第420話 連休中の青空市が盛況に執り行われる件
待ちに待ったと言う程では無いが、5月の連休中の青空市が開催となった。お泊まり組にとっては、長いお泊まりの最後のイベントなのでヤル気も充分。
それに向けての回収品も、ここ数週間の探索でバッチリ揃え済み。ここは締めのイベントとして、大いに盛り上がろうと皆で話し合っている。
そして今回、用意して貰った販売ブースは横並びで2つと言う。自治体に無理を言って、今回だけの特別仕様を申し込んだのには理由があった。
とは言え、そんなに
自治会には、今回は売りに出す品が多いからと、適当な理由付けでの申請である。それは全くの事実で、売り子の数もいつもより多いので嘘では無い。
それはそうだろう、今回はお泊まり組に加えてキッズ達も、張り切って朝から参戦しているのだ。回収したモノは全部売るよと、その根性は立派ではある。
とは言えお客あっての売買なので、頑張ってどうにかなるかは不明。
「それじゃあ、こっち側の机を子供達が使うでいいかな? 子供達だけじゃあ心配だから、何かあったらすぐにお姉ちゃん達か俺に頼るんだぞ?
ペット達もすぐ近くに控えてるし、分からない事は声を掛ける事」
「護人のおっちゃんは、相変わらず心配性だなぁ……それより、熊爺の持たせてくれた卵や野菜もここで売っていいの?
結構あるけど、すぐ売り切れるよね?」
「殺人的に売れるから、今の内に覚悟しといてよねみんなっ! お客さんが殺到して、遠慮なく品物を奪い取って行くからね!
間違っても、売れた分のお金は貰わなきゃダメだよっ!」
何度も戦場を経験している末妹は、そんな感じで友達に
今まで手伝って貰った経験もあるけど、最前線でお客を
そんな訳で、始まったゴールデンウイークの青空市である。その勢いは、先月のやや衰えた人出の軽く倍近く。好天気も相まって、集まって来た客足は初っ端から通りを埋め尽くす程。
これは町に増設した野外駐車場も、ちょっとキャパを超えてしまうかも? 余計な心配だが、5月の日馬桜町の青空市は最初からそれ程に盛況となっていた。
それは当然、来栖家の2面の販売ブースにも直撃した。
春野菜を幾つかと、ちょっと季節を外した野草の類いが、文字通りに飛ぶように売れて行く。それは、お手伝いのお泊まり組の面々も目を回す程の忙しさ。
それはキッズチームの販売ブースも同じで、一瞬にして全員がてんてこ舞いの状況に。幸いにも端数の出ない値段付けと、1人1パックの条件が功を
一応は子供達だけでもお客を捌けているけど、それはやはり経験者の香多奈の貢献度が大きい。次から次へとお客を相手取って、物怖じしないその態度は素晴らしい。
年長組も気圧される程で、目を血走らせたおばちゃん連中も大人しくその指示に従っている。お陰でブース前も、混雑は最小限で済んでいる模様だ。
そんな超混雑も、生鮮食品が無くなると同時に落ち着きを取り戻した。初の体験のキッズ達は、グッタリ模様でブースの椅子に深く沈み込んでいる始末。
喧騒は尚も、周囲のルート沿いに渦巻いて漂っている。ブースの中の子供達には、まるで別世界を見ているような感情が沸き上がっている。
それはある意味、探索よりも極限の経験をしたのかも?
