第424話 “天候ダンジョン”の次の気候は雨だった件
「それじゃあ、扉をもう1つクリアしてからお昼休憩する感じがいいかな? そしたら午後にもう1つの扉と、それから締めの大ボスに挑戦で丁度いいかもっ!」
「そうだねっ、早く行こうってハスキー達も活躍したくて仕方ないみたいだよっ。次は確実に、たくさん敵の出て来るエリアだよねっ、叔父さん?」
「パターンからすれば、多分そうだろうな……それじゃあ、ハスキー達のストレス発散にしばらく付き合うか」
甘い性格が顔を覗かせる護人だが、これもペットを散歩に連れて行く行為の延長でもある。適度な運動と主従でのコミュニケーション、これを毎日行う事が大事なのだ。
それよりと護人は思いに
ただし、出来れば自分や姫香にも、そんな敵を仕留める能力が欲しい所ではある。せめて足止めくらいは出来ないと、後衛を守るのも大変になってしまうかも。
甲斐谷とムッターシャとの同行で、そのヒントは得た護人だったけれど。それを形にするのはまた別の努力が必要で、急に言われても困ってしまう。
それでもチームが今後危機に
そのゼロ層フロアへと、
それに続く子供達、茶々丸に至っては早くも戦闘態勢で鼻息も荒ぶっている。今回は萌は騎乗しておらず、半人半竜姿で鎧を着込んで後衛に陣取っている。
ヤル気は対照的なこの両者だが、その辺は性格なので仕方が無い。どちらにしろ、後衛陣の護衛戦力は欲しいのでチーム的にも助かる存在ではある。
ミケ程戦闘に興味が無い訳でも無いし、盾役もこなせる萌は将来有望には違いない。人化を解いても、元の竜の姿で無双する未来だってあり得るのだ。
それはともかく、午前の探索2枚目の扉は香多奈が勝手に決めてしまった。それを確認して、ハスキー軍団と茶々丸が雪崩れ込む様にその扉へと突入して行く。
それに続く他の面々が、まず最初に気付いたのは周囲の薄暗さと天から落ちて来る水の雫だった。つまりこのフロアは、雨降りの仕掛けらしい。
咄嗟に対応に動いたのは、紗良が最初だった。一行の真上に向けて《結界》スキルを発動して、雨がチームを濡らさないように工夫している。
姫香も慌てて、水耐性の装備を鞄から取り出し始める。
その辺の対応も、“アビス”探索から学んでバッチリな来栖家チーム。香多奈も姉に『蛙の雨具』を手渡されて、不満そうな表情で着込み始める。
妖精ちゃんが護人の元に飛んで来て、この雨はバッドステータスを付与する効果があるなと告げて来た。つまり紗良は、咄嗟のナイス判断だったみたい。我慢して濡れ続けていたら、チームの動きが阻害されていた可能性が。
とは言え、このまま紗良が《結界》を張り続けておくのも大変だろう。水耐性の装備だけで、どの程度このエリアの意地悪仕様をキャンセル出来るだろうか。
少々不安だが、そこは仕方がないと割り切るしか。
「どの程度動きが阻害されるか分からないけど、そこはチームプレーで乗り切ろう。それでなくても体が冷えたら体力も消耗するからな。
疲れたら、素直に前衛を交代してローテで回して行こうか」
「そうだね、無理して怪我しても仕方ないし……紗良姉さんが、ずっと《結界》を張っておくのも現実的じゃないよねぇ、護人さん?」
「あっ、そうだ……茶々丸が覚えた《マナプール》ってスキルがね、MPを他の人と共有出来るって便利な能力なのっ! 紗良お姉ちゃんが茶々丸に乗って、《マナプール》のMPで魔法を維持するって出来ないかなぁ?
