第402話 マッチョなゴーレムを粉砕して進む件
それからオーク兵の群れは、何度か時間を置いて襲い掛かって来た。鼻息の荒い奴が混じってる率も、段々と増えて来たのが心配の種ではあるモノの。
何とか事故も無く撃破して行って、進む事20分とちょっと。ようやく乾いた地面も出現し、厄介な霧も薄いエリアへと到達する事が出来た。
周囲は低木混じりの荒野と言った雰囲気のエリア、どことなく寒々とした風景だ。辺りには、神殿の柱のような建造物もあちこちに見掛けるようになって来た。
そのランダムな柱の列だが、白ではなく濡れたように光る黒い石で出来ていた。意味はあるのかなと話していたら、まさにその色のゴーレムが柱の影から出現した。
どいつも2メートル級で、しかも黒色筋肉マッチョ風の石像が動いている。ポージングなんか決めちゃって、己の筋肉美をアピールしながら近付いて来る。
何だコイツはと、女性陣の視線はとっても冷ややか。姫香は『肉体強化』をフルに高めて、自慢の愛用の武器でその硬い物体を壊しに掛かる。
それはもう、何の容赦もなく無感情に。
時折
いつの間にやらルルンバちゃんも前衛に出て、勇ましく壁役をこなしている始末。そんな敵の勢いは、とうとう一際大きなマッチョゴーレムを招き寄せる流れに。
しかもコイツは、目元を良く分からないマスクで隠していて一際変態感が強い。体長も3メートル半ほどあって、いかにも中ボス的な雰囲気を醸し出している。
周囲からも、ボスが出たよと警告の声が飛び交う。
「みっちゃん、コイツの退治を手伝って……ツグミがハンマー出してくれたから、それ持って敵の足の関節を狙って!
向こうはパワーありそうだから、接近する時気をつけて!」
「了解っス、任せて下さいっ! ……うわっ、コイツももっこりしてる……」
みっちゃんの呟きは、果たしてどの部分を目にして言ったのかは定かでは無い。ただしフォローの動きは的確で、
みっちゃんの渾身の一撃だが、マッチョゴーレムの膝の裏へと叩き込む事に成功。その攻撃で、思い切り崩れ落ちる黒光りする敵のゴーレムであった。
止めはむしろ潔く、意味不明なポージングの姿で受け入れた敵の中ボス。中ボスと確定したのは、その倒された跡地にワープ魔方陣が湧いたから。
ついでに魔石(中)が1個とスキル書も1枚落としてくれて、1層に続いて美味しいドロップ。喜ぶ一同だが、何故か敵が消えてホッと安心した空気も流れていたり。
「あのポージング、何の意味があったんスかねぇ……?」
「さあ……それよりみっちゃん、もっこりとかひょっこりとか言って無かった?」
そんな事は言ってないデスと、顔を赤らめながらしらばっくれるみっちゃんである。陽菜や怜央奈からの視線は、容赦の無い冷たさで針の
星羅だけは、大笑いしながらもっこりしてたねぇと賛同している。女性陣の皆さんは、その言葉に同意出来ず妙な空気が流れるのみ。
その間に、ツグミが甲斐々々しく散らばっていたドロップ品を集めてくれていた。お礼を言って受け取った姫香が、それじゃあ次の層に進むよとその場を締める言葉。
それによって、緩んでたチーム間にピシッと緊張感が程よく行き渡る。そして次も頑張って行こうと、追従の声がそこかしこから上がって行く。
そんな流れで、姫香とツグミを先頭に次の層へと侵入を果たす一同であった。
予定通りなら、ここが3層目で鍵をゲット出来る筈。ただまぁ、格段に変な造りのダンジョンなので、その法則が適用されるかは
チームとしては、それを信じて突き進むのみ。そんな3層目のエリアだが、今回は視界を
その代わり、地面はタイル張りの広い通路に変わっていた。それから障害物の石柱や半端な石材のアーチが至る所にあって、視界は余り
そして出現する敵は、何故か半裸のゴブリンとオークの混成軍だった。何を体に塗っているのか、てらてらと肌が光っていて気持ちが悪い。
そいつ等は、当然のように抱き付き攻撃が主体と言う。
「もうっ、何でこいつ等は抱き付いて来ようとするのっ!? 気持ち悪いなぁ、半裸だし体に何か塗りたくってるしっ!」
「アレみたいっスね、何だかローション塗って取る相撲みたいな? モンゴルかどっかで、そんな競技ありませんでしたっけ?」
ローションってナニと質問して来る怜央奈を無理やり黙らせて、紗良は黙々と敵の固まった場所に《氷雪》を撃ち込む。今回は敵の出現率も高いし、タゲを取ったらルルンバちゃんに壁役を任せる予定だ。
幸いにも、裸の獣人軍団の魔法防御はとっても低い様子で大助かり。それにしても、本当に何で連中が裸なのか理解に苦しむ。いや、一応は腰布は全員巻いてくれてるけど。
それすら無かったら、本当に突入して来た女性探索者への嫌がらせ以外の何物でもない。案外と、それが正解なのかも知れないが、本当にセクハラ一歩手前の仕掛けである。
そのせいで、敵をサクサク倒せているってのは本末転倒な気もする。まぁ、楽をさせて貰っている手前、文句を言うのもアレだけど。
この層は紗良の魔法攻撃の解禁も相まって、随分と探索も順調に進む事に。何より厄介な、視界
そんな訳で道なりに進む事15分余り、倒した敵の数も余裕で30体を超えてしまった。そろそろボスを見掛ける頃合いかなと、皆で話し合ってる時にそれは出現した。
割と大きな
それを
ただしマッチョ具合では、オーク兵を遥かに
頭に乗っかってる王冠が、王様と言う唯一の証拠だろうか。
何しろ装備品もパンツ以外は一切着用しておらず、体格だけでは判然としないのも当然。そのパンツも金色なのは、取り敢えず脇に置いといて。
小さな悲鳴は、恐らく怜央奈が上げたモノだろうか。その隣の紗良は、魔法撃つよとそんなに動じていない。頼もしいと言うか、耐性が既についちゃった感じ。
そして吹き荒れる吹雪魔法と、それに伴う大ダメージの嵐。それが収まると、風を巻いて姫香が単身で突っ込んで行く。そして弱っている敵を、愛用の
向こうがセクハラ紛いの行動を取る暇を、一切与えないその速度と来たら。ついて行けるのは相棒のツグミのみ、サポートに徹する姿は護衛犬の
何拍か遅れて、陽菜とみっちゃんもサポートへと駆けつける。その時には、担ぎ手を失った神輿は無残にも地面に放り捨てられ、キングも四つん這い状態と言う体たらく。
姫香は弱った2体のオーガを倒して、寄って来た残りのオークを相手取るのに忙しそう。陽菜とみっちゃんは、それを確認してボスの首を刈り取りに駆け出す。
そこまでの道のりに、幸いにも障害は無しっ!
