第421話 青空市の会場で色んなチームと仲良くなる件



 お昼は結局、人数が多過ぎて時間とスペースを分けて各々が食する形になった。どう頑張っても用意したキャンプ用の机では、全員が一緒に食事出来ないのだから仕方がない。

 キッズ達は机など気にしないようで、ブース奥にシートを敷いての昼食会を始めていた。そしていつの間にやらリンカとキヨちゃん、それから太一も来ていて食事の輪に加わっている。


 机を譲り受けた形になった年長組だけど、紗良と陽菜は店番に残る事に。今回は先月よりお客の流れが多くて、ブースを空にするのが無理っぽいのだ。

 それだけお客が途切れないって事で、今も殺虫剤やら殺鼠さっそ剤、解毒ポーションや解熱ポーションが順調に売れて行く。それからキッズのブースでも、革の鞄や財布に買い手が付いたよう。

 その対応は、お姉さんの紗良がになってくれて心配なし。


 ついでに来栖家のブースからも、干しイカや昆布が売れてくれて一安心。ダンジョン産と知っての購買なので、食品関係でもクレームの問題は無い。

 昆布など、お隣さんに配ってもまだ余っていたので売れて何よりである。そして姫香たちのブースの、お酒1樽もお昼の間に売れて行ってくれた。


 ここまでで、売り上げの悪かった先月の倍の儲けが出ていると、紗良はとっても嬉しそう。姫香もすっかり末妹との売り上げ競争の事は忘れて、ご機嫌模様である。

 姉と2人で、探索者チームのお客にも来て欲しいねと話していると。これも馴染みの広島市のギルド『ヘリオン』の翔馬と『麒麟』の淳二が連れ立って訪れてくれた。

 そして開口一番、水耐性の装備は余って無いかなと泣きついて来た。


「甲斐谷チームに以前売ったような、特別な奴じゃ無くていいんだ……出来れば効果の大きな魔法アイテム、幾つか余って無いかな?

 こっちも一応は、市内で大きなギルドを運営している身なんでね。協会の推している“アビス”探索の波に、どうしても遅れたくはないんだよ」

「あ~っ、そう言うのはリーダーの護人さんに訊いて貰わないと。でも甲斐谷チームも、随分とここでお金を落としてくれた、付き合いあっての口利きだからねぇ。

 毎回ブースは冷やかしだけじゃ、ちょっと難しいかもね?」


 そんな意地悪を口にする姫香だが、紗良も隣でうんうんと頷いている。商売に関しては辛口の長女は、売り上げを伸ばすのに快楽を感じている気も。

 弱みを突かれたギルドトップの両者は、それもそうだねと愛想笑いを浮かべつつ。スキル書やら強化の巻物を、それぞれ購入してのご機嫌伺い。


 そんなやり取りを挟んでの、仕方なぃなあとの後ろの護人への声掛けをする姫香。丁度お昼を食べ終わった護人は、それならと両者をキャンピングカー内へと招いての商談に。

 何しろ偶然、この前の“アビス”探索で水属性のインゴットを回収していたのだ。他にもチームで保有している水耐性の装備品はあるし、こっそり売りつけるのは問題無い。


 相手も困っているみたいだし、後は向こうの用意した資金次第である。こちらは『海鉱石のインゴット』の他にも、虎の子の『水龍の鱗』なんてレア素材も持っている。

 もちろん『珊瑚のネックレス』なども予備で幾つかあるし、『魔法の水着♀』なんかはこちらでも死蔵品なので買ってくれるなら是非とも売りつけたい。

 その辺の品々については、多少の攻防が行われる可能性も。




 その頃お姉さんチームは、交替でブースを離れて青空市を各々で楽しむ作戦に。特にお泊まり組の陽菜とみっちゃんは、怜央奈みたいに気軽に遊びに来れないのだ。

 そのため、月に1度のお祭り気分を満喫すべく、多めに休憩時間を貰って出掛けている次第。その間は、毎月参加している紗良や姫香が店番を頑張る流れに。


 お昼を過ぎると客層もガラリと変わって、趣味の品を求める人も増えて来た。黒Tシャツや靴下などの生活用品や、ドロップ飴や余った大量の昆布や干しイカは、店売りより安い価格なので確かに人気の品ではある。

 メところが、ンコやおはじきやビー玉などを、何故か中年の人たちが買って行ってくれたり。ブースの品物の中では高値を付けている、高級食器や絵画や綺麗な木箱なども売れて行ってくれたりと客層は様々。