良い案だと思わない、叔父さんっ?」
それが出来たら良い案には違いないが、茶々丸と紗良のどちらかでも失敗すれば計画はあっという間に
茶々丸のMPは言う程多くないみたいで、それを操る手際も本人は良く分かっていないみたい。それでも、何とか角の間にちっちゃな水疱は出現可能となっていた。
その確認を護人がしたのが、つい昨日の訓練中である。それに加えていきなり実践で、しかも紗良が茶々丸に騎乗となるとどうなる事やらって感じ。
それでも何でも試してみたくなる年頃の香多奈は、茶々丸に命じてまずは第一段階は突破に至った。それから出来た水泡に、何とMP回復ポーションを注ぎ始める。
これで小さなピンポン球サイズの水疱は、何とか山賊お握り程度の大きさに。
この山賊お握りと言う名称は、広島の名物に良く間違われているけど。実はお隣の、山口県の岩国市の『いろり山賊』というお店が発祥らしい。
ただまぁ、大人の拳より大きなお握りは、今の話とは全然関係無い。これを使って魔法を継続させてみてと、発案者の香多奈は蛙の雨具を着込んで興味が止まらない模様。
それより茶々丸に騎乗するとは思っていなかった紗良は、おっかなびっくりの状態。それでも大人しく待ってくれてる茶々丸を傷付けまいと、何とか
自作の鞍の座り心地は悪くは無いが、手綱も無い状態では物凄く怖い。それでも末妹に、茶々丸は喜んでるよと勇気付けられての《マナプール》からのMP拝借作業。
これが思わず上手く行って、チーム新戦法の発見の瞬間である。
「凄いっ、これは魔法の継続が全然疲れないかも……これなら《結界》魔法も、自分のMPを使わないで維持出来ちゃう気がするねっ!
茶々丸ちゃんも大人しくしてくれてるし、座り心地も良いよっ!」
「おおっ、紗良姉さんがそこまで興奮するのも珍しいねっ! 次の問題は、この《結界》を維持したまま、進めるかどうかなんだけど。
それは行けそうかな、紗良姉さん?」
「おっと、そんな事をしている内に敵が出て来たみたいだな……ハスキー達が迎撃しに向かったけど、大丈夫かな?
姫香はこっちを見ててくれ、俺はハスキー達を見て来る」
了解と元気に返事をした姫香は、それじゃあ少しずつ移動しようかと香多奈に茶々丸の操作をお願いする。それを受けた茶々丸は、紗良を乗せたままゆっくりと歩き始めた。
見よう見まねで木製の
それでもあのヤン茶々丸が、辛抱強くゆっくり進んでくれる姿は感動すら覚えてしまう。偉いよと仕切りに仔ヤギを誉める姫香だが、それは本心からの称賛だったり。
香多奈も同じく、1適も落ちて来ない雨の
そうこうする内に、ハスキー達と護人が戦闘を終えて戻って来た。敵は大カエルとキノコのお化け、それからカエル男の混成軍だったそう。
数は1ダース余りと多くは無かったけど、やはりデハブの掛かった状態は辛かったとの事。ハスキー達にもいつもの精彩は無く、コロ助に至っては既にスタミナ切れを起こしていたり。
スキルの使い過ぎみたいで、デハブ効果を無視した結果だろう。
「うん、確かにこの雨は厄介だな……受けてみて分かったよ、この《結界》の雨除けは案外と良い戦法かもな。水耐性の装備も、どうやらバッドステータスを退ける役には立たなかったみたいだ。
姫香、ハスキー達を良く拭いてやってくれないか」
「了解っ、護人さん……香多奈も手伝いなさい。それより紗良姉さんの負担を減らすために、さっさとこのエリアを抜けた方が良いみたいだね。
MP減らないって言っても、魔法の維持は大変だろうから」
「そうだねぇ、なるべく早く攻略してくれると確かに嬉しいかも」
その点は、《マナプール》を維持している茶々丸も同じ筈である。そんな訳で一行は、今度はなるべく一塊となってエリアを適当に進んで行く事に。
この雨の降りしきるフィールド型ダンジョンは、木々もまばらな湿原タイプの模様。当然の如く、雨雲は重く立ち込めていて雨足が収まる気配は全く無い。
そして雨が地面を叩く音が、意外とうるさくて敵の接近にも気付き難いと言う。そのせいか、次なる敵の襲撃にハスキー達が気付くのが遅れてしまった。
