第415話 20層の中ボスを撃破して次の扉を選択する件



 現在来栖家チームは、20層の中ボスへと挑んでいる最中である。敵は巻貝の甲殻をかぶった巨大スライムで、コイツは物理攻撃がほぼ効かない難敵だった。

 後衛の紗良が、真ん中にある核を壊すか魔法で凍らせてしまえばと助言を飛ばす。それを聞いたルルンバちゃんが、遠隔からの『波動砲』で核を見事に射抜いての戦闘終了。


 どうやらこのAIロボ、香多奈が無理だと言っていた精密射撃も動かない敵が相手なら可能らしい。素早く動き回る敵が相手だと、また違って来るのだろうけれど。

 何と言うか、末恐ろしい魔導ゴーレムの攻撃パーツである。異世界で入手したモノだが、偶然拾えて本当にラッキーだった。それ以上に、ルルンバちゃんの《合体》スキルの恐ろしさと言うか伸びしろは凄過ぎる。

 このスキルの上限が、知りたいような知りたくないような?


「あれっ、案外と簡単に20層を突破しちゃったねぇ、護人さんっ。ウチのチームの最深層だから、もっと苦労するかと思ってたけど。

 “アビス”って案外、難易度のランクはずっとこんな感じなのかな?」

「う~ん、そうだとしたらリング集めも意外と楽になるかもなぁ。いちいち16層に戻らなくて済むなら、その分のリングが浮く計算だしな。

 それじゃあ、宝箱の中身を回収して扉を出ようか。香多奈、巻貝でザジに今何層にいるか訊いてみてくれないかい?」

「了解っ、えっと……私どこにしまったかな、萌は覚えてるっ?」


 勝手に慌ててわちゃわちゃし始める香多奈と、素直にその相手をする萌は変わらずマイペース。姫香は宝箱の中身チェックを始めて、紗良はペット達に怪我が無いか確認して回っている。

 宝箱の中には、リングとコインが数枚ずつ入っていてまずは一安心。それから鑑定の書に薬品類、魔結晶(小)が幾つかとミスリルの武器と防具が数点ずつ。


 後は鱗素材が少々に、蟹を模ったイヤリングが1つ。最後に立派なサイズの食用の蟹が10杯も出て来て、山育ちの子供達を騒然とさせた。

 これって買えばお高いモノなんじゃと、紗良と香多奈も寄って来て立派な蟹を眺める始末。紗良などは、どうやって調理しようかと既に夢見心地。


 それから何故か、姉妹になぞなぞを仕掛けて盛り上がってる紗良である。蟹の数え方の単位って何でしょうと、多少浮かれている長女のなぞ掛けに。

 1匹2匹じゃ無いのと、末妹の香多奈は素直な返答。姫香はそんな単純な答えな訳は無いでしょと、頭をひねっているけど正解は残念ながら出て来ず。

 仕舞いには、叔父さんは分かるとこっちに振られる始末。


「確か1杯2杯って感じじゃ無かったかな、他にも数え方があった気もするけど。それにしても、蟹を家族で食べるのは初めてかも知れないな。

 香多奈は今までに、食べた事あったかな?」

「えっと、記憶には無いかも……味の想像がつかないけど、カニカマは食べた事あるよっ! あっ、お電話するの忘れてたっ……萌っ、私の巻貝どこっ!?」


 私もカニカマしか無いかなと、姫香の呟きは置いといて。なぞなぞは正解ですと、他にも12尾とか数え方はあるとの紗良の答え合わせ。

 ちなみに、生きている時は1匹2匹の数え方で良いらしい。思わぬ蟹のプレゼントで、舞い上がっている来栖家チームの面々であった。


 何とか香多奈の通信も繋がって、向こうも今から20層の中ボスに挑む所みたい。それなら出た所の休憩所で待ってるねと、それにて通信は終了。

 そんな訳で、アイテムを全て回収して扉を出て行く来栖家チーム。今夜は蟹パーティだねと、ウキウキしている紗良がとっても珍しいかも。


 そして出た先はやっぱり回廊で、薄暗くて扉がいくつも並ぶ石畳の通路だった。ハスキー達は迷いもせずに、近くの階段から21層の休憩所を目指して進む。

 その辺の構造は、上の15~16層とほぼ同じで迷う事も無さそう。そして階段を降りた先の休憩所も、魔方陣や販売機の場所まで瓜二つの仕様だった。

 来栖家チームは、そこでようやく寛ぐ準備を始める。


「さて、それじゃあザジのチームが合流するのを待ってようか。食事を始めても良いけど、みんなが集まるまで待った方がいいかな?

