第408話 まさかの2度連続のレア種を引き当てる件
そう言えば、前回も8層だっけとキッズチームの先週の探索を思い出す護人。目の前で変化中の龍がレア種だとしたら、まさかの2回連続の遭遇である。
それより普通の大鯉モンスターが、まさかの変化に至るなんて。今までレア種のいたフロアは、雑魚モンスターは全く見掛けない仕様だったのだが。
ひょっとして世にも珍しい、普通のモンスターがレア種に変貌を遂げる、その瞬間を目撃しているのかも。そんなレア体験などちっとも有り難くないが、ちょっと感動する自分もいたりして。
いや、そんな場合では無いのは重々に承知で、焦りの感情で脳が働いていないせいかも。取り敢えずは、和香と穂積は何とか確保して、香多奈とミケも救済には成功したモノの。
護人がしがみ付いているルルンバちゃんは、浮かび上がろうとするのを完全に諦めた模様。その代わり、多脚パーツで踏ん張って今は流されないように努力してくれている。
護人にしても、現状はそちらの方が有り難い。
「レイジー、コロ助っ……どこだっ!?」
「
慌てる護人と香多奈だが、ご主人の呼び声に応えでまずはレイジーが水の中から飛び出して来た。『歩脚術』スキルでドームの壁に張り付き、口には天馬の襟首を咥えている。
まるで子犬のような扱いの天馬だが、幸いにも息はある模様で一安心。同じく龍星も、コロ助に捕まってこちらに泳いで来る姿を発見出来た。
さすがの護衛犬と、その手腕に拍手
その体長は10メートル以上と、鯉と言うよりウナギの生まれ変わりのよう。濃い青色の鱗は、1枚が子供の手のひら程ありそうだ。
そして巨大な
そんな敵の出現に、しかしこちらも荒ぶる超生物が1匹。
つまりはミケが、この所業に怒り狂っていたのだ。それが子供達に手を出されたからか、はたまた自身をずぶ濡れにされたせいかは定かでは無い。
ルルンバちゃんの頭部へと移動した来栖家のエースは、怒りに任せて宙に球体の雷を発生させる。周囲に立ち込めるイオン臭は、ちょっと洒落になっていないかも?
宙に浮かぶ雷の球体は、ミケの《刹刃》を吸収してゆっくりと姿を変えて行った。周囲に雷光を放ちながら、それは目の前の水龍のように糸状に伸びて行く。
いや、糸と言うには太過ぎるそれは、まるで生き物のように宙でうねっている。そして《刹刃》の刃を背ビレに見立てて、敵である水龍と似た形を取り始め。
言葉で言い表すと雷龍だろうか、それがレア種相手に牙を剥く。
そこからは、壮絶な巨龍同士のHPの削り合いが始まってしまった。それはまるで、共食いを仕掛ける蛇みたいな、絡み付きからの命のせめぎ合い。
つまりそれは、仮初めの命の雷龍には不都合は何も無いって事。案の定、数分に渡る団子状でのド突き合いに、勝利したのはミケの雷龍だった。
勝負がついた瞬間に、あれだけ激しく水を噴き出していた滝の水量がピタッと止んでくれた。子供を保護して観戦状態だった、護人とハスキー達はホッと一息。
そしてルルンバちゃんの砲塔に引っ掛かるように、流されて来ていた茶々丸を発見。慌てて護人が確認するも、少々水を飲んだみたいだが命に別状は無い感じ。
紗良に後でよく診て貰うとして、今の所はそれ以上の処置は出来ない状況だ。それは子供達にも言える事で、護人やハスキー達を含めて全員がずぶ濡れ状態と言う。
まぁ、溺れ死なずに済んだだけでも上出来だし、子供達も戻ってからよく診て貰うのは当然として。探索はこの層で、間違いなく終了して引き返す案件である。
とは言え、滝の下に出現した宝箱は回収しなければ。
「みんな大丈夫だった? ハスキー達もミケさんも、本当に頼りになったよねぇ!」
「私たちは護人の叔父さんにお礼しなきゃ、本当にありがとうっ!」
