第404話 女子チームで2つ目の鍵を無事にゲットする件



 2つ目の扉の2層目の探索も、今は半裸のオーク兵を相手取っての戦闘中。毎度の数の多さとセクハラまがいの攻撃に、辟易へきえきしながらも撃退には成功している女子チームである。

 エリアは相変わらずの森林地帯で、勢いよく生えてる木々のせいで見通しはあまり良くない。さっきの敵の群れも、いきなり木々の奥から出現して来た。


 その数20体以上と、今日最高に多くて難関には違いなかった。こちらも踏んだ場数も増えて来て、安定感は増して来ているチーム事情である。

 とは言えさすがに数が多いので、後衛の安全のためにルルンバちゃんとミケにも手伝って貰った。何しろ後衛の紗良は、セクハラオーク兵達に大人気だったのだ。


 いつも冷静な紗良も、顔を引きつらせて思わずミケに助けを求めた次第である。オークは皆が揃って巨体の持ち主なので、そんな輩に抱き付かれそうになれば当然か。

 つまりは今回の襲撃オーク軍団も、大半が武器を持っていない連中ばかり。ただし麻痺系の魔法を使って来る術士は、かなり厄介で大変だった。

 ツグミがいなければ、ひょっとして前衛から崩れていた可能性も。


「ふうっ、相変わらず敵がたくさん出て来て厄介なエリアだったね……オーク兵の術士が結構混じってたし、ツグミが見付けて先に片付けてくれてなかったらヤバかったよ。

 何匹か後ろまで行っちゃったね、後衛組は大丈夫だった?」

「ルルンバちゃんとミケちゃんがいてくれて、本当に助かったよ! ううっ、まだ鳥肌が立っちゃってる……怖いと言うより、気持ち悪かったなぁ」

「別の意味で身の危険を感じたよね、掴まったら何されていたか……」


 紗良もそうだが、星羅せいらも同じ気持ちを味わったみたい。身を寄せ合いながらも、助けてくれた小柄な猫を仕切りに撫でて精神の安寧あんねいを図っている。

 今の内に休憩するよと、リーダーの姫香はその場を動かずチームに通達する。このダンジョンは、移動しないでも向こうから敵の第2陣がやって来るので始末に悪い。


 その前に回復しないと、単純な相手の物量にし潰されてしまう可能性も。陽菜やみっちゃんも、了解したと一塊になってのヒーリング作業に入る。

 視線だけは、周囲を覗って万一の不意打ちも許さない構え。こちらにはツグミもいるので、その可能性は極めて低いとは言え。全てペットに任せるのは、いかにもサボっているようで見栄えが悪い。

 その辺は探索者のプライド、楽をして安寧は決して得られない。


 その甲斐あって、次なる襲撃の兆候を発見したのはみっちゃんだった。どこかから妙な笑い声がするのを聞いた気がして、一行へと注意を呼び掛ける。

 そしてか細い羽音と、もう一度人を小馬鹿にした笑い声。次の瞬間、宙から小柄な人影がパラパラと降って来た。黒い肌の小柄なそれは、どうやらインプみたい。


 とっさに迎撃に動く女子チーム、そんな襲撃の第2陣だが、その♂モンスターはただの先陣に過ぎなかった。再び木々の影から、地響きを立ててマッチョなゴーレムが湧き出て来る。

 それから派手な羽の色をした大孔雀くじゃくが、インプに混じって数体降って来た。突然間合いを詰められたチームは、あっという間にパニックに陥ってしまう。


 特に酷いのがインプ達で、明らかにコイツ等は女性陣の胸元狙い。そのセクハラ攻撃に激高した陽菜が、とうとう《獣化》を解禁して暴れ始める。

 みっちゃんも同じく、後衛陣を守るべく薙刀なぎなたを振るって、宙から接近して来た敵陣を押し返す作業。ミケもよほど腹を立てたのか、『雷槌』の仕返しが酷い。

 それは下手に動くと、巻きえを喰らっちゃいそうなレベル。


「ミケちゃんっ、少し抑えて……アレは陽菜ちゃんだよ、味方に雷を落とさないで。落とすなら、あっちのゴーレムにお願いっ」

「あっ、でっかい角の大鹿も出て来たねっ……アイツはひょっとして、この層のボスかな? ひあっ、ルルンバちゃん頑張って!