 取り敢えず、寛げる場所を作ってみんなを待ってよう」

「了解、叔父さんっ……シート出して敷いて、それから食事の用意かなっ? 萌はシート敷くの手伝って、コロ助は邪魔しないでってば!」


 毎度ちょっかいを掛けて来るコロ助を押しやって、香多奈は忙しくキャンプ拠点の準備を始める。来栖家の中で、護人のキャンプ好きを一番継承しているのがこの末妹だろうか。

 今も家の外に隠れ家を3つも持っているし、外遊びの天才の名を欲しいままにしている。そんな調子で、この簡易キャンプ地も末妹が猛威を振るいまくる。


 そして、あっという間に居心地の良さそうなスペースを作り出す事に成功。コロ助が中央に寝そべっているのは、いつもの事なので大目に見るとして。

 紗良も簡易コンロでスープを温め直そうかなと、リラックス状態。


 そんな事をして来栖家が寛いでいると、ようやくザジの率いる女子チームが合流して来た。全員が無事なようで、その表情は等しく明るくて楽しそう。

 それを指摘すると、いやでも教官のしごきはキツイっスよとみっちゃんの反論。それでもボス級の敵もスムーズに倒せたし、儲けも悪くは無かったとの話だ。


 そう言う意味では、即席チームにしてはなかなか息の合った攻略であった。これもザジの指導の賜物たまものなのかは、定かでは無いけど感触は良かった。

 他のメンバーは、そのスパルタ的な物言いに全く反感も持たずに従っているみたい。それだけ実力を買っていると言うか、猫娘に信頼を置いている証拠なのだろう。


 そして合流した2チームは、和気藹々あいあいとした雰囲気で休憩に入る。紗良と星羅せいらによって、仲間達に軽食が配られての簡単なランチタイムの開始。

 話題も豊富で、各々の攻略の話やら出て来たモンスターの種類やら。ザジのチームは、中ボスに巨大タコが出て来たそうな。そのドロップには、干しダコやタコワサの瓶詰めが出たそう。

 香多奈はそれを聞いて、ウチは蟹がドロップしたよと得意満面。


「あっ、それならウチのチームも、サザエとか貝類がわんさか手に入りましたよ! お泊まりのお礼に来栖家に寄贈したいけど、ザジちゃん達もそれでいいっスか?」

「みんなで食べればいいよ、紗良姉さんが腕を振るいたくってうずうずしてるし。でもサザエと貝類は、バーベキューで食べるのが良いかな、護人さん?」

「そうだな、この先あと5層でまた素材が増えるかもだし……そっちのチームも順調みたいだし、予定通りの進行で良さそうだな」

「全然大丈夫、むしろ調子が良くてコインを目標数まで貯めたくて仕方がない……やっぱり、魔法の鞄を揃えるのが嬉しいかな、みっちゃんに怜央奈?」


 自動交換機には色々と魔法アイテムが入ってるけど、陽菜たちは『魔法の鞄』を人数分揃えたいみたい。それはまぁ当然で、これがあれば探索の回収作業も段違いなのだ。

 来栖家みたいに、1人1個持ってる探索チームの方が珍しい。何しろ1個につき、売れば軽く百万以上の値段がするのだ。幸いここでは、コイン25個での交換が可能となっているらしい。


 とは言え、向こうのチームの員数も7名と多いので、1人辺りの分け前は微妙である。現在はメダルとコインの数は、33個との話。

 7人で割ると、4枚とちょっとの計算なので道のりは険しい。それでも何とか全員分は欲しいよねと、チームの指針は一致している模様である。


 その辺の分配については、向こうには協会職員も混じっているし平気だろう。いざとなれば来栖家の回収品からも融通するし、せめて2~3人分は欲しい所。

 それには少なくとも、今の倍のコイン収集が必要だ。




 そんな話で盛り上がりながら、各々で食事を済ませての休憩終了。“アビス”回廊の昏い雰囲気も、女子率多めのこの集団には関係無かった模様である。

 と言うか、気付いたら男性は護人しかいないと言う非常事態に。香多奈にそう指摘されて、改めてその事実に気付く面々。末妹のモテモテだねとの茶々入れは、違うと思うとの全員のツッコミが。


