第413話 2チームで“アビス”の16層から探索を開始する件
「わおっ、久し振りの“アビス”だ……相変わらず陰気な場所だなぁ、それに湿っぽいのも仕方無いよねぇ」
「海の中だもんね、それは仕方無いとして……ハスキー達、他に人の気配は無いよね? アレでも、ばったり“ダン団”の連中とかと遭遇したら嫌だからね」
「おおっ、ここが噂の“アビス”なのか……本当に扉がたくさん並んでるな。好きに選んで突入出来るのか、面白い仕様だが当たり外れもあるんだよな?
これは責任重大だな、みっちゃん?」
「ええっ、私が選んでいいんスか、陽菜ちゃん!? ここは年の功で、協会のお2人に選ぶ権利はお譲りしますけど……」
さっそくどの扉を選ぶかで、揉め始めた女性チームは置いておくとして。ハスキー達は周囲を素早く探索して、別に怪しい奴らはいないよとの報告。
それを聞いて、星羅もホッと安堵のため息をつく。今回も一応、借りた『妖狐の尻尾』で変装はしているとは言え。そのせいで、お尻から生えた尻尾で妙なコスプレ感が。
もっとも、コスプレでも何でもない猫娘が同じチームに既にいるけど。その当人は、やっぱり初の“アビス”上陸にとっても興奮してあちこち走り回っていた。
ルルンバちゃんと茶々丸も同じく、どうやらそんなノリが好きな1機と1匹である。それから香多奈と怜央奈は、既にスマホで動画の撮影を始めて盛り上がっている。
そんなある意味カオスの階段下のスペースで、紗良は装置を片付け終わる。そして、いつでも出発出来ますとリーダーの護人へと改めて告げて来た。
護人はそれに頷きを返して、突入前に改めて自販機の商品チェック。アビスリングとコインは、ここを探索すれば自然と貯まってくれるだろう。
とは言え、何を交換するかは前もって決めておくのも悪くない。
それを察して、女子チームもぞろぞろと近付いて来て熱い論争を交わし始める。彼女たちが欲しいのは、圧倒的な上位が実は魔法の鞄みたい。
ただし、1人1個の交換となると莫大な量のコインが必要になってしまう。ワープ装置などは夢のまた夢で、当分の間はお預けなのは仕方の無い所か。
そうしてやっと落ち着いたのが10分後、そろそろ出発しようよと香多奈の言葉に従う年長者たち。ペット勢も待ちくたびれたのか、ようやく狩りが出来るととっても嬉しそう。
そして2チームによる最初の扉選び、来栖家チームは香多奈が代表で選んで休憩所のすぐ近くの扉に決定。対する女子チームは、ザジが適当に選んでくれた。
そして数時間後に会おうとの言葉と共に、お互いのチームは探索を開始する。来栖家チームが入った先は、見慣れた湿った遺跡エリアだった。
水のエリアで無かっただけ有り難いと言うべきか、変わり映えが無いなと
案の定、最初に遭遇したのはサハギンタイプの半魚人だった。
体格も良くないこの魚顔のモンスター、ハッキリ言ってそんなに強くは無い。それでも16層の敵だけあって、水魔法まで使って来て
遺跡の隅の水溜まりには大ウミウシもいて、コイツは毒を吐いて来て別の意味で厄介だ。ただし、それを認知してからはコロ助とツグミが遠隔攻撃で倒してくれた。
久し振りの来栖家チーム揃っての探索は、そんな感じで順調に進んで行く。敷地内のダンジョンに較べると敵の数も少ないし、エリアもそこまで広くは無い。
癖があるとしたら、酷い阻害魔法の掛かる水エリア位のモノだろう。ただし、今回は備えもバッチリなので、そこまで問題も無いと思われる。
取り敢えずの今回の目標は、合計10層を踏破してアビスリングと金色のコインを稼ぐ事だ。そうすれば、恐らくはお泊まり組も満足してくれるだろう。
来栖家チームとしては、問題の水エリアではエースのレイジーの能力が存分に発揮出来ないと言うハンデがある。ミケも同じく、水エリアで『雷槌』を使われたら周囲への被害が起きそうで怖い。
そんな訳で、ボチボチ加減しながら進むのが吉かも。
「ウチのダブルエースが、スキルを封じられるのは確かに怖いもんねぇ……幸いここは平気だけど、この前も1回水エリア引いちゃったし。
私もあのエリアは苦手だな、動くと息苦しく感じちゃうから」
「香多奈の精霊へのお願いが叶っても、敵の有利なエリアには違いが無いもんな。その辺は配置を工夫しながら、ボチボチやって行こうか。
幸いルルンバちゃんは、水エリアを全く苦にしないからな」
「ルルンバちゃんは万能だよねっ、頼もしいには違いないけど。茶々丸と萌のコンビも、最初は前に出してて良かったの、叔父さん?」