「まぁ、全員無事で本当に良かったよ……これでダンジョンの怖さを、また1つ知る事が出来たな。双子も平気だったかい、さっさと引き返して着替えようか。
みんな揃ってずぶ濡れだな、風邪をひかなきゃいいけど」
双子はやや
図太い香多奈は、いち早く宝箱の元まで歩み寄ってみんなに早くおいでと呼び掛けている。中身もきっと凄いよと、金色の宝箱にその期待も膨れ上がらんばかり。
その報せに、他のキッズ達も一気に表情が明るくなって行った。さっき溺れかけたのもすっぽり忘れて、何と言うかちゃっかりしてるなと感心するレベル。
そうして、みんなで開けた宝箱の中身はやっぱり凄かった。さすがレア種の落とした宝箱、そう言えば来栖家も金色を見掛けるのも久々かも。
まずは鑑定の書(上級)から始まって、薬品系はエーテルや上級ポーションや浄化ポーションなど。それから虹色の果実が2個にスキル書が1枚、ついでに魔結晶(中)が8個も入っていた。
これだけで80万円だと、香多奈も大興奮。換金額を全て暗記している末妹は、何気に凄いと護人も思う。まぁ、お金が大好きなだけとも言うけど。
少なくとも、家族内ではそんな認識の末妹である。
他にも立派な鎧や盾も入っていて、妖精ちゃんもこれは魔法の品だと請け負ってくれている。財宝系の金や銀の装飾品も何点か回収出来て、それだけでも凄い。
他にも萌が、水龍のドロップしたオーブ珠や魔石(大)や竜の鱗を回収してくれていた。今回もレア種の討伐で一儲け出来たけど、一歩間違えば全滅の危機だった訳で。
その辺は、素直に喜べないキッズチームである。とにかくこうなれば、10層までなんて言っていられない。2時間もとっくに過ぎているし、大人しく引き返す事に。
何より全員がずぶ濡れで、胴長の中まで水が入っている始末。
帰りの道のりだが、ルルンバちゃんが思いの外役に立ってくれた。つまりは子供達が全員上に乗っても、水中を難なく歩いて戻って来れたのだ。
茶々丸も何とか意識を回復して、今はルルンバちゃんの後に続いている。元気が無いように感じるのは、きっと気のせいでは無いだろう。
突っ込んで返り討ちに遭ったとは言え、生きていただけで万々歳である。まぁ、若い茶々丸の事なので、しばらくすれば自然と気力も回復してくれるだろう。
それより、怖い目に遭った子供達のケアが気掛かりな護人。このままでは揃って風邪をひいてしまうので、まずはそちらの処理が先だ。
そんな訳で10分以上掛かったけれど、一行は何とか地上へと脱出するに至った。太陽の光を感じて、我知らず解放感を感じているキッズ達である。
幸いにも、紗良が来栖家の着替えは持たせてくれていて大助かり。ただしさすがに、他所の子たちの着替えまでは持参しておらず、あり合わせのタオルや車内に置かれてた服を着て貰って
そして全員がサッパリしたのは、更に10分後の事だった。
「あ~あ、借りたゴム長靴も全く役に立たなかったねぇ……これ乾かして返さなきゃだね、大変だよ。水耐性の装備も、こればっかりは役に立たなかったし」
「まぁ、流されて溺れ死ぬよりは随分マシだったんじゃないかな。レイジーとコロ助に感謝しなきゃな、後はミケも凄かったなぁ……」
「ミケさんは凄かったね、龍に対抗してミケさんも龍を生み出してたよっ!? そんな事が出来る猫なんて、この町ではミケさん位だよっ!」
町どころか、この世のどんな猫にも無理な気がする香多奈である。興奮の余り、怖かった経験を忘れている和香や穂積には、敢えてそうだねと同意してペット達を褒めそやす。
双子にしても、恐怖よりも凄かったペットの活躍に気が向いているみたい。タオルや大人のシャツを被った格好で、積極的に話に参加している。
ともあれ、何とか探索から生きて戻れた功績は大きい。ダンジョンが危険なのは百も承知の探索業、そこから生還しただけで1つの経験である。
