第416話 “アビス”の水エリアはやっぱり厄介だった件
深海とまでは行かないが、海の底を模倣したエリアはそれなりに神秘的だ。あちこちに浮遊する発光体などもあって、薄暗いエリアにアクセントを放っている。
地面からは海藻が生えていたりと、他にも面白い仕掛けがあって撮影役の香多奈は大張り切り。それでも大エイが砂地から奇襲を掛けて来たりと、探索は気を抜けない。
紗良がエイとマンタの違いクイズを、香多奈に出して後衛が盛り上がってる中で。前衛陣は順調に、敵の数を減らして前進していた。
とは言え、階段の場所も定かではないフィールド型のエリアである。あの沈没船が怪しいよねとは、姫香や香多奈の勝手な想像でしかなかったり。
それでも他に手掛かりも無いので、怪しい場所は片っ端から調べるしかない。今度のエリアは時間が掛かりそうと、チームは早くも覚悟を決めつつも。
薄暗い海底エリアを、注意しながら列をなして進んで行く。
「分かった、マンタは温かい海にしかいないとか? 海の中を泳いでる映像、昔どっかで観た事ある気がするかなぁ?」
「残念、エイはさっきみたいに海の底に潜んでるのが大半なのね。マンタはずっと海中を泳ぎ続ける習性があって、口の位置が真ん前にあるのが違いかな?
ちなみに、マンタって名前はマントみたいだからそう名付けられたみたい」
それならマンタ型の敵を倒したら、マントを落とすかなと香多奈の想像力は相変わらずユニークだ。残念ながら、近くにそんなシルエットの敵は見掛けない。
その代わり、沈没船に近付くにつれてサメ型のモンスターの姿を見掛けるようになって来た。もちろんそっち系のモンスターは、他の奴とは比べ物にならない程に凶悪だ。
ハスキー軍団も宙から襲い掛かって来るそいつ等には、ペアで挑んで気は抜かない構え。後衛陣へも何匹か襲い掛かって来て、それらは萌とルルンバちゃんが対応している。
護人もそれをサポートして、意外と多かったサメの群れを何とか撃破して行った。前衛も同じく、そして敵影の消えた周囲の景色に浮かび上がる沈没船。
かなり雰囲気のあるそれは、船体に大きな穴が開いていて、そこから中へと入れそう。大昔の商業帆船のようだが、その辺の知識は誰も持っておらず。
香多奈などは海賊船かなぁと、明らかに中にお宝の山を期待する発言を口にしている。まぁ、そう言う可能性もあるかもねと、姫香もちょっと期待する顔付き。
ハスキー達も、警戒しながらその中へと挑んで行く。
その船体の隙間から向こうは、当然ながら真っ暗で敵の奇襲もありそうで怖い。慎重に中へと入り込むハスキー達は、さっそくさっきと同じくエイの歓迎を受けた。
それを口に咥えた剣で切り刻むレイジー、いつの間にかその扱いも上達していると言う。ツグミの鞭使いはまだ未熟で、スペースの無い空間での扱いはまだまだのよう。
それでも入り口の掃除は滞りなく終了して、姫香も続いて入り口のチェックに顔を覗かせる。灯りの先には、半分朽ちた船内の通路が続いて先には進めそうだ。
それから扉も幾つかあって、これは宝箱の期待も高まるかも。敵は船内には見当たらないけど、いないって事は無い筈。次の層への階段も、場所は全くの不明。
船内は思ったよりは広くて、立ち回りには不便は無い感じ。薄暗いのは仕方がないが、相変わらずどこに向かえば良いのか分からないと来ている。
ハスキー達は積極的に探索に走り回って、待ち伏せの類いが無いか潰して回ってくれている。それでも扉は開けられないので、そこは姫香が
扉を開けた小部屋には、敵のマーマンが待ち構えていたりもして驚かせ役もバッチリ。相変わらず騒がしい探索だが、お陰で20分後には宝箱が1個と次の層への階段を発見出来た。
時間が掛かったのは仕方がない、待ち伏せもマーマンの他に大ダコやエイやタツノオトシゴと豊富だったのだ。幸い船内には、大型の敵が出て来なくて助かった。
マーマンも、それ程に強敵では無くてサクッと撃破出来た。
