第401話 マッスル♂モンスター達の洗礼を受ける件



 例のゼロ層フロアから、一行は女性マークの赤いプレートの付いた扉の奥へと。女子のみで編成されたチームは、仲良くその扉を潜って行く。

 危惧きぐされていたルルンバちゃんも、何とか同行出来たみたいで何より。みっちゃんももちろん潜れていたし、今回初参加の星羅せいらもバッチリ一緒にいる。


 星羅の見た目だが、やや探索着の間に合わせ感が漂って来ている気が。姫香のお古の探索着とか、その他諸々で何とかしつらえたって感じ。

 もっとも彼女は後衛なので、前に出て直接戦う事にはならない筈である。ポジションも紗良とかぶる気がしないでも無いが、サポート役は何人いても心強い。


 そんな訳で、今回はみっちゃんが思い切り前衛の配置につく事に。そして後衛陣の護衛役は、相変わらずのミケとルルンバちゃんがになう流れに。

 星羅も気合が入っているようで、久し振りの探索の同行に頬が紅潮している。そしてダンジョンのフロアに入るなり、皆に対してスキルを振る舞ってくれた。

 『視えざる被膜』と言う、簡単に言うと防御力アップのハブである。


「おおっ、そんなスキルも持ってるとはっ! 何気に凄いっスね、星羅さんっ……さすがは三原で名をとどろかせた探索者だけはあるっスよ!」

「うんまぁ、協会所属の時にはC級止まりだったんだけどね? 若いチームだったし、本格的に探索に取り組むって雰囲気でもなかったなぁ。

 それでも、仲良く頑張れてたんだけど……」

「こらっ、みっちゃん……昔の傷口をえぐるような発言は禁止だよっ! でも凄いね星羅ちゃん、普通に便利なスキルも持ってるみたいだし。

 ウチのチームじゃ、香多奈のナンチャッテ強化くらいしかないもんね」


 さっちゃんをたしなめる姫香だが、素直に星羅の手腕には感心した表情を浮かべている。前回と微妙にチーム員は違うが、ここは例の3層ダンジョンだ。

 モンスターが大量に湧いて出るのは想定されるし、回復役が多いのは前衛にとっても頼もしい限り。そう思いながら、周囲を覗う姫香と相棒のツグミである。


 1層フロアの特徴だが、どうやらフィールド型みたいで地面は土と雑草に覆われていた。周囲にはうすいもやが掛かっており、見通しはあまり良くない。

 こっちは水溜まりがあるっスよと、みっちゃんも仲間に報告して来た。湿原タイプなのかもだが、敵の姿はまだ無し。ツグミもどちらに進もうか、少々迷っている感じだ。


 そうこうしている内に、バシャバシャと水音を立てて敵が近付いて来た。水辺から大イモリが数匹、こちらの気配に寄って来たようだ。

 それを迎え撃つ前衛陣、2度目の探索だけあってその辺の役割分担は随分とこなれて来ている。メインの中央を姫香とツグミのコンビが請け負い、右サイドをみっちゃんが埋める。


 それから、敵が多い場合は左側を陽菜が分担する感じだろうか。サポート兼後衛の護衛として、ルルンバちゃんがすぐ後方に詰めている。

 もちろん適時、この編成は組み替えを試して行く予定。


「霧が嫌な感じだね、でも敵はそんなに強くは無いかな? この後、もっとたくさん出て来ると思うけど……おっと、噂をすればだ。

 あっちの方向に敵の気配たよっ、みんな!」

「ほいほ~いっ、こっちに灯り飛ばすよ~♪」


 怜央奈の灯りが照らした方角から、今回出て来たのはゴブリンの群れだった。やっぱり雑魚の群れだねと、対応する面々は軽くいなしての対応振り。

 唯一気になったのは、そのゴブリンたちの表情だろうか。軒並み興奮してる感じ、敵対していると言うよりさかった♂の雰囲気をかもし出していた。


 その辺は、家畜を見慣れている姫香などはピンと来て変だなと分かってしまう。お泊まり組に限っては、何となく興奮した獣人が出て来たなって感想。

 紗良も少し違和感を感じたみたいで、そう言えばここは男子禁制ダンジョンだったよねと。改めて口にして、何となく嫌な予感を脳内で想像してみたり。

 つまりは、18禁的な仕掛けがあったら嫌だなぁと。


 ツグミはその辺は、関係無いねと割り切っているのか自分の仕事を全うするのみ。一行を、フロアの怪しい方向へと導く作業で忙しそう。階段の場所は不明だが、敵の密度の濃い方向は何となく分かっているみたい。