 セクハラインプを、こっちに近付けないでっ!」


 割と勝手な発言の後衛陣だが、それに対してゴーレムを抑え込んでいた姫香とツグミは大忙し。怜央奈の解説通り、その奥から出て来た大鹿と今は交戦中。

 マッチョなゴーレムの大半は、ツグミのサポートで土に片足を埋められて移動不可の状態に。ただしこの中ボス大鹿は、フットワークも軽くてその手は喰らってくれそうも無い。


 何にしろ、囲まれて大変な目には遭わずに済みそう。さすが忍犬ツグミ、早くご主人のサポートに来いと、チラッと背後の仲間を振り返る余裕すらある。

 ただし後衛陣に関しては、そこまでの余裕は無さそう。すばしこいインプの群れと、魅了のダンスを使って来る大孔雀のコンビは、ミケの雷撃に数こそ減らせども。

 こちらもみっちゃんが魅了に捕らえられ、どっこいな戦況だったり。


 ルルンバちゃんも、やたらとすばしこいインプを武器でとらえるのは大変そう。ミケもしかりで、当分は前衛の姫香の応援に人は割けそうにない。

 万能に思えたこの護衛コンビにも、意外な弱点があったモノだ。ただ、幸いにも攻め込まれている訳ではなく、ちょろちょろと逃げ回られてるって感じ。


 例外はみっちゃんだけで、何故か着ている物を脱ぎ出しそうになっている。それを押しとどめようと慌てている紗良と、動画で撮影しようと悪ノリの怜央奈。

 パニック状態の後衛陣は、《獣化》中の陽菜が何とか全ての大孔雀を倒し終わってくれた。飛翔インプも残り3匹、ミケが攻撃手段を《刹刃》に切り替えてそれらを始末して行く。

 ルルンバちゃんは壁役に徹して、紗良と星羅を守る構え。


 そして最後のインプを倒し終わる頃に、前衛の姫香もツグミのサポートだけで中ボスの大牡鹿を成敗し終わっていた。ドロップしたスキル書と立派な鹿の角を手に、姫香はガッツポーズで後衛へと合流を果たす。

 それから大変だったねと、お手伝いが無かった事は気にしていない様子。実際にツグミとのペアで中ボスは倒せたし、後衛陣がパニくってたのも知っていた。


 ここは無事に危機を乗り切れた事を、チームとして祝いながら。大鹿倒したらワープ魔方陣が湧いたよと、嬉しそうに友達に伝える姫香である。

 大孔雀とインプも、怪しげな羽根素材と液体の入った瓶をドロップしていた。何だかろくでもない品の予感がプンプンで、正直さっさと売り払いたい紗良である。


 魅了の被害に遭ったみっちゃんは特にそうで、何故だか急に服を脱ぎたくなったそうな。脱ぎ辛い革製の探索着で良かったよと、紗良などは安堵の表情を浮かべている。

 ただまぁ、その位のハプニングは歓迎な、仲間の視線もチラホラ。


 そんな怜央奈お調子者の頭をポカリと叩いて、姫香はチームに小休憩から最後のフロアへの突入を告げる。ダンジョン探索も既に数時間が経過、疲労も溜まって集中力も欠けて来ている。

 ここはラストスパートで、最後の鍵のゲットを行いたい所。



 そんな訳で魔方陣での潜入を果たした3層目は、やっぱりフィールド型で木々に囲まれたエリアだった。あるのは獣道くらいで、どっちに進むべきかも判然としない。

 それでもツグミは、自信に満ちた足取りで一行を導いてくれる。頼もしい相棒には違いなく、そしてその導きは今回も大当たりを引いてくれた。


 つまりは木々を隔てての、オーク兵団との遭遇が勃発したのだ。向こうはかなりの大所帯で、これは前線を維持するのも大変そう。もちろん敵には、弓兵や魔術師も数体混じっている。

 そこて陽菜とみっちゃんも前に出て、ルルンバちゃんも今回は壁役に担ぎ出される事態に。紗良の魔法も吹き荒れて、いきなりの激しい戦闘模様である。


 それでも前衛陣の踏ん張りで、敵に間を抜かれる事態は防げている。逆にオーク兵の後衛陣は、ツグミの影からの奇襲によってどんどんその数を減らして行く始末。

 時間が経過する程に、こちらの有利になって行く良サイクル。


 その内に前衛役のオーク兵も、片手で数えられる程にその数を減らして行った。この層の兵士たちは、しっかり装備を着込んでいてかなり手強かった。

 その落差の激しさからか、陽菜とみっちゃんがそれぞれ手傷を負ってしまった。慌ててその治療を行う星羅、彼女の治療魔法は離れた場所からも掛けられるよう。


 その点は紗良より優秀で、しかも多少は武器の扱いも習得しているとの事。上位の探索者になると、こんな感じで1人で何役もこなすのが常識みたい。

 そのお陰もあって、彼女たちの受け持った右翼も大きく崩れる事も無く戦闘終了に。なかなかの激戦で、たっぷり10分以上は戦闘をこなしていた。

 ただし、それ以上の大きな被害も無く、敵影は消え失せてくれた。


「ふうっ、やっと終わった……やっぱりオーク兵は力が強くて厄介だなぁ。魔術師たちをツグミが片付けてくれて、本当に助かったよ」

「本当だよねぇ……陽菜ちゃんとみっちゃんが、途中揃って傷を負った時はビックリしたよ!」

「いやぁ助かったっス、星羅さん……お手数おかけしました、マジでちょっとヤバかった! 装備の良い獣人系の相手は、私にゃまだ荷が重かったっスね!

