第407話 水没ダンジョンの癖が意外と強かった件



 宝箱の色は銅色で、中身はそんなに期待は出来ない感じ。それでも薬品類や鑑定の書や木の実、それから魔結晶(小)やら魔玉(水)やらの回収は有り難い限り。

 妖精ちゃんも香多奈の側に寄って来て、その蛙のブローチは魔法が掛かってるなとコメントしてくれる。いつものように頭の上に乗らないのは、ミケが怖いからだろう。


 今日は紗良がいないので、ミケの番をするのは末妹の役目である。特に今回など、下が地面で無く水なので、万一落っことしたら大事である。

 ミケもそれを嫌っていて、香多奈の足取りが覚束おぼつかなくなると護人の肩へと避難するちゃっかり振り。とは言え、猫とはそう言う生き物なので仕方がない。


 そんな一行は、現在中ボス部屋で唯一乾いた岩場に団子になっての避難中。ずっと水にかっての移動は、例え魔法アイテムがあっても大変である。

 しかも大半が子供のチーム編成、しかも水の温度はまあまあ冷たいと来ている。ゴム長靴を着用しているとは言え、次第に体温は奪われて体力も低下して行くサイクル。

 なのでこうして水から上がると、さすがにホッとなってしまう。


「おっと、このカエルのブローチにも『水耐性up・小』が付いてたな。ラッキーだが、これは誰が使おうか? 後衛陣は今、香多奈が何にも持って無いんだっけ。

 香多奈、6層の探索から使うかい?」

「ん~っ、それは和香ちゃんが使いなよ……私は後で、もう1回水の精霊にお願いしてみるから」

「いいの、香多奈ちゃん? 茶々丸ちゃんは必要無いかな、私たち後衛より前衛で戦う人の方が大変じゃない?」


 茶々丸は人では無いが、優しい和香の提案により5層の宝箱からゲットした魔法アイテムは仔ヤギが装備する事に。浮かれる茶々丸だが、まだまだ元気な模様で一安心だ。

 ちなみにレイジーとコロ助も、乾いた岩場に招いての休憩中である。子供達がタオルで濡れた脚を丁寧に拭いて、暖を取るために抱き付いている。


 茶々丸もそれは同じなので、浮かれて飛び跳ねられるととっても困る。香多奈が大人しくしなさいと叱っているが、あまり効果は上がっていない。

 ルルンバちゃんは、機体が大きいために岩場には上がれていない。まぁ、寒さも感じない硬質ボディには、陸に上がっての休憩は無意味ではある。

 とは言え、仲間外れが嫌いな彼はなるべくみんなと寄り添う構え。


 そんな感じで休憩しつつ、紗良の作ってくれた軽食を食べるキッズ達。ピクニック気分なのは仕方がない、同じ年頃でのお出掛けには変わりないのだから。

 そうすると護人は引率の先生になってしまうが、気分はまさにそんな感じ。その内心だが、10層まで行く約束を今更ながらに後悔し始めていた。


 これでは約束の2時間は、割と大幅にオーバーしてしまう。帰り道はワープ魔方陣など使えないし、まぁルルンバちゃんに子供達を全員乗せる荒技が一番だろうか。

 そもそも水中の敵と言うのは、レイジーも苦手の分野である。ミケの『雷槌』にしても、仲間への被害が怖いのでおいそれとは使えない。


 そんな制約だらけの中、水没ダンジョンを10層まで進むなんて。キッズチーム2度目の探索にしては、ちょっと張り切り過ぎのスケジュールである。

 とは言え、今更ながら前言を撤回するとも言えない護人は弱り切った表情。頭の中で知恵を絞って、とにかく子供たちの負担を少なくする方法を考える。

 結果、やっぱり前衛をローテで回して行く方法が一番との結論に。


「それじゃあ、6層と7層は双子が前衛を頑張って貰おうかな。8層と9層は茶々丸と萌に交代して貰って、10層はルルンバちゃんで行こうか。

 階層に関係なく、疲れたり体調が悪かったらすぐに言うようにな」

「は~い、叔父さんっ! この先は、来栖家チームも進んだ事の無いエリアだねっ。楽しみだな、頑張ろうねみんなっ!」

「中ボスの部屋以降は、敵の種類もガラッと変わったりするんでしょ? 油断しないように進まないとね、龍星りゅうせいっ」


 双子の相棒の天馬てんまの言葉に、おうっと元気に答える龍星。ハスキー達も探索再開かなと、気配を感じてヤル気をみなぎらせ始めている。