 しかも完全に趣味用品でしかない、アンティークの電話やラジオも買い手が付く次第である。この辺は女子チームの売り上げだが、もはや競争のていも崩れてしまっていた。

 何しろ紗良の独り勝ちが続いて、妹2人が完全に戦意喪失すると言う。


 それからキッズ達のブースにお客が訪ねて来て、売り上げ競争そっちのけに。彼らも吉和から遊びに来た、元は市内のストリートチルドレンの探索者達だった。

 年の頃は13~15歳とやっぱり若い一団で、先輩たちに同じ境遇の子達の存在を知らされたようだ。向こうから話し掛けて来て、そこから話は弾んで楽しそう。


 紗良がそれを見て、気を利かせてお茶の席をブースの後ろに用意してくれた。ブースの面倒は自分達で見るから、情報交換会でもすると良いよと。

 さすがのお姉さんの対応に、ポッと頬を染める者達も多数出没するも。差し出されたお茶を飲みながら、隣のハスキー達にやや緊張気味な吉和キッズ達である。

 彼らも動画を観て、レイジーの実力は知っている様子。


「凄い、火を吹く犬だ……やっぱり本物は、迫力が違うなぁ」

「コロ助と萌なら撫でてもいいよ、茶々丸は人混みが嫌いだからどっか行っちゃった。せっかく我がままを聞いて、連れて来てあげたのにねぇ」

「あっ、広島市の甲斐谷チームと岩国の米軍さんのチームが一緒に来たっ。あの人達もトップチームだよ、ここの家族チームともお馴染みらしいんだって。

 それで青空市に合わせて、よくブースに遊びに来るの」


 和香のその説明に、マジかと言う表情で固まる吉和のキッズ達。S級探索者である“皇帝”甲斐谷の二つ名は、歳の若い彼らも当然知ってる。

 そんな有名人が、ホイホイ遊びに来るなんてと全員が固まって見守っていると。普通に紗良と姫香は対応を始めて、談笑を交えつつも良い雰囲気に。


 そして姫香がキャンピングカーを指差して、リーダーは中で営業中と話題を振った。そして商談相手が知り合いだと知ると、自分も中へと入って行こうとする。

 その不埒ふらちな行動を、オーラ全開で阻止するレイジーである。


「わ、分かった……悪かった、何とかしてくれお嬢ちゃん」

「全く……変な真似しないでよ、中にはミケもいるんだからね。ミケだったら威嚇もせずに、攻撃されちゃう可能性だってあるわよっ?」


 呆れた口調の姫香だが、何とかお怒りのレイジーを取り成してくれて。車内へと声掛けして、ついでにミケを外へと招く仕草。何せ小さなお客様が、彼女を指名しているのだ。

 ヘンリーさん家のレニィは、ちっちゃな猫ちゃんに会えて喜色満面に。小さな手で優しく撫でて、この前はありがとうねと一生懸命語り掛けている。


 多少迷惑そうだが、それを甘んじて受け入れるミケは若返ってもやっぱり大人である。父親のヘンリーもお礼を口にしつつ、何か買おうかとその辺の気配りはさすが。

 姉妹が一番嬉しがる行為を、お礼代わりとは言え率先して行ってくれるとは。紗良はお子さんを預かりましょうかと、今度は妖精ちゃんとたわむれ始めた子供を見てさり気なく提案する。