プリプリしていたミケの機嫌も、ようやく収まりを見せて来た。そして一行は、まだ時間もあるし一緒に協会に報告に行こうかと言う話に落ち着いた。
前回は香多奈だけでの換金作業だったので、事務的な流れを他の子は全く知らない。そんな訳で、こんな姿で申し訳ないが協会の支部へと寄らせて貰う事に。
そして協会に入ると、この集団の格好を能見さんにビックリされると言う。ずぶ濡れじゃないですかと、慌ててドライヤーを持ち出しての乾燥作業に。ペット共々、徹底的に熱風を当てられる始末。
ミケも渋々、その恩恵に
濡れネズミの集団は、そんな訳で30分後には何とか見られる格好に。とは言え服は濡れたままなので、来栖家以外は借り物の大きな服のままである。
レイジーとコロ助も、きちんと毛並みを乾かして貰って上機嫌に。能見さんは何気に動物の扱いも上手なようで、ブラッシングをして貰って両者とも気持ち良さそう。
その合間を縫って、今回の魔石と薬品の換金作業を江川にして貰う。そして妖精ちゃんの、魔法アイテムのチェックも並行して行われる流れに。
その結果、今回はレア種のドロップが凄い事に。
【蛙のブローチ】装備効果:水耐性up・小
【水龍の鎧】装備効果:水属性&ステup&着脱・特大
【水龍の盾】装備効果:水属性&ステup&不壊・特大
【水龍の鱗】使用効果:水属性&ステup付与・骨素材
凄いアイテムだけど、子供達はその所有にはあまり興味が無い様子。と言うより、倒したのはペット達なのだから、来栖家の持ち物と思っているのかも。
その辺は、後で話し合ってしっかりルールを決めないと。護人としては、キッズチームの強化に受け取って貰えれば嬉しい限り。
双子はそんな魔法装備より、瓶入りメダカや釣り竿が欲しいみたい。子供達の話し合いで、それは呆気なく双子が持って帰って良い事に。
それから魔玉の類いは、ルルンバちゃんに全部融通する事で決定した。2つ程出た虹色の果実は、今回は和香と穂積が貰う番となった。
分配は割といい加減だが、子供の理論なので仕方が無いとも。護人はお手伝い賃に、残った鑑定の書と木の実を分けて貰える事に。そして香多奈は、残りの品を青空市で売って儲けるのだと大張り切り。
その頃には魔石とポーション類の鑑定も終わって、江川が奥から戻って来ての報告会。今回はレア種ドロップの魔石(大)や、上級ポーションのお陰で割と結構な額に。
魔石が150万で、薬品が140万円との知らせにチビッ子大興奮。
「凄いねっ、前より多いしずぶ濡れで頑張った甲斐があったよね! 私たちはあんまり役に立たなかったけど、双子はすぐにもデビュー出来ちゃうかも?
分配はどうするの、香多奈ちゃん?」
「人数割りで良いんじゃないかな、前と同じで……活躍出来なかったとかは仕方無いよ、私だって同じだもん。双子もそれでいいよね?」
「護人のおっちゃんがいなかったら許可出なかったし、それでいいよ。それよりスキル書の相性チェック、早くやろうよっ!」
そう急かす天馬は、お金よりも更なる強さを求めている感じ。確かにミケのあの強さを目の当りにしたら、スキル次第で自分もと思ってしまうかも。
ところが護人やペット達も含めたチェックで、新スキルを取得したのはミケだけと言う結果に。しかもオーブ珠で、なんだか強そうな雰囲気の技である。
妖精ちゃんが鑑定を拒否したので、スキル名を確定するのに手間が掛かってしまった。新しく覚えたのは《昇龍》と言うスキル技らしく、やっぱり強そうだ。
それを知って、子供達からいいなぁと絶賛されるニャンコ。
――当の猫は澄まし顔、護人の膝の上で満足そうに毛づくろいしていたり。
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