あまり良くは無いけど、茶々丸が勝手に出て行くのだから仕方がない。レイジーが面倒を見てくれる筈だし、暴走はしないだろう。
姫香も前寄りのポジションで、その辺はいつもと変わらない来栖家チームの配列である。そんなチームの活動も、考えてみたら3週間くらいは間が空いている始末。
そこまで久し振りって程でも無いけど、シャッフルでのチーム探索をこなして割と新鮮な心持ちかも。改めて周囲の頼もしい面々を眺めて、お互いニマニマしてみたり。
そんなチームだが、何事もなく16階層を突破に至った。
続いて17層に突入しても、ハスキー達の進行速度は全く変わらず。邪魔な雑魚をサクサク片付けて行って、前衛寄りの姫香ですら戦う機会があまり巡って来ないと言う。
考えてみれば、17層と言うのは来栖家チームにとっては最深層である。まぁ、今回は16層からのインなので、そんな感慨は全く脳裏をかすめないけど。
敵の強さも、そこまで変化が無いのも深層と思えない理由の一因である。サハギンは相変わらずの雑魚だし、仕舞いにはスライムまで出て来る始末。
ただし、巻貝っぽい甲殻を
とは言え、最弱のスライムには変わりなく……ハスキー達もスルーするので、それならと紗良と香多奈がスコップ片手に討伐に向かうサイクル。
そんな事をしながら、一行は無事に18層へと到達した。いつになく順調な探索道中に、少しだけ油断が無かったかと問われれば嘘になる頃に目撃したのは。
遺跡の中に設置された、プールと飛び島の仕掛けだった。
「あっ、これって……渡ってる途中で、絶対に襲撃があるパターンだ」
「う~ん、水の中は
それにしては、親切と言うかこれ見よがしに渡れるルートがあるけど」
「まぁ、襲撃があるとして対策を立てようか……こんな序盤でずぶ濡れになったら、その後の探索に支障が出ちゃうからな」
護人のその言葉に、は~いと返事をする子供たち。その雰囲気はやっぱり家族チームで、今まで何度かこなした即席チームとはまるで違う。
その安心感の中、作戦を練り始める子供達だった。
一方の完全な即席チームの女子だけ連合は、指示だけは威勢良く飛んでまるで実戦練習の雰囲気。その空気を作り出しているのは、ザジと柊木だった。
ザジの日本語は、自己流で覚えただけあってどこか怪しさが満載だ。お国言葉も混じったりと、時々意味不明な発音になったりするのはご愛敬。
要するに、ヒヨッコ共はカバーし合って探索をしろって事らしい。それには戦闘や周囲の探索、罠感知なども含まれていて結構スパルタだ。
もちろん理想としては、全員がある程度全てをこなせるのが望ましい。とは言え、こっちの探索者は分業が一般的で、そんなオールマイティな探索者は逆に珍しい。
だが猫娘は、それは甘えだと一切の妥協を許さず。
「踏み出す足先で%♯$を感じるニャ! 全員でやるニャ、そしたら=*&%も#~¥$されて少なくなるニャ!
お前らを立派な戦士にしてやるニャ、*$≧ってウチについて来るにゃ!」
「そうだっ、戦闘時じゃ無いからって油断するなよ? 全員で危険に対処するんだ、全員がする事で君たちが例えヘッポコでも危険察知センサーの数は増えるからな!
踏み出す足先にも神経を張り巡らせろっ! 最初は疲労は半端ないかも知れないが、慣れれば空気を吸うように自然に出来るようになるからなっ!
土屋先輩、前衛探索の良い勉強になりますねっ!?」
そんな感じで後衛で呑気に、猫娘の言葉を翻訳する柊木である。彼女自身はボウガン持ちで、その射撃の腕はC級ながら戦闘能力は相当高い。
対する土屋は片手剣と盾を扱うバリバリの前衛で、B級に上がった時点で探索業からは
その後に協会本部長の
見習うべき振る舞いも多いけど、案の定に口数は極端に少ない彼女である。それに対して、陽菜とみっちゃんは苦労しながら前衛の動きを合わせている所。
即席チームだけあって、その辺の苦労は覚悟していた両者である。しかし、まさか後ろからも痛烈なアドバイスが頻繁に飛んで来るとは全くの計算外。
ただまぁ、ザジは間違いなくこのチームの中ではトップの実力の持ち主だ。夕方の訓練での手合わせでは、2人掛かりでも全く歯が立たなかった程。
そんな人物のアドバイスなので、変に逆らう事も出来ずなこの状況。
――そんな訳で、しばらくは探索ハードモードに
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