第406話 水没ダンジョンをキッズ達が順調に進んで行く件



 この“落合川ダンジョン”だが、水没している以外は割と単調な造りである。分岐も行き止まりの広場も少なくて、部屋数もそれほど多くは無い。

 つまり攻略自体は、実はそれ程には時間が掛からないと言う。まぁ、それも水の中を進む備えをしていればの話だが。幸いにも、後衛陣も今の所は追従に遅れは無い。


 チームの探索は順調そのもの、護人も後衛に目を光らせて前衛はレイジーに丸投げである。それでも優秀なリーダー犬は、その任務を忠実にこなしてくれている。

 今の所は何の事故も無く、スイスイと進んでチームは既に2層へと進出を果たした。キッズ達は戦闘の疲労も少ないようで、逆に魔石を拾うのが割と大変。

 いちいち足を止めての作業なので、リズムも悪くなってどうしたモノか。


 ただまぁ、子供達はこれが一番楽しいようで、1個も見逃してなるモノかと活気も凄い。意地汚いと言うなかれ、こんな時代なのでお腹いっぱいご飯を食べるのも一苦労なのだ。

 特に都会から流れて来た双子や和香や穂積などは、稼ぐ行為は生活に直結する重大な問題である。今でこそ食べ物に苦労しないが、過去のトラウマはそう簡単にはぬぐえない。


 そんな訳で、護人もそこは温かく見守って急かす事もしない。ハスキー達も、特に水の中が苦手って事も無いようだ。子供達がわちゃわちゃするのを、辛抱強く眺めている。

 それはミケも同じで、今は護人の肩の上でのんびり伸びをしながらリラックス模様。ミケもルルンバちゃんも、ここまで出番は全く無い感じ。


 茶々丸と萌も、今日は中衛で出番は無くてションボリな雰囲気を出している。何しろ水の中の敵が大半で、茶々丸のひづめ攻撃も余り役に立てないのだ。

 ましてや角を使うのは不可能で、電撃混じりの槍を使うに至ってはご法度である。護人にも香多奈にも注意された萌は、大人しく武器を別の物に替えていた。

 と言うか、護人の勧めで『可変ソード』を今回は使う事に。


 これはレイジーの予備武器オモチャだが、本人は仲間が使う事に文句は無い様子。今回は、使う程の大物も出て来ない事が分かっているのかも。

 そんな茶々萌コンビだが、やっぱり出番らしい出番が巡って来ない。そんな訳で、仕方なく中盤をウロウロしてアピールする事30分余り。


 チームは既に3層へと辿り着いて、倒した敵は大オタマジャクシと大カエル位のモノ。1つだけ支道の広場があって、そこに大タガメがいた程度である。

 それも双子が倒してしまって、本当に出番の無い茶々萌コンビだったり。ねちゃおうかなと茶々丸が思っていたら、見兼ねた護人がしばらく前衛を交代しようと提案してくれた。


「そう言えば、最初にこまめに前衛役を交代するって言ってたもんな……次は誰が前に出るの、護人のおっちゃん?

 このままレイジーとコロ助に任せるの?」

「いや、茶々丸と萌が暇そうだから任せようと思ってな。身体が冷えたり、疲れたりした子がいたらちゃんと報告するように。ルルンバちゃんの座席に乗って、しばらく楽させて貰うといいよ。

 この機能も、どの程度役に立つのか調べたかったからね」

「穂積、あんたルルンバちゃんの座席に座らせて貰ったら? それが嫌なら、この雨合羽を貸してあげるから着なさいよ。

 まだ先は長いんだから、無理したらダメだよ?」


 和香にそう言われた穂積は、座席は拒否して雨合羽を交代で着る事に。双子もまだ大丈夫だそうで、中衛に陣取って自分の足で歩くとの事。

 みんな頑張り屋さんだが、それで探索後に体調を崩されても困ってしまう。護人は子供たちの体調チェックだけは、厳しく目を光らせる予定である。


 そうして再スタートを切るチームだが、茶々丸の張り切りようは微笑ましい限り。ここでは強敵の、水弾を飛ばして来る大アメンボも、恐れず近付いて萌との連携で瞬殺している。