「ふうっ、終わった……物凄い人の波が、果てなく襲い掛かって来てちょっと怖かったよ。今回は少し値上げしたから、そんなに客は殺到しないってアレ嘘だったじゃん!」
「凄かったねぇ、確かに最初の目論見は甘かったかもっ。ゴメンね、
「そっか、そう思えばそれ程大変でも無かったかもなっ」
そう口にするのは
それは年長組も同様だが、紗良や姫香は既に1年もやって来て慣れたモノ。次は探索での回収品を売るよと、さっさと販売ブースの品替えを始めている。
そこはさすがに年の功、それを見た年少組も慌てて穂積と龍星がダンジョン回収品を鞄から出し始める。値段は前もって決めてあるので、その点は気楽だ。
その頃には、何とか復活を果たした香多奈が再び品揃えを仕切り始めた。今回の売り上げ競争は絶対に勝つよと、鼻息も荒く宣言している。
負けないよと姫香の呼応に、周囲の面々も何となく火が付いた様な雰囲気に。ライバル関係は日々の生活にメリハリがつくなぁと、護人は後ろから眺めて敢えて口出しはせず。
とは言え“女子禁制ダンジョン”の回収品は、ほぼ全部を年少組に差し出してしまっている。その辺は仕方がない、キッズ達の回収品は2時間縛りが
その辺は、ルールを厳しくすると競争自体が成り立たない恐れが。
姫香もその辺は承知しており、ライバルは手強くなければ面白くないとの認識である。敵への情けは褒められるけど、後で揉めなければ良いなぁと紗良などは内心で思っていたり。
そんな彼女だが、実は今回は全く中立の立場での売り場を別に設けており。家族チームでの探索での回収品を売る役で、つまりは第3勢力だったりする。
そんな訳で、内心では大いに姫香と香多奈が警戒する伏兵の存在である。普段は人見知りな性格の長女が、売り子になると途端に集客能力を発揮するのも周知の事実。
現に今も、ふらっと立ち寄った中年男性に、前回の売れ残りの懐中電灯を500円で売りつけていた。そのあっという間の腕前に、キッズ達もポカンとしている有り様である。
紗良のブースには、前回の“アビス”探索の回収品もあるので品物は割と豊富。場所は丁度2つの机の中央で、面積的にはそんなに多くは取っていないとは言え。
何故かお客を引き付けるオーラが、立ち上がって見えて仕方がない子供達。それは姫香とお泊まり組も同じく、紗良姉さんには負けないよと集客に熱が入る怜央奈だったり。
とは言え、1年通して青空市に顔繫ぎした、紗良のパワーは凄まじく。
その後もふらっと立ち寄った、中年のおばちゃん達に解毒ポーションや白髪染め液を売りつける手腕と来たら! 上等な毛皮のコートは無理だったが、次に寄って来たおっちゃんにも
姫香たちも慌てて声を掛けるが、見事にスルーされる破目に。
「ま、不味いよ姫ちゃん……キッズ達との競争どころか紗良姉の売り子能力が凄すぎて、お客さん全部持って行かれちゃってるよっ!
こっちも何か、手を打った方が良いんじゃないっ?」
「うぬっ、紗良姉を敵に回すとこんなに怖いとはな……この際仕方ない、思い切って値下げとかするか、姫香?」
「バカ言わないで、まだ始まったばかりだよ2人ともっ! ほらっ、あっちから来るのは常連さんの探索者チームだよっ。
この中で一番愛嬌のある怜央奈が、メインで対応する作戦で行くよっ!」
ヨシ来たと張り切る怜央奈だが、紗良の魅力には到底かなわない事が分かっただけ。派手にダメージを受ける怜央奈は、当分立ち直れそうも無いかも。
紗良はチーム『ジャミラ』にエーテルと『安眠のアイマスク』と言う魔法アイテムを8万円で売り渡して、キッズ達のブースに玩具がありますよとさり気ないアピール。
リーダーの佐久間が、そっち系のコレクターなのを熟知していてのセリフである。その甲斐あって、ブリキの玩具3個が合計5千円で売れて行った。
その結果に、狂喜乱舞する可愛い子供達である。
反対に、今のは
それとこれとは別だよと、こんな時には我が
それはキッズ達も同じで、元々売り物の数にハンデがあり過ぎる。香多奈もちっとも売れない事態に次第に飽きて来て、キヨちゃん達と遊びに行こうかとか思ってたりして。
