第412話 2チーム結成して“アビス”探索に向かう事になった件
お泊まり組、つまりは陽菜と怜央奈とみっちゃんが、来栖邸にお世話になり始めて既に2週間が経過した。ここまで彼女たちは、大きなイベントも幾つかこなして絶好調だ。
つまりは田植えの手伝いとか歓迎会のお花見だとか、女子チームでの探索も2回に渡ってこなしたし。他にも毎日の特訓とか、新たなお隣さんと親しくなったり。
怜央奈とみっちゃんに至っては、3つ目のスキルを取得して上機嫌である。特訓でのお試し使用も、色んな人達からアドバイスを貰えて良い調子。
本当に恵まれた環境での2週間、何よりご飯が美味しいし、お替わりも自由と言う環境に。陽菜や怜央奈みっちゃんは、少々自分の体重を気にする素振り。
つまりは1日1時間ちょっとの運動では、カロリー消費が追い付かないと。その上に世間はゴールデンウイークに突入して、キッズ代表の香多奈もお休み期間に突入。
そこで2チーム合同の探索に行く事を、姫香に提案してみたりするのだが。その場所については、やっぱり噂の“アビス”を第一候補にしている次第。
何しろ100層超えのダンジョンなど、考えただけで興奮する。
「私は別に構わないけど、護人さんが何て言うかなぁ? あそこは割と特殊だし、水耐性の装備が無いとかなり危険な所だったしなぁ」
「そうか、行く手段はあるのに残念だな……」
そもそもキッズチームは、前回の水難でそんなエリア探索にはトラウマを発動するかも? 好き嫌いで探索業などやってられないが、苦手な場所を避けるのも生き残る術には違いない。
そして護人の返答も、同じくな感じでションボリなお泊まり組だったり。それを見ていた
例えば、例の新しいお隣さんをチームに誘うとか。
「土屋さんと柊木さんだっけ、訓練で身体を動かしてる姿を見たけど、かなりの実力者だと思うよ。彼女達を誘って、来栖家とは別に女子だけチーム作ったらいいんじゃない?
私も後衛で参加するし、それでも不安ならザジかリリアラに同行して貰うとか? ザジなら多分、簡単について来てくれると思うけどな。
この前、自分に教えずリーダーが護人さんとダンジョンに入ったって怒ってたし」
「ああ、抜け駆けされたって怒ってたねぇ……だとしたら、陽菜たちと星羅で4人に、協会の2人でしょ。それからザジが入ったら7人でかなりの戦力かもね?
チームバランスに関しては、保証出来ないけど」
「それ面白そうっ、青空市に参加する前にもう1回くらい探索に行きたかったし! そんじゃ、お隣に行って女子チームで探索しようって誘ってみようよっ!」
善は急げなメンバーは、怜央奈の言葉にすぐさま行動に移る模様。せっかちだなと護人は思うが、こんな山の上の生活では刺激が少ないのも事実だろう。
いや、異世界の住人のお隣さんやら、敷地内にダンジョンを3つも抱える環境は充分に刺激的だとは思う。とは言え、既に生活に溶け込んだ来栖家としては、日常以外の何物でも無く。
お誘い軍団に香多奈まで付いて行って、朝のリビングは急に静かになってしまった。朝食の片付けを始める紗良と星羅が、早くもお昼のメニューについて相談を始めている。
その周囲の床を、ルルンバちゃんがお掃除モードで走り回る。ミケが騒がしいのが去ってくれたと、清々した表情で護人の膝元へやって来た。
世間は確かにゴールデンウイークで、ただし農家的には全く関係無いとも。家畜の世話に至っては毎日あるし、田畑のお世話も同様だ。
そんな中で、子供達の探索の同行やら自治会のお仕事も入って来る訳で。春になって大忙しの護人だが、家族サービスの大事さも身に染みて分かっている。
と言うより、家族がいないとそこまで頑張れない。
膝の上に綺麗に収まったミケも同様、この子のために家族で異世界にまで乗り込んだ事もある。そして恐らく、ミケも同様に家族の為なら命を張る事だろう。
家族の
