第423話 来栖邸から人が減った寂しさを探索で紛らわす件



 ゴールデンウイークもいつの間にか終わって、お泊まり組も無事にそれぞれの地元へと帰って行った。そのせいで、来栖邸は嵐が去った後の静けさが訪れた感じ。

 いつもの生活に戻った筈なのに、賑やかな女子チームの滞在は3週間近くも続いたのだ。それが一斉にいなくなってしまうと、やっぱり寂しく感じてしまうのは仕方がない。


 しかもそれより以前から居候を決め込んでいた、星羅せいらまでお隣の家屋へと引っ越してしまって。協会職員の土屋と柊木との、共同生活を始める事に。

 自立生活のスタートは、まぁこちらとしても喜ばしいし頑張れと応援するべき状況ではある。ただまぁ、やっぱり急にいなくなられると、ポッカリ穴が開いた様な感情はどう仕様も無く。


 とは言えすぐ近所への引っ越しなので、いつでも会えるのには違いない。それでも急に人口密度の減った邸宅内では、寂しいねぇが家族の口癖に。

 何しろ8人が4人だ、見事に半減である。


「そんな訳で、週末にダンジョン探索に行こうよ、叔父さんっ。中途半端に鍵が溜まっちゃってるし、一気に全部片づけちゃおうっ!

 でないと、せっかく取った鍵が消えちゃうかもっ!?」

「えっ、そんな有効期限みたいなモノついてるの、香多奈? アンタ口から出鱈目でたらめ喋ってるんじゃないでしょうね……でもダンジョン産のアイテムだし、あっても不思議じゃないか。

 護人さん、どうしよっか?」

「まぁ、確かにそうだな……手を付けた物を放り出したままは、気分的にも良くないからね。それじゃあ週末の土曜日に、探索の予定を組み込もうか。

 今は田んぼも畑も、特に急な仕事は無いしな」


 その知らせを聞いて、やったぁと素直に喜ぶ末妹の香多奈である。小鬼ちゃんにちゃんとやってと叱られたんだよねと、どうやら知らない内に接触していた模様。

 そうだったのと、姫香のみかんを食べながらの呑気な相槌に。それを横目で睨みながら、アイテム管理はちゃんとしてよねと末妹の辛辣しんらつな返しである。


 アンタが叱られたのは私のせいじゃ無いでしょと、毎回の姉妹喧嘩の雰囲気が漂い始める中。お泊まり組が居座ってた頃には無かった日常に、たしなめ役の護人もまたかの顔に。

 とは言え、まさか香多奈伝いでさっさとしろとの圧力を掛けられていたとは。タイムリミットがあるとも思えないが、半端に取り組んでいたダンジョン攻略の続きは済ませるべきか。


 そんな訳で、お泊まり組が帰ってから初の探索が週末に行われる事が決定した。寂しくなった来栖邸での、何と言うか景気づけ的なニュアンスも含みつつ。

 5月の中旬も、割と忙しくなりそう――。




 そしてやって来た週末は、天気も五月晴れで健やかな空気に包まれていた。家族は家畜の世話や田んぼの水当てを済ませて、割とのんびりとした雰囲気。

 それも当然、今日向かうのはいつもの“敷地内ダンジョン”なのだ。せかせか車で出掛ける準備をせずとも、家から歩いて2分の場所である。


 それでもハスキー達は、戦いの予感にいつもの数倍はテンションが高い感じ。やっぱり彼女たちにとって探索と言うか、狩猟は本能を刺激するみたい。

 それに刺激されて、茶々丸も家族の周りを飛び回っている。ルルンバちゃんや萌は、いつも通りの平常心。ミケに限っては、紗良に抱かれて眠りこけている。


 両手がふさがっている長女に代わり、姫香が魔法の鞄から集めた鍵の管理を行う。それから準備オッケーだよと、リーダーの護人に知らせての出発進行。

 どれから入るのとの末妹の問いに、どれが中途半端だっけと姫香が問うて来た。それに対して、紗良が3層の“男女ダンジョン”は鍵が全部揃ってるねと返答する。

 逆に2層の“天候ダンジョン”は、あと2つ鍵が必要みたい。


「それじゃあ、2層の2つの扉の鍵集めからするか、3層の大ボスにいきなり挑んで綺麗に片付けるかって事かな?

