第400話 予約していた男子禁制ダンジョンへと潜る件



 前回の探索から4日ほど経過して、若いお泊まり組は既に元気満タンの状態である。次はどこに探索に行こうかと、女子の面々はかしましく騒いでいる。

 そして香多奈がうっかり、例のワープ装置の事をベラベラと話してしまったせいで。陽菜や怜央奈は、是非とも“アビス”ダンジョンに挑戦したいと申し出る始末。


 姫香は仕方なく、その件を家長の護人へと相談してみる事に。しかし、いざと言う時助けに行けない遠方の探索許可は、残念ながら出して貰えず。

 まぁ、何となくそれを察していた紗良や姫香は、そりゃそうだよねと言う表情。納得のいかない陽菜と怜央奈は、思いっ切り不服な態度でむくれ気味である。

 つまりは、探索者相手に過保護は如何いかがなモノかと。


「そう言われても、ウチはそのルールで長年やって来たからねぇ。護人さんは、ギルド『日馬割』のリーダーでもある訳だし。

 リーダーがダメ出ししたなら、私は素直に従うけど」

「そうだねぇ、確かに遠方だと帰れなくなった時の心配はしちゃうかもねぇ? あっ、そう言えば……近場のあのダンジョンはどうかな、みんな?

 男女の入り口が完全に分かれてて、女子チームにはピッタリかも?」

「おおっ、例の動画の……確か、敷地内のダンジョンだったか? そこなら、姫香の運転する車に乗らずに済むな!」


 陽菜のそんな台詞せりふに、どういう意味よと突っ込みを入れる姫香。そのままの意味だよと、お泊まり組は心の中で揃って思っていたりして。

 今の時間だが、既に夕食もお風呂も終えて2階へと皆が引き上げての就寝前。明日の予定をみんなで話し合いつつ、楽しくお喋りに興じている感じだ。


 その就寝組の中には、もちろん星羅せいらも混じっていた。そして今度こそ一緒に行こうよと、人懐っこい怜央奈に誘われての困り顔。そんなお泊まり3人娘には、彼女の正体と経歴は既に明かしている。

 それを聞いた3人は、“ダン団”組織に囲われていて、そこを逃げ出して来たお姫様的な存在と解釈したよう。そのせいで、同情と尊敬が先に立っての現状は上手く関係を作れている感じ。


 星羅の年齢は、今年で21歳と紗良よりも実は年上である。しかし、どちらかと言えば危なっかしくて、庇護ひご欲をそそる性格には違いない。

 家事能力に関しても、星羅は紗良に次ぐ腕前で居候いそうろうに甘んじずに積極的に手伝いを申し出ている。その点は紗良も大助かりで、今回のお客の持て成しも負担はかなり軽減されている。

 3人娘ももちろん手伝うのだが、手際に関しては歴然の差が。


 そんな年上たちの楽しそうな会話に、1人むくれているのが末妹の香多奈だった。自分は探索に連れて行って貰えないので、それはまぁ当然かも。

 それを横目で見た姫香が、アンタもキッズチームでどうせまた行くんでしょと混ぜっ返す。それとこれとは別だよと、結局はふて寝してしまう香多奈であった。


 そんな姉妹喧嘩を、ホッコリしながら見詰める面々。陽菜には兄がいるが、怜央奈やみっちゃんには姉妹がいないので喧嘩したくても出来ないのだ。

 寝てしまった少女に気を遣って、そこからは声をひそめての女子トークが始まる。とは言え、このメンツでは色っぽい話題は全く上がらないのはアレだけど。


 それじゃあ明日は、朝からその“男女ダンジョン”に探索は決定ねとの姫香の言葉に。了解との各々の返事と頑張るぞ~って感じの小さな決意の言葉。

 それから話は、みんなが探索者になった経緯いきさつの暴露話に移行して。まずは姫香が、ウチはかなり特殊だよねと“裏庭ダンジョン”の生い立ちを話し始めた。

 そして家族で何とか、その危機を退けた去年の出来事を語り終える。


「ああっ、あれからもうすぐ1年だねぇ……あの時は、護人さんが探索者登録をしたばかりの時だっけ? 急に家の近くにダンジョンが生えて来て、みんなパニックだったよねぇ。