 陽菜ちゃんにも、カバーして貰って迷惑掛けちゃって」

「私は別に構わない、こんな怪我にも慣れっこだ」


 そう強がる陽菜だが、心中は決して穏やかでは無かった筈。姫香の強さと自分達の弱さ、それをどうしても比較してしまう状況には逆らえず。

 いつの間にこんなに差が付いたのだと、焦る気持ちが心をさいなんでしまう。ねたむ気は全く無いけど、寂しい感情はどうしても湧いてしまって。


 このままだと姫香が、自分達に見切りをつける日が来るのではないかと言う強迫観念。それを打ち消すには、自分達も強くなるしか手は無いのだ。

 とは言え、そんなに簡単に強くなれるのなら誰も悩みはしない。


 チームはいつの間にか小休憩に入っていて、陽菜も傷は痛まないかと星羅に訊ねられていた。この新しい仲間も、自分などより有能でチームの役に立っている気がする陽菜である。

 うらやむ気持ちを無理やり押し殺して、大丈夫だとぶっきらぼうに告げる。彼女のそんな態度は日常なので、幸いにもいぶかられずに済んだのは果たして良かったのか。

 それでも心の中では、しっかりと次なる目標を定めた陽菜である。



 それと同時に、敵の第2陣が出現した気配をツグミが察知した。今回も木々を縫って、大小の影が一斉に近付いて来た。敵の数は多いと聞いていたが、さすがにこれは酷いとみっちゃんの悲鳴が響き渡る。

 それに対して、泣き言は仕舞っておけと味方を鼓舞しながら前線に打って出る陽菜である。己の存在価値を、しっかりとチームに知らしめるための咆哮を放ちながら。


 それと同時に《獣化》を解き放ち、初っ端から全開での戦闘参加の彼女。それに釣られてみっちゃんも雄叫びを上げ、オークの群れへと突っ込んで行く。

 姫香も同じく、頼もしい味方だけど女子的にはどうかなと、多少気にしながら敵と斬り結び始める。それから中ボスは混じっているかなと、視線を彷徨さまよわせての状況確認を忘れない。


 そして発見、3メートルを超すミノタウロスと護衛のオーク兵団が、中央の木々の影から出現して来た。その威容とモッコリ具合は、オーク兵達の比では無い迫力。

 撮影役の怜央奈がひゃーとか叫ぶ中、仲間の危機と感じたのかルルンバちゃんがハイパーモードに突入した。具体的には、巨大な中ボスに狙いを定めて『ハイパー砲』を撃つ準備を始めている。


 実際に、今回もオークとゴブリンの混成団の数が多過ぎて、さすがの姫香もそれを全部相手取るのはちょっと無理。そこに中ボスに横やりを入られると、不味い事態になりそうなのは本当。

 そんな訳で、ルルンバちゃんの助太刀は実はとっても有り難かったりして。それは同じく前線で戦っている、陽菜とみっちゃんにしても同じ事。

 満を持して放たれたレーザー砲は、ミノタウロスの胸元に見事命中!


 その一撃で、呆気無くこのフロアの中ボスは倒されてしまった。とは言え、残った敵の群れは全くひるんだ気配も見せず、戦いを続行している。

 そいつ等を全部倒し切るのに、追加で15分程度は掛かっただろうか。結局はこの扉のクリアも、合計で約2時間近く掛かってしまった。


 それでも大きな失敗も無く、クリアに漕ぎつける事が出来たのはとても大きい。女子チームの皆も自信になったし、今日だけで経験値もたくさん稼ぐ事が出来た。

 ミノタウロスの討伐跡地には、定番の帰還用の魔方陣と宝箱が湧いていた。宝箱の中には、ダンジョンボスの間への鍵が入っている筈である。


 お隣の女子禁制ダンジョンも、既に2つともクリアしているので後は大ボスを残すのみ。いつ挑むかは定かでは無いけど、その内に家族チームで来るだろう。

 女子チームに関しても、即席にしては良く頑張ったと思う。





 ――そんな訳で、取り敢えず今日の探索はこれまで。





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