いつもの後方で護衛待機している護人も、この困った事態には首を傾げつつ。どのブースも平和に終わって欲しいなと願いながら、持参した本に視線を戻すのだった。
足元にはレイジー達が寝そべって、いつもの
そこから販売ブースには、吉和のギルドが何チームか来てエーテルの類いは全て売れてくれた。向こうのギルドは、春先も色々あったが今は潤っているらしい。
他にも女子チームの魔法攻撃アップ効果の『闇の杖』が12万で、器用&耐性アップの『幼虫のネックレス』が3万円で売れて行った。
キッズチームからも、筋力アップ&毒付与の『ヒドラの長槍』が、13万円での買い手がついた。紗良のブースからも、麻痺耐性&回避アップ効果の『蛾のピアス』が4万で売れてくれた。
それぞれ儲けが出た事で、ようやく女子チームやキッズ達も余裕が出て来たようだ。お昼ご飯の話になる前に、更にキッズ達のブースで売り上げが出た。
具体的には、若い夫婦が“鶏兎ダンジョン”で回収した工具類やら針金の束、それから電動ノコを
その頃には企業の買い取り人が護人の元に訪れて、余剰品の買い取り交渉に入った。そしてブースに詰める面々は、そろそろお昼の準備に入ろうかと話し合っている所。
そんな訳で、お昼前にドタバタし始めるブース内だったり。
企業売り予定の品も、今回は女子チームとキッズ達と、それから来栖家の物と換金を別にしないといけない。でないと、その後の分配がぐちゃぐちゃになってしまう。
そんな感じで、まずは女子チームの回収品の換金を。“廃墟ダンジョン”の品は大した事無かったけど、“男子禁制ダンジョン”のは
媚薬やふんどし、ブーメランパンツやハンドグリップやバーベル等々。まぁ、この辺はブースに置いていても、売れる確率は確かに低いだろう。
他にもオーガの角やら金の延べ棒やら、その他素材系や金貨なども買い取って貰って。換金性の高い品も入っていたお陰で、そこそこの額になった。
キッズ達の方はもっと少なくて、協会で換金してしまってほぼ無い始末。来栖家に関しては“敷地内ダンジョン”2種に加えて“アビス”のも加えると結構な量に。
薬品も毒薬や溶解液などが混じっていたりと、こちらも少々厄介な品が多い。ただし、中級エリクサーや上級ポーションも混じっていると知って購買人も嬉しそう。
後は金や銀の装飾品やら、素材や装備品が結構たくさん。
“アビス”で発見した金銀財宝やインゴット類は、考えた末に今回は換金しない事に。何しろ協会での前例もあるし、向こうの資金が足りなくなる恐れが。
ただでさえ、薬品類の換金額で既に百万単位で儲けてしまっているのだ。これ以上の品物の提示は、向こうの心臓や今後の付き合い的に
その辺の加減は、大いに学習して二度目の過ちは犯さない構えの護人である。まぁ、現状で既に顔見知りの買い取り人は、顔色が少々悪くなっているけど。
恐らくは、チーム別の換金が結構面倒だったのだと思いたい。それでもそれ以外は滞りなくやり取りは終了して、清々しく握手して換金作業は終了の運びに。
来月もお願いしますとの言葉は、恐らく嘘でも何でもないのだろう。
その頃には、ブースを担当していた子供達は、お昼の買い出しメンバーやら食事の順番を自分達で既に決めていた。姫香と香多奈はキャンピングカーから、食事用の机や椅子を取り出して支度を始めている。
買い出しメンバーも席を立って、早々に屋台へと突入をかましていた。それには、お小遣いを渡そうとしていた護人は肩透かしを喰らう破目に。
まぁ、向こうも青空市の物販で儲けていたし、資金は潤沢なのだろう。それにしては香多奈だけは、遠慮なくお小遣いをせびりに来るのはアレだけど。
これも馴れ合いと言うか、信頼の証には違いなく。お金を受け取った末妹は、嬉しそうにそれを手に和香と穂積に声を掛ける。それから追加での買い出しにへと、屋台目指して駆けて行くのだった。
それを慌てて追うコロ助、ルルンバちゃんまで飛行モードで追従している。
――世話の焼ける末妹だが、愛されるってそう言う事だ。
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