護人としては無いのだけれど、どうやら“アビス”探索の計画は出来上がってしまいそうな気配。今日か明日かは判然としないけど、子供達の勢いって本当に怖い。
そうして10分後、戻って来た姫香とお泊まり組は、高らかにチームは揃ったと宣言する。そして明日の朝から、“アビス”に探索に行こうよと護人に再び
予想通り、明日は丸1日家族サービスに費やされそう――
前日の準備期間で、ザジ教官は随分と実践的な訓練をお泊まり組&協会メンバーに課したようだ。つまりは即席女性チームの、実質的なリーダーはこの猫娘が
協会の土屋と柊木の両者の方が、年齢的には10歳近く年上ではある。とは言え、探索者としての経歴を考えると順当な結果には違いない。
昨日話し合った結果、姫香とツグミは来栖家チームで探索する事に。前回までの探索では、姫香は女子チームのリーダー役を担っていたがこれも順当だろう。
それから紗良も同じく、いつも通りに来栖家チームでの探索で良いとのお達しに。姉妹で安心しつつも、今回の即席チームの心配はどうしてもしてしまう。
ザジの実力は重々に知っているし、それに星羅の回復支援が加われば鬼に金棒だろう。ハッキリ言って、ツグミの『探知』スキルより上の探索能力を、この猫娘は持っている。
それから協会職員の2人にしても、現役を退いたとはいえ戦闘能力は衰えていない様子。夕方の特訓で確認したところ、お泊まり組より能力は上の様子。
つまりは、少なくともB級クラスの実力は持ってそう。
「意外と戦闘能力は高いよね、2人とも……何でまた、探索者を辞めて協会の職員になっちゃったの?
勿体無いよねぇ、探索者の方が稼げるでしょうに」
「それはですね……語るには長い程に色々あったけど、要約すると
本部長が拾わなかったら、マジでダンジョンの
「ああっ、それは何となく分かるかも……前は冬だってのに、廃墟でキャンプ生活送ってたんだって? 女の子がそんな事しちゃダメだよっ!
今夜は夜ご飯、ウチで食べて行ってよね!」
そんな感じで小学生の香多奈に叱られて、いや自分は女の子って歳じゃないんだけどと、反論も出来ない土屋女史である。その返事は、有り難い事に後輩の柊木がしてくれた。
今回の探索同行依頼については、2人とも前向きなようで前日の訓練にも身が入っていた。実践的な戦闘訓練にも、弱音を吐かずに取り組んでいて猫娘も満足そう。
それに加えて陽菜とみっちゃん、それから新たにスキルを獲得した怜央奈の7人チームの結成に。これだけいれば、確かに紗良や姫香は自分のチームにいてくれて良いだろう。
ザジに関しては、特に陽菜の持つスキルに思い入れがある様子。獣人の彼女には、陽菜の持つ《獣化》に並々ならぬ憧れがあるみたい。
今回の同行の承認も、それを側で体感したい側面も強かったのかも。どちらにしても、経験豊富なザジの加入は第2チームにとっては有り難い限り。
図らずも女性のみのチーム編成となってしまったけど、それはそれで気兼ねなくやり易いって見方も。お泊まり組の意気も高く、合宿での3度目の探索を成功させるぞと張り切っている。
一方の大人組の土屋と柊木は、どちらかと言えばバランス役に徹する構え。チームが突っ走り気味なら、それを
“アビス”ダンジョンにも興味はあるようで、久々のダンジョン探索にも
星羅も同様で、心配事があるとしたら“ダン団”の関係者と、向こうで鉢合わせしないかどうかくらい。全員とっくに引き上げたとは聞いたけど、帰りそびれた者がいるかも知れない。
前回の探索の同行で、ちょっとスイッチが入った星羅も意外と乗り気な様子。結局のところ、今回の第2チームの全員がヤル気に
そんな探索スタートは、明日の朝からに決定。
各自で念入りに準備を行って、翌朝の出発の時間を迎えた。来栖家チームとお泊まり組の面々も、いつも通りに準備は万端で厩舎裏の訓練場に集合する。
ペット達の支度も、紗良と香多奈の手によって整えられて行く。そんな事をしていると、お隣さん家から猫娘と協会の2人が装備を整えてやって来た。
