第405話 キッズチームも2度目の探索へと赴く件
さて、4月も最後の週末である。桜もほぼ散ってしまって、峠道に自然に生えた藤の花が勢力を伸ばし始めている。気候も穏やかで、過ごしやすい日が続くようになって来た。
山の上の生活に関しては、まだまだ朝晩は冷え込む事もある。お泊まり組の女子たちは、そんな事も関係なく日々を楽しく過ごしているみたいで何より。
チーム探索も既に2回もこなしたし、毎日の夕方の特訓での成果も上々だ。何しろリリアラやザジといった、優秀な先生が面倒を見てくれるのだ。
これ以上の贅沢は無いし、特訓が終わったら美味しくてボリュームたっぷりな夕食も待っている。これ以上贅沢を言ったら、罰が当たるって環境である。
そんな中、お泊まり組の探索成功を聞いて、黙っていられないのが末妹の香多奈である。少女は何より公平を重んじていて、それ
そう言って叔父に
そんな訳で、結局この前と同じメンバーが土曜日の午前中に揃う事に。
「えっとな、ここに来る前に協会に依頼が無いか寄ったんだよ。熊爺の家のお手伝いの関根さんが運転してくれて、ついでに寄っていいよって。
そんで協会のお姉ちゃんに魔素濃度? の高いダンジョン無いか聞いたら、“落合川ダンジョン”が今一番高いって」
「それで、私たちがそこに行きますって言ったの。そしたら、お姉さんが困った顔で護人のおっちゃんに相談しなさいって。
だから香多奈ちゃん達と、また探索に行こうって話になったの」
「いいねっ、前回は確か8層まで行ったから……今回は頑張って、みんなで10層まで行こうっ!」
そんな簡単な話ではないし、そもそも“落合川ダンジョン”は水没したエリアばかりである。小柄な子供が探索するには、いかにも大変だし苦労は目に見えている。
とは言え、この辺で探索は一筋縄では行かないって事も教えるべきかも? ダンジョンは快適な環境ばかりではなく、臭いがきつかったり敵が強かったり、厄介な種類のモノが様々あるのだ。
“落合川ダンジョン”も同じで、水中を長時間移動するのはとっても大変だ。腰が冷えるし体力は消耗するしで、敵と戦う以上に移動が面倒なエリアだったり。
その辺を護人は、子供達に向けて丁寧に説明してやる。香多奈も去年に探索した事もあるし、その大変さは身をもって知っている筈。
まぁ本人は、ケロリと忘れている可能性もあるけど。実際に香多奈はその依頼に乗り気で、叔父の護人に行こうよとせがんで来ている始末。
まぁ、この“落合川ダンジョン”は小学校にも近いので間引きは確かに必要である。そして子供達は、既に探索の準備を完了してスタンバイしていると言う。
何しろ小学校組は、この週末しか時間が取れないのだ。
結局は子供たちの熱意に護人が折れて、キャンピングカーを出す流れに。その前に自警団に連絡を入れて、子供用のゴム長靴が6着あるかのお伺いなど。
胸丈のゴム長靴は、農村地帯でもそれなりに需要はあるようだ。そのお陰か、すぐに揃うとの返事を貰って、これで行けないという返事は出来なくなった。
まぁ、子供達が自主的に仕事を見付けて、それを頑張ってこなそうと闘志を燃やしているのだ。大人の自分が、それに水を差すのも良くは無い気もする。
それより魔法装備の『水耐性up』効果だが、果たしてどの程度有用なのかチェックしてみたい。手元に幾つかストックがあるので、子供達に装備させるつもり。
そして今回もリミットは2時間、子供に無理はさせない方針で。
そんな訳で、協会の建物の隣にある集会所で、子供達のゴム長靴を借りているタイミングで。能見さんが申し訳なさそうに、護人に謝罪に訪れたのはそのせいだろうと思う。
まぁ、子供達が探し出した依頼は、どの道押し切られて決まっていただろう。困難な水没ダンジョンも、ルルンバちゃんがいれば幾分か安心だ。