 そちらへと進めば、大まかなルート指定は間違っていない筈。その道中に出て来る敵は、やはり興奮した(盛った)ゴブリンと、途中からマッスルなトカゲ獣人が数匹。


 コイツ等はパンツ一丁で、何と言うかマッチョな肉体を誇示して来ていかにもウザい。攻撃も殴り掛かるより抱き付く感じで、前衛のみっちゃんからも不評を買っている。

 最年長の星羅も、何となくここの仕掛けに気付いた様子。モンスターは♂だらけなのかなと、隣の紗良と情報を交換している。そう言えば、護人も隣のフロアは♀モンスターだらけだったと言っていた気が。


 全てのモンスターに、雄雌おすめすの区別があるのかは不明ではある。ただまぁ、このフロアのモンスターがこちらの性別に反応しているのは間違いなさそう。

 うら若き乙女の集団としては、とっても嫌な仕掛けのフロアには間違いなさげ。何とか妙な事態にならない内に、決着をつけてクリアしたい所だ。

 まぁ、こんな調子がこの先も続くかはまだ不明ではある。


 ツグミが進む方向は、湿地帯をはぐれてしっかりした大地になっていた。霧も幾分か薄れて来たが、目立った建造物の類いは全く窺えない。

 それでもツグミの先導によどみは無い、姫香もそれを信頼して一行を導いて行く。時折、霧の合間から不意打ち的に出現する獣人は、ツグミの警告で全て返り討ちに。


 そして不意に立ち止まるツグミと、周囲に立ち込める敵の気配。襲撃が来るよと声を発する姫香だが、霧を割いて出て来た敵にはギョッとした視線を向けて絶句する。

 それはどうやら、他の娘さん達も同様だった模様。


「うわっ、あれはゴブリンキング……かなぁ? でも何で、下半身の装備が無くってでふんどし姿なの?」

「ひえ~~っ、何てはしたないっ! 雑魚のゴブリンたちも、みんな揃って下半身丸出し……ってか、全員がふんどし姿じゃないっスかっ!」


 怜央奈の言葉に追随するように、みっちゃんも敵の姿を見て騒いでいる。怜央奈は撮影の手は止めないで、アッチは急所丸出しだよと前衛を叱咤しったしている。

 とは言え、さすがの姫香も素直にその指示には従えない。特にゴブリンキングは赤いふんどし姿で、白い霧の中でも物凄く目立っているのは間違いない。


 向こうは何の遠慮も無しに、欲望丸出しでこちらに襲い掛かって来た。文字通りに欲望に忠実に、それはもうこちらにタックルして組み伏せる勢い。

 それらを何とかかわしつつ、姫香やみっちゃんの斬撃が敵を退けて行く。ツグミもここに至って、最大出力で『土蜘蛛』の乱れ咲きを披露している。


 どうやら乙女のピンチと言うか、単純に敵が気持ち悪いと思っているのかも。容赦の無いその反撃のスキルに、紗良の《氷雪》の撃ち込みも乗っかる。

 大将のゴブリンには器用に避けられたが、雑魚はこれでほぼ掃討し終わった。それを確認して、陽菜も前衛に躍り出てのボス格の囲い込みに参加する。


 立派な斧を手にして、ただし下半身丸出しのゴブリンキングの討伐はそれなりに白熱した。何しろ敵はそれなりの技量持ちで、動き回る度にふんどしもヒラヒラと舞い踊るのだ。

 ハッキリ言って、そう言う意味では底意地の悪いダンジョンには違いない。結局は5分余りの熱戦で、姫香とツグミのコンビが止めを刺すに至った。

 そしてようやくの戦闘終了に、ホッと一息つく一同である。


 そしてその場に出現するワープ魔方陣、これが恐らく次の階層への通路みたい。一緒に魔石(中)が1個と、スキル書がドロップしていてツグミが拾って行く。

 探せば他にも回収品はあるかもだが、こんなダンジョンを長時間彷徨さまよいたくは無い。女子たちの意見は全員一致で、さっさと次の層への移動に決定する。



 そして次の層も、似たような湿地帯で霧が立ち込めていて見通しの悪いエリアだった。戸惑う一行だけど、姫香はすぐに移動を宣言する。

 要するに、さっきみたいに乾いた大地の方向を目指そうと。下手に動き回って、ぬかるみにはまっても大変なので他のメンバーもそれには同意する。