「これでようやく1層終わりだね、結構時間が掛かったけど仕方がないよねっ。宝箱も発見出来たし、リングとコインも手元に増えて良かったよ。
茶々丸と萌も、次の層も頑張ってよっ!」
「アンタは逆に、頑張り過ぎてまたぶっ倒れないでよ、香多奈。沈没船ってロマンあるかなって思ったけど、暗いし中は狭いしでそうでも無かったな。
宝箱の中も、薬品やら魔石や魔玉やらで、他と変わりは無かったし。金銀財宝とまでは言わないけど、昆布とか貝とかはどうかなって思うよ」
「あら、昆布はお出汁取るのに必要だし、幾らあっても困らないわよ、姫香ちゃん。貝もあんな大きいの、お店で買ったらとっても高いと思うの。
家に帰ったら、バターで焼いて食べようね?」
紗良の天然の発言に、それは楽しみだよねと返答するしかない姫香。沈没船の財宝と言えば、やっぱり金の延べ棒とか凄いのを想像してしまうのは当然だと思う。
紗良はそうではないようで、護人も同じく次に進むぞといつもののんびり顔である。姫香に関しては、別にザジのチームと競争するつもりも無いけど、向こうよりは回収アイテムでは負けたくない。
末妹の香多奈との競争もそうだったけど、基本的に姫香は負けず嫌いのようである。そんな訳で、次も宝箱を見付けてねと相棒のツグミに無茶振りしての階段下り。
そして出た先は完全に海底に埋もれた沈没船の一室で、その船は他に探索する場所も無い程に
海底のエリアは起伏こそ少ないけど、海藻や漂流物で見通しも良くは無い。輸送船のコンテナなんてのも砂に埋もれていたり、そしてお決まりのエイの奇襲があったり。
魚型のモンスターの襲撃も、階層をまたいで再び活発化して来た。中型サイズの魚から3メートル近い大サメまで、種類も色々で決して
時には真上から突っ込んで来るのだ、ちょっとの油断が命取り。
「うわっ、また来た……姫香お姉ちゃん、大きなサメが何匹か上の方を泳いでるよっ! こっちに来る前にやっつけて!」
「無茶言わないでよ、香多奈っ……上から襲い掛かって来る敵を、前衛だけじゃ止められないわよっ!」
「こっちは俺と萌でフォローするよ、姫香……とは言え、水エリアじゃ『射撃』も威力が半減するし、引き寄せて仕留めるしか無いんだけどな。
サメも接近して来るが、そこは我慢してくれ」
どたばたした戦況だが、例え水耐性の装備や精霊の加護があったとしても、水エリアは厄介って事だ。このエリアをあと4層進むってなると、今後の苦労も想像出来てしまう。
とは言え、弱音ばかりも吐いておられず、そこはしっかり対応して行かなければ。幸い子供達も沈没船
願わくば、このまま何事もなく25層まで突破したいモノ――
一方のザジチームは、幸運な事に厄介な水エリアでないエリアを引けた。確率は半分とのデータだったので、それなりの対策をして来た協会職員の土屋と柊木だったけれど。
もちろん強力な行動阻害のあるエリアは、避けれるに越した事は無い。ラッキーだったなと呟く土屋も、このチーム同行にようやく慣れて来たよう。
何しろ根っからのコミュ障で、チーム探索にも支障をきたす程なのだ。幸いにも今回は、女子のみ+後輩の柊木が同行って事で、居心地は悪くなさそう。
ここまでの前衛の動きも無難にこなしていたし、ザジもその実力に文句は無い様子。片手剣と盾の前衛の動きも、さすがB級だけあってこなれている。
数匹の敵にたかられても大きく崩れないし、年上だけあって両サイドへのフォローも良く出来ている。前線を退いたとは思えないその動きは、年下組も信頼している模様である。
相変わらずザジの指示出しは
その内に、後衛からも妙な提案が飛び出す始末。
「ねえ、ザジちゃん……私と
やっぱり実戦で威力を試すのって、大事ではあるしょ?」
「そうだニャ、じゃあ……そこに隠れている大ヒトデで試してみるニャ! ヒナにミッコ、まだまだ索敵の度合いが足りないニャ。
そんな事じゃ、チームが&%+♯を受けてしまうニャ!」
「そうだっ、奇襲を受けて困るのは前衛だけじゃないんだぞ。チームの命運も握っているんだ、もっと気合い入れて神経を研ぎ澄ませるようにっ!