 ハスキー達は、この時から凄く頑張ってくれてたけど」

「そうだね、あの時からもうすぐ1年経っちゃうんだね。それから私と紗良姉さんも探索者登録をして、家族でチームを結成したんだよね。

 何しろウチの敷地には、既に2つもダンジョンがあったから」

「考えてみたら、凄い話だな……そんな環境があったから、来栖家のペットは毎回探索に同行してくれるのかも知れないな。

 いや、ただ家族の絆が深いだけなのかもだが」


 そんな感想を漏らす陽菜だが、彼女が探索者になったきっかけはごく単純だった。両親も亡くし途方に暮れていた所に、兄がそっちの道へと踏み込んで行ったのだ。

 その兄を手伝う意味で自分も登録したら、意外と性に合っていた感じらしい。最初のスキルも割と早く取得したし、前衛の動きも兄とのペア組で自然と覚えられた。


 とは言え、最近の探索は女子チームを組んで行う事が多いそう。みっちゃんを因島から泊まり掛けで呼び寄せて、八代姉妹や他の女子と組んで、遠征に出掛けたりが多いとの事。

 チームのバランスを取るのが難しいが、女子だけのチームは気兼ねなく探索に勤しめて陽菜的には良いそうな。そんな考えの女子も、多いみたいで好評だとの話。

 ただし人数を揃えるのが大変で、回数はあまり多くは無いのが現状らしい。


 そんな陽菜とも最近は探索をこなすみっちゃんだが、探索者になったのも半ば成り行きだった。“大変動”の騒ぎで流通が滞って、因島の自治体も食糧事情を大幅に見直す事に。

 若い連中も、ミカン畑を野菜畑に変更する作業につく者が何名か。それから危険な海に出て、野良モンスターと戦いながら漁師の仕事につく者も数名って感じ。


 みっちゃんも、どちらか選ぶようにと通達され、畑仕事よりは漁師が良いかなと選択したら。いつの間にやら、スキルを覚えて探索者の真似事を始めていたと言う。

 そこからは、漁師のおっちゃん連中とダンジョン探索もこなしつつ。少しずつだが、確実に実力も付けて行った感じである。そして夏の実習訓練で、ここにいる皆と知り合って今に至る。


 怜央奈の場合は、完全に孤児みなしごで一歩間違えばストリートチルドレンだった。そこを持ち前の愛嬌で、仲間を増やしてより良い環境へと適応して行き。

 気付けば色んなギルドと知り合いになって、固定チームこそ無いけど日々の糧は稼げるように。何より心強いのは、気に掛けてくれる大人が複数人近くにいる事。

 例えば『ヘリオン』の翔馬とか、『麒麟』の淳二とか。


 去年の夏の実習訓練でも、お世話になった覚えのあるギルド名である。この間の“アビス”遠征にも参加していたし、S級ランクの甲斐谷とも親しいらしい。

 そんな探索者ともパイプがあるとは、怜央奈もあなどりがたい存在ではある。本人の戦闘能力は低いけど、チームの雰囲気作りや撮影などで、探索には協力出来てはいるのは強みではある。


 本人的には、もっと実力で探索に協力したい気はあるみたい。強力なスキルでも覚えれば、或いはその道もグッと開けては来るのだろう。

 ただまぁ、そんな巡り合わせが簡単に転がり込んで来る訳もなく。現在やっとこ覚えているのが、戦闘にはあまり使えない『灯明』と『危険感知』の2つである。


 まぁ、探索にはあると便利だし、チームの中でも最年少と言う事で何も言われはしない。それでも、将来的には強いスキルも欲しいよねと、女子トークの中では本音を打ち明ける怜央奈であった。

 そんな少女も、連日の早起き体験で既に半分夢の中。


 それを察して、他のメンバーも布団にくるまっての就寝準備を始める。2階の空き部屋での雑魚寝なので、この人数でもスペースには余裕がある。

 灯りを落としながら、最後に星羅の探索者への経緯をみんなで拝聴する流れに。この中では最年長だが、“大変動”のあった年には彼女は高校1年生だった。


 家族をうしなったり地元が大変な中、彼女は友達数人で何となくチームを結成。探索者に登録した割と初期の頃から、星羅はいやし手としての名声は得ていたそうだ。

 ただその名声が、地元の住民にまで広がった頃から少しずつ歯車が狂い始めた。一般人への治療で高額の謝礼は貰えないと、変に遠慮をしていたら聖人君子とたたえられ始めて事態は妙な方向に。


 挙句の果てに、ついたあだ名が“聖女”石綿星羅せいらである。そして決定的になったのが、オーブ珠から偶然に入手した《蘇生》と言う名のスキル。

 これをうっかり、チームの仲間が外部に漏らした事から、いつの間にやら周囲に怪しい大人が詰め始めた。そして気付けば、自分が“ダン団”の神輿みこし役にと持ち上げられている始末。