 そうして再出発の“落合川ダンジョン”だが、6層以降も大きな変化は見当たらず。相変わらず水の張られた薄暗い通路と、その先は丸い広場に繋がる構造だった。


 待ち受けるのは、雑魚の大オタマジャクシが大半である。ただしその中に、大タガメやら大水カマキリが混じり始めている模様。

 天馬が引っ張り上げた敵影が、今までと明らかに違って戸惑う場面も。それでもレイジーとコロ助のフォローは的確で、危なげなく進んで行けている。


 後衛陣も頑張ってついて来ているが、前回みたいにキル数は稼げていない。スライム程度の最弱の敵がいないので、その点は仕方が無い。

 探索の道のり自体がきついので、護人的には頑張ってるとの評価に間違いはない。香多奈にしても、6層に至ってようやく《精霊召喚》が成功してくれた。

 そして水の抵抗を、ほぼゼロにして貰ってご満悦の表情である。


 しかもこの恩恵は、後衛全体に及んで嬉しい限り。レイジーとコロ助にも掛けて貰って、しかしこれで香多奈のMPは綺麗に尽きる事態に。

 慌ててMP回復ポーションを飲ませる護人だが、薬も万全では無くて即時回復とはならず。仕方なくルルンバちゃんの座席に座って、撮影役に従事する末妹であった。


「まぁ、《精霊召喚》は威力の大きい魔法だから仕方が無いよ、香多奈。成功しただけ大したものだ、そんな積み重ねが大事だからね。

 次はもっと、スムーズに掛かる様になってるさ」

「そうだよ、香多奈ちゃん……これでみんな、水の抵抗を感じずに楽に進めるようになったよ! 凄い魔法だよね、私は感心しちゃうけどなぁ!」

「ありがとう、和香ちゃん……ミケさんも慰めて?」


 護人の肩の上のミケは、困った奴だなと言う表情ながら。末妹が可愛いのか、同じくルルンバちゃんの機体の上に飛び乗って甘えた声を出している。

 ぐったり模様の香多奈は、ミケを抱き寄せてMP切れの苦しさをひたすら我慢。召喚された水の精霊は、全く容赦なく言われた命令にかなう分のMPをごっそり持って行ったのだ。


 この辺も経験が必要な技術に違いなく、まだまだだなと妖精ちゃんの厳しい言葉。一方の前衛陣は、6層の探索を順調にこなしている。

 そして分岐の広間で、再び宝箱を発見するラッキー軍団。今度の容れ物は普通の宝箱で、薄い黄色でちょっとファンシー。割と大き目なので、中身に期待するキッズ達である。


 しかし結果は、鑑定の書や魔石(小)に混じって、釣り竿や釣り糸が入っていただけと言うオチ。他にもポリバケツや、ペットのエサ入れ容器なども入っていた。

 高価そうなのは特に無し、そこはまぁガッカリな結果だったけど。続く7層にも宝物を発見して、ぐったりしていた香多奈も思わず叫び出す顛末。

 さすが来栖家の末妹、がめついと言うかたくましいと言うか。


「うわっ、これって確か上級ポーションじゃ無かったかな……中級エリクサー程じゃ無いけど、これも協会で売ったら高いよっ!

 確かこれ、骨折とかも治っちゃう凄い薬品だった筈!」

「うおっ、凄いなぁダンジョンって! でも、こっちも命懸けで探索してるんだもんな。その位のご褒美が貰えても全然いいよなっ」

「そうだよねっ……これもひょっして、ミケちゃんのお陰かなぁ?」


 和香の言葉に、それはそうかもとキッズ達は揃ってミケを拝み始める毎度のサイクル。完全に福の神扱いされているニャンコだが、今日の出番は全く無いと言う。

 その分は茶々丸と萌が働いているので、チーム的には全然構わない。宝箱代わりの虫取り網の網の中からは、他にも魔石(中)が3個に革の鞄や財布が出て来た。


 さすが低ランクとは言え、魔素の濃いダンジョンの間引きである。思った以上に回収は順調だけど、今回は残念ながら魔法アイテムは混じって無かった。

 妖精ちゃんも残念そう、この香多奈と同年代の集団にも見どころがあると感じているのか。いつもの探索より、幾分かアドバイスは多めかも。


 7層を通り過ぎるまでに、大アメンボの襲撃が若干増えた気がする。それに対して、コロ助の《防御の陣》がパーフェクトで水弾を防ぐと言う快挙を成し遂げた。

 どうやら使い続けた結果、その使い方を完璧に習得してしまったらしい。戦闘では割と無鉄砲な性格だったコロ助が、一皮けた瞬間でもあった。

 これもキッズチームに同伴した、副作用的な効果の一つかも?