先輩も、分かってたらハンドサインでも何でも情報共有する事っ!」
そう後輩に叱られて、モゴモゴと返答する先輩の土屋女史であった。そんな中、いそいそと前衛陣へと近付いて行く怜央奈と星羅の後衛ペアである。
2人ともつい最近、新しい魔法スキルを取得して特訓では何度かお試し済み。とは言え、ダンジョンの敵を相手にしないと本当の威力は分からない。
そんな理屈での、ようやくの攻撃魔法デビューである。特に怜央奈なと、今まであまり良いスキルに巡り合えてなかった経緯もあって。
新しい《影刃》と言うスキルには、物凄い期待をしていたり。
そして天井に隠れていた大ヒトデを相手に、新スキルの試し撃ちを実行する。影が伸びて敵を切り裂くその技は、威力も実用性もあって良い感じ。
ただしまだ慣れていないのか、出力は低くて敵を倒すには至らず。ボトッと落ちて来たそいつに、今度は星羅が『流星
妖精ちゃんは妖精の使う張り手技と称していたが、スキルに慣れた星羅が使うと出力は段違いだった。その一撃で、大ヒトデは無残にも潰されて魔石へと変わって行く。
おおっと、周囲からは驚きとも賛辞とも取れるどよめきが。星羅も攻撃系のスキルはほとんど持っていなかったので、この新スキル取得はとっても嬉しそう。
それからお互い、もっと使い込んで威力をあげようねと約束して。今後の精進を誓い合いながら、元の後衛の位置へと戻って行くのだった。
そしてチームは、再びダンジョン探索を開始する。遺跡タイプのエリア内を、ザジの戦術指南をBGMに、神経を張り巡らせて進み始める。
実践訓練は、この後もスパルタ仕様で続きそうな雰囲気。
その頃の来栖家チームだが、再び海底エリアを進んで沈没船を発見に至っていた。今度の船は、砲台も積んでた名残があったりと昔の戦船みたい。
今度こそ海賊船かなぁと、ちょっと期待している末妹の呟きに。だったら中に、海賊の団体さんが待ち構えているかもねと、
そう言うのはフリになるから止めなさいと、護人の制止は幾分か遅かったかも。ハスキー達が先導して入った船内では、既に熾烈な戦いが始まっていた。
出て来たのは、どうやら海賊の骸骨兵団だったらしい。それぞれサーベルを手に、不埒な侵入者を相手に戦闘を繰り広げている。とは言え骸骨兵団、それ程強くはない模様で良かった。
茶々丸の角の突き上げで、呆気無く崩れて行く連中もチラホラ。それでも船内を賑わす骸骨兵団は、数が減った気がしない程に大量でやや押され気味かも。
姫香も当然、戦闘に参加して戦線を押し返そうと奮闘するのだが。向こうも次々と死霊骨団を追加して来て、場の敵の数は減ってくれていない。
骸骨の魚団も混じって来ると、宙からの仕掛けはとっても厄介。
「うわっ、コレは敵の数が多いねぇ……それにしても、何で数が減らないんだろう。ひょっとして、操ってる魔術師とかがいるパターンかなっ?」
「あっ、そうかも……ツグミっ、探してみてっ!」
「萌も前に出て、お姉ちゃんの手伝いしてあげてっ! 『応援』してあげるから頑張るんだよっ、アンタはやれば出来る子なんだからっ!
駄目ならルルンバちゃんがいるからね、無理はしないんだよっ!」
期待してるかいないのか分からない声援を受けて、前へと出て行く萌である。その装備は立派で目立つけど、本人は飽くまで控え目な性格は変わっていない。
一緒に護人が前へと出たのは、そんな彼のフォローをする為もあった。追加の理由で、やっぱり弓矢の通じないエリアに、接近戦を選んだってのも存在する。
そして同時に、子供達と同じく戦場に
雑魚の骸骨は弱いけど、こう数で攻められたらこちらも体力が尽きてしまう。
――そうなる前に、早くこのエリアの仕掛けを解明しないと。
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