 『探知』持ちの相棒のツグミにお伺いを立てて、進む方向を指示して貰う。そして進み出した矢先に、やっぱり霧を縫って出現する獣人軍団。

 今度はオーク兵の群れみたいで、コイツ等も鼻息がやたらと荒い。対処する姫香やみっちゃんは大変だが、今回は背後からも襲撃があった模様。

 紗良と怜央奈の叫び声が、白い霧の大地に響き渡る。


「きゃっ、やだっ……何か荒い息が聞こえて来ると思ったら! 陽菜ちゃん、こっちからも敵が出て来たよっ!」

「うわっ、こっちも数が多いみたい……ルルンバちゃんっ、助太刀お願いっ! 出来ればミケちゃんも、討伐のお手伝いしてくれると嬉しいなっ!」


 紗良に頼まれたルルンバちゃんは、反転しての壁役を華麗に演じ始める。一方の陽菜は、装備の良いオーク兵にやや苦戦している感じだ。

 そこに星羅の支援魔法が届いて、陽菜の両手剣を光属性へと変えて行く。驚いたのは敵のオーク兵も一緒で、急に熾烈になった敵の斬撃に慌てて飛びのいている。


 そこに紗良にお願いされたミケの雷撃が、天から降り注ぐように容赦なく命中して行った。哀れなオークの奇襲部隊は、ほとんど反撃も許されずに消し炭に。

 さすが来栖家の最終兵器、その威力は半端なく安易に何度も頼る物ではない。例えれば、家の掃除をしようとして水圧洗浄機を持ち出すような感じだろうか。


 汚れは簡単かつ強烈に洗い流されるかもだが、その後処理も大変と言う。具体的には、楽な探索に慣れ過ぎると自分達での努力を軽んじるようになる可能性が。

 紗良もそれを分かっているのか、ピンチの時以外は頼ろうとはしない。それより星羅の支援魔法は、まだまだ種類も多いようで結構凄い能力持ちかも。

 とか思っていると、前衛陣も掃討は終わったと報告して来た。


「大丈夫だった、紗良姉さん……この霧がくせ者だって分かってたのに、くやしいなぁ! でもまぁ、陽菜もルルンバちゃんも護衛にいたし、その点は良かったよね。

 あっ、もちろんミケも信頼してたからねっ!」

「ミケちゃんは相変わらず凄いよねぇ、もちろん陽菜ちゃんとルルンバちゃんも即座に対応してくれてたけど。不意打ちはある程度は仕方無いかな、こんなエリアだし。

 今後はなるべく早めに気付くように、対策立てなきゃね」

「そうだな……今度から、私とルルンバちゃんが一番後ろを歩こうか。いや、それだと前衛に何かあった時に、すぐにフォローに入れないか?」


 落ちてる魔石を拾いながらの、チーム内での簡単な作戦会議。女子たち全員で話し合った結果、今回は後衛陣が3人と多いので守りは万全にしようとなった。

 つまりはルルンバちゃんのみ、最後尾を歩いて貰う事に決定の運びに。良く分かってない感じのAIロボだが、順番が変わる事だけは理解したよう。


 後ろに注意してついて来てねとの紗良の言葉に、了解と手をあげるルルンバちゃん。香多奈ほどには言葉の遣り取りは出来ないが、この位のコミュニケーションが出来るのはとっても有り難い。

 何だかんだ言って、この中で最も汎用性の高いのはルルンバちゃん以外にあり得ない。攻防については間違いなくトップクラスだし、人や物を運ぶのにも適している。


 ある意味、ミケよりも頼りになる存在には間違いない。もちろん姫香も信頼していて、これで後方のうれいは無くなったと、安心して再出発をチームに告げる。

 それから、相棒のツグミの示す方向へ一行を導く構え。


 慎重な探索が災いして、ここまでもうすぐ1時間が経過しようとしている。ただし、白い霧が立ち込める上に、敵の数の多いダンジョンだけに仕方が無い。

 姫香もリーダー業はまだまだ未熟だし、いつもの来栖家のペースは3匹のハスキーあってのモノ。そう言う意味では、やる事全てが経験となって蓄積されて行く。





 ――それは同じく、この女性チームにも言える事。





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