奇襲を受ける来栖家チームと言うのは、意外に珍しいシーンかも。それはハスキー達のプライドを大いに傷付けたようで、逆襲はいつになく熾烈だった。
出て来た敵はさっきと同じくカエル男や大カエル、それから新参の唐笠お化けが数体。そいつ等は、ハスキー達にけちょんけちょんにやられて、唐傘などは骨までボロボロ状態に。
ちょっと可哀想だが、こちらの安全には代えられないので護人も敢えてコメントはせず。それより、思ったより大変なエリア環境に、自然と
真っ暗闇も酷かったが、ここも相当に過酷な環境である。
それでも、既に2ダース以上は寄って来た敵を倒している。そろそろ中ボス的な仕掛けか、或いはそんな場所への手掛かりが見付かって欲しい所である。
そんな話をしながら
その導きに誘われて、一行は獣道のような細い道をチームで進んで行く。すると、道の端にずらりと並んだ7体のお地蔵さまを発見した。
そのお地蔵さまは、全員が降りしきる雨にずぶ濡れで哀れを誘う身なりだった。香多奈が近寄って、何か
それを聞いたツグミが、さっきの唐笠お化けがドロップした笠を取り出して末妹へと手渡した。それは思い切り、昔の頭に被るタイプのモノで、たった2つしか手元に無かった。
それを手にした香多奈は、どうしようと家族を振り返る。
「えっと、これって……ひょっとしたら昔話の『笠地蔵』のパターンですかね、護人さん? モンスターを一定数倒して、笠をお地蔵様と同じ数集めるとか?
そしたら何か、エリアに変化が起きるんじゃないかなぁ?」
「おおっ、紗良姉さんっ……多分それじゃ無いかな、さっき傘を落としたのは唐笠お化け的なモンスターだっけ?
どっかにいないかな、あと幾つ集めればいいの?」
「えっとね、あと5個かなぁ? ハスキー達、頑張って敵を探して!」
そう号令をかける香多奈は、手元の笠をお地蔵さまに被せる作業に忙しそう。紗良は《結界》の維持に手が離せず、長時間の魔法行使で心なしか顔色が悪い。
やはり《マナプール》の手助けがあっても、ぶっつけ本番の長時間の魔法結界の維持は大変みたい。一方の茶々丸はすこぶる好調で、まるでお姫様を乗せてる白馬の心持ちのよう。
あのヤン茶々丸と同一人物とは思えない落ち着いた足取りで、乗り手の安全を心掛けての足取りに。ペットにも与えられた役割の得手不得手ってあるのかなと、護人は何となく思ってみたり。
それより突入から既に20分、紗良の限界が訪れるまでに次の層への手掛かりを掴みたい。その点ハスキー達は優秀で、命令通りに次の敵の群れを連れて来てくれた。
先行探索に出た関係で、少々雨に濡れているけど仕方がない。そのせいか、3匹ともいつもより動きが少々ぎこちない気も。ただし見返りは充分で、1ダース以上の敵影がまばらに生えた木々の奥に窺えた。
それを張り切って迎撃に向かう姫香、紗良の掛けた《結界》のギリギリに居座って敵を仕切りに挑発している。対する敵は雨のデハブ効果とは無関係で、むしろ活き活きしている様子。
何とも腹の立つ仕様だが、エリア特性に文句も言えない。
向こうのホームグラウンドに、わざわざ乗り込んで来たのはこちらの勝手なのだ。護人も射撃で敵の数を減らしながら、唐笠お化けの数を数える。
しかしどうにも数は足りないみたいで、これはもう少し知恵を絞る必要があるみたい。もしくは更なる敵を探して、エリアを彷徨ってみるとか。
などと護人が考えている内に、このエリア3度目の戦闘も
ただし、原作でも確かそんな感じの話の流れだったかなぁと紗良の注釈が。残った1体のお地蔵様には、お爺さんの使ってた
それを聞いた香多奈は、それじゃあ自分の兜をあげるねと太っ腹な提案を口にした。そして実際に残ったお地蔵さまに、自分の兜を被せてあげてしまった。
それって安くないんだよと、姫香などは批難の声をあげている。とは言え、子供の優しさを否定する訳も行かず、護人は
そして次の瞬間、出現するワープ魔方陣と大きな宝箱のセット。
――良い事をすれば良い事が返って来る、童話の結末は
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