「よしっ、獲ったぞ……敵の大将首だっ!」
「やったぁ、お手柄だよ陽菜ちゃんっ♪」
素早いダッシュと双剣での狙いすました一撃で、ボスのオークキングを見事に討伐した陽菜の
その途中に、神輿から宝箱へと変わった物体に目を奪われたのは仕方がない。かなりの大きさで、色合いも派手で中身にとっても期待が出来そうなのだから。
とにかくそこから戦いはほんの数分で終わって、オークキングの倒された場所には無事に帰還用の魔方陣が。ついでに、魔石(中)や金ピカの王冠も一緒にドロップしていた。
スキル書こそ無かったけど、オーガは立派な角素材を落としていた。宝箱も立派なサイズと色合いで、中身には期待出来そう。早速ツグミのチェック後、それを姫香が開封する。
怜央奈がすかさず近付いて来て、楽しみですね♪ と撮影器具に解説口調で
そんな流れでの中身チェックだが、まずは鑑定の書が5枚にオーブ珠が1個。魔結晶(小)が7個に魔玉(土)が5個と、まずまずの好発進。
薬品類はポーション700mlにエーテル800ml、それから初級エリクサー500mlとこちらもまずまず。それから虹色の果実が2個に、金の延べ棒が1本入っていた。
それを手にしたみっちゃんは、何やら興奮状態に。
「うわっ、金……ゴールドっスよ、これって本物ですかっ!? ひゃ~っ、こんな高価なモノまで回収出来るとか、だってまだ3層っスすよねっ!?」
「ここは特殊なダンジョンだからね……さっき湧いた魔方陣を潜ったら、多分ダンジョン入り口に戻れる筈だよ。
つまりさっきのボスが、いわゆる中ボス扱いかな?」
「ほら、みっちゃん……頑張ったご褒美に、王冠も被らせてやるぞ。これも純金製だったら、結構な金額で売れるんじゃないか?」
「売れるかもね、青空市で専門企業が買い取り査定してくれるから、そこで売ろうか? 協会だと、薬品や魔石以外は時間が掛かっちゃうからね」
舞い上がるみっちゃんを
真に受けたみっちゃんは、ありがたやとミケを拝み始める始末。それよりもと、続きの品を宝箱から取り出す姫香。そして出て来た癖のある品物に、少々戸惑いの表情を浮かべている。
その品物だが、豚肉の色んな部位を取り出しては紗良へと次々に渡して行く。ラードや豚足まで入っていて、何と言うかオーク臭が頭をかすめてしまいそうなラインナップ。
それが終わると、今度は小樽に入ったお酒らしき品が幾つか。それから派手な
飾り電球セットも入ってたので、頑張れば青空市のブース周辺を派手に飾りつけも出来そうだ。それは置いといて、最後に♂の形をした大振りの鍵が1つ。
目的の品をゲット出来て、まずはホッと一安心の姫香である。
それから話し合った結果、時間も丁度良いので一旦ダンジョンを出てお昼休憩にする事に。もちろん来栖邸へと戻って、着替えて家の中で昼食を食べる予定である。
そうすれば護人もお昼を食いっぱぐれる事も無いし、探索の顛末も話す事が出来る。それで向こうは安心するだろうし、まぁ逆に心配するかもだけど。
ワイワイと騒ぎながら、湧いていたワープ魔方陣を潜る一行。何事もなく入り口に戻って来て、それじゃあ家に向かおうかと姫香の
了解と、あちこちから賑やかな呼応の声が。
星羅まで大声で返事していて、そのご機嫌な表情には隣を歩く紗良もビックリ。どうやら彼女も、今回の女子だけの探索業を思いっきり楽しんでくれた様子。
実際に星羅は、久々に探索を心から楽しんでいた。“ダン団”に囲われていた頃は、ほぼモノ扱いかもしくは神様扱いしかされて来なかったのだ。
それとは逆に、年の近い仲間と一緒に力を合わせてダンジョンに潜るこの数時間は超気持ち良かった。密度の濃い時間を共有して、互いの
何と言うか、生きている実感が半端なくてここ数年で一番興奮してしまった。午後もこの調子で、チームに貢献したいと星羅はハイテンションで一行の後に続く。
つまりは変に遠慮せず、今日の探索に付いて来て本当に良かった。
――チームも良い子ばかりだし、午後の探索も頑張る所存の星羅だった。
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