 そして一行は8層に無事に到達、ここで約束通りに前衛陣を交代する事に。頑張った双子をねぎらいながら、出番の巡って来た茶々丸と萌を激励する。

 まぁ、このヤンチャ者は頑張れと声を掛けるまでもなく、初っ端からヤル気満々だったりするのだが。むしろ制御する方が大変、まぁ今回はレイジーがいるので暴走する心配は無いだろう。


 ところで茶々丸が前回習得した《マナプール》だが、どうやら本人も使い方を良く分かっていないらしく。何と言うか、宝の持ち腐れ的な状況がしばらく続きそう。

 協会の葛西かさいの説明では、チームで活用するのに凄く有用なスキル能力らしい。それを所有しているヤン茶々丸が、理解してないのだから話にならない。

 まぁ、気楽に与えた護人にも問題はあるのだけれど。


 とにかく張り切って先頭を進む茶々萌コンビは、リーダー犬のレイジーと共に敵の殲滅だけは熱心だ。今回はツグミがいないので、罠の心配はあるが仕方ない。

 低ランクのダンジョンだし、そこまで心配する必要は無いだろう。そう思っていた護人だが、それが大きな間違いだと気付くのにそこまで時間は掛からなかった。


 つまりそれは、8層の突き当りの広場で起きたのだった。その広場は傍目には綺麗な景色で、岩場を伝う滝の流れは光苔の発する光を反射して幻想的。

 滝の水量は大した事は無いのだが、その下に住まう大鯉は人間サイズで大物感が溢れていた。それを倒そうと突っ込んだ茶々丸の行為が、或いはトリガーだったのかも。

 つまりは滝下で敵と相まみえた瞬間に、凶悪な仕掛けが発動。


「うわっ、何ナニッ……鉄砲水だっ、私たちも流されちゃうっ!!」

「うおっ、みんなっ……近くの人と手を繋いで、とにかくはぐれない様に踏ん張れっ!」

「きゃあっ、助けてっ……!」


 そこかしこで驚きと要救助の悲鳴が上がる中、滝の上から放たれた鉄砲水はキッズ達を吹き飛ばそうとその猛威を振るう。護人は咄嗟に、近くにいた和香と穂積を確保へと動いた。

 こんな時には、二つ名の“四腕”の能力はとっても有り難い。両腕に和香と穂積を抱える事に成功して、更には《奥の手》でルルンバちゃんの機体にしがみ付く。


 水の流れは瞬間的な威力は凄かったモノの、その後は河川の中流程度のやや速い流れに落ち着いていた。とは言え水量の増加は激しく、護人でさえ胸元まで水位が迫っている始末。

 しかも激しい水しぶきのせいで、周囲の状況は全く把握出来ない有り様である。声を出そうにも、水を飲み込む恐れがあってそれも不可能だ。


 幸いだったのは、香多奈が詠唱に成功した水の精霊の恩恵がほぼ全員に掛かっていた事。双子も水耐性upの魔法アイテムを持っているので、溺れる事は無い筈だ。

 装備も何も無くこれを喰らっていたら、恐らく対処は出来なかっただろう。


 ルルンバちゃんは、何とか水面に浮き上がろうとしているがその苦労は実らず。その代わり、“四腕”の片方の薔薇のマントが香多奈とミケを保護してくれた。

 それは確実に朗報だが、双子の行方は未だ全く分からず。茶々丸と萌も、同じく所在がハッキリしない。ハスキー達は泳ぎも達者なので、多分大丈夫だろう。


 そして残念な報せも判明、例の大鯉もまだ生きていてその姿は龍へと変化しつつあった。壮大な仕掛けだが、確かに“鯉の滝登り”は龍に変化するなんて言い伝えもあったかも。

 いや、そんな洒落た仕掛けは、現状では大迷惑以外の何物でも無い。何しろこちらは、行方不明者続出で態勢をどうやって立て直そうか思案中なのだ。

 そんな中で、こんな大物と対戦する戦力など割けっこないっ!





 ――それにしても、まさかこの龍もレア種だったり!?







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