で良品が入っていそうな感じ。それはともかく、紗良の《結界》の維持が限界みたいで、一行は慌ててその中身を回収して次の層へと飛ぶ事に。
ちなみに宝箱には、薬品類や魔石や魔玉に混じって華奢なタイプの頭防具も入っていた。妖精ちゃんが反応していたので、お地蔵様の恩返しなのかもと期待してしまう。
今は降りしきる雨の仕掛けに対応するのが精一杯で、それを確認する時間は無い。とは言えワープ魔方陣で出た先の次のフロアも、同じく大雨だったりして。
ここは覚悟を決めて、水耐性の装備頼りに濡れながら進もうかと話し合う来栖家チーム。何しろ紗良の顔色は、既に蒼白で30分近くの魔法維持はとっても大変だったのは明らかである。
それをあと2層続けろとは、とてもお願いは出来ない。
そこに妖精ちゃんが頭を突っ込んで来て、末妹に頼めばいいだろうとのアドバイス。つまりはお得意(?)の《精霊召喚》で、水系の精霊に雨除けのお願いをしろと。
そんな上手く行くのかなぁと、家族で物凄く固まっての作戦会議。ペット達も含めて、今は姫香の『圧縮』スキルでの雨除け中。
これを持続中の本人は、コレを5分以上継続は無理と早くも弱音を吐いている。いつも強気な少女とは言え、出来ない事を出来ると言って家族に迷惑はかけられない。
そんな訳で、
「いや、そこまで気張って召喚しなくていいからね、香多奈。駄目で元々でいいから、濡れながら探索は最初から覚悟していた事だし。
おっと、茶々丸の《マナプール》はまだ持ってるんだな、凄いな」
「これの維持は、ひょっとしてそれ程大変じゃ無い仕様なのかもね、護人さん。それにしては、結構便利なスキルじゃ無いかな?
まぁ、ウチは魔法使うのは紗良姉さんか香多奈くらいだけど」
「いやでも、本当に大助かりだったよ、茶々ちゃん! 私が落ちないようにゆっくり歩いてくれたし、敵に真っ直ぐ突撃するだけじゃ無かったんだね!
凄い進歩だよ、偉いエライっ!」
紗良にそう褒められて、鼻高々な茶々丸はともかくとして。妖精ちゃんにプレッシャーを掛けられた香多奈は、何度目かの水の精霊との交渉に集中して難しい顔。
何度かお願いを聞いてくれた気紛れな精霊だけど、特にこちらに好意的って感じでも無く。精霊は全般的にプライドが高いみたいで、上から目線の者が多いのだ。
ただし、香多奈は割と多方面から気に入られているのも事実。今回も仕方が無いわねって感じで、召喚された水の精霊に何とか願いを聞き届けて貰えた。
術の成功に飛び上がって喜ぶ末妹の香多奈だが、妖精ちゃんは及第点はまだまだなって表情。とにかく今回は良くやったなと、一応褒めるのは忘れない。
その頃には、スキルを維持していた姫香の集中力もボロボロの状態に。紗良姉さんは凄いねと、改めて長女の集中力を称賛する少女であった。
ついでに護人も、精霊へのお願いに成功した末妹を褒め称える。何とかこれで、2層の探索も濡れずに進めて行けそうな雰囲気。
いや、濡れるのは構わないが行動阻害のデハブ効果は痛過ぎる。
そんな事をしていると、またもや向こうから敵モンスターが先制して仕掛けて来た。1層より明らかに大きくて派手な色合いの大カエルと、泥で出来たゴーレムたちが1ダース程度だろうか。
どちらも人より大きいので、雑魚にしては倒すのに
ハスキー達にとっては、やや不利な条件が揃ってしまっている。その程度のハンデは、今では物ともしない強力な護衛犬となっているハスキー軍団である。
護人の指示に従って、なるべく雨に触れないように動きの範囲を制限しながら。襲い掛かって来る敵の集団を、水際で蹴散らして行くその剛腕ぶり。
その中には、紗良の運び手を免除された茶々丸も混じって、スキル使用で長く凶悪に伸びた角で泥人形を相手取っている。その手助けを姫香が
茶々丸には、残念ながらそんな小難しい任務はまだ無理みたい。相手の特質だとか強さの程度とか、関係無いねと突っ込んで行く困ったちゃんではある。