いざとなれば、子供達は彼の上に乗って脱出が可能である。
そんな訳で、来栖家にとっては約1年振りの“落合川ダンジョン”となった。探索は楽じゃ無いって事を教えるために、5層程度は潜ってみようと根性を決める。
今回も子守り役の護人は、胃が痛くなりそうなのを懸命に
残念ながら、家の魔法アイテムのストックの中には、役に立ちそうな『水耐性up』装備はあまり無かった。これは想定外、必要無いと思って売った物も多かったかも。
そんな搔き集めたアイテムで、割と良い性能なのが『魔法の水着♀』だった。水中呼吸と言う能力まで付いてるけど、スクール水着のせいか子供達には不評と言う有り様。
誰も着たいと言い出す者が存在せず、仕方なくこれはお蔵入りに。その次に性能がずば抜けているのが、確かこのダンジョンで回収した『蛙の雨具』である。
見た目がほぼアマガエルなのは置いといて、この雨合羽は後衛が着たら良いんじゃなかろうか。そう言う護人に、渋々手を挙げたのは和香だった。
まるで人身御供みたいな表情は、ちょっと可哀想ではある。
「いや、見た目より性能を評価しなきゃ……恐らくだけど、水中での動きは格段に楽になる筈だから。それにしても、残ったのは篭手と首飾りだな。
龍星は、この篭手を装備出来そうかな?」
「ちょっと大きいかな……でも、何とかすっぽ抜けずに使えそうかも。そんじゃ、天馬が首飾りを使わせて貰えばいいよ。
今回も、俺と天馬で前衛やっていいんでしょ、護人のおっちゃん?」
その予定ではいるけど、果たして水没ダンジョンでキッズ達が自由に動き回れるだろうか。不安ではあるが、ペット達のサポートを信じて探索に集中するのみ。
特に今回は、ルルンバちゃんを上手く活用しようと思ってる護人。とは言え、狭い通路では巨体のAIロボを前衛に押し出すのは大変かも知れない。
ハスキー達ならその点の心配は無いが、体格の良い彼女達も確実に水の中では動きにくい筈。1年前はそこまで深く潜らなかったので、移動の苦労も最小限で済んでいた。
そう言えば、ミケの『雷槌』で水中の敵を攻撃した事もあったっけ。今回もミケはついて来てくれているけど、水中への攻撃は控えるよう言っておかないと。
その辺を言い含めつつ、チームの方針はなるべく子供達に経験を積ませる事にブレは無い。保護者の立場としては大変だが、張り切る子供達を前に弱音は吐いていられない。
そんな訳で、橋の下に出来た洞窟のような入り口に入り込む一行。去年の出来事以降、自治会の仕事による『ダンジョン注意』の看板が側の空き地に立てかけてある。
手作り感は
周囲の草刈りはお座なりで、入り口を探すのに少々手間取ってしまった。それより協会の報告通り、入り口の魔素濃度は普段よりも随分と濃い様子。
やはりこんな厄介なダンジョンは、自警団チームも敬遠してしまうのだろう。それは仕方が無いけど、さてキッズ達に対応出来るか否か。
そして1歩踏み込んだ“落合川ダンジョン”のフロアは、薄暗くていきなり水没した通路が拡がっていた。今の所の水深は子供の
前の記憶は意外とあったが、前日にも家族で動画も見直していたりする護人である。実際には、香多奈が一緒に動画で予習をしようと誘って来たのだ。
その点は他のキッズ達も同様で、予習はバッチリな様子で喜ばしい限り。各々で光源を用意しつつ、双子を前衛に暗い水路を奥へと進んで行く。
その隣を追随するレイジーとコロ助、今回も子供たちの経験値稼ぎと認識しているようで頼もしい。いつものように先行偵察せず、すかさずフォローに入れる位置取りである。
そして間もなく、最初の広間に到着を果たす一行。
「えっと、敵は水中に大きなオタマジャクシだっけ? 後は大アメンボとかカエル型のモンスターも出るんだよな……それにしても、この籠手すごいぞっ!