 大オタマジャクシも同じく、大半は蹄で闇雲に踏み潰して倒して行って。残りはレイジーとコロ助が、何とかフォローしてやる感じ。


 天馬てんま龍星りゅうせいの双子よりは、水中の敵に対する対応力は持っていない茶々丸だけど。ヤル気だけは充分で、その分護人は心配には違いなく。

 何しろ今日は、回復役の紗良は同行していないのだ。その分、薬品類は充分に持って来ているので、そこまで心配する必要は無いと思いたい。

 とは言え、被弾の多い茶々丸だけにサポートは必須だろう。


 その辺はレイジーに丸投げだが、ペア組みはいつもしているし問題は無い筈。そして次なる遭遇戦でも、茶々丸と萌のキルマーク数はどんどん上がって行く。

 戦法はさっきとほぼ同じ、萌も慣れない剣を振るってレイジーが跳ね上げた敵に斬りつけている。それがまるで剣の練習みたいで、何とも微笑ましい。


 萌も仲間として認められ、それなら成長の手助けをしてやろうって感じなのかも。茶々丸と違って、前に出る性格では無いので時間は掛かるのは仕方がない。

 そんな萌も独り立ちしてくれれば、来栖家チームとしてもグッと地力が上がる筈。“浮遊大陸”で特殊スキルと良装備を手に入れて、存在感は随分と上がった仔ドラゴンなのだ。


 ただし、やっぱり奥ゆかしい性格は変わらず、茶々丸に騎乗してもそれ程に目立つ存在にはなっていない。護人などは、やれば出来る子だろうと思ってはいるけれど。

 その能力を発揮するのは、もう少し時間が掛かるかも?


 まぁ、元々が来栖家チームは前衛が過剰気味な面もあったりする。つまり萌を無理やり前衛に押し出す事態など、滅多にないので仕方が無いとも。

 その点、この即席チームでの探索は色んな経験が出来て面白いかも知れない。出て来る敵も程良く多いし、経験値稼ぎにも適している。


 茶々丸と萌は、来栖家チームの中でもレベルが10位低いのだ。こんな場を設けて貰えるのも、即席チームに参加した利点であるかも知れない。

 その後の進行も順調で、前衛を交代したチームは現在5層に降り立った所。分岐もあったのは3つだけ、その広場で1つ宝箱を発見出来たのは良かった。


 宝箱と言っても、その正体はブリキのバケツで有り難味は全く無かった。中には薬品類が少々と、鑑定の書が3枚に魔玉(水)が4個。それから何故か、ブリキの玩具が3つに瓶入りメダカが置かれてあった。

 ここって前にもそんな感じのアイテム回収したよねと、香多奈はちょっと不思議そう。天馬と龍星の2人は、玩具より瓶に入ったメダカの泳ぐ姿に興味津々。

 子供たちの好意で、それをプレゼントして貰える流れに。


「やった、熊爺の家の蔵に使って無い水槽があったんだよね。あれを使わせて貰って、メダカが増えたら近くの用水路に放してあげようっと!

 楽しみだなぁ、いっぱい増やしたいなぁ!」

「天馬ちゃんも龍星ちゃんも、生き物好きだよねぇ……熊爺の家、いっぱい生き物いるもんね。あそこの家の子になって、本当に良かったよね!」

「本当だよな、しかも探索のお仕事も上手く行きそうだし。兄ちゃんたちも、毎日色んな仕事を教えて貰えるって喜んでるもんな!

 しかも腹いっぱい食べれるし、ここは天国だよ」


 デリケートな箇所を突く発言だが、ここにいる子供達は全員親を亡くしているし問題も無さげ。そんな境遇にもめげず、何ともたくましい子供たちである。

 香多奈も同じく、最近は学校外の友達も増えて毎日が本当に楽しそう。その上に探索でお小遣いも稼げるのだ、少女にとっても天国みたいな環境なのかも。

 双子も活き活きとしてるし、今の所は探索の疲れも無い様子。




 そして5層も中ボスの部屋前、ここまで1時半程度とまずまず好調だ。今回も2時間縛りは言い渡してあるけど、子供達はもっと奥に行きたいと望んでいる。

 中ボスの相手が無理なら、せめて前と同じ位は潜ってみたいと我がままを発動。確かにここまで、特に苦労も盛り上がりも無い探索道中である。


 このまま戻っても、子供達もペット勢も不完全燃焼に終わってしまうかも。前回みたいに、レア種に遭遇するなんて事態は論外ではあるけど。

 この頃にはキッズ達も護人の性格の甘さを認識して、何と言うか押せば我が儘が通るのを理解していた。妥協案として、10層の中ボスは大人しくしているから、5層は討伐に参加させてよとの双子のお願いに。