ただまぁ、戦力的には充分に役には立ってくれていて有り難い限り。
今後もレイジーや他のメンツによって、彼は立派に成長して行ってくれるだろう。最初は萌とばかり組んでいたけど、ソロでもある程度強いのは確認出来ている。
何より今日みたいに、萌以外の家族を乗せて歩く事が出来たのは大きな進歩。もちろん《巨大化》は使っての事だけど、将来はそんな運用も可能になって来るかも。
そんな茶々丸の活躍もあって、2メートルサイズの泥人形もようやく全部倒す事に成功した。大カエルは毒を吐いて来てさっきより難敵だったが、ツグミが闇空間に毒を吸い込んで対処してくれた。
華麗なその対応能力に、家族も凄いと驚きの反応を見せる。いつの間にかスキル能力も磨かれているのは、探索を積極的に行うメリットの1つだろうか。
そんな感じで、派手な色彩の大カエルも討伐は完了。そして
それを末妹へと渡す姫香、笠を被せる役目は香多奈で決まりらしい。
「このフロアも、そしたらお地蔵様を探せばいいのかな? 笠地蔵の本当のあらすじって、どんな感じだったっけ、紗良姉さん?
めでたしめでたしで終わるのは、何となく覚えてるんだけど」
「あれも、典型的なお爺さんとお婆さんの昔話だよね……笠を売って年越しの準備をしようと町に出たお爺さんが、売れなかった笠を帰り道で見掛けた雪まみれのお地蔵さんに被せてあげるの。
そしたらその夜に、お礼の品をお地蔵さまが届けてくれたって話かな?」
「確かお話でも、1人分だけ笠が足りないんだよね? それで自分の笠をあげちゃって、家に帰るまでにお爺さんは雪まみれになるんだっけ?
今度笠が足りなかったら、お姉ちゃんの頭装備を被せてあげなよ?」
それって本当に大丈夫なのと、半信半疑な姉の返答に。私のもちゃんと宝箱の中身で返って来たよと、変に自信満々な態度の末妹である。
このヘルメット気に入っているんだけどと、尚も愚図る姫香ではあるけれど。性能がアップして戻って来るなら、このわらしべ長者システムは是非とも活用すべきかも。
そう思う護人は、実は積極的に活用するつもりは全く無い。階層渡りも2度しか機会が無い訳だし、自分に回って来る事は無いだろうとの読みである。
そんな事をしている間にも、ツグミの先導でようやく怪しい場所へと辿り着く事が出来た。怪しいと言うか、お地蔵さまがさっきみたいにズラリと並んでいる小路だ。
雨除けのスキルを掛けて貰っている来栖家チームと違って、お地蔵さまは全てびしょ濡れ状態だった。あららと心配そうな声が、思わず出てしまう子供達である。
そこからは、何故か唐笠お化け出て来いのコールと言う、世にも珍しい敵の召集する掛け声が香多奈から。それが通じた訳では無いだろうが、木々の間から念願の敵の群れが出現。
ハスキー達が、勇んでそいつ等へと襲い掛かる。
今回も大カエルやカエル男に混じって、唐笠お化けはちゃんといてくれた。姫香がそれを率先して狩り始め、それに合わせてドロップを願う末妹の声援が。
その途中で、突然に地中から泥人形の不意打ち攻撃が見舞われたり。幸いにも、あちちからフォローの手が差し出されて事なきを得る流れに。
何しろ来栖家チームは、戦闘人数に不足が無いのが取り柄の1つである。もちろんツグミも、ご主人に不意打ちを許すなんて愚行を許す筈もなく。
護人もシャベル持参で駆けつけて、割とあっという間に奇襲して来た泥人形は元の泥へと変わって行った。実際は魔石を残して消えたのだけど、雰囲気的にはそんな感じ。
気付けば向かって来た敵は、全て駆逐されての戦闘終了。
「ふうっ、終わったかな……雨を避けながら密集して戦うのも、それなりに大変だよねぇ。とにかく全部倒せて良かったよ、今回も次から次へと敵が襲って来てたし。
香多奈、笠の数はこれで足りるかな?」