 気分的には、最初に1つダンジョンを片付けたいかな?」

「3層の大ボスから始めるって事、姫香ちゃん? 良いんじゃないかな、いきなり大ボスは少し不安だけど……。

 “男女ダンジョン”のボスって何が出て来るのか、ちょっと興味あるよね」

「あっ、本当だ……何が出て来るんだろう、楽しみだねっ!」


 楽しいとは思わないが、子供達の意見で最初に向かう先は呆気なく決定した。護人はハスキー軍団に、最初は3層に向かうよと行き先を告げる。

 その言葉を理解して、ハスキー達の先導で進み始める来栖家チーム。田んぼのあぜ道を通っての、“鼠ダンジョン”へのいつもの長閑のどかな通り道。


 数分後には、熾烈な戦闘が始まるなんて雰囲気はどこにも見当たらない。ところがダンジョンに侵入を果たすと、さすがにチーム内に緊張感が漂い始める。

 そこは1年間の経験の蓄積の賜物だろうか、オンオフの切り替えは子供達にも浸透している。撮影役の香多奈でさえ、その辺はわきまえている感じ。


 そして辿り着いた、3層の“男女ダンジョン”のゼロ層フロア。姫香が鍵を操作すると、次々とパネルが光を放ち始める。そして4つの鍵によって、これで中央の扉が通行可能になってくれた。

 そしていよいよ、大ボスへの挑戦権が解放された次第。


「それじゃあ、いきなり大ボス戦だけど気をつけて行こうか。速攻が決まればいいけど、持久戦になっても慌てないようにな。

 後衛は位置取り気をつけて、戦いに巻き込まれないように」

「は~い、速攻するなら最初は姫香お姉ちゃんに『応援』掛けるねっ!」

「紗良姉さんも、遠慮せずに魔法いっちゃいなよ。また変なセクハラ受ける前に、さっさと敵をやっつけちゃおうっ!」


 そう意気込む姫香に、そう言えば私はここに入った事無かったなぁと香多奈の呟き。改めて振り返ってみると、右側2つの扉を攻略したのは護人を中心とした男チームである。

 甲斐谷とムッターシャと言う大物2人をゲストに、贅沢に割と余裕をもって攻略した訳だ。その中で、女性タイプのモンスターの癖のある仕掛けに苦労した覚えが。


 一方の左側2つの扉をクリアしたのは、姫香と紗良とお泊まり組の仲良しチームだった。星羅も加わって、本当に女子だけのチームで鍵をゲットに至った。

 途中のセクハラ攻撃は、動画をアップした際にも色々と物議をかもしたのは記憶にも新しい。そんな苦労も、末妹の香多奈は全く体験していなかったり。



 そんな少し前の苦労を思い出しながら、一行は開かれた中央の扉を潜って行く。薄暗い通路がしばらく続いて、それから出た先は巨大なドーム状の洞窟だった。

 その中央に居座っているのは、超巨大なカタツムリ。それを見た紗良は、確かに蝸牛は雌雄同体だよねぇと納得の表情に。カタツムリってオスとメスが一緒なのと、香多奈はビックリ顔。


 それにしても巨大な大ボス、大型トラック6台分はありそうなその容姿である。これは大き過ぎよと、香多奈などは真っ先に文句を述べている。

 姫香はめげずにシャベルの投擲、ただし痛痒つうようを与えた感じはまるでナシ。茶々丸も、さすがに屋敷程の大きさの敵に、単身突っ込んで行こうとは思わなかったよう。

 こんなの倒せるのって顔で、ただ上の方を仰ぎ見ている。


 それでも紗良の《氷雪》は、多少のダメージは通った感じがした。それに反応して、大ボスの粘液肌の各所がバカっと口を開いて、人の頭ほどの光の球が次々に生まれ出て来た。

 それは生き物のように、次々とこちらへと突っ込んで来た。アレも敵なのかなと、驚きながらの後衛陣の及び腰な反応。続けて魔法を撃ち込もうとしていた紗良は、慌てて《結界》へと術を切り替える。


 それを迎え撃つハスキー軍団、とは言え光の球は相当なエネルギーを蓄えていそう。それを遠隔スキルで撃ち落とし、後衛の安全を図ろうとする献身振り。

 レイジーも本体に『魔炎』を放つが、何しろ敵は粘体質で効果はあまり上がっていない。しかも一軒家より大きな巨体で、これを燃やし尽くすのは大仕事かも。


 護人もこれを倒すのはコトだなと、内心で頭をひねりまくりの中。業を煮やした香多奈が、ルルンバちゃんとミケにダブルで出動要請を飛ばす。

 確かに、攻撃に関してこのタッグはチームで一番強力かも?