 何だか既に、10層に向かう事は確定済みになってしまっている始末である。その提案を断固として断る理由の無い護人は、仕方なくそれを承諾する事に。

 ただし、それ以上は何があっても戻るのは皆に約束して貰えた。


 そんな訳で、双子も混じっての中ボス戦の作戦会議などを行う面々。天馬はもちろん、『自在針』での中ボスの捕獲作業に専念して貰う予定。

 レイジーとコロ助も、今回は双子のフォローに回って貰う事に。それから龍星が接近戦で、止めを刺すのが理想だろう。子供達は、中ボスは恐らくカエル男だと仮定して話している感じだ。


 前回もそうだったし、途中の雑魚も変わり映えしていなかったのがその理由。恐らくは、予想は大きく外れてはいない筈。まぁ、決めつけるのは危険ではあるが。

 その辺のフォロー共々、護人はレイジーに全て任せる事に。そんな作戦の下、キッズチームは中ボスの広場へと意気揚々と入って行く。

 そして確認した中ボスは、やっぱりカエル男だった。


「よっし、作戦通りに龍星が接近する前に奴の自由を奪うよっ!」

「天馬ちゃんに龍星ちゃん、気をつけて……ソイツは水の弾を撃って来るよ、自由を奪っても反撃されるかもだからねっ!

 コロ助、頑張って2人のフォローお願いっ!」


 水の張ってあるエリアでは、水耐性装備を持って無いハスキー達は思うようには動けない。それでも香多奈の『応援』を貰って、コロ助は天馬の側に張り付いてフォローの構え。

 龍星の方にはレイジーがついてるし、雑魚の大カエルの群れは茶々丸と萌が倒して回っている。護人も弓矢でそれをお手伝い、もちろん中ボスの動きは注視している。


 怪しい動きがあれば、有無を言わさず遠隔で仕留めるのは作戦に織り込み済み。双子からは文句を貰うだろうが、探索業も命あっての物種なのだ。

 そもそも来栖家チームも、最初の頃は中ボス戦にはとっても慎重に当たっていた。いや、途中から姫香の速攻シャベル投げなんて荒業も編み出していたけど。


 とにかく最初の内は、充分に安全マージンを取っておくに限る。自信をつけさせるのも悪くないけど、あまり図に乗せるのもよろしくないのが難しい所。

 そんな護人の内心も知らず、イケイケの龍星は接近戦で止めを刺すチャンスを狙っている。天馬の『自在針』は3本がカエル男に引っ掛かっているが、まだ自由を奪うまでは行かず。

 さすがの中ボスの馬力で、逆に水魔法の反撃を喰らう天馬である。


「わっ、怖っ……コロ助ちゃん、ありがとうっ!」

「コイツって細身の癖に、意外とパワーあるなぁ……下手に踏み込んじゃうと、逆に吹き飛ばされるかも?」

「無茶だけはするなよ、2人ともっ……焦らずに、まずは弱らせて行こう!」


 護人の言葉に、龍星も『伸縮棒』での遠隔からの攻撃に切り替える。天馬も下手に焦らず、時間を掛けて引っ掛ける針の数を増やして行く。

 時折飛んで来る反撃は、コロ助の《防御の陣》が丁寧にブロック。レイジーも『針衝撃』で、敵の体勢を崩したり地味にダメージを加えたりとフォローに忙しい。


 それから数分後、後衛陣からの応援に後押しされて、ようやく龍星の短刀がカエル男を仕留めるに至った。それと同時に、やった~との歓声がキッズ達からこぼれて行く。

 これには護人も一安心、ハスキー達も狩りの成功にホッとした表情を見せている。それから一行は、ひとしきり喜んだ後に広場の隅にある乾いた岩場に視線を向けて。

 そこに鎮座する、宝箱の中身を楽しむ作業に。





 ――10層まではあと半分、子供達のヤル気は充分だ。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る