「えっと、最初の2個にこの4個を足して……あっ、やっぱり1個足りないやっ! 姫香お姉ちゃん、そのヘルムすぐ脱いで頂戴っ!」
無茶振りに感じる末妹の指示出しだが、恐らくは7体のお地蔵様に帽子を被せるのが魔方陣を湧かすトリガーに違いない。だから誰かの兜は、犠牲にしないといけない訳だ。
とは言え、前衛の姫香の頭防具の消失は、ちょっとリスクが高い。紗良が自分のじゃ駄目かなとお伺いを立てるも、香多奈的には駄目らしい。
こう言うのは年齢順なのだと、頑として自分の主張を譲らない末妹の香多奈である。仕方なしに、姫香は『真紅龍の鱗鎧』のセットのヘルムを末妹へと差し出す。
かくして貴重な魔法の防具は、ずぶ濡れのお地蔵様の元へ。
その甲斐あって、すぐさまワープ魔方陣とその隣に宝箱が湧いてくれた。やったぁと喜ぶ香多奈は、もちろん宝箱の元へと一直線に駆け寄る。
ツグミの安全チェックの後の開封では、見事にさっき寄付したヘルムに似た兜が宝箱の中に入っていた。それを手渡された姫香は、良かったと一安心のため息をつく。
他にも薬品類や金色のコイン、強化の巻物が2枚に魔結晶(中)が5個とまずまず。他にも魔玉(土)やらスキル書が1枚、水筒やマグカップが幾つかと日常用品も少々。
そう言えば、このダンジョンには
すると既に50枚近く収集していたみたいで、おおっと姫香も驚いている。何に使うんだろうねと、香多奈も同じく景品交換か何かかなと推測を口にする。
とは言え5枚目の扉の大ボスの間に、交換用の自販機が置かれてはいないだろう。どこで使うかを含めて、ハテナが飛び交うこの金色のコインの使い所である。
そんな話をしながら、一行は次の層へとワープ移動を果たす。
会話をしながらMP回復ポーションを回し飲みして、小休憩は完了している来栖家チームの面々。階層を渡っても、幸いにも水の精霊の加護は継続してくれていた。
これは嬉しい誤算で、香多奈のMP残量も今の所は大丈夫みたい。最初の頃は魔法の
それが今回は平気そうで、控えていた茶々丸の《マナプール》も必要なさそうで何より。これも成長の証、家族も大助かりだし《精霊召喚》は何気に凄いスキルかも。
今の所は水耐性のアップくらいしか使って無いけど、他にも使い所はあるかも。攻撃にも使えたり出来たら、末妹も一躍チーム戦力の仲間入りである。
今までは、精々が『応援』での支援や『叱責』での敵の弱体くらいしか手段を持たなかった香多奈である。それがひょっとしたら、ルルンバちゃん並みの一撃を手に入れる可能性も?
などと思っているのは本人のみで、他の家族は探索に忙しくてそれ所では無い。3層の出た先も土砂降りで、周囲は視界も悪くて敵を察知しにくい状況なのだ。
ハスキー達も、一段と警戒して周囲を覗っている。
「ここもお地蔵さまが並んでるのかな、それとも中ボスが出て来て倒したらお終いとか? どっちだろう……ツグミ、強い敵の気配が無いか分からない?
この土砂降りの雨じゃ、探知能力も効かないかなぁ?」
「見通しも悪いし、敵が出て来るのを……おっと、向こうの茂みから敵がお出ましかな? さっきみたいに、充分に引き付けてから倒して行くぞ、みんな」
忍び寄って来たのはキノコ魔人で、短い手足でのそのそと近付いて来る姿は結構不気味。それよりアイツ、胞子飛ばしとか技持ってそうと警戒する姫香である。
そうすると、雨の範囲を気にして近付けさせると不味い事態になってしまう可能性が。そう指摘された護人は、
そうして、雨の中で
その間に、他の方向からも敵が近付いて来て、いつの間にか囲まれてしまっていた来栖家チーム。ルルンバちゃんも壁役にと前に出て、泥人形と肉弾戦を演じ始める。
その数は、やっぱり多くて20体以上は軽くいそう。
――そんな訳で、3層の中ボス戦はもう間近な予感。
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