互いに朝の挨拶を終えてから、それじゃあ出発しようかと言う話に。改めての大人数に、こんなに一度にワープ移動は可能なのかと香多奈は心配そうだ。
妖精ちゃんは、重さや質量は特に関係無いぞと太鼓判を押してくれてまずは一安心。ただし時間は重要だそうで、あまり間を空けると魔方陣が消滅してしまう恐れもあるとの事。
なので、ワープ魔方陣への突入は迅速にとの説明を受ける一行。
「了解しました、サッと入れば良いんスね……しかし便利な道具ですねぇ、凄い距離を一瞬で移動出来ちゃうなんて。
是非ともウチらも欲しいっスよね、陽菜ちゃん」
「むっ、そうだな……そしたらこの来栖邸とも頻繁に行き来出来て、私らも修練が
今回は、チームに姫香と紗良姉がいないんだ。その分私たちで頑張るぞ、みっちゃん」
了解でっすと朝から元気なみっちゃん、怜央奈はまだ眠たそうでいつもの元気は無い感じ。お隣さんから参上の、猫娘はひたすらテンションが高い様子である。
逆に土屋女史はいつも通り落ち着いており、その相方の柊木もいつもと同じく軽薄そう。それでも2人とも、バッチリ探索着を身に
そんなお泊まり組+お隣さんの変則チームに、来栖家の紗良から『巻貝の通信機』が2セット程配られた。護人と姫香が片割れを所持しているので、合間に通信が可能との説明に。
これは便利と、盛り上がる女子チームの面々である。それから収集すべき“アビスリング”とコインの形状も、前もって教えて貰っている。そして肝心の水耐性の装備も、協会の伝手で人数分揃えて貰って前準備はバッチリ。
今回は無理はせず、探索についてはお昼を挟んで10階層程度を進むくらいで切り上げるつもり。そうは言っても、最初に入るのは16階層からである。
難易度的には、まずまずと言って差し支えないかも。
「そんな訳で、お互いに無理せずに攻略して行こうとは思っているけど……そっちのチームは、ザジがチームリーダーでオッケーなのかな?」
「にゃっ? ウチはそんな%&*なコトしないニャ。お前たちの誰かがするニャ、ウチは動き方のメーレーだけしてやるニャ!」
「あらら、それは何ともだな……それじゃあ、私たちの中から選ぶしかないか。適任を選ぶとしたら、土屋さんが年齢的にもリーダーが良いかな?」
そんな陽菜の言葉に、土屋女史は顔を真っ青にして首を物凄い勢いで横に振って拒絶の意向を示した。隣から柊木が、先輩はコミュ障なのでそう言うのは超苦手ですと的確(?)なフォロー。
それから私的な意見で恐縮ですがと、陽菜をリーダーにと押して来た。ザジもそれが良いかもなと、どうやら《獣化》を持つ彼女を特別視している口振り。
そんな流れでリーダーに押しやられた陽菜だが、特に否は無い様子。今回はチームに年長者が多く存在しているので、フォローの手はバッチリと思っているのだろう。
気軽に分かったとの了承の言葉を紡いで、護人のくれた『巻貝の通信機』を1つ手にする。もう1つは、考えた末にザジに手渡して準備は完了。
それを受けて、敷地内ダンジョンへと移動を行う面々。それから“鼠ダンジョン”のゲート前で、ようやく紗良が『ワープ魔方陣記憶装置』を起動させた。
それを見たペット達が、真っ先に歪んだ空間へと突入して行く。それに間を置かず、来栖家の面々も次々と侵入を果たす。
それから最後に、今回初結成の女子チームのみんなが緊張の顔付きで続いて行く。不安は大きそうだが、それ以上の興奮と期待が心に渦巻いて混沌とした心模様。
“アビス”ダンジョンの探索は、自分達からやってみたいとリクエストした場所ではある。とは言え、リーダー業まで押し付けられるとは、陽菜にとっては予想外。
何とか無事に、今回のクエストはクリアしなければ。
――陽菜の心の中で、期待と不安の天秤が見事に揺れ動くのだった。
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