 そしてチームの皆が、用意された重役ポストに満足して抜け出せない状況に。


 治療役として稼働しているのは星羅だけなのに、仲間達は重役の待遇である。これで文句を言う輩はいないだろうが、辛いのは星羅だけである。

 そんなチーム員との接触も禁じられ、その他の待遇に関しては良かったモノの。孤独な環境と訳の分からない大人の命令に、プッツン来たのが今回の任務中である。


 そんな中、親切な来栖家チームに拾われたのは物凄くラッキーだった。感謝と共にそう口にする星羅だが、それに返って来るのは静かな寝息のみ。

 どうやら女子チーム全員、完全に寝落ちしてしまった模様。


 紗良辺りは、ひょっとしてまだ起きていたかも知れない。まぁ、面と向かって褒められても、彼女は照れて何も言い返せないだろう。

 そんな来栖家だから、特に深く事情も聞かずに自分を保護してくれたのだ。良く言えば情に厚いけど、悪く言えばお節介が過ぎて他人の世話で深みにまりそう。

 そんな余計な心配をしつつ、いつしか星羅も眠りに落ちるのだった――





 次の日は朝から春らしい快晴で、ポカポカとした探索日和だった。それに気を良くした訳では無いが、お泊り女子チームも早朝の業務から元気一杯。

 日課の家畜の世話から、みんなでの朝食へと移行する。それからチビッ子たちが学校へ行くのを送り出して、探索前の軽いミーティング。


 今回は敷地内ダンジョンなので、協会への事前連絡は端折はしょる事に。その代わり、護人が送迎から戻るのを待ってのダンジョン開始の約束に。

 これはまぁ、万一の際に素早く救助に向かえる措置の為である。今や家の中にいても、『通信の巻貝』のお陰でメッセージを伝える事は可能なのだ。


 もしもの際の非常事態には、護人が異世界チームに頼んで救出に向かえるって寸法だ。過保護だと皆が思うけど、命は1つなのだとの護人の言葉もごもっとも。

 女子チームの面々も、素直にそれに従っている次第である。そして今回は、星羅も断り切れずに探索に同行する事に。女子しか入れないとの情報に、心配になったと言う理由もあるのだろう。

 ついでに、姫香からアイテムを借りて変装が可能になった点が大きいかも。


 最初は《変化》のペンダントを、萌から借りようかとの話になったのだが。《妖術》を使用可能になる『妖狐の尻尾』と星羅の相性が、抜群に良い事が様々な実験の末に判明したのだ。

 そのスキルを自身へと掛けて、他人に変装するのが最近の星羅のお気に入りである。家にいるだけじゃ退屈と言うのも手伝って、それならと探索に同行する流れに。


 前回の探索チームからは、茶々丸が外れて星羅が加入する事になる。茶々丸は間違いなく♂なので、どうやっても同行は出来ないのでそれは仕方がない。

 不確定なのは、今回のチームの中ではルルンバちゃん位だろうか。萌もそうだが、性別不明なメンバーが実はチーム内に割といると言う。


 それでも、護人が戻って来てから探索着へと着替えたメンバー達は元気いっぱい。それじゃ行って来ますと挨拶をして、敷地内ダンジョンへと歩いて向かう。

 そして噂の“男女ダンジョン”を目の前にして、妙な感慨にふけってみたり。何しろダンジョンの中に別のダンジョンの入り口があるなど、想像の範疇はんちゅう外である。

 しかも出現する敵の数は、聞いた所によると半端では無いらしい。


「それじゃあ、みんな心の準備はオッケー? ルルンバちゃんが入れるかどうかを確認して、それからどんな敵が出て来るかもチェックするよ。

 それで敵の出て来る数に合わせて、前衛の数を決定するからね!」

「了解っス、みんなの壁になる覚悟は出来てますよっ! 今回は、茶々丸ちゃんがいない分は私が頑張るっス!」

「そんな事より、みっちゃんは入れるかどうかの心配した方が良くない?」


 怜央奈の混ぜっ返しに、私はれっきとした女ですよと慌てて弁解し始めるみっちゃんである。確かに彼女は背が高いけど、バストも豊満でそこは疑いようがない。

 それを頑張って見せびらそうとする姿に、周囲からは笑いが漏れている。一緒にお風呂にも入ったじゃないスかと、本人が超必死なのが受けているみたい。


 そんな姿を、紗良の肩の上のミケが何してんだと言う目で眺めている。ツグミも同じく、早く入ろうよとご主人を振り返ってうながす素振り。

 相変わらず、変な所で賑やかな女子チームだがどうなる事やら。





 ――チーム編成も微妙に変わって、そこがどう作用するかもやや不安?






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