 良く分からない騒ぎを含みつつ、2チームは休憩を終えて行動を再開する。突入する扉選びだが、今回は来栖家チームは姫香が適当に決定した。

 対するザジのチームは、みっちゃんがその重役をになったよう。単純に来栖家チームの隣の扉を選んで、お互いに無事で会おうねといったんのお別れ。


 そして21層からの探索と言う、チーム史上類を見ない深層の探索を開始する。それはザジのチームの面々も同じく、慣れているのはザジだけと言う。

 それでも大丈夫と判断したのは、妖精ちゃんのアドバイスが大きかった。“アビス”は50層くらいまでは、実はそんなに難易度は変わらないそうである。


 それでも深層の方が、リングとコインの入手率が高いとの情報を頼りに。2チームでの同時攻略を、予定通りにもう1度行う流れとなった次第。

 疲れもまだ溜まってないし、元気なメンバーが多数チーム内に存在するのもあって。そんな連中に引きられる格好で、いざ21層の探索のスタートである。

 そして来栖家チームは、残念ながら今度は水中エリアを引き当てる形に。


「あっ、またこの息苦しいエリアだ……まぁ、仕方ないよね。前回の“アビス”の突入データの結果じゃ、この水エリアの割合は4割くらいだって柊木さん言ってたし。

 半分近くはこの水中エリアみたいだよ、護人さん」

「そうだな、確率的に引き当てるのは仕方ない。水耐性の装備は、今回ちゃんと全員が装備しているから問題無いしな。

 ハスキー達も、多少は不自由だが動ける筈だよ」

「それでもやっぱり、動きの阻害はされるんでしょ? この前みたいに、私が水の精霊にお願いしてみようか、叔父さん?」


 香多奈の提案に、やって見せろと強く推薦して来たのは妖精ちゃんだった。そう言えば、この前はそれで上手く行ったんだっけと姫香は過去の探索を思い出す。

 紗良も同様に思い出して、あの時は確かMP不足に陥って倒れたんだっけと。それを聞いた姫香が、そうだったねと笑い始める。姉に笑われた香多奈は、早くもむくれ顔。


 そこを護人が何とか取り成して、それじゃあお願いしようかと末妹に活躍の催促をうながす。それを受け、少女は鞄から杖を取り出して、練習通りに精霊にお願いを発し始めた。

 他の魔法と召喚魔法の違う点は、このお願いが通じるかどうかの点に尽きる。その願いが通じれば、相手は自分達に力を貸してくれるのだ。


 今回は何とか一発で通じたようで、馴染みの水の精霊が香多奈の願いを聞いてやって来てくれた。それから水系の魔法の行使を、香多奈のMPを使って行ってくれる。

 その容赦の無い取り立てに、思わす前回の二の舞におちいりそうになる香多奈。今回は何とか耐える事が出来て、これで笑われずに済みそう。


 もっとも、心配した紗良に手を繋いで歩こうねと言われてしまったけど。その位は恥でも何でもないと、自分を納得させる少女であった。

 ハスキー達も、体が軽くなった感覚に大喜びで先行しての偵察におもむいて行く。それでも水エリアに『魔炎』の効果を封じられたレイジーは、今回も『可変ソード』を使用する模様。

 この辺は、前回の作戦を踏襲する賢い護衛犬である。


 それを見て、ツグミも『八双自在鞭』を積極的に使う事に決めたみたい。何しろこのエリアは、魚型のモンスターが宙を平気で泳ぎながら襲い掛かって来るのだ。

 現に今も、鋭い牙を持つ中型の魚影が団体で近付いて来ている。それに気付いた姫香と茶々丸も一緒に前に出て、迎撃する準備は万端である。敵影は多いけど、こちらも味方の数はバッチリだ。


 そんな感じで、最初の殲滅戦はこちらの圧勝に終わった。ちなみに21層フロアは、海底のような薄暗いフィールド型となっているみたい。

 進む方向は何となく、向こうに見える沈没船みたいな障害物の辺りを目指そうと。子供達はそう見当をつけて、ハスキー達もそれに従って進んで行く。


 途中でマーマン型の半魚人の襲撃を受けて、そのスピードに驚く一行。同じ半魚人でも、コイツ等はサハギンと違って泳力が半端ない感じ。

 アレで女性タイプだとマーメイドだねぇと、良く分からない感動を覚える後衛陣。水中エリアだとハスキー達よりスピードのある敵なだけに、集団で来られると大変だったかも。

 要するにこの先、全く油断がならないって意味でもある。





 ――水中エリアのあと5層、とにかく気合を入れて進まなければ。






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