 子供の夢中遊びは、何と言うかいつ終わるか知れたものでは無いので。


 それは助かるよと、子供の荷物を紗良に渡して素直に頭を下げるヘンリー。相棒のギルも帰りに何か買うよと約束してくれて、来栖家のブースとしても嬉しい限り。

 そんな中、レニィは妖精ちゃんを相手におままごとを始めてしまっていた。持って来た甘いお菓子を机の上に並べて、チビ妖精相手に簡易お店ごっこ。


 ところが、お客の筈の小さな淑女は無銭飲食も意に介さない暴虐振り。紗良が仕方なく、錬金の師匠の飲み食い代をそっと差し出しておままごとに加わっている。

 周囲にはいつの間にか、売り物の筈のお人形さんや縫いぐるみが列をなしており。レニィのお店は、初日から大盛況の模様で何よりである。




 そんな感じで子供の世話を始めた姉の代わりに、店番を頑張る姫香である。ついでに、途中で遊びに来た協会の土屋と柊木に、お店手伝ってよと緊急依頼を出す。

 その辺の人材のやり繰りは、紗良以上に得意な姫香であった。コミュ障な土屋に店番は難しそうだが、柊木は普段お世話になっている恩返しとばかりに張り切っている。

 それに釣られて、土屋も何とかヤル気を見せてくれた。


「それより姫香ちゃん、向こうの子供達は何の集まりですか? 知らない顔もありますね、香多奈ちゃんの地元の小学校のお友達とかですかね?」

「あの子たちは、吉和の新人探索者らしいね……元は市内のストリートチルドレンなんだって、境遇が熊爺ん家の双子と同じだって意気投合したみたい。

 さっき甲斐谷チームが店の前に来て、何か緊張してたけど」

「わ、私はあっちの子供が気になるんだが……」

「あっちは、岩国チームのヘンリーのお子さんだね。ハーフかな、紗良お姉ちゃんが預かりますって言っちゃったからお持て成し中……ってか、妖精ちゃんとおままごと中だね」

「楽しそうですね、先輩も混じって来たら如何いかがです?」


 柊木が顔をニヤケさせて、揶揄からかい混じりにそんな一言を発する。口にした本人としては、まさか土屋がそれを真に受けるとは思って無かった発言には違いない。

 ところが、店番よりは良いなと思ったのか、まさか本当におままごとに混じるとは。今や紗良と土屋女史を相手に、小さなレニィのお店は大盛況である。


 姫香と柊木は、顔を見合わせてただ薄笑いを浮かべるのみ。それでも、そっちの商品の管理をお願いと、姫香は取り敢えずキッズ達のブースを柊木に任せる事に。

 そして、これ以上変な事は起きないでと、円満な青空市の終了を願うのだった。




 そうこうしている内に、キャンピングカーでの商談も無事に終わりを見せた。その表情は正反対で、護人はホクホク顔で広島市から来た連中は総じて憔悴した顔付きである。

 途中参加の甲斐谷も同じく、水耐性の装備や素材は何とか購入出来たモノの。下手に競争相手が3人に増えたせいで、値上がりに歯止めが掛からなかったのが敗因か。


 そのお陰で、『水龍の鱗』や『海鉱石のインゴット』は、1個150万までの値が付く事に。前回より値は釣り上がっているが、その辺は売り手市場なので仕方が無い。

 おまけに『魔法の水着♀』まで買い手がついて、果たして誰が着る破目になるのやら? その辺は詳しく突っ込むのは止めて、代金を受け取る護人であった。


 今回は企業売りの代金も、あれこれ高値がついて結構な額に上ってくれた。ただし、“アビス”で得た金銀財宝や薬品類まで、売る事は叶わなかった。

 それでも、思わぬ所で現金収入が得られて大満足の護人である。


 その頃にはキッズ達の交流会も終わっており、年少組も揃って遊びに出掛けてしまっていた。やはり長時間の店番は、若い彼らには忍耐の限界だったのかも。

 そしてレニィのおままごとは、人化した茶々丸も交えて更に盛り上がっている始末。コロ助と萌は、香多奈の護衛について行ってこの場には不在である。


 別れの挨拶を告げて去って行く広島市の探索者達は、揃って打ちのめされた亡者のよう。少し悪い事をしたかなと思わなくもない護人だが、まぁギルドのうるおいの為だし仕方が無い。

 今日は吉和や市内からのお客が多いよと、姫香が午後の売り上げを報告して来た。探索者チームの客もいつもより多かったようで、売り上げも過去トップ3位に入る勢いだとか。


 それは喜ばしいが、護人が気になるのはブースの敷地内で行われているおままごと遊びである。岩国チームのヘンリーの娘さんなのは知っているが、大人が総出で持て成す意味はどこに?

 まぁ、何か込み入った事情でもあるのだろうと、護人はそれをスルーする。そしていつもの椅子に腰掛けると、レイジーが近寄って足元に寝そべって来た。

 護衛犬としても優秀な彼女は、やはりご主人の側が寛げる模様。


 それから1時間後、お泊まり組が出店巡りから戻って来て店番を交代した。紗良はそのまま出掛けず、レミィの相手をして遊ぶみたい。

 姫香の方は、新しい出店を求めて休憩時間を有効に利用するみたい。再び騒がしくなって来たブース内だが、レニィの周りは相変わらずのペースである。


 そこにようやく、岩国チームのヘンリー達が子供を連れ戻しにやって来た。遊びに集中し過ぎた少女は、遊び過ぎて今や紗良に抱えられて夢の中。

 それを受け取りながら、来栖家に礼を述べるヘンリーである。その隣には同じチームのギルと、それからもう1人初見の探索者らしき人物が。


 ヘンリーによると、同じく岩国のチームのリーダーで、“魔弾製造機”との二つ名持ちのB級探索者との事。伊澤と名乗ったその人物、笑顔で護人に握手を求めて来る。

 そして今度また、一緒に作戦を遂行しましょうとの発言に。





 ――そのセリフには、愛想笑いしか返せない護人だった。






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