水の中でもスイスイ進めて、抵抗をほとんど感じない!」
「私もっ、この珊瑚の首飾りのお陰かなぁ? 凄いね、魔法アイテムって……こう言うのを用意するのも大事だよね、探索する前にさ?」
「……この雨合羽も凄いよ、ほとんど地面の上を歩いてるのと変わらない感じかも? 穂積、疲れたらコレ貸してあげるから言いなさいね?
あっ、でも……香多奈ちゃんの分が無いのかぁ」
「私は大丈夫だよっ、普段から田舎の生活で鍛えてるからっ! 2人で使うといいよ、本当に疲れたらルルンバちゃんに乗っかるって手もあるしね!」
どうやら護人の作戦は上手く行ったようで、まずはホッと一安心である。いつのように香多奈は、《精霊召喚》で水の精霊にお願いしようとしたのだが。
今回は全く上手く行かず、妖精ちゃんからもお叱りを受けた次第である。ションボリな末妹だが、仲間の前では虚勢を張っての平気アピール。
同じく『水耐性up』装備の無い穂積は、進むのはとっても大変そう。それでも弱音を吐かずに、探索に同行出来ている事実だけでとっても幸せそうである。
そんな事を言い合っている間にも、広間での戦闘は始まっていた。水の中の敵は見えにくく、始末するのも大変そう。レイジーの『針衝撃』が、ここではナイスサポートで良い調子。
水上に浮かんで来る敵を、次々と斬りつけて倒して行く龍星。
今回の探索で、天馬と龍星は幅広の短刀を使い始めていた。これは兄達からの探索者登録のプレゼントで、熊爺も一役買っていると言う話である。
この1週間で、その練習もこなして来た双子はとっても頑張り屋さん。そんな、デビュー戦の動きとしてはまずまずな感じに見える。もっともそれも、レイジーの『針衝撃』あっての話だけれど。
どうやら水ぶくれの大オタマジャクシは、衝撃系の攻撃に弱い模様。弱々しく浮かんで来たそいつ等に止めを刺すのは、割と簡単な作業みたい。
そんな感じで、最初のフロアの敵は全て討伐は完了した。前回と同じく、数だけは多いが弱い敵が大半のダンジョンみたい。逆に、水中に墜ちた魔石を拾うのが大変と言う。
今回はツグミが同行していないので、魔石拾いは子供達がやいやい言いながら全員で行う方向らしい。広場は一段と水深が深いので、拾う作業も大変っぽい。
それを含めて、楽しそうな子供達である。
「この小粒なの1個を、千円以上で買い取って貰えるんでしょ? 凄いよね、探索者って……何でみんなやらないのかな、この前のダンジョンなんてお肉もドロップしてたのに」
「そりゃあ、モンスターに殺される可能性があるからだろ? 俺たちみたいにスキルとか戦闘の経験が無いと、ダンジョンに入ろうとか思わないよ。
俺たちだって、兄ちゃんたちに無茶したらダメだって言われてたじゃん」
そんな話をする双子に、香多奈も自分の知識をひけらかす。お姉ちゃん達が広島市の研修に行った時に、新人探索者の死亡率が高いよって釘を刺されていた話とか。
ウチは過保護だから、香多奈ちゃん家の叔父さんが同行してるんだよねと、和香と穂積も同意の構え。みんな探索は危険だと言う認識は、一応持っていてくれて何よりである。
さっきもレイジーがサポートしてくれてたねと、天馬も思い出したように作業を見守るハスキー犬にお礼を言う。格の違いは、さすがに子供でも分かるみたいだ。
そんな余計な作業に時間を取られるモノの、その後の探索は割と順調に進んで行った。天馬も『自在針』で水中の敵を釣り上げ始めてから、更に討伐スピードはアップして良い調子。
キッズチームの討伐作業は、ここまで
――さて、この調子で目標に到達出来れば良いのだが。
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