「ミケさんっ、どうせなら新しく覚えたスキルを使っちゃって! 何だっけ、あの雷の竜が出て来る奴ねっ!

 ルルンバちゃんは、あの巨体だから狙わないでもビームは命中するよねっ!」

「香多奈っ、そんないい加減な指示で本当に上手く行くのっ? とは言え、レイジーの火炎ブレスも効果が薄いもんね。

 さすがにアレに斬りつけても、倒す未来は浮かばないなぁ」

「そうだな、俺らはあの光の球がこっちに近付かないように撃ち落としていようか。大物退治は、ミケとルルンバちゃんに任そう。

 そう言う訳で、頼んだぞ2人ともっ!」


 頼まれたミケは、余裕の表情で全く使い慣れていない《昇龍》を発動する。一方のルルンバちゃんは、取り敢えずは6割程度で『波動砲』をブッ放す事に。

 確かに敵のあの大きさなら、焦点を定めなくても外しようが無い。とは言えどこかしらを狙う必要もあって、取り敢えずは胴体の中央を射抜く事に。


 その光線は真っ直ぐに綺麗な線を引き、何と蝸牛の丸い殻を射抜いてしまった。加減してこの威力とは、ルルンバちゃんの必殺兵器の威力は恐るべし。

 一方のミケだが、こちらも何だか凄い事になっていた。球形のドーム状の洞窟の天井に、バチバチと火花を放ちながら渦巻くひも状のナニカが出現。


 それは予想以上に長大で、蛇か何かのように生命の波動を発していた。先日のレア種との戦いで、ミケが無理やりに創り出した雷龍と確かに似通っている。

 ただし、天井のそいつはずっと流麗で生命力に満ちていた。それはしばらく上空で揺蕩たゆたっていたと思ったら、急にしっかりした実体を出現させる。

 そして、雨あられの如く雷を地面に向けて放ち始めた。


 それを眺めていた紗良は、三すくみみたいだなぁとその情景を心中で評する。まぁ、蝸牛はナメクジでは無いし、龍は蛇でも無いので見当違いとも。

 そんな事を思っている間に、あれだけ巨体だった大カタツムリは目の前から姿を消していた。さすがミケさんと、そのパワーに香多奈は飛び上がって喜んでいる。


 かくして大ボス戦は、ミケの一撃で敵のノックダウンとなってしまった。そして、その巨体に隠れていた洞窟の奥に、宝箱と退去用の魔方陣とダンジョンコアが見て取れるように。

 実際に戦った時間は短かったけど、大いに肝を冷やした大ボス戦だった。ツグミが落ちていた魔石(大)とオーブ珠、それからカタツムリを模したペンダントを1つずつ拾って行く。


 その間にも、香多奈は真っ直ぐ大きな宝箱へと近寄って行く。姫香はダンジョンコアの前へと進み寄って、さっさとそれを壊す構え。

 それぞれやる事が決まっていてスムーズだが、保護者の護人としてはあちこちから声を掛けられて大変だ。結局は宝箱の開封作業を先にやる事に落ち着いて、家族みんなでの中身チェック。

 姫香も特に、それに対しての不服は無い様子。


 そして出て来たのは、鑑定の書が7枚に定番の薬品類や魔結晶(中)が6個。それから強化の巻物が3本に魔玉(土)が7個、それから蝸牛をかたどった盾と妙な荷物入れ。

 これも蝸牛の殻に似せて作られていて、サイズはこたつ程もあると言う。ちゃんとふたも付いていて、荷物入れと気付いたのはその蓋があったからに他ならない。


 後は良く分からないインゴットや甲殻素材が少々に、お皿やティーカップのセットなど。底の方に年代物の金貨や銀貨も少々あったが、確かな価値は誰も分からず。

 それらを眺めながらご機嫌な香多奈と、淡々と鞄に詰め込んで行く紗良である。こたつサイズの蝸牛の殻は、魔法の鞄にも入らないのでツグミが収納してくれた。


 後は姫香がダンジョンコアを叩き割って、これにて3つ目の“ダンジョン内ダンジョン”の攻略は終了。今日の探索はまだ30分も掛かっておらず、続けて4つ目の探索に行く体力は充分に残っている。

 活躍の場の無かったハスキー達は、明らかに不満そうでさっさと次に行きたい素振り。子供たちの方は、大ボスの間は儲かるねと回収品に幸せそうな表情。

 そんなやり取りの後、間を置かずに次の探索へとレッツゴー!





 ――そんな気勢の上がりそうな、来栖家の面々だったり。






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